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    <title>湿度サブ</title>
    <description>湿度あるいは一二点
昔のnoteはこちらから→https://note.com/isolated__
https://note.com/dokokadokokahe
Twitter→ https://x.com/_isolated___?s=21</description>
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    <lastBuildDate>Mon, 13 Apr 2026 00:32:05 +0900</lastBuildDate>
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      <title>悲しくはないさ2</title>
      <description><![CDATA[<p name="67F22864-D80D-4647-AD06-D45224F92F88" id="67F22864-D80D-4647-AD06-D45224F92F88">僕は今では悲しいと一人で嘆いて俯くしかやる事がないんだ。もう彼女がいないから褒めてくれる人も怒ってくれる人も、誰もいない。分かってるさ悲しくはないよ。ただ寂しいだけ。ただそれだけ。僕達は史上最高のカップルになるはずだった。僕はそう信じてた。なのに君は振り返ったら消えていた。僕はもうごめんねもありがとうも言えない。言う事を許されてない。ただ一人で嘆く事しか出来ない。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n159ef7344cd8'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 05 Apr 2026 00:09:14 +0900</pubDate>
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      <title>悲しくはないさ</title>
      <description><![CDATA[<p name="8D662E91-13F8-461B-B805-AF06AE6C9A7C" id="8D662E91-13F8-461B-B805-AF06AE6C9A7C"><s>僕は今では悲しいと一人で嘆いて俯くしかやる事がないんだ。もう彼女がいないから褒めてくれる人も怒ってくれる人も、誰もいない。分かってるさ悲しくはないよ。ただ寂しいだけ。ただそれだけ。僕達は史上最高のカップルになるはずだった。僕はそう信じてた。なのに君は振り返ったら消えていた。僕はもうごめんねもありがとうも言えない。言う事を許されてない。ただ一人で嘆く事しか出来ない。</s></p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/ne8befa30b568'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 04 Apr 2026 23:30:07 +0900</pubDate>
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      <title>仮</title>
      <description><![CDATA[<p name="C0E9CB78-92A8-49FB-A9EE-CD95FCE12B08" id="C0E9CB78-92A8-49FB-A9EE-CD95FCE12B08">お元気ですか？という言葉が何故か出てきた。元気なのも元気じゃないのも知ってるのにね笑。こちらはまだ半袖で生活できます。そちらはどうですか？返事が来る頃にはとても寒いのだろうな。何を書くべきかとても悩むけれど、健康には気をつけて！それだけは絶対に確かです。<br>好きだとか愛してるだとかも言えますが、どれもあなたの素晴らしさには似合わないように思えるから、ここでは控えておきます。あなたはこれを読まないでしょう。それは知っています。それでも少しだけの可能性を信じたいのです。<br>今までありがとう。私と関わる中で色々迷惑もかけたかもしれません。だから、今までにかけた迷惑を謝ります。あと、ありがとう。本当は幾らでも言う事はありますが、長くなりすぎるので辞めておきますね。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/nc85c2f6b6f15'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/252316851/profile_4e7af2f7e42f1a65fcac905fad2afd2f.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 03 Apr 2026 00:03:27 +0900</pubDate>
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      <title>〔テスト〕</title>
      <description><![CDATA[<p name="0988E7E1-38B9-4009-8941-AAB437E86504" id="0988E7E1-38B9-4009-8941-AAB437E86504">ゴミは燃やせるが思考は燃やせない。僕は今日もまた退屈な憂鬱をブログに書きためる。そうしないと、それが体内で細胞分裂していきそうで怖い。キーボードを叩いて、頭の中から腐った言葉を拾っていく。それを集めて、こねて、文章にしていく。<br><br>今日もまた諦念を引き伸ばしたような文章を書き終え、投稿ボタンを押す。<br><br>睡眠薬を飲み布団に入る。一日をできるだけ早く終わらせるためにと、医者に決められた量をオーバーさせた。十錠を超える薬を一気に飲むのはなかなかコツがいる。まずは部屋を薄暗くして水を口に含む。そして薬を丁寧に一錠ずつ取り出して、大きく口を開けて、一気に放り込む――ここが重要だ――そしたらゴックンだ。どうだ、わかったか？ 部屋の隅っこに寝転がる「いるかのぬいぐるみ」に説明を始める。<br><br>返事はない。<br><br>「はぁ」かすれた声が漏れる。うんざりだ。この無意味なやりとりは今日で何回目だろう。僕は毎晩ぬいぐるみと話さないと薬を飲めない。これが僕の生活で唯一の会話だ。ぬいぐるみは僕がどんな失言をしても隣にいてくれる。僕がどんなに魅力のない人間でも、彼らは絶対に僕を見捨てない。布団のなかには巨大なくまのぬいぐるみと、小さなヒヨコのぬいぐるみがいる。僕はくまに話しかける。<br><br>「なあ、いやにならないか？」<br><br>くまはボタンと糸の顔で、相変わらず優しげな表情を保っている。何も返事がないことを慎重に確かめてから、彼の大きく膨らんだ腹に顔を埋める。あるはずのない温かさを感じた。妹が生まれるまえ、母の膨らんだお腹に、こうやって耳を当てて振動を確かめたっけ。血液に塗れた小さな生物、あれは妹だった。妹は生まれたときも、死ぬときも、血液に塗れていた。<br><br>「くまくん、きみはいなくならないよね」<br><br>何も言わなかったが、その暖かなお腹が永遠を証明しているようで、無性に安心した。電気を消して薬が効力を見せるまでは、彼を抱く。汚れたスマートフォンの画面には3:49の文字がある。昼過ぎに起床してから、昨日残しておいたコンビニの古いゴムのようなパスタを食べた後、一切生活らしいことをしていない。布団のなかでうずくまって呻いているだけだ。一体何をしているんだと自分を叩いてみるが、鈍い音が出るだけで何も答えは出てきやしない。<br><br>段々と薬が回ってきた。脳細胞がふわふわと飽和していき、高揚感と全能感のようなものが全身に染み渡っていく。視界がゆがみ、立ち上がって歩いてみると自分が巨人になったような、自分を中心に世界がぐわぐわと歪んでいくような感覚に陥る。モニターの輪郭がゆらゆらと二本になり揺れ動いている。身体が独特の重みで沈む。この瞬間だけは、自傷的思考が停止する。僕は僕でなくなることが出来る。この時のために用意したプレイリストの再生ボタンをタップし、目を閉じる。視界が広がり、無限に広がる空と大地に目をやる。限りなく細い地平線の彼方まで、飛んでいけそうな気がする。やっと一日が動き出したような感覚。<br><br>2<br><br>気づくと太陽が出ていて、僕は布団で逆向きに寝ていた。スマートフォンには14:01と表示されている。今日、になったのだ。しかし、昨日と何一つ変わらず、いやむしろだからこそ状況は悪化している。こんなことをいつまで繰り返せばいいのだろうか。カーテンから白い日光が透き通り、健康を促進させようとしてくる。僕の心情など、この世界には一切関係がないようだ。<br><br>こんな日は散歩に行こうと言いたい。けれど僕には言う相手も、行く気力もない。僕は布団から出ることができない。全身に倦怠感クリームが塗りつけられているような気分だ。それでもしばらくすると、あまりの空腹に、布団から出た。冷蔵庫に食べたいものはなかったから、部屋着のままコートを着て、出かける準備をする。キッチンに放置してあったコンビニのマークが入ったビニール袋と、お守りの萩原朔太郎の詩集を持って、サンダルを履いた。<br><br>アパートの扉を開けると、真上から差し込む陽光が角膜を破壊し、吐き気が醸造される。冷たく、乾燥した風が伸びすぎた前髪を揺らし、口内に張り付かせる。そういえば、秋だった。草木や虫達のいない無機質な道を歩く。田舎の住宅街はコピー&amp;ペーストしたような街並みで、何の面白みもない。コンビニの光は昼だというのに、眩しく、町のリズムを壊している。ドアが開くと、入店のチャイムが鳴り響き、安っぽいBGMがサブリミナル的に消費行動を促進させようとしてくる。僕は三○円引きのおにぎりを二つ手に取り、セルフレジで会計を済ませる。三四二円。これだけあれば安い文庫が買える。例えば太宰治の斜陽と同じだけの価値が、このおにぎり二つにあるだろうか。<br><br>マイバッグ、というには安っぽすぎるビニール袋にそれらを放り込み、店を出る。だけれど、帰路につく気はしなかった。<br><br>僕は近くの公園まで歩いていき、東屋でひたすらレディオヘッドを聴きながら詩集を読んだ。太陽が全てを退屈に照らす公園で、子供たちが遊んでいた。彼らは特に何をするでもなく、走り回ったり、座って何かを話したりしていた。それなのに、彼らは楽しげだ。何も無いのに、とても楽しそうなのだ。喜びに満ち溢れた声がノイズキャンセリングヘッドホンを突き破って鼓膜に響く。僕は東屋の机を見つめた。汚い。どうせ君達も、数年後には現実に押しつぶされて、そんな笑顔は出来なくなる。今だけだね、せいぜい楽しむがいいさ。いや、違うのかもしれない。彼らは学校へ行けるのかもしれない。彼らは健康的に友達を作れるのかもしれない。彼らは異性をランク付けして笑いあえるのかもしれない。彼らは僕とは違うのかもしれない。暗く、長い前髪の隙間から、この時期の子供たちしか持ち得ない特有の光が差し込む。<br><br>レディオヘッドの四枚目のアルバムを聞き終えて、僕の憂鬱は温度を下げていった。こんなことをしている場合ではない。帰ろう。無機質な帰路は相変わらず退屈そうにしていた。 <br><br>3<br><br>コートを脱いで「さて」と思う。リュックサックから、去年解いた英語の参考書を取り出す。僕が大学から不必要だと通告されてから、もう半年以上経っていた。はっきり言って勉強する気力など、遠い昔に消え失せていたがベッドに入っても退屈が加速するだけだから、問題を解き始める。プリントの剥げたシャープペンシルをノックして、芯を出し、問題集の丸のついた問題だけを解いていく。問題集に聞かれているような気がした「おまえは、努力したか？」と。答え合わせをすると、見覚えのある問題を見覚えのある間違え方で間違えている。僕の脳みそは解答と解説だけを綺麗に忘れているようだ。努力なんて、できなかった。<br><br>親の遺産と生命保険はまだ、十分にあった。今の学力のままで大学に、受かる見込みはなかった。死ぬ気で努力すれば無理ということもなかったが、死ぬ気が出せるなら死んでいる。僕は何の決断も判断もしたくなかった。<br><br>段々と出自の明らかでない焦燥感が頭に張り詰めてくる。こんなことをしている場合ではない。同級生は何をしている？お前はそんなことをしていていいのか？<br><br>窓の隙間からもれる風が冷たい。騒がしい脳が問うてくる。黙ってくれ、頼むから黙っていてくれ。僕は問題を解かなければいけないんだ。そう言い聞かせるが、脳が言うことを聞くはずもなかった。<br><br>諦めてパソコンを開き、感じることをそのままに書き記していく。<br><br><br>9月24日の手記<br><br>心臓が痛い。まだ名前のついていない何か、不安のような恐怖のような、よくわからないけど、凄く恐ろしい感情が身体の中にある。そいつがぼくの全身をどろどろとした場所へ沈めようとしてくる。足掻くけど、どうしようもない。どこにも行けない。ぼくは何もできない。段々と、ゆっくりと、沈んでいく。<br><br>誰か、いるのかな。これを読むかも知れない誰か。インターネットの誰か。いるのかもしれないけど、見えない。誰かいるって言ってくれ。助けてくれ。ここから引き上げてくれ。<br><br>頭の中が空っぽになっていく。考え事が消えていく。嫌なものが抽象的になっていって、脳から消えて心にだけ残る。胸が痛い。<br><br>ヘッドホンをして、再生ボタンをクリックして音量を最大にする。安物のヘッドホンはノイズがうるさい。でもそれでいい。守ってくれるような気がするから。何からかはわからないけど、音楽だけが僕を守ってくれるような気がする。残酷で無関心な世界から隔離してくれるような気がする。何が何だかわからない。何もわからない。酷い気分を引き起こす感情だけが目の前にある。<br><br>さっきまでは嫌なことを考えていた。昔学校で凄く孤独だったこと、面接官にボロカス言われたこと、見下されていたこと、捨てられたこと、失敗してきたいろいろなこと、言われてきたいろいろなこと、たくさん思い出した。涙が目の隙間から漏れてしまった。でもしばらくすると、脳はそういうものを見えないようにしてくれる。隠してくれる。一時的に忘れさせてくれる。けれど、重さは消えない。だから目には見えなくなるのに重さだけが残っている。ぼくにはわからない。何が原因なのか見えない。あるいはわかろうとしていない。ただ陰惨たる感情がのしかかるだけ。この先もずっとそうなのかな。わたしに街の人達みたいに幸せそうに笑い合って手を繋いで同じものを食べて同じ時間を生きることができるのだろうか。できる気がしない。そういう幸せなものは、どこかずっと、遠くの方にあるんだと思う。それを探しに行きたい。あぁでも行き先も歩く方法もわからない。幸せはどこにあるんだろう。わかっている、はずだ。でも、わからない。わかりたくない。何も、わたしは知りたくない。もう戻れないのかもしれない。わたしは永遠に間違えてしまったのかもしれない。満員電車の中でスーツを着て、死体のような顔でソーシャルゲームをするのが正しいのかもしれない。流行の服を着て酒を飲んでタバコを吸って単位を取るためにどうでもいい大学に行くことが正解なのかもしれない。社会製のつまらないジェットコースターに乗ったほうがよかったのかもしれない。あの日、高校に登校していれば、<br><br><br>書き終えて――というよりは力尽きてと言ったほうが近いかもしれない――少し心が軽くなる。こんなことをして何の意味があるんだと思うけれど、何もしないでいると気が狂ってしまいそうになるから、何もしないよりはマシなんだと言い聞かせる。文章を書くと、少しだけ落ち着くことができる。何一つ解決はしないけれど、少しだけ楽になるのだ。この癖は半年ほど続いている。昔から時々、文章で感情を吐き出さないと気がすまない性ではあったのだけど、日常的に人が見られる場所に書くようになったのは最近だ。高校を追い出されるように卒業してから、僕がしていることといえば、つまらないブログを書くこと、小説を読むこと、誰に見せるわけでもない小説を時々書くこと、それだけだ。<br><br>スマートフォンを開くと、メールアプリから通知が来ていた。またスパムか、そろそろ通知をオフにしようかなと思っていたところだった。実生活というものがない僕に届くメールは、いつか数回だけ使ったサービスからのクーポンか、読む必要のないお知らせメールしかなかった。しかし、顔認証をして中身を見ると、見たことのない宛先だった。僕は困惑を覚えた。<br><br><br>From 吉岡瞳&lt;XXXXX＠icloud.com&gt;<br><br> to 自分&lt;XXXXX@gmail.com&gt;<br><br>吉岡瞳より笹塚文明さんへ<br><br>こんなメールを送ってしまい申し訳ありません。あなたに感謝の気持ちを伝えたくてメールしました。あなたの文章を、いつも、読んでいます。あなたは私を救ってくれました。<br><br>あなたの書くブログは、いつも暗く冷たく、絶望と苦痛に満ちていました。普通の人には共感されないであろうその感情に、私はとてつもなくシンパシーを感じました。あなたは私が感じてきた苦しみを、私よりも繊細に感じ取り、私が書くものより美しい文章にしてしまいました。誰とも共有できないと思っていた苦しみを共有できました。死にたい夜にあなたの文章を読んでいます。<br><br>私があなたの文章を知ったのは、あなたが書いたレディオヘッドのKid Aレビュー記事を読んだからでした。当時から私はあのバンドが大好きで、人の解釈や批評を読み漁っていました。ですからびっくりしました。レディオヘッド解説と言いながら書いているのは自分の苦悩ばかりで、初めて読んだときは、この人は一体何なんだと思いました。でも、なぜか読み進めてしまいました。あなたの文章の上で、私は初めて自分が感じていたものを見ることができました。中学生の頃から感じてきた違和感や痛み、苦しみをあなたの文章の上で初めて目に見ることができたのです。あの記事はいまだに大好きです。<br><br>私はそれからあなたの記事を片っ端から読んでいきました。インターネットの短歌、Lain、シオラン、九○年代の深夜アニメ、宇宙ネコ子、スローコアという音楽ジャンル、ヘルマン・ヘッセやボリス・ヴィアン、九○年代のハリウッド映画、私が好きだったもの、あるいはこれから好きになるものについて、たくさん書いてありました。特にモーリス・ブランショやロラン・バルトの文学理論を用いた現代文学の解釈なんか、とっても難解なはずなのにわかりやすくて、大好きでした。<br><br>古代ギリシアの哲学者、プラトンは「人間はもともと一つの完全な存在であったが、神々によって二つに分けられた。だから人は生涯をかけて自分の失われた半身を探し求める」と書き記しました。もし、私に半身がいるのなら、それは間違いなくあなたです。読んだとき、そう思いました。少し過剰かもしれませんね。でも、ほんとです。これまで、生きていてくれて、文章を書いてくれてありがとう。<br><br>そして、最後に、あなたの文章はあなたが思っている以上に素敵です。だからいつものように卑下するのはやめてください。といってもやめてはくれないと思いますが、あなたのことを想っている一人の人間がここにいることは忘れないでほしいです。長々と、失礼しました。大好きです。<br><br>iPhoneから送信<br><br><br>スクロールする指が止まった。僕の脈拍は乱れ、世界が一時停止した。現状を理解できなかった。半ば自動的に、もう一度文章を頭から読み直した。書かれている内容はどうやら、本当らしかった。そしてもう一度読み直した。その文章に触れている間、僕の心の、凍り付いた、あるいは腐った部分は再生し、再び血が通った。涙が画面に跳ねた。春の陽光のもと永遠に広がる草原の木陰でピクニックをするような感覚だった。全て、生まれて初めてだった。その感覚を味わいながら、もう一度読み直した。<br><br> 僕は放心したような状態に陥り、しばらくしてやっと現状を理解した。つまり僕の文章を、あの行き場のない思考と独白を読んでいる人がおり、その人に大好きと言わせるほどの影響を与えたということなのだ。その事実はただただ僕を感動させた。<br><br>「幸せすぎる」とつぶやいて、発声したことに気がついた。<br><br>自分の声が狭苦しいワンルームの壁に、響いた。声が、剥がれかかったポスターに反響して再び耳に入ってきた。僕は確かに幸せすぎた。