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grand_toad9276
雨の日だけ、あの歌が流れる
雨の日は、
少しだけ世界の輪郭が滲む感じがする。
窓を叩く不規則な音や、
湿った空気の匂いに触れると、
どうしてか遠い日の空気が戻ってくる。
今の時期の雨は、
肌に少し当たるだけで冷たくて、ヒヤリとする。
その冷たさが、眠っていた記憶を
無理やり起こしてしまうのかもしれない。
はっきりとした記憶はない。
ぼんやり思い浮かぶのは、当時の部屋の灰色くらいだ。
─────
記憶と言うより、
あの頃の切なさだけが
ゆっくり身体の内側から染み出る感覚だ。
そして雨が降ると、
決まって頭の中で同じ歌が流れる。
イントロが鳴った瞬間、心臓がドキッとする。
思い出したいわけじゃない。
むしろ、できるなら思い出したくないのに、
反射みたいに再生される。
その歌が頭を満たす頃には、
逃げ場のない切なさが、じわりと全身に広がっている。
だから雨の日は、少しだけしんどい。
─────
懐かしいとか、悲しいとか
そういう言葉だけでは足りない。
胸の奥に小さな重りを、
ひとつずつ置かれていくような感覚になる。
もしどこかに同じ人がいたら——
そう想像するだけで少し安心する。
どう頑張っても、
一度鳴り出した歌を止めることはできない。
抗うほど、しつこく鮮明に流れる。
だから最近は、
「また来たな」と思うだけにしている。
そうすると、完全には消えないけれど
ほんの少しだけ距離を取れる気がする。
─────
雨の音を聞きながら、
過去の自分がまだどこかに残っていることを
ぼんやり感じる。
寂しさを運んでくる雨だけど、
それでも不思議と静かな時間でもある。
この少し重たい静けさと付き合いながら、
私は今日も雨の音を聞いている。
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