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雨の日だけ、あの歌が流れる

雨の日は、
少しだけ世界の輪郭が滲む感じがする。

窓を叩く不規則な音や、
湿った空気の匂いに触れると、
どうしてか遠い日の空気が戻ってくる。

今の時期の雨は、
肌に少し当たるだけで冷たくて、ヒヤリとする。

その冷たさが、眠っていた記憶を
無理やり起こしてしまうのかもしれない。

はっきりとした記憶はない。
ぼんやり思い浮かぶのは、当時の部屋の灰色くらいだ。

─────

記憶と言うより、
あの頃の切なさだけが
ゆっくり身体の内側から染み出る感覚だ。

そして雨が降ると、
決まって頭の中で同じ歌が流れる。


イントロが鳴った瞬間、心臓がドキッとする。
思い出したいわけじゃない。

むしろ、できるなら思い出したくないのに、
反射みたいに再生される。

その歌が頭を満たす頃には、
逃げ場のない切なさが、じわりと全身に広がっている。

だから雨の日は、少しだけしんどい。

─────


懐かしいとか、悲しいとか
そういう言葉だけでは足りない。

胸の奥に小さな重りを、
ひとつずつ置かれていくような感覚になる。

もしどこかに同じ人がいたら——
そう想像するだけで少し安心する。

どう頑張っても、
一度鳴り出した歌を止めることはできない。
抗うほど、しつこく鮮明に流れる。

だから最近は、
「また来たな」と思うだけにしている。

そうすると、完全には消えないけれど
ほんの少しだけ距離を取れる気がする。

─────

雨の音を聞きながら、
過去の自分がまだどこかに残っていることを
ぼんやり感じる。

寂しさを運んでくる雨だけど、
それでも不思議と静かな時間でもある。

この少し重たい静けさと付き合いながら、
私は今日も雨の音を聞いている。

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