<br><br>僕はブログにメールアドレスを書いていた。映画や小説、音楽の解説を書いた記事があったから、情報に間違いがあれば誰かに連絡してもらおうと考えて記載したメールアドレスだった。そこにこんなメッセージが届くなんて！ 想像もしていなかった。<br><br>気づいたら返事を考えていた。でも、なんと書けば良いかはわからなかった。落ち着こうとしたが、無理な話だった。自分の身体が興奮しているのがわかる。初めての出来事を、どうにか消化しようと右往左往した。でも事実は身体の中に居場所を見つけられず、暴れまわった。その幸福な困難に、僕はしばらく狭い室内を歩き回っていた。<br><br>「まずは、感謝の言葉を言おう」<br><br>思考が頭を飛び出して口から漏れ出す。独り言は狂人のように見えるから控えていたのだけれど、どうにも無理らしい。まずはメールを送ってくれたことに対する感謝を言おう、そうだ。それが、きっと正しい。でもその次は？ だめだ、何を書いても気持ち悪いメールになってしまう。思えば僕はもうずっと、人とまともに話していなかった。<br><br>僕はいつの間にか疲れてしまっていたようで、次に気がついたときは、起きるときだった。夢は見なかった。現実が何よりの夢だったからかもしれない。<br><br>4<br><br>茜色のカーテン、夕方、明日が来ていた。それは今日なのに、間違いなく『明日』の色だった。<br><br>いつものようにスマホを探すが充電器に挿さっていない。どこにある？ 眼鏡を手に取ろうとして、空を掴む。眼鏡もない。僕は困って目が殆ど見えないまま歩き回る。幸い眼鏡は机の上にあって、すぐに手に取れた。ブルーライトカットレンズの眼鏡をかけると、視界がマトリックス調の緑に支配される。一気に世界の解像度が上がる。汚い部屋が綺麗に写る。眼鏡をかけてまで見たいものはなかったが、強迫観念がスマホを探させる。<br><br>机の上、台所の上、掛け布団の下、トイレ、洗面台、どこにもなかった。途中、散らばったブックカバーを踏んで、転けそうになった。諦めて二度寝しようとした時、まくらの下に硬いものを感じて、探ってみるとスマホがあった。安堵してスマホをつけるとメールアプリの通知が光っていた。僕の眠たい意識は、一瞬で覚醒した。これはきっと彼女からだ。そう直感した。顔認証をして中身を確かめる。「50% off for you, 50% off for them」の文字が目に入る。スマホを投げつけそうになって、悲しさのほうが大きいことに気がついた。第一、二日連続もメールが来るわけないだろう。そう言い聞かせる。<br><br>昨日来たメールをもう一度読み返す。涙はもう出なかったが、心は確かに温度を上げた。嘘じゃなかったんだ。本当だったんだ。<br><br>「誰かが、読んでたんだ」<br><br>ブログの管理ツールには毎記事八〇〇程度のビューがついていたけれど、それは実感を持った人数ではなく、あくまでもただの数字に過ぎなかった。だから誰かが読んでくれているなんて、思っていなかった。いたのだ、読んでくれている人が。あの宛名のない手紙を受け取ってくれている人がいたのだ。この嬉しさが薄まる前に返事を書いてしまおう。そう思ってPCを開く。だけれど、やはり中々書けない。彼女に気に入られる文章なんて、微塵もわからなかった。<br><br><br>From 自分&lt; XXXXX@gmail.com&gt;<br><br> to 吉岡瞳&lt;XXXXX＠icloud.com&gt;<br><br>返信を考えていました。でもどれも返事には適切ではないように思われ、数百字打っては消して、打っては消して、を繰り返していました。今日はずっとそればかりしていて、流石にこれではいつまで経っても返事をできないと思い、返事が難しいというのを返事にしてしまおうという魂胆を考えつきました。まずは、ありがとうございます。私の陳腐な文章を(本当ならありとあらゆる修飾を使って卑下するつもりでしたが、あなたに先手を打たれたので止めておきます笑)<br><br>美しいと言ってくれて、読んでくれて、私を知ってくれて、ありがとうございます。読んだ時、あまりにも嬉しくて現実を疑ってしまいました。誇張ではありません。あれは本当に人生で一番の体験でした。自分が認められる感覚、そしてあなたの感触、どれも完璧でした。<br><br>私が書くことではないかもしれませんが、きっと私達は親交を深められます。Kid Aは永遠にフェイバリットアルバムですし(あなたもそうであることを願います)、私のひねくれた趣味に重なってくれる人はごくごく稀です。最近はくだらないポップミュージックを聴く人(あなたにはこの種の人の気持ち悪さがきっとわかるはずです)ばかりですからね。素敵なものたちを、誰かと共有できることをとても嬉しく思います。<br><br>吉岡さんのメールは僕がこれまで書いてきた文章を救いました。あなたがいったいどんな人なのか、知りたいです。もしよければお返事ください。<br><br><br>ここまで書いて電池が切れたように次の文が浮かばなくなってきた。今日はここまでか、一度寝よう。僕はそう思った。気づいたらカーテンの外はすっかり夜の静寂に包まれていて、パソコンのモニターだけが光を放っていた。僕はシーリングライトをオンにして、ジャージを着て、窓を閉める。<br><br>起きてから何も食べていない。重い足を動かして、がらんどうの冷蔵庫まで行く。その中に一つ転がる冷凍おにぎりを取り出し、電子レンジで温める。米粒が硬化し、お世辞にも美味しいとは言えない状態になったそれを、手早く口に押し込む。コンビニにも行きたくないときにはこれを食べるのだ。美味しくはないがカロリーは必要だ。空腹になると焦燥感が増して嫌というのもあった。食べ物というよりは工業製品的な何かに近かった。食べている途中もずっと彼女について考えていた。<br><br>一体どんな人なのだろうか。何をしている人なのだろう。どんなことを考えるのだろう。何が好きなんだろう。僕は、僕に興味を持つ人というのを、これまで見たことがなかったから、本当に想像ができなかった。そもそも、僕自身、今までの人生で誰かに興味を抱くことが、あまりなかった。ただ、今やるべきことはわかっていた。メールを送ることだ。彼女もきっと返信を気にしているに違いない。僕も一度ネット上の人にDMを送ったことがあるから彼女の気持ちはよくわかった。数日はそわそわしてしまうものなのだ。早く返事を送ろう。その晩、僕の行動は久しぶりにはっきりと輪郭を現した。<br><br>メールを確認してみると、まあまあな出来栄えだった。良いとは言えないが、悪くもない、だろう、きっと。今はくよくよ悩むよりもまず送信することが必要なんじゃないかと思った。意を決して送信ボタンを押した。<br><br>僕は気分が良くなり、散歩に出かけたくなった。Sonic YouthのDirtyをヘッドホンから流し、いつもより少しだけ足早に歩いてみる。まだ夜は浅瀬だ。車の往来は多く、道にはポツポツと歩行者もいる。近くの公園のベンチに座って、夜の空気を吸い込む。秋、はじめの公園はひんやりとしていて気持ちが良い。温まりすぎた身体を冷やしてくれる。スマホがバイブレーションする。僕は自動的にスマホを開く。<br><br><br>From 吉岡瞳&lt;XXXXX＠icloud.com&gt;<br><br> to 自分&lt;XXXXX@gmail.com&gt;<br><br>笹塚さん！ 嬉しいです。ごめんなさい。返信が来るとは思っていなくて、今とても嬉しいです。返事をもらえるだけでも嬉しいのに、よかったらお返事くださいなんて言われたら、すぐにでも書いてしまいます。私は今、ちょうど相対性理論を聴きながらアールグレイティーを淹れていました。笹塚さんと話したいことはたくさんあります。とってもたくさん。私について知りたいと言ってもらえるのはとても嬉しいです。いや、怪しいからでしょうか…… いきなりメールが来たら怖いですよね。ちゃんと自己紹介します。<br><br>でもいつかの記事で笹塚さんが言っていたことを覚えています。定型的な自己紹介では全く自己を紹介できていない。そんなことよりも好きな映画や小説、音楽について語るほうがよっぽど多弁だって、仰っていました。私、あの記事読みましたよ。<br><br>私の好きな映画は、タルコフスキーの鏡やストーカー、ベルイマンの沈黙、溝口健二の雨月物語です。香港映画や新海誠、ラブ＆ポップやリリィ・シュシュの全ても好きですよ！ 好きな小説はウルフの灯台へ、デュラスのラマン、村上春樹はやっぱりノルウェイの森が一番好きかな。音楽はたくさん聴きます。あなたが好きな日本のインディーロックやシューゲイザー、レディオヘッドはもちろん、ビョークやポーティスヘッド、青葉市子やharuka nakamura、hyperpopやインダストリアルも聴きます。チャイコフスキーやデューク・エリントンも大好きです。漫画は宮崎夏次系や萩尾望都、市川春子、ねこぢる、つげ義春が好きです。画家は本当に難しいけれどフェリックス・ヴァロットンやクレー、奈良美智が好きかな。<br><br>普段は東京の大学で絵をかいたりしています。私、文章があまり得意じゃないんです。メールでお話するのは、慣れなくて、少し難しい。でも返事を早くしたかった。ほとんど読み返さずに送ってしまって申し訳ないです。でも早くお返事を書きたかった！ とりあえずこれで返事です！<br><br>iPhoneから送信<br><br><br>落ち着くために息を吐いた。この種の喜びに、肉体がまだ慣れていないのがわかる。彼女は僕の返信を読み、それに対して嬉しいと言って、また返事を書いてくれた。僕はその喜びを全身に浸透させて感じ取る。無意識に、きっとこれは生涯に二度とない体験だから全力で味わおうと思った。彼女が名前を挙げた作品の中には知らないものもあったが、知っている作品はどれも僕の好きなものだった。そして彼女が僕以上に素敵なものを知っているという事実に胸を打たれた。そんな人に、気にかけてもらえると考えると嬉しかった。この気持ちが尽きないうちに返信をしてしまおう。僕はスマートフォンのキーボードを出した。<br><br><br>From 自分&lt;XXXXX@gmail.com&gt;<br><br> to 吉岡瞳&lt;XXXXX＠icloud.com&gt;<br><br>教えてくれてありがとう。確かに僕はそういうひねくれたことを書いていました。書いてよかったという気持ちと、普通の自己紹介も見てみたかったという若干の後悔が自分の中でせめぎあっています。あなたの選んだ作品は(こういうと偉そうに聞こえるかもしれませんがそんなつもりはありません)どれも素晴らしい作品だと思います。僕も大好きな作品達です。好みもとても被っていると思う。<br><br>確かに僕もメールで会話するのは、中々疲れます。もしよければLINEで話しませんか。QRを貼っておくのでよければ追加してください<br><br>iPhoneから送信<br><br><br>僕はメールを書き終えた。気持ち悪いかもしれないという迷いが一瞬よぎったが、それよりも彼女と早く話したいという気持ちが先行した。彼女は僕のLINEを追加するだろうか。そう考えると不安を感じた。形を持った不安は久しぶりだった。<br><br>公園の隅の街灯が――夏なら虫の集合地点になるそこが――今は無機質に光っている。僕は居ても立っても居られなくなって、ブランコに乗る。不安定なブランコに腰を下ろし、地面を蹴ってみる。強く蹴るとブランコはそれに比例して大きく加速する。風切り音が大きくなる。<br><br>スマートフォンのバイブが肌越しに感じられる。通知だ。鼓動が早くなっていくのがわかる。でも、スマホはまだ開かない。僕は地面を蹴り、ブランコを加速させる。ブランコはとても高い所まで飛べるようになった。後ろ向きに加速するブランコと地球の執着が拮抗し、一瞬、停止する。そして、すぐにブランコは前向きに加速する。僕はそれが最高速度に達した時、その加速を使ってブランコから飛び立った。僕は三メートルほど空を飛び、地上に落とされた。そして、上手く着地できずにこけた。服にはべっとりと土が付着していた。だけれど不思議と不快感はなかった。心は晴れやかだった。<br><br>5<br><br>時間をかけて、丁寧に土を払い落とし、スマホを開くと、LINEから通知が来ていた。<br><br>「瞳です」名前の欄にはセランと表示されていた。<br><br>「セラン？」<br><br>「ああ、私、」<br><br>「韓国人なんですよね。実は」<br><br>「そなんだ」<br><br>「ごめんなさい。幻滅させてしまったかな。嫌だったら、ブロックしてください」<br><br>「幻滅？そんなわけないよ」<br><br>「韓国なんだ。たしか今は東京にいるって言ってた」<br><br> 僕は送信してから、それがデリカシーのない質問だったかもしれないと恐ろしくなった。<br><br>「今は東京ですよ！ 育ちはほぼ日本です。生まれは韓国だけど、育ちは日本って感じです！」<br><br>「ごめん、デリカシーなかったかも」<br><br>「悪意とか偏見無いってわかってたので、大丈夫です。全然」OKマークのポーズをした絵文字とともにメッセージが来た。<br><br>「笹塚さんは栗原という名前なんですね」<br><br>「あんまり素敵な名前じゃないよね。笹塚がよかった」<br><br>「いや、そんなことないと思います。私は好きです」<br><br>「なら、よかったけど」<br><br>「改めまして、栗原です。よろしくお願いします」<br><br>「堅苦しいですね笑笑」<br><br>「改めまして吉岡です。よろしくお願いします」<br><br>「吉岡瞳と呼べばいい？セランと呼べばいい？」<br><br>「吉岡瞳と読んでほしいです。なんというか、インターネットではこの名前についてきたものを引き剝がしたくて」<br><br>「OK。吉岡瞳さん、今日は何をしましたか」僕はそれが正しいメッセージなのかわからなかったけれど、とにかく、話を続けたかった。<br><br>「今日は」<br><br>「夕方に起きて、近所の図書館が閉まるギリギリに本を返しに行って、ロラン・バルトの明るい部屋を借りようと思ったら『貸出手続きは終了しています』って言われてちょっとムカついちゃいました」<br><br>「笑笑あるよね」<br><br>「まあ、社会的な生活リズムじゃない私が悪いんですけどね」<br><br>「僕たちにとって、図書館と美術館は大切な一部であると同時に、相容れない部分でもある」<br><br>「本当に！ こんなに大好きなのに、、、それでも彼らはやっぱり社会の側なんだよ」<br><br>「僕、時々夢を見るんだけどさ、その話、していい？」<br><br>「ききたいです」<br><br>「その世界には図書館と、古本屋と、美術館と、趣味のいいカフェがあって、朝方と夕方しかない。一番空が美しい時間と、一番素敵な場所しかない。ただそれだけ。ただそれだけなんだけど、そんな夢」<br><br>「私も行きたい」<br><br>「その世界」<br><br>「おいでよ」<br><br>「きっと閉館時間も存在しないよ」<br><br>彼女とたくさんのメッセージを送りあった。いつのまにか日付が変わっていた。<br><br>「寝なくていいの？」〇時十二分だった。<br><br>「不眠なの」<br><br>「最近は四時ごろにしか眠れなくて、、、」<br><br>「奇遇だ。知っているだろうけど僕も夜には寝れないよ」<br><br>「知ってる、多分誰よりも。いつも眠れないときには笹塚さんの文章を読んでたから」<br><br>僕は彼女と話し始めてから、ずっと背骨を抜かれた魚のようにぐにゃぐにゃと微笑んでいた。僕は大して考えずに感覚で返事を送ったし、彼女もそのようだった。なにせお互いすぐに既読をつけたし、すぐに返信を書いた。それでも不思議とお互いのリズムは合っていた。彼女と手をつないで、ダンスを踊るような感覚だった。そのあとも数時間、殆どリアルタイムで会話するかのように彼女とメッセージを送りあった。秋口の公園は快適だった。<br><br>「ねえ、もう朝日が登るよ」時計は六時三十分を指していた。<br><br>「たしかに。もうそんな時間か」僕はその時刻をシラフで迎えることが滅多になかったし、まして誰かと一緒に迎えることなんて、本当に久しぶりで、数年ぶりに満ち足りた多幸感を味わった。<br><br>「お互い朝の風景を送らない？」彼女が提案した。<br><br>僕は東を向いて、少し白んだ空と茶色の地面、そして濃い灰色のコンクリートを写した写真を撮った。そしていくつかのフィルターを試してみて、空が一番綺麗に見えるやつを選んで送信した。<br><br>「わあ！ きれい」<br><br>「構図も整ってるね」大島智子のイラスト絵文字とともにメッセージが帰ってきた。僕は彼女が絵を描いていると言っていたのを思い出した。<br><br>「そういえば、君が描く絵を見たことない」<br><br>「よければ、みたいな」<br><br>「恥ずかしいな、だいぶ」<br><br>「見たいな、だいぶ」<br><br>「笑笑」<br><br>「見せたくないわけじゃないんだけどね」<br><br>「なら見せてよ」<br><br>「わかった。ちょっと待ってて」気のせいかもしれないが、わかったというメッセージの返信が、少し遅かった。<br><br>僕は想像を張り巡らせた。どんな絵を描くのだろうか。油絵だろうか。版画だろうか。フェリックス・ヴァロットンが好きなら版画かもしれない。でもまだスタイルが決まっていないかもしれないな。特に明晰でもなかったし、明晰である必要もないこの思考はほとんど無駄だったが、彼女について考えるとき、僕の心は真冬のカイロのようにあたたかくなったから、彼女について考えることをやめられなかった。こんなことは久しぶりだった。<br><br>送られてきた画像は一人の美しい女を描いた油絵だった。背景の黒さと肌の白さが優美なコントラストを作っていて、中心にいる女に引き込まれた。<br><br>「これはね、習作なんだけど自画像なんだ」<br><br>「ねえ、最高だよ」<br><br>「最高？」<br><br>「安っぽい形容になって申し訳ない、、、」<br><br>「ありがとう」<br><br>「この絵は、大学に入ってまだ少しの時だったから、デッサン的になってる所がいかにも日本の美大生って感じで、ちょっぴり嫌なんだよね」<br><br>正直に言って、僕にその匙加減はわからなかった。だけれど、きっと彼女にとっては何か大きな要素であるに違いなかった。<br><br>「そういうものか」僕はそう送った。<br><br>「見せてくれてありがとうね」<br><br>「栗原さん、これ結構、私頑張ったんだよ」<br><br>「確かに素晴らしい絵だと思う」<br><br>「違うよ」<br><br>「違う？」<br><br>「そう。あなたに、絵、送ること」<br><br>「送ること？」<br><br>「例えばさ、自分だけの、誰にも見せない日記を誰かに見せるときってどういうとき？」<br><br>「ああ、」<br><br>「そういうことか」<br><br>「もっと、ちゃんと見るね」<br><br>「それはやっぱり恥ずかしいからやだ笑」<br><br>僕達は、なぜか、ほとんど初めて話すというのに、調子があっていた。<br><br>「私、そろそろ大学だ」<br><br>「大学生って言ったね」<br><br>「そ」<br><br>「今日は一限から授業あるから、そろそろ準備しないといけないの」<br><br>「寂しくなるね」<br><br>「帰ってきても話せるよ」<br><br>「やった。いってらっしゃい」<br><br>彼女は女の子が指をOKマークにする絵文字を送った。太陽はオレンジ色の光線を放ち、空の上でまだ夜の余韻を残す暗い雲と戦っていた。絵画的だ。僕はそう思った。いくら不眠症とはいっても疲れは溜まっていた。僕は家に帰り、眠剤を飲んで布団に入った。こんなに幸せな一日を送ったのは久しぶりだ、いや人生で最高の日かもしれない。話の内容はあまり覚えていなかった。でもそれでよかった。話したいことはまだ無限にあったし、話すことそのものよりも彼女と時間を共有できることに喜びを感じていた。久しぶりに苦しさのない、純粋な眠気を感じた。<br><br>6<br><br>僕達はそれからしばらくの間、毎日のようにLINEを交わした。電話して一日にあったことを伝え合い、好きな映画について語り、小説の解釈で時には議論し、お互いの過去の話を沢山した。<br><br>あるとき、彼女が大好きだという画家の画集を送ってもらった。画集と共に小さな手紙も入っていた。僕はその手紙の文面を今すぐにでも読み上げることができる。レターパックは雨で宛名が滲んでいた。それがどうしても愛しくて、僕はそのレターパックを壁に貼ってしまった。それを見るたびに、彼女を近くに感じる。薄い画集に栞として挟まっていたロリータの映画チケットも、見るたびに愛しい。僕はお返しに萩原朔太郎の詩集と短歌の歌集と手紙を送った。<br><br>秋の匂いはどんどんと濃くなっていき、木々は暖色を強めた。よく見るとグラデーションがあったが、遠くから見るとまるでバケツツールで塗りつぶしたように同じ色をしていた。そして、木は葉を落とした。<br><br>7<br><br>その夜、僕の精神状態は最悪だった。なぜだかはわからないけれど、起きてからずっと全身が沈むような感覚で、動くことすら困難だった。動けるのなら、今すぐにでもアパートのベランダから飛び降りてしまいたかった。僕は彼女の、瞳さんの声がどうしても聞きたくなった。深夜二時だということはわかっていたし、そんな時間に電話をかけるのが迷惑だということもわかっていたが、通話ボタンをタップしてしまった。淡白な呼び出し音がしばらく続き、彼女が電話に出た。その瞬間、僕は身体が少し軽くなったのを感じた。<br><br>「もしもし」<br><br>「もしもし、瞳？」<br><br>「どうしたの、緊急だった？」僕は大抵電話をかける前にメッセージを送ることにしていた。<br><br>「緊急といえば緊急だけど、どうでもいいといえばどうでもいいんだ」<br><br>「いつでもかけていいんだよ」彼女は優しくそう言った。<br><br>僕は感情の中に転がるものを適当に掴んで言葉にして、彼女に伝えた。「いたい」「つめたい」「はいいろとあか」「くるしい」それは大抵醜く、単純で痛々しいものだったが、彼女は優しく包んでくれた。<br><br>気づいたら、泣いていた。<br><br>「ごめん……いきなり電話して泣き出すなんて、迷惑だよね」<br><br>「どうしてそんなことを言うの。まことがつらいなら、私はそれを知りたいし、私にできることならなんだってしてあげたいよ。だから迷惑なんて言わないで。話してくれるだけで嬉しいよ、私は」<br><br>人前で泣くのは初めてだった。あるいはあったとしても、それは物心つく前のことだった。だから人生で、僕という自我にとっては、初めてのことだった。<br><br>「ありがとう」<br><br>「……それで、何かあったの？」<br><br>「別に、何かあったわけじゃないんだよ。でも、その」<br><br>「うん」彼女は小さくささやいた。僕の語りの邪魔をしないように小さく、しかし、聞いているということを示すような声。<br><br>「僕の将来は絶望的なんだよ……大学にも行けそうにない。こんなことは、もう散々記事で書いてきたけど、それでも抑えられないときがあって……僕は何のレールにも乗れなかった。社会に必要とされていないんだ。いや、誰からも、必要とされていない。それにもし、大学に行けたところで、僕には大した趣味も、目標も、夢も、ない。やっていて楽しい事もない。退屈のほうが多い。憂鬱のほうが多い。それは今に始まったことじゃなくて、小学五年生のころからずっとそうだった。みんなが笑ってるのに、僕一人隅っこで本を読んでる、そんなガキだった。でも、最近はさ、鬱が酷くて、本も読めなくなってきた。それに、本なんか読んだって、何にもならない。もう、全部やめてしまいたいんだよ。死んでしまいたい。薬を飲むのも嫌なんだ。自立支援医療で一割負担になる薬は、まるで社会に生かされてることをまじまじと見せつけられてるみたいで、ああ、僕はもう、誰にも迷惑をかけたくない。僕が今まで飲んできた錠剤を全部まとめたら、ちょっとした車だって買えるだろうと思う。僕みたいな人間に金が使われるならさ、どこかの母子家庭とか、いや、そんなことを言いたいわけじゃなくて、なんか、せめてこう、生きようと、つまりさ、人生に本気になってる人に使われたほうがいいんじゃないかって、いつも思うんだ。つまりね、僕は本当に、たぶん……死んだほうがいい」僕はそこまで喋って、喋りすぎた事に気付いた。文章にすると単純なそれを口に出すのに、えらく時間がかかった。嗚咽し、涙と鼻水が混ざり合い、声が声じゃない何かになった。僕が誰かに直接、自分の弱さを見せることができたのは、これが初めてだった。<br><br>「私はいるよ」瞳が静かにこぼした。<br><br>「私はいるよ。必要としてる。まことくんの書いたものに、もっといえば最近はまことっていう存在そのものに救われてる。だから、あなたが何と言おうと、あなたは無駄じゃない。死んだほうがいいなんて言わないでほしい。あなたが死んだほうが良かったら、それに救われた私は何なの？ きっと私以外にも救われてる人はいるよ。まことくんは素敵だから。でも、とっても、わかる。わかるなんて私が言っていいのかわからないけど、まことくんが言うことは全部心の底から共感する。私は、一応大学に行けていて、それなりにしたいことだってあって、夢みたいなものも、まあ、たいしたものじゃないけど、あって、でも、死にたいって思う夜がたくさんあって。うーん……なんていえばいいんだろう。大学に入る前までは、本当にまことくんが言う通りの心情で、だからその、あなたも、もしかしたら、いや、わからない。なんていえばいいんだろう。人に死なないで将来を夢見てなんて、そんな無責任で怖いこと、言いたくない。でも、あなたにだけは死なないでほしい」<br><br>僕は感謝の言葉を伝えた。<br><br>「お互い様だよ。私もまことくんにたくさん助けられたから。だから間違っても、私の負担になっているだとか、そんな事は考えないでね。私はいつでもまことくんの味方だし、まことくんの幸せを願っているよ。大切で大好きな私のお友達」<br><br>僕がどう感じたかなんて、書くまでもない。今までとは違う種類の、優しい涙が漏れた。<br><br>「ありがとう、本当に。ありがと……ありがとう、いてくれて」僕は何度も繰り返した。<br><br>僕の恐怖に似た感情は、涙が枯れた頃、やっと落ち着いてきた。<br><br>「君のことを教えてよ」<br><br>「私のこと？」<br><br>「そう。君がつらかったこと、苦しかったことを、あるいは君の身の上話とか、聞きたいな。例えば僕がさっきしたみたいに。嫌だったら、言わなくていいけど、僕は君について知りたい」<br><br>「私の話か、長くなっちゃうよ。それに、面白くもない」<br><br>「構わないよ。夜が終わっても、僕は聞き続ける」<br><br>「なら……話そうかな。私が、その、こういう感じ、すごく単純化して言うなら<br><br>――暗い感じ――になったのは中学生の頃かな。元々明るいタイプではなかったんだけど、私が外国人だったってのもあって、いじめられて、ほら、よくあるでしょ子どもの特に理由の無い、いじめ。多分別に私じゃなくてもよかったの。でも、私が特別目立つ要素を持っていたから、私は標的になった。最初はちょっと隣の席の人が冷たいとか、そんな感じだった。でも、段々それがクラス中に伝播していって、みんなが私を避けるようになった。いじめはゆっくりと自然に、まるで当然みたいに姿を現していった。私抜きのLINEグループが作られて、そこから、私のジャージがゴミ箱に入っていたり、私のバッグが男子トイレの便器の中から見つかったり、どんどん酷くなっていった」彼女の声は淡々としていた。<br><br>「それでそこから逃げるように学校へは行かなくなった。親はそういうのに寛容じゃなくて、母親には殴られたし、父親は私をいないものとして扱った。自分の部屋と布団から二十四時間出られなかった。まあ、それで、暗くなった感じかな…… 神聖かまってちゃんとか、大森靖子とか好きだった。それからはずっと部屋の中でインターネットをしてたかな。Youtubeを見たり、まとめサイトを見たり、小説投稿サイトを見たり、音楽を聴いたりしてた。絵を描く以外には生産性のあることを、何一つできなかったな、当時は」僕は彼女の語りを邪魔しないように返答をしていった。<br><br>「でもそんな自分が嫌で、どうにか受験勉強をして進学校に進んだの。クラスメイトとどうしても合わなくて、こう、君はよく知ってると思うけど、一度底を見てしまった人は、そうじゃない人と同じ土俵でものを考えられないというか、一つ深いところでものを見てしまうようになるから、それで、当然高校にそんな人はいなくて、私は高校に段々行けなくなってしまったの。中学の頃みたいにいじめがあったわけじゃないけど、なんとなく疎外されてるって感じた。独りになってまで、学校にいられるほど、私は強くなかった。結局、三月になっても学校に行けるようにはならなくて、私はほとんど自動的に留年しそうになった。でも留年は親が許さなくて、通信制高校に転校した。転校するための書類を取りに行く時、同級生の視線とか、毎週出席の代わりに課題を出してくれた優しい先生の顔を見たりするのが、本当に怖くて、校舎の前でへたりこんでしまった時は本当に死にたくなったな。まあ、ともあれ、それで、その後どうにか大学受験をして芸大に入って今に至るって感じかな。大学は美大だから私みたいな人も少なくないし、いい意味で皆、他人に無関心だから、高校のときよりは学校にも行けるようになってるよ。それでもつらい夜は多いし、もう誰とも関われないって思う日も多いけど、改善傾向にはあると思う」<br><br>「……話してくれて、ありがとう」<br><br>僕は深く共感したし、彼女がああいうメールを送ることになった経緯も理解できた。冷たい夜風になびくカーテンの裏に、あるいは僕のじめっとした瞼の裏に、彼女の学生生活が、そしてその苦悩がありありと再生された。それは僕のものと似ていた。僕達の結束が強くなったような気がした。彼女の解像度があがったような気がした。話はずっと暗かったけれど、僕は少しだけ、彼女と抱擁を交わしたような、そんな気持ちになった。<br><br>「僕、なんか、死ぬなら、君と一緒がいいな」馬鹿みたいなことを言っているなと思った。<br><br>「私もだよ」<br><br>「ちょっと恥ずかしい。こんな気持ちになったのは初めて。嬉しいな」<br><br>「ねえ、まこと？」<br><br>「うん？」<br><br>「私のこと、セランって呼んでほしい」<br><br>「いいの？ 嫌だって言ってたけど」<br><br>「ううん。もう、大丈夫だから」<br><br><br>二章<br><br>8<br><br>僕達は会うことになった。お互い大好きなアーティストがライブをするということになり、それに一緒に行くことになった。ライブは夜に始まるから、それまで二人で遊ぼうという話になった。<br><br>僕達はお互いが好きなブランドの旗艦店や、純喫茶、古本屋、安い古着屋、美術館、カラオケ、行きたいところをたくさんリストアップした。そして大まかなスケジュールを話し合って決めていった。過密な一日になりそうだった。今まで一番楽しいスケジューリングだった。<br><br>十一月三十日、東京駅。それが僕たちの逢瀬の日と場所になった。スケッチブックに11月30日と大きく書き、壁に貼った。それから毎日、彼女との話題はもっぱら三十日のことになったし、僕の頭もそれで埋め尽くされていった。<br><br>三十日に比べればどうでもいいことではあったが、最近僕のブログはそこそこの人気を集めている。といっても誰かと比較するとくだらないのだけれど、以前よりは見てくれる人が増えて、どの記事も三万ビューは割らなくなった。月間換算だと毎月八万ほどの閲覧者がつくようになった。メールアドレスにもいくつかの感想メールが届いて、何人かとLINEも交換して日常的に話すようになった。セランほど親しくなった人はいなかったけれど、時折話をできる人はできた。セランと出会ってから全てはいい方向に向かっている気がする。僕は毎朝起きた時、憂鬱より先にメッセージを見ることができるようになった。<br><br>三十日までは、まだ二週間近くある、そう思っていたけど、その日までは大して時間がなかった。三日後が、三十日なのだ。僕は興奮を抑えて、やるべきことをリストアップして、優先順に整理した。そして実行した。<br><br>その日、僕はまず、朝から美容室に行き、胸辺りまで伸びた髪の毛を綺麗なボブにした。その後思ったより時間が空いたから、服も見に行った。いくつかの古着屋を周りニットとコートを買った。そしてZARAで新品のシャツと下着を買って、帰りに駅前の無印でトラベル用の化粧品を買い揃え、家に帰った。リュックサックにそれらを詰め込んでいく。<br><br>生来の性格で、準備は苦手だった。中学生の頃に行った海外旅行の時も留学の時も当日ギリギリに準備をして飛行機に遅れそうだった。でも今回は、なぜかきちんと準備ができた。僕は完璧に準備を終えて二十九日の昼を迎えた。<br><br>二十九日の夜にこちらを出る高速バスに乗って新宿に朝九時頃着く予定だった。僕はそれから二時間かけて風呂に入り、体中のありとあらゆる場所を清潔に洗った。ボディーソープの総プッシュ数は三桁を超えたかもしれない。僕はそれでようやく清潔になった。それから身体中の毛を剃って、最後にもう一度体を洗い、やっと風呂を出た。<br><br>そして丁寧に眉毛と髭と産毛をそって、導入化粧水、化粧水、美容液、乳液を順番に顔に塗りたくった。髪の毛を丁寧にドライヤーして、丁寧にヘアオイルをつけ、丁寧にセットした。最後に爪を研ぎ、口内が歯磨き粉味になるまで歯を磨いた。<br><br>これで僕は、今の僕に許された最善の見た目になったはずだ。それから熟考して選んだ服に、アイロンをかけ、ブーツにブラシをかけクリームを塗った。姿見で嫌になるほど自分の姿を確認した。六度ほども持ち物を確認し、忘れ物がないことを確かめ、駅に向かった。道中でスキップをしそうになって、靴が汚れてしまったらと思って、やめた。<br><br>今朝、セランが大学へ行くくらいの時間にちょうど中途覚醒した僕は、セランに「おはよ」とLINEを送った。が、夜になってもまだ返事はなかった。返事の代わりに送信取り消しされたいくつかのメッセージがあった。僕はそれについて聞き直そうかと思ったが、セランが消しているということは些細なことだったのだと思うし、いちいち聞くほどじゃないと思った。二週間ほど前からセランは自分からほとんどメッセージを送らなくなっていたし、返事も遅くなっていた。きっとなにか忙しい事情があるに違いない。あるいは三十日にむけて緊張しているのかもしれない。僕はそう思っていた。<br><br>バスターミナルにはサラリーマンや着飾った若い女、流行りの服を着た若い男など、夜更けにしては多くの人間がいた。それなのにとても静かで、僕はこのまま異世界にでも行ってしまうのかと思った。<br><br>僕は予約したチケットをスマホで準備し、三番乗り場の長い行列に並んだ。<br><br>三番乗り場には標準的な大きさの、いささか安っぽいバスが止まっていた。派手なペインティングは、おそらく広告だろう。運転手と思わしき人物がチケットを確認し、乗客をひとりひとり捌いている。乗客達の大きく重たそうなキャリーケースを荷室に入れるには運転手の腕は細すぎるように見えた。けれど彼はそれらを軽々しく持ち上げ荷室に押し込んでいった。それを見ているとあっという間に僕の番が来た。僕は力持ちの運転手にチケットを見せた。「10Aですね。どうぞ」と彼は言った。荷物はリュックサック一つだったから軽々と乗車できたが、彼のパフォーマンスを見られないのは少し残念だった。<br><br>僕の席は後方で、隣には初老の男が座っていた。彼は僕が窓際に座ろうとしているのを見ると、礼儀正しく「どうぞ」と言って身体を曲げた。僕は「どうもありがとうございます」と言って慎重に移動した。僕が椅子に落ち着いたとき、他の客席はほとんど埋まっており、バス内の人口密度はとても高いように思えた。少し、息が詰まった。<br><br>バスは、ターミナル内の細く折れ曲がったジャングルのような道を器用に通り抜け、大通りに出た。いつもより少し高い目線で街を眺めた。黒い空は確かに曇っていて、街は相変わらず退屈そうなオレンジや白の光をぼんやりと灯していた。もう二度と見たくないものばかりだった。だが僕は清々しい気持ちで、地元の銀行の本店とすれ違った。僕には東京で最高の一日を過ごすことが約束されている。もうおさらばだ。気にすることもない。<br><br>正直に言って僕は彼女と会ったあとのことを何も考えていなかった。その日まで生き延びることを目標にしていたし、その日で世界が終わっても問題はなかった。三十日まであと数時間。僕が乗った夜行バスは一時間に八十キロ程の間隔で、彼女に近づいている。その実感が何より嬉しく、何より心をあたためた。もはや憂鬱など、どこにもなかった。<br><br><br>ここはどこだろう。それは、多分街だった。街は蠢いていて、常に変化し続けていた。固定された場所というよりは有機的な生き物のように。奇妙な話だけれど、後ろを見て、もう一度前を向くと景色が変わっていたのだ。街はいつか、どこかで見覚えがあった。でも、それがどこなのか、またいつ頃だったのか、さっぱり思い出せなかった。<br><br>僕が突っ立っていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。振り返ると女がいた。どんな見た目だったかは正確に思い出せないが、女だったような気がする。あるいは、そうあってほしかったのかもしれない。確かスーツを着ていた。どこかで見たような気もするけれど、夢の中の錆びついた脳みそでは彼女が誰だったのか思い出せなかった。それに、彼女の顔はどうしても見ることができなかった。正面から見ていたのに、見えなかった。逆ピカソだ。なぜか顔の見えない女は僕に、恐怖よりもむしろ安心を感じさせた。蠢く街で唯一信頼できると思った。<br><br>その女は僕の手を握って、踵を返し、歩き出した。連れて行ったというよりは、お互いが紐づいていて、一緒に歩いていくような、上手くいえないけれど、そんな感覚だった。そして裏路地の湿っぽいバーに入った。そのバーでウォッカとミルクを頼んで彼女はこう言った。<br><br>「あなたはこれから痛い目を見るわ。それはきっと死ぬよりも苦しい。でも、覚えておいて、あなたは一人じゃない。そして何より、絶対に死んではだめよ。あなたにはやるべきことがある。私はそれを終える前にあなたが死んだら絶対に許さない。わかった？」<br><br>彼女はそこで初めて声を出した。その声はどこか静かで控えめな印象があったが、深く、冷たく体の奥の方に響いた。僕は「何を言っているんですか」と返事しようとしたが声が出なかった。しかたがないから小さく頷いた。<br><br>「やるべきことをやって」彼女はそう言うと、小さなコップに注がれたウォッカを気持ちよく飲み、そのまま出口へと消えていった。僕は置いていかれて、しかたなく目の前のミルクを飲んだ。よく冷えた美味しいミルクだった。<br><br>彼女が言ったことはよくわからなかったし、解釈しようとも思わなかった。その類の言葉ではないように思えたのだ。頭で考えなくても、浸透していくような言葉だった。狐につままれたような気持ちになった。しばらくその、滅多にない雰囲気を味わった。<br><br>いや、待て、彼女、勘定をしていかなかった。しばらく悩んだが、店から逃げるわけにもいかず、僕は財布を取り出した。「いくらですか？」と聞くとバーテンダーは「二万五千円です」と答えた。なんだ。ウォッカ一杯とミルクだけでそんなにかかるはずがない。酒を飲まない自分でも高すぎるということがわかる。新手の手口か、と言いたくなった。確かマッチングアプリ経由でぼったくりバーに連れて行かれるという手口がニュースで取り上げられていたな、と思い出す。迂闊に人について行ってはいけないな、僕は遅すぎる後悔をする。出口とバーテンダーを交互に見て、彼の胸板の厚さに、僕は諦めて、大人しくトレーの上に一万円札二枚と五千円札を載せた。バーテンダーは表情一つ変えなかった。足の震えを隠して店から出た。来たときとは違って、川が見えた。大きな川だった。遠くで長い電車が橋の上を滑っていった。時雨が降っていて、全てが灰色の湿気に包まれていた。<br><br><br>僕はいつの間にかバスの座席に座っていた。急いで財布の中身を確認するが、わからない。僕は遊ぶために大きな額を下ろしていたから、正確にどれくらい減ったかわからなかった。結局夢だったのか、うつつだったのか、僕にはわからなかった。<br><br>バスの中は静かでエンジンのかすかな振動と僅かに聞こえる風切り音だけが感じられた。空気は冷たさには誤魔化せないほど淀み、彩度を下げた。セランからのLINEは未だ返ってきていなかった。<br><br>僕は急に不安になってきた。セランは本当に会う気があるのだろうか、もし今まで遊ばれていただけだったとしたら？ 街で女が言ったことが怖くなってくる。いや、でも、僕達が築き上げてきたものは本物だし、そこに嘘はなかったはずだ。僕は心配になって「僕達会えるんだよね？」とLINEを送る。嫌な妄想が膨らんでいく。そもそもセランは本当にいるのだろうか。僕は双極性障害だと診断されているけれど、双極性障害はかつて統合失調症と区別されていなかったという。不味い方向に考えが加速していくのがわかった。もし東京に行って誰もいなかったらどうしよう。僕は人生で、ほとんど初めてと言っていいほどの本物の恐怖を感じた。セランがいなかったら僕は今まで何をしてきたんだろう。<br><br>「会えるよ」「遅れてごめんね」<br><br>LINEが帰ってきた。それは間違いなくセランからだった。<br><br>「忘れてしまったのかと思った」僕はそう送った。<br><br>「わすれるわけない」<br><br>僕はその一言に、ものすごく安心した。バスは程なくして新宿のバスターミナルに到着した。扉が開き、東京の乾いた空気が車内に入り込む。静かだった乗客たちは一気に動き出し、隣の初老の老人も手早く荷物をまとめだした。僕はセランに会えるという事実を胸に押し込め、どうにか高ぶる感情を抑えるのに精一杯だった。いつの間にか、乗客のほとんどは降りてしまい、車内は四人組の家族と僕だけになった。僕は急いで荷物をまとめてバスを降りた。<br><br>朝の新宿はとても綺麗で、裏手に回るとドコモのゴシック建築風のタワーが見えた。新海誠の映画を思い出す。僕は東京に来たのだ、来たのだ。<br><br>9<br><br>「東京駅でよかったよね？」<br><br>「そう。東京駅。今カフェにいるよ」<br><br>「待たせてごめんね。急ぐ。電車にも急いでもらうよ」<br><br>「予定より早くきたのは私だよ。急がないでいいし、電車さんにも急いでもらわなくていいよ笑」<br><br>僕の顔の紐はかなり緩んでいた。周りから見たらスマホを眺めてニヤニヤしている変な男に見えるに違いない。しかし、そんなことは、どうだってよかった。僕は今からセランと会うのだ。それ以外のことに気を使うほど気持ちの余裕はない。スマホのカメラを内側に切り替え自分の顔をひたすらに見る。美しいとはいえない造形をしていたが、不清潔には見えなかった。何度見ても顔は良くならないから、そんなことはやめろ、と自分に言いたかったが、やめられなかった。最適な表情を探した。<br><br>「何口に行けばいいかな」<br><br>「南口で待ってるよ」<br><br>「了解！」<br><br>僕は南口への行き方を検索する。どのサイトを見てもよくわからなかった。でもきっと行けるはずだ。いや、行けないと困る。電車は東京駅についた。<br><br>頭上に「南口」という表示を見つけて、それに従って歩いていく。周りには観光客やらサラリーマンがたくさんいたが、視界には殆ど入らなかった。<br><br>僕は南口についた。東京駅南口はフリークラシックの建築でとても美しい空間だった。僕は冷静にセランを探す。緊張は臨界点を超えると冷静になるらしい。<br><br>「どんな服？」メッセージが来る。<br><br>「レザーのコートに黒のズボンだよ」僕は答える。<br><br>セランの服装は聞いていなかったが、なんとなく雰囲気でわかった。僕は何人かそれらしい人を見つけた。全員に声をかけるわけにはいかない。僕は震える指で電話をかけた。<br><br>柱の陰で電話に出た人がいた。セランだ。僕の鼓動は最高速度に達し、視界は白み、指は大げさなまでに震えた。セランもこちらに気づいたみたいだ。彼女はこちらに向かって手を振った。僕もぎこちなく、振り返す。キム・セラン、その人だった。<br><br>セランは僕より少し背が低く、髪は綺麗な黒色のストレートで胸辺りまで伸びていた。フレアのブルージーンズから厚底スニーカーが顔を見せ、長い脚を強調した。そしてオーバーサイズのダウンを着ていた。左耳にきれいな円形のピアスが空いていた。地雷ファッションのような雰囲気を少し感じた。だが全ての要素が主張しすぎず、控えめすぎず完璧なバランスで、とても綺麗だった。<br><br>「笹塚です」<br><br>「栗原まことでしょ」<br><br>「バレてたか」<br><br>セランは優しく笑った。マスク越しだったから表情はわからなかったけど、笑っていることは何となくわかった。彼女は僕が思ったよりも美しく、僕が思ったよりも親しみやすく、思ったよりも素敵だった。<br><br>「はじめまして、キム・セランさん」<br><br>「なんでフルネームなの、電話みたいに呼んでよ」<br><br>「僕だって恥ずかしいんだよ」<br><br>セランが僕の横にいて、歩いているというだけで、僕はもう満足だった。<br><br>「待たせたかな」<br><br>「大丈夫だよ。待ってないよ」<br><br>「ありがとう」<br><br>僕はただそれだけで、感極まりそうだった。<br><br>「ねえ、どうしたの？ 大丈夫？」<br><br>「なんか、泣きそうだよ」<br><br>「それはちょっと困るかな。泣かないでよ」セランはずっと、朗らかだった。<br><br>「比喩だよ」<br><br>「ふふ、泣いてるところもちょっと見たいかも」<br><br>僕とセランは南口を出て、そのままどこへ行くでもなく一緒に歩きながら話した。<br><br>「そういえば朝ご飯は食べた？」<br><br>「僕はまだ食べてない、セランは？」<br><br>「私も食べてない。食べに行きたいね」<br><br>「純喫茶のモーニングとか行きたいかも」<br><br>「純喫茶いいね。東京にはたくさんあるよ。私、近くにおすすめのお店あるからそこ行かない？」<br><br>「行きたい」<br><br>「こっち」<br><br>セランは反対方向に歩いた。僕は彼女の後ろ姿を見ていた。間違いなく本物だった。足が進む度に、長い髪が左右に揺れる。彼女は歩みを止めて、振り返った。<br><br>「ねえ、置いてっちゃうよ」ちょっといじわるな発音で、彼女は言った。<br><br>「ごめん、待って」僕は彼女に駆け寄った。<br><br>セランは思っていたよりも、僕を導いてくれた。旧来的な価値観でいうならこういうのは男がちゃんとセッティングしておくべきだ。僕は少し申し訳無さを覚えた。<br><br>「ねえ、もしかして、自分がエスコートできなくて申し訳なくなったりしてない？」<br><br>「えぇ、なんでわかったの」<br><br>「これだけ話してきたらわかるものもあるよ。でも気にしないでいいからね、私はまことと行きたい所があるからやってるだけ。それに私が東京に少し早く来たから少しだけ詳しいってだけで、まことが申し訳無さを感じるところなんて何一つないからね。エスコートなんてどっちがしてもいいんだよ」<br><br>僕はなんだかまた泣きそうになった。僕は彼女の前ではすぐ泣きそうになる。<br><br>「ほんと、いつもありがとう」<br><br>セランは微笑んだ。目でわかった。セランの二重は笑うと一重になる。<br><br>純喫茶……そういえば、いつかの電話でセランはこう話していた。<br><br>「私ね、一つこれっていう趣味があって、喫茶店に文庫本一冊を持っていくのが好きなの。今日はこれを読むぞって決めた本を一冊選んで行くの。それでコーヒーを味わいながら、その本を読む。でね、喫茶店にはそれぞれ雰囲気というか、世界観があって、きっとこの本は、この喫茶店っていうのが、私の中で決まってるの。例えばカラマーゾフを読む時はあそこ、太宰の全集を読む時はあそこ、ボルヘスを読むならあそこかな、みたいな。そういうネットワークが頭の中で作られていくのが楽しい。十九歳で大阪から上京して以来、それが一つの趣味というかルーチンワークみたいになってる。喫茶店巡り、というと有り体だけど、楽しいんだ」<br><br>僕はそれを聞いて東京に憧れを抱いたし、何より彼女のその内面世界の豊かさに惹かれた。<br><br>「ねえ、今から行くところは何を読む喫茶店なの？」<br><br>「へえ、覚えててくれたんだ。嬉しい。……うーんとね、泉鏡花かな」彼女の歩くステップが少しだけ軽やかになった気がした。<br><br>僕達は東京駅を抜けて、その泉鏡花の喫茶店に向かった。十一月の東京駅の朝はとても綺麗だった。大きなキャリーバッグを持った外国人がバスを待っていたり、スーツを着たサラリーマンが休日だというのに急いで走っていたりした。そういうものを透いたオレンジの果汁みたいな朝陽が照らして、爽やかな風と共にどこかへ運んで行った。<br><br>「あれ、こっちで大丈夫かな」<br><br>セランがスマートフォンを見ながら、そう言った。<br><br>「うん。マップにはそう表示されてる。多分あってるよ」<br><br>どうやら僕達は多少回り道をしたみたいだったけれど、なんとか喫茶店までたどり着けた。喫茶店の扉を通ると、中はクラシックで落ち着いた雰囲気だった。僕達は地下の二人用の席に案内された。セランはすぐスマホを裏側にして自分の顔を確認した。彼女のスマートフォンは裏側がミラーになっていた。僕はそんなに気にしなくても君は美しいと言いたくなった。何も言えなかったが。<br><br>ほどなくして店員さんが水を持ってくる。僕はマスクを取ってそれを飲んだ。冷えた水は鉱物の味がした。セランはマスクを下から少しめくって水を飲んだ。しとやかな唇と控えめな顎が見えた。<br><br>僕達は相談した。何を頼もうか。その喫茶店で食事があるのはモーニングだけだった。しかし千四百円もした。僕が行く喫茶店は安い喫茶店ばかりで、そんな高い所には行ったことがなかった。<br><br>「あ、ちょっと高い」セランが言った。<br><br>「たしかに……パンが二つ付いてくるみたいだから二人で一つにする？」僕はそう提案してからケチ臭いな、と後悔した。<br><br>「そうだね。そうしよう。私達は今日たくさん遊ぶから、節約しないといけない。それに足りなければあとから頼んだらいいしね」<br><br>セランとは……相性がいい。僕達は店員さんを呼んで、モーニングをお願いした。<br><br>「以上ですか？」と店員さん。<br><br>「はい」僕達はそう言った。<br><br>「申し訳ありませんが、お客様一人さまにつき、お一つ以上注文していただくことになっておりまして……」店員さんは気まずそうにそう言った。<br><br>「あ、それなら何か注文しなきゃですね」モーニングについてくるティーはセランが選んだから、僕が何か選ぶということになった。<br><br>「えっと、僕はミルクティーでお願いします」<br><br>店員さんは了解しましたと言って、丁寧にメニューを持って歩いていった。<br><br>「ちょっと恥ずかしいな。慣れてるみたいな顔してたのに」セランは少し顔を赤らめて――実際にはマスクで隠れていたけれど、そう見えた――恥ずかしそうに言った。<br><br>「全然いいんだよ。案外気にするんだね」<br><br>セランは気にしていないような顔をして、案外気にしている。<br><br>「私のほうが歳上なのにね……」<br><br>「そんなこと気にしないで」僕はセランの年齢を気にしたことが一度もなかった。<br><br>セランは落ち着いたのかダウンジャケットを脱いだ。その下は半袖だった。<br><br>「寒くないの？」<br><br>「ダウンを着ていたら、寒くないんだよ。ダウンは暖かいから。それに室内は大抵、暖かいしね」セランは微笑んで、まるでそれが合理的かのように言った。<br><br>「そういうものなのかな」<br><br>「納得はしてないみたいだね」<br><br>僕は分厚いセーターを着ていた。僕は東京の人間ではなかった。<br><br>「それより、柄がいいね」<br><br>「でしょ。これ好きなんだ。でも、海外のよくわからない通販サイトで買ったんだよ。どこかのバンドのグッズらしいんだけど、そのバンドは聴いたことないんだよね。柄が好きで買っちゃった」<br><br>セランは少し恥ずかしそうにそう言った。Tシャツは小さめでy2kを感じるようなスタイルで、奈良美智の柄だった。奈良美智いいよね、と言おうと思ったがオタクっぽいかなと思い、控えた。僕は服を見るという言い訳を見つけて、じろじろと彼女を見た。控えめな乳房が小さな影を作り、薄い腰回りがそれを支えていた。全体的にボディーラインが強調されていた。だけれど、それは決して下品でエロティックなものではなく、むしろウィリアム・ブグローのヴィーナスを見るような――もちろん彼女は服を着ていたが――感覚だった。<br><br>しばらくして、サラダとサンドイッチとアールグレイとミルクティーが運ばれてきた。<br><br>僕は控えめに、そしてゆっくり食べた。できるだけ上品に見えるように。<br><br>「マスクの下にたまご、ちょっとついてるよ」僕はできるだけ優しく聞こえるようにそう言った。マスクを外さずに食べようとするから、セランのマスクの下は黄色く染まっていた。<br><br>「えっ」セランは恥ずかしそうにそう言った。<br><br>「マスク、取っても大丈夫だよ。僕は見た目で君を判断したりしないし、気にしないよ。本当に」というより、もう、美しいと思っている。<br><br>「わかってるよ。知ってる。だけど、ちょっと怖いんだ。ごめんね、多分私おかしいんだよ」<br><br>「別に取らなくて大丈夫だよ。とってもいいし、とらなくてもいい。ただ、たまごがついてるのはかわいいけどね」<br><br>「やめて、ほんとに恥ずかしい」<br><br>セランはほどなくしてマスクを取った。セランの顔には、控えめな鼻を中心に綺麗な目、丁寧な唇、アイロンの効いた前髪がバランスよく配置されていた。こう形容してしまうのは嫌だけれど、間違いなく美人だった。僕がいままで見てきたどんな人よりも。<br><br>「綺麗だ」僕は思わずそうつぶやいてしまった。<br><br>「ねえ、やめてよ。恥ずかしいから」セランは口角を上げてそう言った。<br><br>「私、お手洗いに行ってくる」セランはポーチを持って席を立った。<br><br>僕はいってらっしゃいと言った。<br><br>セランがトイレに行っている間、店内を見回した。セランが座っていたボックスシートの後ろにはガラスのケースがあり、食器のような工芸品がいくつも並べられていた。それにも見飽きた僕は周りの人の声に耳を傾けてみた。<br><br>マルチ商法と思わしき会話をする若い男女、高級であることを主張する為に作られたようなスーツを着た男二人組、ゴールドのネックレスをした若い男達、普段目にしない人が集まっていた。なんだか、石の裏にダンゴムシを見つけたような気分になった。<br><br>10<br><br>彼女はほどなくして帰ってきた。目の下のメイクと唇の潤い具合が少し変わったようだった。相変わらず美しかった。僕達はモーニングをゆっくり食べ終え、思いの外満腹になって、店を出た。そして山手線で上野の美術館へ向かった。そこではパウル・クレーの展示がなされていた。<br><br>「クレーの絵って一見すごく単純なんだけど、でもそれはすごく精巧で、かつその中にハーモニーのようなものが聴こえる気がするの」彼女が言った。<br><br>「わかる気がする、確か音楽一家だったよね」<br><br>絵の前で僕達は話していた。休日だったが人は少なかった。<br><br>「そう。しかもこの人、この絵をものすごく理詰めで書いてるのよ」<br><br>「造形思考って本が確かあったよね。バウハウス時代のクレーは狂ったように数式やらなんやらを使って絵を描いてたって」<br><br>「造形思考ねあれすごく難しいから読んでもあんまり変わらないよ。私は読んだけど頭に入らなかったから」彼女は笑ってそう言った。<br><br>「クレーがとっても好きって言っていたよね。君の絵もクレーに影響を受けているの？」<br><br>「え、私？ 私はパウル・クレーじゃないから、同じことをしてもしかたないけど、クレーの音楽的な絵画にはすごく興味がある。それに純粋抽象絵画を今描いても評価はされないしね」<br><br>「君が好きなら表現すればいいじゃないか。誰かなんて所詮他人さ。君の作品の一番大切な鑑賞者は君自身だと思う。君が自己を実現するために作品を作るべきだよ」<br><br>「そう簡単にはいかないのよ。あなたは皆にバカにされても絵を描ける？ それに、人間生きていくのにはお金も名誉も必要なの」<br><br>「あっ……ごめん。別に文句をつけたかったわけじゃなくて」<br><br>「わかってるよ。私もまことが正しいと思うよ」<br><br>「この世で、私を理解することなど決してできない。なぜなら私は、死者たちだけでなく、未だ生まれざる者たちとも一緒に住んでいるのだから」<br><br>「クレーの墓標だっけ。私もそうありたいな」<br><br>僕達はクレーの絵の変遷を見ていった。どれも個性的で異なる絵柄の絵だったが、確かにクレーの作品だとわかる魅力があった。セランは一つの絵をすごくじっくりと観た。僕は大抵、人と美術館へ行くとき相手を待たせてしまうから、その意味で僕達は相性がよかった。<br><br>11<br><br>僕達は美術館を出た。上野公園のイチョウ並木が美しく、コンクリートの上からビルほどの高さまで黄金色の世界が広がっていた。僕達は少し公園を散歩してから、近くのカラオケに入った。カラオケの内装は安っぽく、いかにもハリボテという感じだった。ピアスをして安っぽいブリーチをした、感じの悪い若者がたくさんいて、店内は何よりうるさかった。普段の僕ならノイズキャンセリングのヘッドホンをして、すぐに逃げてしまうような場所だったけれど、今日は違う。セランがいるのだ。僕はドリンクバーでペプシコーラを、セランはほうじ茶を、コップに入れた。彼女はカラオケでドレスコーズやthe pillows、スピッツを歌った。彼女の歌声は透き通ったように透明で、美しかった。息継ぎのポイントを間違えて歌えなくなってむせた彼女を抱きしめたかった。<br><br>彼女の歌唱に比べて、僕は音痴だったから歌うのが恥ずかしかった。それでもNirvanaやRadiohead、ビートルズ、syrup16g、ART-SCHOOLを歌った。僕が執拗に自分を音痴だと言うから、むしろ彼女に気を使わせてしまったような気がする。僕がマイクを握っているとき、彼女はリズムを取って僕の顔を見てくれた。アーティスト気分にさせてくれた。<br><br>彼女が歌った歌は僕にとって、彼女の歌になった。僕は頭の中で、彼女が歌った曲をメモした。ちょうど好きなアーティストのライブのセットリストを覚えるように。僕達はフロントから電話が来るまで交互に歌い続けた。合計で十数曲を歌い、僕達はカラオケを後にした。<br><br>「次はどこへ行こうか」ほんの少しだけ枯れた声で、彼女が言った。<br><br>「古着見に行こうよ」僕は違う服を着た彼女を見てみたかった。<br><br>「いいね。原宿行こ。いくつかいいとこ知ってるよ」<br><br>「行こう！」<br><br>僕達は山手線に乗った。駅は埃っぽく、人の渦が巻いていた。電車は混んでいるわけでもなく、空いているわけでもなく、一人分の席がいくつか空いていた。僕達はつり革を掴んだ。<br><br>「あのっ、よければどうぞ」三十代前半くらいのお姉さんがそう言って隣に移動してくれた。彼女が移動してくれたおかげで二人分の席が空いた。<br><br>「「ありがとうございます」」<br><br>僕達は彼女に感謝して、隣同士に座った。カップルだと思われたのだろうか。電車の窓から見える景色は、いつもとカラーバランスが違っていて、まるで岩井俊二の映画を見ているようだった。足元からの暖房が暖かかった。<br><br>「ねえ、手を繋いでもいい？」僕は思わずそう言ってしまった。<br><br>彼女は黙って僕の左手の小指に触れた。僕はぎゅっと彼女の手を握った。少し冷たい指だった。綺麗な指と、整った爪だった。それから原宿に着くまでの間、僕達はずっと黙って手を握っていた。<br><br>原宿は例に漏れず大量の人がいた。露出の多い服を着た外国人、派手な服の若者たち、観光客と思われる家族連れ。僕は頭痛がしてきた。<br><br>「ごめん。ちょっとドラッグストアに寄っていっていい？」<br><br>「もちろん。大丈夫なの？」<br><br>「ちょっと頭が痛くて」<br><br>幸いドラッグストアは駅前にあった。僕は頭痛薬を買い、自販機で買った水で流し込んだ。<br><br>「ありがとう。おまたせ」<br><br>「気にしないでいいんだよ。それよりまことが心配」<br><br>「僕は大丈夫。楽しもうよ」<br><br>僕達は目当ての古着屋に向かった。そこは裏路地にあるようだった。だが、やっと見つけた古着屋は閉まっていた。彼女はとても残念がった。<br><br>「ねえ、プリクラとか撮ってみない？」プリクラなんて撮る気はなかった。<br><br>「いいね！ 私、まことと撮りたかった」彼女はそう言った。<br><br>気のせいかもしれないが、彼女は少し元気を取り戻したようだった。僕達は地下のプリクラエリアに入って彼女が言うままにプリクラ機を選んだ。その階は女性ばかりで、男性は僕を除いて一人もいなかった。プリクラ機に入って、彼女はいくつかのかわいいポーズをとった。僕は見よう見まねで同じポーズをとった。写真を確認し、加工するエリアで彼女は言った。<br><br>「まことのポーズ、変だよ」<br><br>「セランの真似をしたんだ。それにプリクラなんか滅多に撮らない」<br><br>「まあ、かわいいからそれでいい」彼女はそう言って微笑んだ。僕はもう、それで、よかった。<br><br>僕達は時間をかけて、お互いの名前や、ハートマークをペンで写真に書き込み、そしてその写真がプリントされた。<br><br>彼女はそれを手早くスマホケースの裏に挟んだ。僕はそれを見てとても嬉しくなった。僕もスマホケースに彼女との写真を入れた。<br><br>12<br><br>いつの間にか時間は十五時を過ぎていた。僕達は食事にしようということになった。<br><br>「私、いいカレー屋さんを知ってるの。下北沢なんだけど、行かない？」<br><br>「行こう。君が言うならきっといいところだよ」<br><br>僕達は新宿まで行ってそこで小田急線に乗り換えた。セランはつかれたようで僕にもたれかかった。眠れる森の美女がいたら、きっとこんな顔をするんだろうという寝顔だった。僕はセランの重みと手の暖かさを感じた。季節はほとんど冬だったけれど、間違いなくこの瞬間、小田急線のこの車内だけは春だった。セランはどことなく春を想起させる。僕が春生まれだからだろうか。あれこれ考える暇もなく、電車は下北沢についた。<br><br>「セラン、降りるよ」僕は彼女の肩に触れてそう言った。<br><br>「わっ、もう？ 早いね」彼女は眠りから覚めた。キスは必要なかった。<br><br>僕達は改札を出て下北沢に到着した。駅前の広場は工事中で、それでいて、いかにも下北沢という感じだった。僕達は少し歩いて、カレー屋さんに到着した。薄暗い純喫茶のような雰囲気のカレー屋さんだった。出てきたカレーはとても濃厚で、アボガドにトマト、ピーマンなどたくさんの具材がふんだんに使われていた。今まで食べたカレーの中で一番美味しかった。僕達は食べている間、ほとんど無言だった。<br><br>「美味しい」僕が沈黙を破った。<br><br>「……」彼女は口を一杯にして、何か言おうとして、やめた。<br><br>「ゆっくりでいいよ」<br><br>「……でしょ！ ここすごく美味しいんだ。何より濃厚」彼女は手で口を隠してそう言った。<br><br>「インドカレーとも違って、日本っぽいカレーなんだよね。それでこの完成度！ この味は他の店ではないと思う」<br><br>「まちがいないよ」<br><br>「僕のお母さんが昔よく作っていたカレーに似てる」<br><br>「いいね。そういう思い出。今は作ってもらわないの？」セランに言われて、しまった と僕は思った。<br><br>「あ、いや、あの、僕、親死んでるんだよね」できるだけ軽く聞こえるようにそういった。<br><br>「えっ」しかし、彼女は予想通りの反応をした。<br><br>「ごめん。気にしないで。全然、もう僕の中では解決してるからさ」<br><br>「なんか、その、ごめんね」僕はその後、どうにか明るく振る舞って、彼女をもとに戻すのに苦労した。君を暗い気持ちにさせることをわかっていたから、今までこのことは話してこなかった。だけれど、セランにはいつか言わなければいけないと思っていた。<br><br>僕達はそのカレー屋を出て、原宿で回れなかった分まで古着屋を回った。僕はギャルソンのロンTとsacaiのニットを買った。彼女はどこか僕の知らないブランドのジャケットを買った。お互い満足したが、僕はなぜか急に気分が悪くなってきた。まるで何かが落ちてきたかのような、そんな気持ち悪さだった。彼女が服を見ている間、僕は店の外で俯いていた。水を飲んで、どうにか体調を整えようとしたが、一向に良くならなかった。<br><br>「これは、不味いぞ」そうつぶやいた。<br><br>せっかくのデートを台無しにするわけには行かない。ほどなくして彼女からメッセージが届いた。<br><br>「今、体調がどうしても悪くて試着室で蹲っている」<br><br>「ゆっくりでいいから。待ってるよ。出られたら、どこか休める喫茶店でも探そう」<br><br>僕達は同時に体調が悪くなったみたいだった。五分ほどして、彼女が店から出てきた。僕達はしばらく歩いたが休めそうな喫茶店は見つからなかった。結局、近くにあった花壇の縁に僕達は座った。風がよく通るところで、寒かった。太陽は陰り、雲が重たくなっていた。人通りは多かったが、僕達だけはまるで世界から隔離されているようだった。<br><br>彼女はとにかく不安そうだった。何かに怯えているような、そんな感じだった。僕は医者からもらった抑うつ状態が強い時のための頓服薬を彼女と分け合った。本来やってはいけないことだと知っていたが、それが最善に思えた。同じペットボトルで同じ薬を飲み込んだ。<br><br>「どうする？ もう一度どこか喫茶店を探して、そこでライブまで休もうか？」セランが言った。<br><br>「いや、せっかく計画したんだ。僕はセランといろんな景色をできるだけたくさん見たい。喫茶店も、悪くはないけど、銀座に行く計画だったはずだから、銀座にしよう」<br><br>銀座には僕達が好きなブランドの旗艦店があった。前々からセランは僕よりも、その店に行きたがっていた。僕達は銀座へ行くことにした。下北沢駅の改札を通る時に、ずっと繋いでいた手は離れた。彼女は神妙な面持ちをしていた。<br><br>「あのね、話さなきゃいけないことがあるの」<br><br>「話さなきゃいけないこと？」<br><br>「……うん」<br><br>僕は何か言おうとしたが、言えなかった。話さなければいけないこと？ 急激に不安の濁流に飲まれた。なんだ？ 話さなければいけないこと。僕はそれについてあらゆる方向に思考を張り巡らせた。でも、それが良いことではないのは直感的に明らかだった。車窓を見る余裕もなく自分の革靴の傷跡を見つめていた。彼女が体調を崩したのも、何か関係があるのだろうか。体調が加速度的に悪化していくのがわかる。<br><br>電車を乗り換えてしばらくして、銀座についた。夜、銀座の空気は冷ややかだった。ブランドのライトが神々しいまでに輝き、自らの価値を主張している。その光がアジア人観光客の家族連れに反射している。僕達はコム・デ・ギャルソンの旗艦店に行こうとしていた。だけれど、僕の思考は全て「話さなきゃいけないこと」に集中されていて、彼女の歩みについていくのがやっとだった。<br><br>ギャルソンのビルに到着し、彼女と一緒に店内を巡った。まるで美術館のようで美しかった。でも僕の精神はそのことに集中されていて、見る余裕はなかった。彼女は楽しそうに、服を見て、「これかわいいね」などと言った。僕は「うん」とどうにか返事をしただけだった。ギャルソンのビルを全て見終わったあと、彼女が好きなブランドのショップへ移動した。僕はそれについていける精神状態ではなかったから「外で待っているよ」と言った。<br><br>「いいの？ どこか休めるところに行く？」彼女は言った。<br><br>「いや、いいよ。楽しみにしてたんでしょ。行ってきて。僕は待っているから。心配しないで」<br><br>「さっきから様子がおかしいよ。やっぱり一緒にいたほうがいいと思う」<br><br>「いいから、行ってきなよ」僕は少し語気を強めた。一人になりたかったんだと思う。<br><br>彼女は心配そうに「早めに帰るからね」と言った。彼女の姿が見えなくなってから、僕はうずくまり、考えた。一体何が起こっているんだ。悪寒のような感覚が全てを支配していた。うずくまる僕を観光客はまるで存在しないかのように無視して通っていった。僕は彼らの靴を見ていた。鼓動が早まり、息を深く吸えなくなっていく「はっはっ」と僕は喘ぐ。どうにかして身体が空気を取り入れようとして、逆に失敗する。死ぬかもしれない、そう感じた。視界が点滅しだしたところで、彼女が帰ってきた。<br><br>「ねえ、やっぱりおかしいよ。顔色もすごく悪い。本当に大丈夫？ 病院行こうか？」<br><br>彼女が帰ってきて、僕の症状は少し落ち着いた。<br><br>「大丈夫。それよりも早くライブに行かなきゃ遅れてしまう」<br><br>そして僕達はライブ会場へ行くために、駅に向かって歩き出した。<br><br>「ライブは次もある。まことの身体は一つしかない。病院に行ったほうがいいならちゃんとそう言ってよ？」<br><br>「本当に大丈夫だから。今、大丈夫になった」<br><br>僕は駅に向かって歩き出した。<br><br>13<br><br>「言わなきゃいけないことっていうのはね」彼女はとてもナチュラルにそう言った。僕は身構える暇もなかった。<br><br>「私、彼氏がいるの」まるで予感していたかのように訪れたそのナイフが僕に突き刺さった。銀座の街は氷のようで、道行く人々がコンクリートに見えた。限りなく永遠に近い時間が流れたように感じる。一瞬が永遠のように引き延ばされて、僕の目の前を灰色にする。<br><br>「だから手はもう繋げない、その人に悪いから」彼女はそう言った。それがどんな響きだったかわからない。僕はできるだけ平静を装って「ああ、そっか、」と言った。それが限界だった。発声できる最大限の言葉がそれだった。「それだけ」彼女は言った。歩く速度が段々と早くなっていく。困惑が加速していく。もう事実は確定されているはずなのに。<br><br>僕の世界は狂ってしまった。天と地が覆ってしまったような感覚になる。真っすぐ歩けなくなり、人にぶつかる。でも誰も何も言わない。僕はただ駅に向かって歩く。<br><br>「ねえ、本当に大丈夫？」彼女が心配そうに言う。僕は声を出そうとして、言葉が出てこないことを思い出した。そしてどうにか頭を上下に動かして頷いた。<br><br>地下への階段が丸の内線のマークを貼り付けて機械的に光っている。階段を一段一段降りていく。足を動かすだけで意識の余白が埋まってしまう。彼女を失ってしまった、いや、初めから手に入れてなどいなかったというその現実を眼前に僕はただ歩くことしかできなかった。絢爛たる銀座駅の光は吐き気を誘う。僕はどうにか平穏を装い「丸の内線というのは、ここであっているかな」と彼女の方向に声のみを送ってみる。頭を向けることはできなかった。<br><br>「あってると思うよ」彼女はそう言った。僕は改札を抜けてホームにたどり着いた。<br><br>限界まで冷やされた水が触れるだけで凍ってしまう過冷却のように痛みと悲しみと苦しみが僕の腹を突き破る。血液がだらだらと漏れ出し、痛みがどんどんと蓄積していく。彼女の顔を見られない。電車のアナウンスが鳴り響き、それが鼓膜にべっとりと付着する。<br><br>僕はホームに降りてしまおう、と思う。それが正しい事なのか判断することはできなかった。目の前にあと数歩、踏み出せば現実が停止する事だけが確かだった。僕は軽やかに、自然に、一歩を踏み出した。<br><br>「ねえ！ 何してるの！？」セランさんはそう言って、僕の服の裾をつかんだ。僕は振り返って彼女の目を見てしまった。その目は相変わらず美しく、そして潤んでいた。僕は地獄からでも彼女の涙を見たくなかった。血塗れになった僕の破片を彼女の瞳に映したくなかった。<br><br>「ごめん。少し」と言いかけて、電車が僕の前を、汽笛と、大量の風と共に通り抜けた。前髪が乱暴に視界をゆれて、涙が彼女の美しい顔を歪めた。僕は涙を見せまいとすぐに前を向きなおした。電車のドアが開き、人が濁流のように流れ出る。僕は足を進めた。しかし人の流れに流されて真っすぐに進めない。どうにか電車には乗れたが彼女を見失ってしまった。彼女も僕を見失った。<br><br>僕はどうにか満員電車の中座れる席を見つけて、座った。感情が言葉として認識され得る前に漏れ出して、僕はそれに触れることができなかった。自分が何を考えているのかわからなかった。震える指をどうにか抑えてLINEを開き、人を探す。誰かの声が必要だった。<br><br>そうだ、あの人がいる。僕は少し前に知り合った人に電話をかける。呼び出し音が二十秒ほど流れてその女の声が聞こえる。<br><br>「もしもし？ 笹塚くん？」<br><br>何度か電話をした人の声だった。人の声が聞こえるだけで僕はとても安心した。<br><br>「いきなりごめんね。ただ、どうしても声が聞きたかったんだ」<br><br>「ねえ、大丈夫？ 声、おかしいよ」<br><br>確かに僕の声は異常に震えていた。車内だから震えをごまかせるほど大きな声も出せなかった。僕は何が起きたか説明することもできず、ただその人に今日あったこと、朝ご飯、何時に起きたか、そういうどうでもいい質問を投げかけた。僕はそれを涙を流して嗚咽しながら聞いた。その人は困惑しながらも、それが僕にとって応急措置になるということを察していたのか、不安げに話しを続けた。はっきり言って僕はそれにすごく助かった。<br><br>電話を終えてLINEを見てみるとセランさんから不在着信といくつかのメッセージが入っていた。僕はその時点で彼女とどう接したらいいのかわからなくなっていた。目的地へ行くには電車の乗り換えが必要らしく、そのメッセージと、どこにいるのか？というメッセージだった。僕は「了解」と送った。<br><br>僕ともう一人の女性は乗り換えをした。新しい車両では席がすべて埋まっていた。僕達はお互いに喋ることもできず、ただ立ち尽くしていた。それでも電車は進み、駅についた。<br><br>「降りるよ」<br><br>彼女はほとんど形式的にそう言った。僕はそれに無言でついて行った。改札を抜けると、外はすっかり夜の帳を下ろしていた。郊外と都心の境目のような街でコピー&amp;ペーストしたようなロータリーだった。マップアプリでライブハウスへ案内を開始する。僕は、知らない街を歩いていく。<br><br>繁華街を通り抜けた。彼女はライブ会場まであと数百メートルというところでこう言った。<br><br>「ごめん。お腹が痛くなってきた」<br><br>「大丈夫？」<br><br>「いや、ちょっと、まずいかも。ごめん」彼女はそう言うと踵を返し、足早に反対方向へ歩き出した。僕は殆ど声にもならない声で言った。<br><br>「ちょっと待って、」<br><br>だけれど彼女は歩みを止めなかった。この時の僕は何もできなかった。ただ街の人の渦に飲まれて消えていく彼女を眺める事しかできなかった。感情の処理量を超えていた。<br><br>そのあと僕は一人でライブハウスに行った。ライブの出来は素晴らしく、感動的だった。大好きな、眠れない夜に救ってくれた曲たちが生演奏されていくのは感嘆せざるを得なかった。でも、正直に言って僕は何も感じられなかった。ライブが終わり、耳鳴りがするまま夜の街に出て、予約していたホテルに向かった。彼女はなぜ言ってくれなかったのだろう。やっと事実に対して解釈をする余裕が生まれた。でもその頃にはもう遅かった。駅の階段を降りて地下のホームまで行く。電車はすぐにやってきた。終電間際のこの時間、電車は空いていた。<br><br>彼女から「ごめんね」と一通来ていたが、僕は返事をできなかった。代わりに涙が溢れ出し黒のズボンに染みを作った。電車が新宿三丁目につくまでひたすら泣き続けた。今日は、人生で最高の一日になるはずだったのに、そして実際途中までは人生で一番の一日だったのに、全てが崩れた。彼女は今頃どこにいるのだろう、そんなことを考えても、あの日々は二度と戻らない。ひたすらに悲痛を嘆いた。こんなにも痛いのは人生で初めてだ。電車は新宿三丁目についた。このまま電車に残っていようとも思ったけど、もう面倒は勘弁だった。早く意識をシャットアウトしたかった。僕は電車を降りて、ホテルの方向へ歩く。ホテルに向かうまでの、人気のない通りにドラッグストアがあった。<br><br>僕はそこで咳止め薬を二箱とグレープフルーツのゼリーを買った。三五○○円ほどした。十一月最後の夜はとても冷たかった。ホテルについて手早くチェックインを済ます。<br><br>「こちらにお名前と電話番号と……」<br><br>綺麗に整ったスーツを着用したホテルマンの男が言った。その言葉は事務的で僕の身体を通り抜けていった。僕は出された書類に個人情報を書いていき、書類を提出した。<br><br>「……お客様、お客様。体調がすぐれないようでしたら病院を紹介できますよ」<br><br>ホテルマンがこちらの目を見てそう言う。僕は俯いて視線をそらす。<br><br>「ぁあ、すみません。大丈夫です。ただ、少し、疲れていただけです」<br><br>僕はその言葉をひねり出した。鍵を貰い、部屋まで急ぐ。部屋について、驚く。トイレも風呂もなかった。ユニットバスではないと聞いていたが、まさかそれが存在しないという意味だとは思わなかった。普段なら不機嫌になることができたが、今は怒りすら湧かなかった。<br><br>椅子に座り、買ってきた咳止め薬を二箱開封して、一錠一錠左手に取り出す。水を口に含んで、左手を勢いよく口に押し当てる。服を着たままベッドに横になり、電気を消す。スマホには23:55の表示。彼女は今頃どこにいるのだろうか。何もわからなかった。そして知りたくもなかった。もう、僕の頭は今日の使用量限界を使い果たしていた。限界だ。薬の効果が現れる前に気づいたら寝ていた。夢は見なかった。<br><br>翌朝が来た。窓から飛んでしまいたかったが、格子がそれを邪魔した。先回りされていた。僕はほとんど抜け殻のように顔を洗い、チェックアウトを済ませた。服は着替えなかった。見せる相手はもはや誰もいないのだ。<br><br>そのまま駅まで向かい、新宿まで東京メトロに乗った。新宿駅南口を出ると目の前にはバスターミナルがあった。新宿のバスターミナルは広く、複雑だった。予約したバスは午後の六時だったけれど、この街に行きたい場所など、もはやどこにもなかった。僕はここではないどこかへ行きたかった。チケット売り場の退屈そうな顔をしたスタッフに、今すぐに乗れるバスはないかと質問した。スタッフのおばさんは少しだけ驚いたような顔をした後、時刻表を調べてくれた。<br><br>「ここなら五分後に出発するバスがありますよ」<br><br>彼女は僕の知らない地名を読み上げた。僕はそれに了承して四二〇〇円を現金で支払った。<br><br>「三番乗り場です。急いでくださいね」おばさんはそう言った。礼を告げて、三番乗り場に急いだ。<br><br>三番乗り場には大きく、高級そうなバスが停まっていた。制服を着た背の低い運転手がチケットを回収していた。彼に声を掛けると、彼はチケットを半分にちぎって、関心のない声で「どうぞ」と小さく言った。僕はバスに乗り込んで座席を探した。隣には太った女性が座っていて、窓側に移動するのに苦労した。席につくと短いアナウンスの後、バスは動き出した。機械的な女性のアナウンスが行先を告げる。<br><br>「走行中、事故防止のためやむを得ず急停車する場合がございます。十分ご注意ください。この先高速道路を走行しますのでシートベルトの着用にご協力をお願いします。また、車内は禁煙ですので、おタバコはご遠慮ください」<br><br>その声は騒音と同化して耳にノイズとして入ってくる。窓の外ではマクラーレンが逆方向に走っていった。<br><br>14<br><br>僕は考えなければいけなかった。いや、考えざるを得なかった。どうしてこんなことになったのか。なぜ彼女に選ばれなかったのか。それは僕がどうにかできる事象の範疇を超えているような気がした。けれど、考えないわけにはいかなかった。なぜ僕は捨てられた？ なぜ僕は一番になれなかった？<br><br>そもそも彼女はどうして僕にメールを送ったのだろうか。文面を思い出す。確かシンパシーがなんとかと言っていたような気がする。クーポンに埋もれた、あの人からのメールを探すべきだったが、ストレスが大きすぎて死んでしまいそうな気がして諦めた。シンパシー、つまり同類を見つけられたと思ったのだろうか。確かいつか電話した時にあなたの文章を読むと独りじゃないと思える、そう言っていた。僕の不幸や苦痛に共感したというのだろうか。きっとそうだろう。<br><br>でも、僕達は三ヶ月以上も話してきた。その間、僕は、いわば文章生成機械としての、つまり笹塚ではなく、栗原として彼女と接してきたはずだった。その時間は無駄になったのだろうか。栗原という「僕」は彼女に必要なかったのだろうか。彼女は一体僕に何を求めていたのか、わからなくなってくる。でも、それを理解しないことには僕は彼女を失った理由もわからない。僕は絶望的な気持ちになってくる。そして何より涙で視界がぐにゃぐにゃと変形してとてつもなく鬱陶しい。惨めな気持ちは加速していく。<br><br>さっきコンビニで買ったばかりのアップルジュースとサンドイッチとおにぎり二つをバッグから出して机に並べてみる。お腹は空いていなかったし、特に意味のある行動でもなかった。でも何もしないでいることはできなかった。バッグには一泊二日の荷物がたくさん入っている。洗顔剤や化粧水のセット、一週間悩み抜いた服、綺麗に折り畳まれた下着……全部無駄になった。弄っているとやや大きな文庫本が見つかった。少し困惑したが、それは白水Uブックスのサイズで、僕が持ち歩くほど好きな白水Uブックスは一冊しかなかった。適当なページを開くと、見覚えのあるセリフが並んでいる。僕はこの小説をくたびれるほど読み返していた。<br><br>そう考えたら、今の僕は、行き先も知らないバスに乗って逃避する感じが、少し『ライ麦』っぽい、などと思ってみる。ホールデンが女友達に電話をかけるシーンを読んでいると、段々と、なぜか、彼女の面影が差し迫ってきて読むのをやめた。<br><br>誰かに連絡するつもりもなかったし、第一こんな話、誰に説明してもバカにされるだけだろう。僕は彼女のことを思い出す。彼氏がいたのか。僕はそれ自体にショックを覚えたというより、彼女がそれを隠していたことに著しい侮辱を感じた。僕は一体彼女の何だったんだ？ 僕は嘘をついてもいいような相手だったのか？ それとも君のいう大好きはその程度の意味しかなかったの？ 僕は君の大切じゃなかった。僕は君に大切なことを教えてもらったんだ。前に進む方法は押すだけじゃないって。あのゴミみたいなブログで、君と出会えたんだ。それだけで僕の過去はすべて救われたんだ。僕は前に進めたんだ。ああ！！ セランさん！！！！！ もう一度、もう一度、もう一度！！！！ 助けて！！<br><br>「うぅ」<br><br>声が漏れ出してしまった。苦しい。何より悲しくなった。<br><br>『若きウェルテルの悩み』を思い出した。僕の人生にロッテがいるなら、間違いなく彼女だろう。僕は今この喪失と恋慕をウェルテルのように、どこに捨てればいいかわからなくなっている。ウェルテルが自死を選んだのは彼女を愛することを許されなかったからだ。自殺かぁ。僕が死んだところで、ただ彼女を傷つけて終わりだろう。そんなことはしたくない。彼女には幸せでいてほしい。僕は死という現実逃避を許されていない。<br><br>そういえばドストエフスキーの短編にも似た話があったな、と連想的に思い出す。たしか『白夜』というタイトルだった。その小説は自殺しないウェルテル、僕にはそう読めた。セランは僕にとって秋の夜に現れた天使だった。僕は彼女と話す間、ずっと幸福を感じたし、失った今でも彼女との日々だけがあたたかく輝いている。<br><br>器用に思い出すことはできないけれど、新古今和歌集にもそういう歌があった気がする。僕がしたような喪失は何千年も前から繰り返されているのだろうか。<br><br>でも、酷いじゃないか。こんなの。酷いと思う。もう少しマシなやり方があったはずだ。「ごめん」なんていらないから、もう一度会いたい。僕の思いは結局その四文字に行き着いた。彼女にもう一度会いたい。そして、どうなっているのか、聞きたい。何が起きているのか、何を思ったのか。全部聞きたい。何も話せないかもしれないけど、会いたい。でも、君はもうそれを望まないだろう。僕は君を失望させてしまったのかな。ああ、そうだろう。そうなんだろう？ 謝りたい。謝って何かが変わるなら、いくらでも喉が枯れるまで謝ってやるさ。でも、きっとこれはそう単純な問題じゃない。そうなんだろう？ <br><br>僕は彼女に執着するつもりもない。彼女が嫌というなら今すぐにでも忘れてやる。無理だってわかっているさ。でもその時が来たら、脳を焼き切って、脳細胞を全部殺してやる……はぁ、僕はどうしたらいいんだ。<br><br>焦燥感にも似たその不安を、どう扱っていいかわからなくなった。ただ猛烈にエネルギーがふつふつと煮え立つだけだった。<br><br>「どうしたらいい？」<br><br>僕は小さな声でそう呟く。誰にも聞こえないくらい小さな声で。<br><br>「今までどうしてきた？」<br><br>僕はひとまず有線イヤホンを耳に突き刺してSpotifyで月間リスナー3670人のバンドを聴く。宅録の安っぽいギターとくだらない歌詞が今はとてもあたたかく感じる。なんとなくバッグからキーボード付きのiPadを出す。そうだ、僕にはこれがあった。文章を書いて、いつも最悪を乗り越えてきたじゃないか。<br><br>旧友と数十年ぶりの再会を果たしたような気分になる。そして文字を画面に打ち込む。指は震えたが、文字は次々に脳から溢れてきた。まるでこれまで準備してきたかのように文字数が増えていく。<br><br><br>11月31日の手記<br><br>もう一度だけでいいんだ。最後に、もう一度だけ、君の顔を見たい。君の手を握りたい。君の目の透明さを、もう一度だけ見たいんだ。<br><br>でも、それは、もうどこまでも遠い夢で、君は、どこにだっていないんだ。ぼくの世界に君はいてくれない。ああ、何してるんだろうな。君は何を考えているの？ 君はどうして僕の前から消えてしまったんだ。今、笑ってるのかな。ぼくの大好きだった君はもう死んだのかな。今、笑っているの？ ねえ、今どんな気持ちで生きているの？ きっと、笑っているんだろうね。君はきっと幸せになる。でも、幸せな君なんて君じゃない。君はいつでも死にたがっていて、布団から出れなくて、天井を眺めているんだ。あの頃のぼくみたいに。ぼくは君を通してぼくすらも愛せていたんだ。<br><br>それなのにさ、なんであんなに唐突に、あんなに乱暴に、あんなに冷たいやり方でぼくを見捨てるんだよ。もっと方法があったんじゃないの？ もう少し優しくしてくれてもよかったんじゃないのかな。君は酷いよ。君は酷い。酷すぎる。ぼくは失恋ソングすら聞けないんだ。マイ・プライベート・アイダホの主人公みたいだなと思う。最悪なんだ。ぼくは君の恋人ですらなかった。ぼくは高速道路で横になるしか、もうやることがないんだ。君は大学で楽しくやるのだろうね。いいんだ。ぼくのことなんてさっさと忘れればいいさ。ぼくは永遠に君の亡霊を追いかけ続ける。もう死んでしまった君を追いかけ続ける。君はもういないのに。あの頃の、君はもういないんだ、きっと。死んでしまったんだ。さよなら、ぼくが初めて全てを見せた人、ぼくの希死念慮すら受け入れてくれた人、初めてぼくに優しくしてくれた人、初めて受け入れてくれた人。さよなら、大好きで大切だった人。君がいてくれて初めてぼくは、ぼくになったんだ。君がいなかったら、ぼくは今頃ぼくじゃなかった。君につけられた傷跡はまだかさぶたにすらなってくれない。今も痛々しく血のような涙を流し続けている。ぼくが生き続ける限りそれは止まらない。君のせいでぼくはもう、孤独に戻れなくなった。君がすくい上げてくれたから、ぼくはもう優しくて白痴で単純な孤独ってやつに戻れなくなってしまったんだ。涙は少ししょっぱいよ。君もこの味を知っているのかな。<br><br>頼むから、もう、他には何も望めないから、頼むから幸せにならないで。笑わないで。現実に絶望していて。十七時に起きて。あの頃を思い出して。絶対に忘れないで。きみはぼくだったんだ。ぼくは君だった。自分を亡くしたんだ。君のせいで僕は僕を殺してしまった。君の前でしか許されない僕が、生まれてしまったんだ。そいつを今、どうしたらいい？ 君の代わりなんてどこにもいないのに。<br><br>ぼくはこうやってずっと君の代わりを探そうとするのかな。でも、君以上の素晴らしい人なんてこの世界にはいないんだよ。僕の人生には、少なくともいないんだよ。ああ、多分初恋だった。恋なんて、わからないけど、でも初めて全てを曝け出してもいいと思える相手を見つけたんだ。初めてこの人とならずっと一緒にいたいと思えたんだ。君が怖い。変わっていく君が怖い。ねえ、ずっとあの頃のままでいて。頼むから、頼むから、あの頃のままでいて。変わらないで。ぼくのことなんて忘れていいから、君は君でいて。君が君じゃなくなってしまったら、僕はもう耐えられないよ。遠くで死にたがっていて。天井を眺めていて。ごめんね。こんな呪いをかけてしまって。かからないだろうけど、呪うよ。君はどうせ僕のことなんて忘れているんだろう。君はこれを読まないし、君はぼくのことなんて、忘れてしまうんだろう。<br><br>永遠に唯一人、君だけが輝いているよ。これからぼくがどんな人と付き合っても、例え結婚したとしても君の輝きは超えないよ。最初で最後の、大切な人。君がもし画家になったら、その絵を一億円でも買ってやる。君がもし漫画家になったら、その漫画を百冊は買うよ。そしてそれ全部をぼろぼろになるまで読むよ。だからぼくがもし本を出したら、表紙だけでも見ていってね。君は永遠にぼくの光のままだし、大切のままだから。決してそれを忘れないでね。まあ伝わらないからこんなことしたって意味なんて無いのだけれど。でも行き場のないこの感情は、宛名のない手紙を書くことでしか捨てられないんだよ。ごめんね。君を媒介にしてぼくはただ自分を書き写したいだけかもしれない。ごめんね。でも、大好きだよ。だからさ、死にたくなったら電話してね。飛び降りるなら、その前に電話してね。すぐに飛んでいくから。君の住所は知ってるから。少しだけ待っていてね。すぐに駆けつけるから。そしてぼくが殺してあげるから。<br><br><br>15<br><br>バスは細やかな道を縫うように抜けていき、気づくとあっという間に高速道路に入っていた。独白に一区切りついたところで、僕は流す音楽をMy bloody valentineに変えて、外を見た。最初は騒音対策のガードレールのようなものしか見えず、退屈な景色だったけれど、だんだんと街が見えるようになってきた。変わり映えしない住宅街と、遠くに薄く屹立するビル群、場違いな高さを誇るマンション、たくさんのものが流れていく。落ち着いてきた。ゆっくりと悲しさが滲んでくるが、暴れるような衝動は落ち着いた。<br><br>彼女はどこにいるのだろう。きっと上野のどこかのアパートで、寝ている。そんな気がした。疲れきって、まだ眠っている。僕はできるだけ詳細に彼女のことを思い出そうとした。彼女の着ている服の素材、バッグの革がフェイクか本物か、ピアスの値段、そういったものを一つ一つ考えていった。そうしているといつのまにか眠っていた。<br><br>目が覚めると、バスはどこかのターミナルに着いたようだった。どうやら終着駅らしく、客たちがガサゴソと荷物を取って外へ急いでいる。隣には誰もいなかった。僕は特に急ぐ予定もなかったが、流れに身を任せてリュックサックを上の戸棚から取り出しバスを降りた。そこは、新宿だった。<br><br><br>三章<br><br>『世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ』<br><br>16<br><br>混乱した。僕は新宿からバスに乗ったはずなのに、ここは新宿だった。バスが電車のように循環するなどという話は聞いたことがない。寝すぎたわけでもないはずだ。景色は記憶の中の新宿とほとんど一致していたが、新宿にバスが到着するはずはなかった。では、ここは一体どこなのだ？  僕はそれを確かめるために周辺を歩いた。IKEAがあり、駅ビルがあり、百貨店があった。ここは間違いなく新宿だ。人々もいつも通り忙しそうに歩いている。僕は女とぶつかった。<br><br>「あっ、すみません」咄嗟に言葉が漏れた。<br><br>「いえ。大丈夫です。あなたがもしかして、笹塚さんですか？」女はそう言った。<br><br>「笹塚？ ああ、いや、まあ、そぅ、そうだといえばそうだし、そうじゃないといえばそうじゃないです」<br><br>「曖昧な答えですね」<br><br>「いや、なんなんですか？」<br><br>「私はあなたを探していました」<br><br>僕は女の顔を見た。女には顔がなかった。いや正確には、目も鼻も眉もあったが、僕にはそれが顔として存在しているようには見えなかった。<br><br>顔のない女、僕はそう名付けた。女かどうかも怪しかったが、その存在を形容する名前が必要だった。<br><br>顔のない女はすらっとしており、レザーのジャケットにスーツを着ていた。身長は僕より少し高く、ほつれ毛一つないボブだった。<br><br>「僕を探していた？」<br><br>「それについて説明するのは困難です。とりあえず、あなたは少しの間私と時間を過ごします」<br><br>「過ごしますってどうして、決まったように言うんだ。悪いけど、僕がどうするかは僕が決める」<br><br>「面倒な方ですね。まあ、構いません。あなたに決定権なんてないんですから。ついてきてください」<br><br>僕は決定権なんてないという言葉に不愉快さを感じた。僕のことなどお構いなしに、顔のない女は歩き出した。僕はついていこうか迷ったが、よく考えれば予定もなかったし、行く場所もなかった。ついて行かない理由は、見つからなかった。彼女は新宿駅の改札を通り、総武線に乗った。僕も総武線に乗り、彼女の横に座った。スマートフォンには13:53と表示されていた。<br><br>僕はいつの間にか寝ていて、気づくと彼女の指が僕の右手に絡みついていた。温かく少し大きな手だった。僕は急いで手を離した。<br><br>「降りますよ」顔のない女はそう言った。<br><br>僕は黙ってついて行った。改札を出て、駅前のロータリーを突っ切り、五分ほど歩いた。大きな茶色のアパートが目に入った。彼女はそのアパートに入っていった。<br><br>「ねえ！」僕は大きな声を出した。彼女が振り返った。<br><br>「僕はついて行っていいの？」<br><br>顔のない女は何も言わずに、アパートから出てこちらに歩いてきた。そして十分に近づくとこう言った。<br><br>「私はついてきてくださいと言いました。同じことを何度も言わせないでください」<br><br>そして僕の腕を掴んでアパートへと歩みを進めた。僕は何か文句の一つでも言いたくなったし、ほんの少し恐怖も感じた。でも好奇心とある種の破滅願望がいけるところまで行ってみようと僕に囁いた。<br><br>エレベータで六階まで上がっていき、彼女の部屋についた。601号室だった。ドアを開けると小さな空間が広がっていた。そこはいわゆるワンルームだった。僕が十分に部屋を見渡す前に、彼女は服を脱ぎだした。僕はいささか驚いて緊張したが、彼女はそんなものお構いなしという感じだった。そして、パジャマに着替えた。遮光カーテンで外光は全く見えなかった。スマホを見てみると20:16と表示されていた。電車に乗っていたのは精々一時間くらいだ。どうして、こんな時間になっているのだろう。僕は言葉で考えて真実を導き出そうとした。しかし、一向に理由は見つからなかった。<br><br>「着替えないんですか？」顔のない女がそう言った<br><br>「え？ ああ、着替えか。寝るときに着る服はもうないんだ」<br><br>「そうですか」そして奥のタンスからズボンとTシャツを取り出した。<br><br>「これ、どうぞ。私のものですが、着れると思います」<br><br>「いいの？ 服を借りるのは流石に悪いよ」<br><br>「あなたは本当に面倒な人ですね。私がいいと言っているんです」<br><br>僕は黙って服を脱ぎ、渡された服を着た。ちょうどいいサイズだった。オーバーサイズの黒のTシャツと横に三本線のステッチが入ったブルーのジャージ。服を脱いだ。一体何のために自分が全身の毛を剃ったのか考えた。<br><br>彼女は電気を消して布団に入った。そしてちょうど僕がひとり入れる分のスペースを開けた。この部屋の中には座れるような椅子もなかった。僕は黙ってその布団に入った。彼女の体温と雰囲気が隣に感じられた。彼女は僕に背中を向けてタブレットで何か作業をしていた。<br><br>僕はスマートフォンを確認した。セランという名前からメッセージがいくつか届いていた。<br><br>「無事だった？」「大丈夫？」<br><br>僕は未だに返事できないでいた。僕には難しい判断を先延ばしにしてしまう悪癖があった。そのせいで高校の出願書類を出し忘れて危うく高校に入れなくなりそうになったし、役所の書類も上手く出せた例がない。でも、放置するにはセランさんの存在は頭の中の領域を使いすぎていた。僕は返信を考えた。<br><br><br>「ごめんなさい。僕は多分あなたのことが恋愛的に好きでした。あなたに恋人がいるのなら、僕のような人間がこうやってメッセージを送るのもきっと不適切です。だから、もう連絡はしなくて大丈夫です。僕のことは忘れたほうがいい。あるいはもう忘れているのかもしれません。僕は大丈夫です。心配しないでください。幸せになってください。大好きです。さよなら、ありがとう」<br><br><br>指が震えて何度も打ち直した。僕はできるだけ彼女の負担にならないように、できるだけ彼女の邪魔をしないようにメッセージを考えた。何度も読み直して送信ボタンを押した。下手くそな文章だったけれど、これが僕だった。仕方なかった。<br><br>顔のない女がこちら側に振り向いて指を絡めた。僕はスマホを置いて天井を見ていた。白く、綺麗な天井だった。彼女の指の温かさだけを感じていた。不思議と落ち着いた。<br><br>僕はメッセージを送信して、肩の荷が下りたような感覚になった。どこかで聞いたことがある。六階から飛び降りれば、ほぼ確実に死ねると。僕はそれを真剣に検討した。現実逃避の手段としてではなく、現実的な選択肢として。<br><br>彼女は僕の手を自分の性器に運んだ。ふわふわの布越しにぬくもりが伝わった。<br><br>「やめて……。僕は今誰かを愛せる状況にない」<br><br>「何を言ってるんですか？ 顔も見れないくせに」<br><br>彼女はそう言って手を離して、ズボンの上から触れた。僕はその手を抑えようとしたが、肉体は生理的に反応した。顔のない女はこちらをむいて、僕の耳を甘く噛み、囁いた。<br><br>「私をセランさんだと思って」<br><br>僕は何も言えなくなってしまった。彼女にされるがままに勃たされ、服を脱がされた。<br><br>そして彼女は口で包み込み、温かく抱きしめた。僕と彼女は内側で繋がった。しばらくそれを続け、彼女は途中で全てをやめた。まるで次は僕の番だとでもいいたげに。僕がその行為をするのは誰に対しても不誠実であるように感じられた。でも、僕の自意識はほとんど麻痺して、身体が動き出した。僕の指は丁寧に彼女のズボンを脱がした。彼女の左足がズボンの裾に引っかかった。脱がしたズボンを放って、彼女の足先にキスをした。それから順に接吻していった。彼女のパンツは白い生地に赤いステッチが入っていた。僕がそこまで辿り着くと、彼女は手早くパンツを脱いだ。僕は彼女に優しく触れて、それから長いキスをした。彼女は「きて」と静かに言った。声も見た目も、セランそのものだった。<br><br>僕は彼女の中に入った。あたたかく優しかった。彼女は僕の指に自分の指を絡ませ、強く握って少し痛がった。僕達はゆっくりと唾液を絡ませた。彼女の鼻息が頬にあたった。僕は彼女の奥深くまで入っていった。僕は僕でなくなり、むしろ彼女になったような、自己と他者との境界が曖昧に溶け合い、一体になるような感覚を覚えた。<br><br>全てが終わって、僕はつかれて彼女の上に被さった。彼女は僕の背中に手を回し、囁いた。<br><br>「誰を思ってしたの？」<br><br>「君だよ」僕は嘘をついた。<br><br>「私は全部知ってる。つまらない嘘はやめて」<br><br>「セラン」僕は正直に言った。<br><br>「そう」狭いワンルームに彼女の静かな声が響いた。<br><br>「君と、会ったことがある気がする」<br><br>「それは口説く時に使うセリフよ。もう目標は達成してるんじゃないかしら」<br><br>「僕は別に君とセックスがしたかったわけじゃない。君に聞きたいことがあったんだ」<br><br>「ならどうして初めから聞かなかったの？」<br><br>「確かめたいことがあった。実のところ僕は君に会ったことがあるという確信がある」<br><br>「確信？」<br><br>「僕は蠢く街で君にウォッカを奢った」<br><br>「わからない。何を言っているの？ 蠢く街？」<br><br>「それは単なる比喩だよ。つまり、僕は君に夢の中で会った」<br><br>「あなたが精神病なのは知っていたけど、夢の中の話なんかされたってわからないよ」<br><br>僕は確かに、と思った。彼女の言う通りだ。根拠はなかった。ただなんとなくそう感じただけだった。部屋の中は暗く、静まり返っていた。冴えた目には彼女の髪が綺麗に映った。彼女は最後に僕の頬にキスをして、眠りに入った。どうして、僕のような男を隣に、そんな綺麗な寝顔で寝られるのだろうと思ったが、どうして初対面の怪しい女の家で寝られるの？ と聞かれれば口ごもるのは僕も一緒だった。眠りに落ちた。<br><br>17<br><br>「私は誰のものでもないわ。あなたのものでもないし、別の誰かのものでもない。でも、あなたの側にいる」顔のない女が耳元でそう囁いた。<br><br> 僕はその声で目が覚めた。<br><br>「一体君は何を言っているんだ？」僕は重たい瞼を開いて彼女を見た。顔のない女は完璧にセランと同じ顔になっていた。<br><br>「君は、誰？」<br><br>「だれ？ 私には……名前なんてない。必要ないの。あなたの呼びたいように呼べばいいわ」<br><br>「誰かの名付け親になるつもりはないよ。いまのところ」<br><br>「それより、昨日はごめん。僕は誠実じゃなかったと思う」僕は過去のトラウマから、その種の行為に対して嫌悪感があった。<br><br>「昼間に、夜の話をするのは失礼です」<br><br>そういえば、朝だった。遮光カーテンの隙間からは眩しい日光が差し込んでいた。<br><br>「ごめん」僕は言った。<br><br>「何をセンチメンタルになってるんですか」<br><br>昨日は緊張と暗さで気づかなかったが、彼女の部屋の狭いワンルームにはぎっしり埋まった本棚と映画のポスターが大量にあった。奇妙なことだが、全て僕が好きな本で、全て僕の好きな映画だった。更には僕が好きなバンドのレコードまで飾ってあった。<br><br>「この部屋は君のもの？」あり得ないくらいに好みが一致していた。<br><br>「事実上、そうなりますね」変な言い回しだ。<br><br>「僕はこれからどうすればいいだろう」<br><br>「私にできることは少ない。あなたはあなたの道を進むしかない」<br><br>「家に帰る気もしないんだ。正直、もう何がしたいかわからない」<br><br>「この家なら、好きなだけいていいですよ」<br><br>「いいのかい。とてもありがたい。できるならそうさせてもらいたい」<br><br>「その代わり小説を書いてください」<br><br>「小説？ 文字を綴ってつくる、カフカやドストエフスキーが書いてきたあれのこと？」<br><br>「そう。あなたにはそれを書いてもらう。別にカフカやドストエフスキークラスのものを書けって言ってるわけじゃないですが」<br><br>「そうすれば、僕はここで生活していいということ、なの？」<br><br>「書き終わるまでは、そうですね」<br><br>「書き終わったあと、僕はどうなる？」<br><br>「そんなの、誰も知らない。あなたはただ書けばいい」<br><br>「あなたは小説を書く、私はそれを読む。いい？」<br><br>「書くのはいいけどさ、もう少しことの詳細を説明してくれないか？」<br><br>彼女は何も返事をせず、台所に行って水を飲んだ。彼女が何も言わないことにはもう慣れていた。僕も台所に行って水を飲んだ。小説を書く、それが僕のここしばらくの北極星になるのか。小説は今までにも書いてきたけれど、どれも掃いて捨てるような短編だった。<br><br>でも、誰かが望んでいるのなら、書くのも悪くはないと思えた。とはいえ具体的なアイデアは何もなかった。全く何も無いところから小説は生まれない。小説は、小説家が何か表現しなければならない甚大な現実を持っていて、それをどうにか物語に写したものだと思っていた。「小説は言葉に先立つ」少なくともそれが僕の持論だった。というより、僕の好きな小説にはその種の実存がある気がしていた。僕はとりあえず、今の自分の現状から書き出すことにした。痛々しく、書き出した。プロットもあらすじも何も考えずに書き出した。三千字ほど書いたところで彼女が言った。<br><br>「何か、食べますか？」<br><br>僕はこの部屋に来てから、空腹を感じなかった。<br><br>「いや、大丈夫。君は？」<br><br>「私もべつに」彼女はそっけなく言った。<br><br>「私はこれから少し用事があるので留守にします。冷蔵庫にあるものは好きに食べてもらってかまいません。基本的に何を使ってもいい」<br><br>「ありがとう」<br><br>「もし、お金が必要だとか考えているなら、考えなくていいです。無償が嫌なら、小説が対価だと思ってください」<br><br>「ありがたいね。締め切りはある？」<br><br>「そんなものを準備しなくても、あなたは書きます」<br><br>僕はずっと小説を書こうとしてきた。今までは色々と理由をつけて書けなかったが、今、その障壁はすべて取り除かれた。<br><br>「ちょっと待って、君は誰なんだ？」同じことをまた、口にしてしまった。<br><br>「しつこい。その質問が的を射ていないのは自分でもわかってますよね。気になるなら考えるより先にまずは小説を書くことです。あなたは大して賢くないのですから」<br><br>確かに彼女の言う通りだった。少し考えて答えが出るような問題は、問題にならなかった。<br><br>「いってらっしゃい」僕は諦めて言った。<br><br>「……いってきます」<br><br>彼女は昨日と同じようにレザーのジャケットにスーツという服装に、ハイヒールを履いていた。どこに行くのだろうか。そうだ、聞いておけばよかった。僕は彼女の連絡先すら知らない。あとを追おうとしたが、部屋には静寂と彼女の香りが少し残っているだけだった。<br><br>狭い部屋に一人になった。ここは明らかに他人の部屋だったが、妙に落ち着いた。<br><br>「状況を整理しよう。ここは東京のどこかで、素性のよくわからない女性の家で、僕は小説を書くことを求められている」確かなことはそれくらいだった。考えようとしたが、彼女の言った言葉を思い出した。――考えるより先にまずは小説を書くことね――<br><br>スマホを見た。11月31日と書かれていた。一見何もおかしくないように見えたが、僕は彼女と一晩過ごしたのだ。今日は十二月月一日であるはずだった。それに十一月に三十一日は無いはずだ。やめよう。考えてもわからないことはある。ここ最近、不可解なことが多すぎる。そしてそれらは、考えたところで明瞭な結論が出るわけではないのだ。小説を書く……か。<br><br>18<br><br>僕はしばらくして耐えられなくなって散歩に行きたくなった。でも、扉が開かなかった。鍵がかかっているようだった。閉じ込められたのだ。背中のほうが冷たくなった。冷蔵庫、そういえば食べていいと言っていた。冷蔵庫を開けてみた。何も入っていなかった。僕はここに来て、本当に怖くなってきた。遮光カーテンを開けた。何もなかった。そこは真っ白の空白だった。何も無い空白。でも、もう恐怖はなかった。僕は死んだのだと思った。あの日、なにかの事故があって、ここはいわば三途の川なのだと、そう思った。悪くない。どうせ、セランさんはもういない。それならこの世界にもう未練はない。そうだ、僕は初めからずっと死にたかった。それが叶ったのなら、悪いことなんて何一つない。最後に小説を書いて、地獄か天国か無か知らないけど、死ねるんだ。恍惚に浸る感覚だった。その時ガチャリと扉が開いて、暗い部屋に光が差し込んだ。顔のない女――セランさんそっくりの――が入ってきた。<br><br>「小説は書きましたか？」<br><br>「まだ途中だよ」<br><br>部屋のことについては聞かなかった。聞いても彼女は答えないとわかっていた。<br><br>「僕は元の世界に戻れる？」<br><br>「何を言っているのかわからないけれど、戻りたいのですか？ その世界とやらに」<br><br>「いや、別に」<br><br>「なら黙って早く小説を書いてください」<br><br>僕は言われた通りに筆を進めた。自分の身に起きたことを書き連ねていった。彼女が僕の横に座った。僕は彼女の顔を見た。セラン、そのものだった。いつの間にか顔以外の髪型や身長もセランと完璧に同じになっていた。<br><br>「それ、やめてくれないか」<br><br>「それってなんですか」<br><br>「僕には君がセランさんに見える。それは誰に対しても、君自身に対しても、とても失礼なことだと思う」<br><br>「あなたがそう望んでいるから、そう見えるんだと思いますが」<br><br>彼女の言うことには説得力があるように感じた。僕がそう思っているから、セランさんの姿になってしまっているのかもしれない。<br><br>「ごめん……なさい」僕は執筆に戻った。<br><br>だが、小説が進まなくなった。文字を打てなくなった。この光景は見たことがある。高校一年生、父親からギターをもらった時、初めてEコードをかき鳴らした時、あのバンドのボーカルみたいになれると思った。憧れに近づいたような気がした。でも、僕は音痴で軽音部に入る勇気もなかった。結局ギターは半年で飽きて触らなくなった。<br><br>中学三年生の頃、あの漫画家みたいになろうとした。漫画を模写して、ひたすらクロッキーを繰り返した。でも、いつの間にか飽きていた。全て中途半端に終わった。そういったものを思い出していた。<br><br>小説も、きっと同じだ。そう思うと、指は止まった。<br><br>「ああ、もうわからないよ。僕には何も無いんだ。小説を書けるほどの自分がない。そういえば書きたいものも別にないのかもしれない」僕は顔のない女に言った。<br><br>「じゃあ……死にますか？ だけど誰もあなたを理解しませんよ。誰にも理解されず、一人で死ぬことになる。諦めても誰も責め立てることはしない。あなたが生きた意味は何もないまま。空虚なまま。あなたが死んでも悲しむ人はもういない」<br><br>「そうだね。その通りだよ」<br><br>セランさんは、僕が死んでも気づかないだろう。もう二度と会えない。会ったところで、もう彼女は僕に微笑んでくれないだろう。一緒に写真を撮ってくれないんだろう。この小説を書き上げたところで読んでくれないだろう。誰も、もう、読者はいないのだ。それなら、生きる意味なんてない。はじめから無かった。短い夢だった。数カ月間、僕は夢を見ていたんだ。幸福な、優しい夢。でも、もう腐ってしまった。美しい花はすぐ枯れる。僕は僕の人生に意味を見出せなかった。<br><br>「はあ、面倒な人ですね。本当に」顔のない女がそう言った。<br><br>そして僕を後ろから抱きしめ、耳元で言った。<br><br>「いい？ あなたは生きます。あなたが書いたものを読む人はいる。それはたった一人かもしれない。来週には忘れているかもしれない。でも、その瞬間、あなたは誰かを救う。それを忘れないで。言葉なんてすぐに腐ってしまう花のようなもの。あなたが思うように。腐った花は捨てられる。散っていく。でも花は美しいの。わかった？ 美しいの」<br><br>「それに私は絶対に、読みます。誰かを想像できないなら、私がいるから、私の為に小説を書いてください。私をどんなふうに見てもいいから」<br><br>振り向くと、彼女は散っていくソメヨシノのような微笑みをした。僕は仕方なく小説を書き始めた。何一つわからなかったが、思いつく限りのことを文字に写し、物語らしきものをつくっていった。物語といえるのかは、わからなかったが、本気で、ひたすらに書き続けた。<br><br>書き続ける日々が数週間続いた。<br><br>「読んでくれない？」僕は顔のない女にそう言った。小説は完成に近づいていた。<br><br>「貸してください」彼女はタブレットを手に取って読みだした。<br><br>「どう？」<br><br>「今読んでる」<br><br>「ごめん」<br><br>しばらく静寂が続いた。<br><br>「読み終わった」<br><br>「何か言ってよ。酷評でもいいから」<br><br>「これは、完成したんですか？」<br><br>「いや、まだ初稿って感じかな」<br><br>「なら感想を求めないでください。読みはする。でも完成するまで意見は求めないでほしい。これを作るのは私じゃなくて、あなただから」<br><br>「意味があるのか、わからないんだ。書くことに。書いていることに一体どんな意味があるのかわからない」<br><br>「意味ですか…… 雪が降るのに、意味はありますか？ 月が海を動かすのに意味がありますか？ いいですか？ 意味なんて考えないで。同じこと、前も説明しました」何かの引用だろうか。どこかで聞いたことがあるような気がする。<br><br>顔のない女はいつもそうだった。僕が聞きたいことには答えず、でも何かアフォリズムのあることを言った。そして、ただ、そばにいる。僕がどうしようもなく落ち込むと抱き合う。それだけだった。顔のない女と呼んでいたが、女なのかどうかもよくわからなかった。間違いなく変わった人だったが、僕が書くためには必要な人だった。ある領域でとても大切だった。<br><br>大抵、夕方六時頃、彼女はアパートに帰ってくる。すぐ風呂に入り、化粧を落とす。僕は布団の中でキーボードを叩きながら、シャワーの水音を聴いていた。彼女は手早くドライヤーを終えると、僕の布団の中に潜り込んでくる。――もちろん正確には彼女の布団だ――<br><br>「君がもし、僕の妄想だったら、って思うんだ」<br><br>彼女は僕の言葉を待つように沈黙した。<br><br>「だって、ありえない。いきなり現れて家に上げてくれて、僕の小説を読みたいって言ってくれて、生活を支えてくれて、君は僕に都合が良すぎる。デウスエクスマキナみたいだよ。君はなんで、そんなに僕に優しいの？ それに僕は君の名前すら知らない」<br><br>「私について、質問しないでください。わからないから。私がなんでこんなことをしてるのか、私もわかりません。どうしてセックスしてるのかもわからない。それに優しくしてるつもりはないです。わかりません……私には。私に名前なんて、あったのでしょうか？ 私には、わかりません。何も……」<br><br>「だけど、嘘は言ってません。……だから、勝手に憐れまないでください」<br><br>「そうか、わかった」僕はそれしか言えなかった。<br><br>彼女の家で、僕は数年ぶりに薬の必要ない生活を送った。炭酸リチウムも、安定剤も、そして睡眠薬すら、必要なかった。顔のない女が横にいるというだけで、僕は容易に睡眠に入ることが出来た。朝起きて、彼女に「おはよう」と言って、本を読み、昼頃でかける彼女に「いってらっしゃい」と言う。不思議と腹は減らなかった。シャンプーは永遠に切れなかったし、部屋には郵便一つ届かなかった。でも僕はもうその種のことについて疑問は感じなくなっていた。<br><br>朝、本を読み、脳がほぐれたところで、僕は小説を書き出す。そんな生活が、短くても数週間は続いた。小説は六万文字を超え、一旦完成を迎えた。それは突然だった。主人公の二人が心中するように読める形で物語は終わった。完成度はわからないが、僕はその物語が嫌いではなかった。<br><br>物語は自ら終わりを迎えた。僕はそれを何度か読み直して、誤字脱字や誤った修飾などを修正していった。確か、ある小説家のエッセイで小説を書く時には客観性を持つために一週間ほど寝かせると書いてあった気がする。僕はその不確かな記憶を元に、一週間ほど小説に触れず、彼女の書斎から何冊か面白そうな本を読んで数日を過ごした。その後にまた、読んでみた。そして、かなりの加筆と修正を加えた。この小説が面白いのか、あるいはこれが良い小説なのか、わからなかった。永遠に推敲する日々が続いた。<br><br>これはどんな評価を得られるのだろうか。社会に受け入れられるのだろうか。書いていくなかで、購読していた文芸誌の新人賞に応募してみたくなった。<br><br>一度顔のない女に、どうしても感想を求めたことがあった。<br><br>「ねえ、どうしても感想がほしい」僕はタブレットを彼女に渡して言った。「小説がこれで正しいのか、わからないんだ。この方向性で正しいのか。いいのかな、これで」<br><br>ベランダのアウトドアチェアに腰掛け、星を眺めていた彼女は、ちらりとこちらを見て、ため息をついた。その夜は新月だった。<br><br>「星座が嫌いです。星はただ輝いているだけなのに、そこにたった一つの意味を決めつけるから。空を見上げるすべての人が、自分だけの星座を作っていいはずです。確定的な一つの単純なわかりやすい真実なんて、ない。あってはいけない。この世界に単純なものなんてありません。星だって、一見点のように見えるけれど、実際は燃え盛る炎の塊で、あるいはその光は何億年も前のものかもしれない。もちろん、それすら間違っているかもしれない。それなのに単純化して『正しい』なんて思うのは傲慢でしかありません。でも、『わからない』と言える勇気と、それでも正しさを求める営みは限りなく、美しいと思います」僕は夜空を見上げた。<br><br>「完璧は幻想です」彼女は続けた。「もし、あなたがあなたの作品を完璧だと思っても、それは誰かにとっては駄作かもしれません。でも、それでいいと思います。作品の半分はあなたのものだけど、もう半分は読者のものです。作者も読者の一人なので、それを誰かに強要することはできないと思います。だから、自信を持って完璧で駄作な「作品」を書いてください」星は、輝いていた。彼女は微笑んだ。<br><br> 僕は小説を読み返すのが楽しくなっていた。絶望の暗路に迷った時は彼女の言葉を反芻した。思い出は小説の中で息を吹き返し、色を取り戻していった。後悔や執着が、文字に写っていった。<br><br><br>四章<br><br>17<br><br>「ここすきです」と顔のない女が言う。彼女が褒めることなんて、初めてだった。<br><br>僕達はベランダで日光浴をしながら、プリントアウトした小説を読んでいた。<br><br>「リズムがいいよね、明るいし」そこは小説で数少ない、光が見えるシーンだった。<br><br>「まあ、崩れちゃうんですけどね」彼女が皮肉っぽく言う。<br><br>「ねえ、僕思うんだけどさ、そういう幸せって状態だと思うんだよ。幸せな人間は瞬間にしかいないって。だから、一瞬でもそういうものを感じられたら人生としてもさ、なんというかいいんじゃないかな」<br><br>暖かい太陽のせいか、僕の心は春の日に花が開くように温かく優しくなっていた。<br><br>「たしかに、そうかもしれませんね」<br><br>「それなら、この主人公の人生も悲劇じゃないのかも……」<br><br>「ま、知りませんが」彼女はわざと冷たく聞こえるように言った。<br><br>「チャップリンじゃないけどさ、人生に悲劇も喜劇も絶望も希望もないんだと思うよ。ただそこにあるだけ……」<br><br>「そういえば、新人賞、出したいなら出しておきましょうか？」<br><br>「え、いいの？ というか締め切りとかあるんじゃないかな」<br><br>「三日後です。出しますか？」<br><br>「お願いします！」<br><br> 小説はどうしても個人的だったし、素晴らしいものなのかはわからなかったけど、誰かに読んでもらいたかった。彼女以外の人にも、まだ見ぬ人にも。<br><br>18<br><br>「何聴いてるんですか」興味なさそうに彼女が答える。<br><br>「レディオヘッドを聴いてた」<br><br>「へえ」彼女は紙をおいて爪を弄りながらそう言った。彼女の爪はいつも完璧に整っている。<br><br>「君も好きなんでしょ？」家にはOK Computerのレコードが飾られていた。<br><br>「さあ」彼女が答えないことは、なんとなくわかっていた。<br><br>僕は有線イヤホンでMotion Picture Soundtrackを聴きながら、漠然と散歩がしたくなった。<br><br>「家を出てもいい？」小説はほとんど完成に近かった。<br><br>「変な質問ですね。別に監禁してるわけじゃないですし、好きにしたらいいと思います」<br><br>扉を開けられなかったあの日から、僕は家から出るということを何となく禁止されていると思い込んでいた。そういうものなのだと。確かに、僕は出ようと思えばいつでもこのアパートから出ることができたのかもしれない。でもその必要はなさそうに見えたし、実際僕はここから出たいとも思わなかった。だから、それで困ることも何もなかった。<br><br>僕は自分がこの家に着てきた服に着替えた。服は綺麗に洗濯されて畳まれていた。僕は彼女にありがとうと言った。<br><br>「散歩に行くことにするよ。君も来る？」<br><br>「やめておきます」<br><br>「残念、次は一緒に行こう。一時間もしないうちに戻るよ」<br><br>「うん」そう言って、彼女は僕の目を見た。じっと見て、目線が少し下がり、顔が少し赤らんだ。そして、僕に近づいて、手を握った。滅多にないことだった。<br><br>「いってくるね」僕は言った。<br><br>「……またね」彼女が言った。なぜか寂しそうだった。<br><br>扉を開けると冷たく、乾燥した、しかし透き通った空気が全身を包みこんだ。部屋は十分に清潔だったけれど、外の空気とはやはり違う。僕は歩みを進めた。まだそこはアパート内の通路で外光は入らなかった。半分外、といった具合だ。階段を降り、正面玄関から家を出る。陽光は視界を覆い隠し、全てが白に支配される。頭がクラクラとしてきて、電柱にもたれかかる。それから僕の身体がその環境になれるまで二、三分かかった。電柱には風俗の広告ステッカーが汚らしく貼ってあった。歩くと風が耳元で音を鳴らす。新鮮で、心地よく、健やかだった。僕は気の向くままに歩き続けた。<br><br>踏切を通った。白い花と白い手紙が捨てられていた。いや、弔いだったのかもしれない。僕はそれを見て、妹のことを思い出してしまった。記憶の封がふと、緩んでしまった。彼女は十二回目の春を迎えられなかった。血塗れの冬だった。母は仕事辞め、毎日のように、あの駅で祈っていた。そして体を壊した。過去は全く色褪せず、今も鮮烈に瞼の裏側に焼き付いている。<br><br>スマートフォンを見ると家を出てから三時間が経っていた。空気が徐々に冷たくなり、陽が陰ってきた。あまり遅くなると彼女を心配させるだろうし、それに僕だって寒いのは嫌だった。これ以上嫌なことを考えたくなかった。踵を返し、家に帰ろうとする。でも、まて、ここはどこだ？<br><br>焦りが募る。彼女にLINEを送ろうとして、気づく。僕は彼女のLINEを持っていなかった。そもそも必要がなかった。彼女は外出する時に、いつ帰るか言っていたし、それを守っていたから僕から特に連絡する必要はなかった。マップアプリで家に帰ろうにも住所登録がされていない。自分がかなり不味い状況になっていることだけは確実だった。<br><br>僕は来た道を帰ろうとしてみたが、郊外の住宅地によくあるコピー&amp;ペーストしたような家々が連なるだけで景色は変わらない。太陽は加速度的に落ちていき、全てが闇に呑まれて行く。闇雲に歩いた僕は川に出た。大きな川だった。橋の上を長い電車が走り抜けていく。電車の窓から漏れる光で直線が形作られていた。川沿いを歩いていると江戸川という看板があった。江戸川。来たことなんてなかったが、どこかで……。頭の奥で何かが崩れる音がした。それはまるで世界が次の歯車に入れ替わったような、そんな音だった。小説と、あの空間が壊れてしまった音に思えた。僕はどうしようもなくなり、最寄りのJRの駅まで歩いていき、新宿駅へと向かった。<br><br>電車の中で何を考えていたか、もう思い出せない。なにせ疲れていたし、困惑していた。数ヶ月間の生活が消えたのだ。顔のない女は最後まで名前を言わなかった。結局僕は彼女の顔を見ることができなかった。でも、僕達はとても自然に共同生活を送った。皿が溜まったら大抵は僕が洗ったし、ドラム式だったが洗濯物は彼女が担当した。喧嘩をすることも、言い合いすら無く、ただ純然と僕は小説を書き、彼女はどこかへ出かけ、そして帰ってきた。一週間に一度ほどの頻度で僕達はお互いの体温を求め合った。今はまだ、その有り様が克明に思い出せる。どうしてこうなってしまったのだろう。僕はあの家に帰りたかった。<br><br>だけど彼女は全てを見通しているような気がした。全てはじめから知っていたような。そんな気がする。そもそも彼女は何者だったのだろう。その糸口すら未だに掴めていない。<br><br>そして、小説のデータはタブレットに入ったままだ。僕は荷物を全てあの家においてきてしまった。今持っていたのはスマートフォンとイヤホンと財布だけだった。小説を、どうしても取りに帰りたかった。僕の全てだった小説を。<br><br>顔のない女にもちゃんと「ありがとう」を言いたかった。<br><br>でも、今は何もできない。ひとまずは家に帰ろう。今するべきは考えることではなく、落ち着ける場所を探すことだ。僕は疲れきっていた。<br><br>新宿駅につき、バスターミナルで家へ帰ることのできるバスを探す。<br><br>「すみません。もう予約が満席でして、臨時便の予定もございませんし、今日はちょっと難しいかと思われます。新幹線も終電が過ぎていると思いますし、ホテルを取られたほうが今はよろしいかと……」スタッフは申し訳無さそうにそう言った。<br><br>「ごめんなさい。ご丁寧にありがとうございます」<br><br>さて、どうしよう。時計を見ると二十三時を少し過ぎたところだった。まだ終電は残っている。でも今からホテルを探すのは勘弁だった。僕の頭には、一つだけ解決策が思い浮かんだ。それは良い手段とは思えなかったが、僕はそれを実行せざるをえなかった。<br><br>「もしもし、セランさん？」<br><br>「もしもし、まこと？ 久しぶりだね。突然どうしたの」<br><br>「急だというのはわかってるんだけど、今から君の家に泊めてくれない？」<br><br>「急だね。どうしたの？」<br><br>「実はここしばらく住んでいたところに帰れなくなって、その、つまり僕はずっと東京にいたんだけど、さっき突然住む場所がなくなった。それで新宿から家に帰ろうと思ったんだけど、バスも新幹線もダメで、今夜泊まる場所に困ってる。もし、よければだけど――本当に、無理は言わない。全然断ってくれて構わない。その時はどうにかホテルを探すから――家に泊めてくれない？」<br><br>「今夜でしょ？ わかった。最寄り駅送るから来なよ」<br><br>「いいの？」<br><br>「……断れないでしょ。終電なくなるから急いでね。ついたら駅前で待ってて、迎えに行くから」僕は彼女に教えてもらった駅に向かった。電車はがら空きで、どんな人がいたかも思い出せない。<br><br>「ついたよ。どこにいる？」LINEで送信する。<br><br>改札を抜けて、なんだか、初めて会った時みたいだなと、僕は思う。<br><br>閉じられたシャッターの前でスマホを見ていると、トントン、肩を叩かれる。振り向くと彼女がいた。<br><br>「久しぶり」その人は言った。<br><br>「久しぶり、です……急にごめん」<br><br>「三ヶ月ずっと、こっちにいたの？」<br><br>「三ヶ月！？ ああ、そうか、多分、そういうことになる」<br><br>「随分痩せてるし、髪も伸びてる。本当に何をしていたの？ 大丈夫？」<br><br>「話せば長くなるんだ。でも、僕は大丈夫」それに、あったこと全てを君に話すわけにはいかない。<br><br>「そっか。私もいろいろあったよ。まあ、ゆっくり話そうよ。時間はある」<br><br>暗がりでわかりにくかったが、よく見ると、彼女の髪はピンク色になっていた。<br><br>僕達はほとんど無言のまま彼女の家に向かった。住宅街を抜けて小さなアパートへと。<br><br>「ようこそ、我が家へ」ドアを開けて彼女が言った。部屋は香水の匂いがした。<br><br>リビングと一部屋があるシンプルな部屋だった。レコードや本、画材やらパレットが所狭しと並んでおり、その様は壮観だった。<br><br>「汚くてごめんね」<br><br>「そんなことないよ。これは汚いというジャンルじゃない」<br><br>彼女はお茶を入れてくれた。僕はリビングのテーブルに座り、それを飲んだ。<br><br>「さて、それで、どうして田舎から出てきた未成年が荷物一つ持たずに終電間際に泊めてくれって電話してくるわけ？」彼女は少し怒っているように見えた。それに僕は厳密に言えば未成年ではない。<br><br>「君と別れてから、僕は人の家に泊まってたんだ。その人の家でしばらく生活をしていた。でもある日、というよりさっき、突然帰れなくなってしまった。そういうことになる。荷物も全部その人の家にある。僕自身事態を把握できていない。」<br><br>「嘘みたいだけど、実際起きてるのは、そういうことみたいだね。まことが嘘をつくとは思えないし……その人はどういう人なの？」<br><br>僕は解答に困った。顔のない女、実際はそうだったが、そう言っても伝わるはずがない。それに僕はセランさんに見知らぬ女の家に三ヶ月も居候する男だと思われたくなかった。<br><br>「その人については、あまり話せないんだ。上手く事態を消化できていなくて、ただ悪人ではないよ」<br><br>彼女は返事をせずに、席を立ち、冷蔵庫からビールを二缶持ってきた。<br><br>「とりあえず、飲もう」そう言って勢いよくビールを流し込んだ。<br><br>僕もビールを飲もうとした。何かを飲むのは久しぶりだった。ビールは苦く、不味かった。咳き込んだ。彼女は僕の年齢を知っているはずだったが、今更そんなことはどうだってよかった。それからは記憶が曖昧になってしまった。僕は気づくとソファーで寝ていた。<br><br>19<br><br>セランさんはベッドで寝ていた。スマホを開いたが、時計表示が壊れているようで99:99と表示されていた。はあ、もういい。<br><br>「おはよう」そうつぶやいてみた。彼女の眠りは深いようで何も反応がなかった。机にはビールの空き缶とおつまみの袋が散らばっていた。空っぽの缶が妙に親しげだった。僕はそれを捨てて、机を綺麗に整理した。自分の家のアパートではまずやらないことだった。いつの間にか顔のない女のことを思い出していた。実際にはセランさんそっくりだったその人。彼女は三ヶ月前の長い黒髪をしたセラン、そのものだった。江戸川のほとりのアパートに、今もいるのだろうか。<br><br>僕はわからなくなっていた。ひたすらにセランさんを求めたはずだった。そしてそれは三ヶ月の間で、もちろん、擬似的にではあるけど再現されていたのではないか。僕は何をしていたのだろう。僕が求めていたのは、この寝息を立てているピンクの髪をした人なのだろうか。夢はもう実現されていたんじゃないか？ 僕は急に顔のない女が恋しくなってきた。<br><br>「おはよう」<br><br>振り返るとセランさんがいた。ピンク色の髪は朝日に透き通って輝いていた。相変わらず長い睫毛が黒い瞳にもたれかかり、まるで少女漫画の主人公のように美しかった。オーバーサイズのTシャツからブラの紐が見えている。全体的に薄いフォルムが眠たげに透明感を増しているせいでエロティックな感じはあまりしない。彼女はこちらを見た。<br><br>「返事もしてくれないの？」<br><br>「おはよう。セランさん」<br><br>僕が返事をすると彼女は微笑み、洗面所へ行った。こんな人だっけ……<br><br>「お腹、減ってる？」洗面所から声が聞こえる。<br><br>「減ってないよ。セランさんは？」<br><br>「私、基本朝は食べないから。まことが食べたかったら何か作ろうかと思ったけど」<br><br>「僕は自分とあと一人の朝食くらい作れるよ。それより、散歩に行かない？」今日はとても晴れていたし、何より空気が綺麗だった。カーテンの隙間からそれがよくわかった。散歩日和だ。<br><br>「いいね。着替えるからちょっとあっちへ行っていて」<br><br>顔のない女は僕のことなどお構いなしに着替えていたから、僕は彼女が着替えようとしていても動こうとしなかった。それが、少し、恥ずかしくて、寂しかった。「ごめん」とつぶやいてベッドの方へ行った。窓の外からは街が見えた。家は繁華街の中にあった。まだ、静かな東京。まとめられたビールとコーラの空き瓶、穏やかな水面のような街。朝の東京は、透明だった。<br><br>「おまたせ。行こうか」ほんの数分で彼女は化粧と、髪の毛のセットと服と、すべてを終わらせたようだった。目の存在感が際立ち、鼻が小さくなったように感じた。早すぎない？ とは聞かなかった。僕たちは散歩に出かけた。<br><br>「昨日まことが言っていた話だけど、ちょっとファンタジックすぎるよ。でも、まことが私に嘘をつくわけはないだろうって思うし……どう解釈したらいいんだろう」<br><br>僕は記憶をなくしていたが、どうやら様子を察するに全て話したようだった。<br><br>「あとね、ずっと言わなきゃいけないと思っていたことがある」言わなきゃいけない事、嫌なセリフだった。<br><br>「どうしたの？」<br><br>「ごめん。私は酷いことをしてしまった。あんなに楽しみにしてくれていたのに、それを最悪な形で終わらせてしまったし、まことを傷つけてしまったと思う。どんな事情があったとしても、酷く不誠実だった。本当にごめんなさい。……実は、電話をかけてくれて嬉しかった。また話せて嬉しかった。一緒にお酒を飲めて嬉しかった。私にとって君は大切な友達だから。ずっと後悔してた」<br><br>僕は申し訳なさそうな顔をして言葉を並べる彼女が、何だか惨めに見えた。僕にとってそれは過去のことで、はっきり言ってもう、どうでもよかった。僕の中のセランさんは、もう、死んだようだった。死体が喋っているように見えた。僕は返事をできなかった。<br><br>すっかり葉を落とした木々に光が当たって、とても綺麗で明るい影絵を見ているみたいだった。<br><br>「ありがとう」<br><br>それは間違いなく適切な返事じゃなかった。でもそれしか、僕には言えなかった。<br><br>「僕は今日の夜のバスで帰るよ。泊めてくれてありがとう」<br><br>「もう少しいてもいいよ」セランさんは僕を見上げてそう言った。良く響く声だった。<br><br>「そういうのはあまりよくないんじゃない？  その、僕は一応男だし」<br><br>「もし彼氏のことを言っているなら、気にしないでいいよ」<br><br>僕はできるだけ、そのことに触れないようにしてきた。<br><br>「もう、別れたの」彼女がそう言った。<br><br>「そう、だったのか」<br><br>「彼、死んだの」<br><br>「え？」<br><br>「自殺したの」その一言はあまりに衝撃的だった。<br><br>「自殺？」僕の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。<br><br>「私が別れ話をしたら、自殺したの。彼は、私が昔好きだった人で、付き合ったんだけど、性格が合わなくて、それでお互いの為に分かれようという話をしたら、彼、死んじゃったの」<br><br>僕は困惑した。その困惑は奇妙なものだった。死のうとしたのは僕だった。死ぬのは僕であるはずだった。ウェルテルは僕であるはずだった。しばらくの間、何も言えなかった。<br><br>「君は……大丈夫なの？」<br><br>「今は大丈夫だよ。どうにか。でも私のせいで、人が死んでしまった」彼女は弱弱しく言った。<br><br>「君のせいじゃない。仮にそうだったとしても、君は悪くない」<br><br>怒りを感じた。僕は向き合ったのに、そいつは逃げた。僕は苦しんだのに、そいつは逃げた。彼女を傷つけて、逃げた。その事実に心底腹が立った。許せない。でも、言葉にして発することはできなかった。それに、僕はその責任を負えなかった。――あるいはその勇気がなかった――<br><br>「いつかの話、覚えてる？」沈黙を破って彼女が言った。<br><br>「死ぬときは一緒がいいね、ってまことが言ったの」<br><br>「覚えてるよ」僕はその夜を未だに正確に覚えていた。<br><br>「私、彼とは死ねないと思った。彼のこと、多分好きだった。恋人としては好きだった。でも、死ねないって思ったの。でも……でもね、まこととは死ねる……」<br><br>僕は、わからなかった。春の気配を見せる空を見ることしかできなかった。<br><br>20<br><br>公園で、彼女は泣いた。僕は抱き寄せて、包みこんだ。僕は、今、彼女と死ねるだろうか。僕の中のなにか大切な部分が欠落してしまったような、感覚だった。どこかに消えた小説とあの日々のことを思い出した。僕の腕の中にいるこの小さな生き物は、なぜ、泣いているのだろう。<br><br>「変わったね。もう、私のこと、どうでもよくなった？」<br><br>「そんなことない。僕は君が大切だよ」<br><br>「本当に？ 私と死ねる？ 私と一緒にいたい？」涙が、顔と髪の毛を接着剤のようにくっつけ、彼女の顔は酷い見た目になっていた。彼女は明らかに死にたがっていたが、それは僕にとって一時的なものにしか見えなかった。<br><br>「温かいコーヒーでも飲もう。買ってくる」<br><br>「待って……答えて！」<br><br>「わからないよ！ 僕にとって君は何より大切だった。君を思って死のうとさえした。でも、わからない。君は、もういない」<br><br>「その、顔のない女、私そっくりの、その女のせい？」<br><br>「違う。僕の問題。僕は多分、一度死んだ。僕は小説に自分を写した。そして、その小説は消えてしまった。僕は、多分その時に消えてしまった。君が思うまことはもういない」<br><br>「そっか……うん……あぁ……私を、一人にしないでほしい」彼女の右手が僕の左腕を掴んだ。<br><br>「そうしないって言ってる」<br><br>僕達は近くの自販機でホットコーヒーのブラックを二つ買った。それを二人でゆっくり飲んだ。<br><br>家に帰って、彼女が口を開いた。<br><br>「さっきはごめん。取り乱してしまった」<br><br>「君は僕のことを好きじゃないよ。今、君はとても寂しくて、そして罪悪感があるだけ。君を責めるつもりはないけど、それが、多分真実だよ」<br><br>セランさんは黙ってしまった。何かを熟考しているようだった。僕はじっと、椅子に座っていた。<br><br>「私達、どうなるのかな？」<br><br>「僕はもう何もしたくない。親だって死んでるし、頼りたい親族もいない。大学の出願はいつの間にか時期が過ぎてたし、他にやりたいこともない。なんだか、気力みたいなものが、削がれてしまったんだ。夢だった小説も、一応完成した。遺産が尽きたら野垂れ死ぬと思う。君は、将来有望でしょ？ 日本一の美大に通っていて、頭だっていい。見た目だっていい。性格もいい。君は幸せになりなよ。もう僕のことなんて、忘れてさ。私達なんて、言わなくていいよ」<br><br>彼女は何も返事しなかった。<br><br>「さようなら」そう言って家を出た。後ろで彼女がなにか言ったような気がした。でも、振り返らなかった。JRの駅まで歩いていって、新幹線で家に帰った。あっという間だった。思えば、この数カ月は白昼夢のようだった。長くて、短い夢。いろいろなことがあった。幸せとは言えなかったけど、僕はほとんど、満足していた。十分じゃないか。僕は生きた。夢はいつか覚める。そして、現実がやってくる。そろそろ、終わりの時間だ。<br><br>家の扉を開ける。ゴミのちらばる雑多な安アパート。ぬいぐるみはいつものように、ボタンの目でこちらを見ている。いつの日か彼女から貰って、壁に貼り付けていたレターパックが床に落ちていた。<br><br>「ただいま、現実」<br><br>僕は風呂にも入らず布団に入った。二度と目が覚めなければいい。そう思って、睡眠薬を飲んだ。<br><br><br>五章<br><br>21<br><br>それでも、朝は来てしまう。僕の生活はセランと出会う前に戻っていた。あれから何ヶ月たったか、わからない。昼に起きて、薬を飲んで、朝方に寝る生活。失望と諦念が薄っすらと霧のように生活に覆いかぶさり、何をする気も起きなかった。<br><br>今日はずっとYoutubeを見ていた。特に意味も目的もない、流れる時間に身を任せるだけの行為。セラン以外のブログから繋がった人との連絡も、もう途絶えていた。人間関係なんて、そんなものなのだろう。ブログは自殺の話をしすぎたせいでサービス側から封鎖されてしまった。どうやら自殺は嫌悪されているらしい。新人賞は名前すら載っていなかった。一次落ちだ。<br><br>僕は完全に一人になった。僕の書く文章を読む人もいなくなった。晩夏の蝉の抜け殻のように過ごしていた。僕は――ほとんど動かなかったが――動く死体だった。<br><br>時折、春の匂いを風が運んでくるのを感じる。もう、それに対して動く心すらなかった。彼女に送ったのと同じ萩原朔太郎を買いなおしたけれど、何も響かなかった。リルケを読んでも、誰を読んでも、何をしても、そうだった。<br><br>Youtubeに飽きると、Twitterを開く。受験期に辞めたTwitterを最近、また始めた。意味もなく、ただ、タイムラインを眺めていた。くだらない情報といざこざばかりが流れていく。この時間で映画でも見られればと思うが、僕は多分、意味のあることをできない病にかかっていた。全てに飽きるとスマホを閉じる。<br><br>そして海外の通販サイトで買った薬を六錠ほど飲む。これを飲むと夢を見られる。空だって飛べるしテロリストにだってなれる。カーテンの外は見えない。いつまでこんなことを続けるんだろうか。減っていく口座の残高を見ながら、僕はただ、死ぬ方法だけを考えていた。<br><br>「ピンポン」ドアのベルが鳴る。何かを注文した覚えはなかった。<br><br>「はい、ちょっと待ってください」<br><br>錆びついた声帯を震わせて、僕は布団から出て服を着る。ドアを開けると、そこには女がいた。外は暗くて、きっと夜だった。女は黒髪で、顔のない女だった。そう思って考え直して、それはやはり髪を染めたセランかもしれないと思った。驚いたけれど、不思議と僕はそれを受け入れていた。その人は黙っていた。<br><br>「久しぶりだね。どうしたの？」僕は尋ねた。どれくらいの時間が経ったのだろう。<br><br>「二分で準備して。待ってるから」女は言った。<br><br>困惑した。何を準備すればいいのだろうか。僕はとりあえず、顔を洗って髭を剃った。ドアを開けると郵便受けの横に彼女が立っていた。<br><br>「行くよ」<br><br>彼女はそう言うと僕の手を取って、歩き出した。アパートのエレベータを降りて、道に出ると黒のマツダが止まっていた。彼女はその車の鍵を開けると運転席に座った。僕は助手席に座った。エンジンが始動し、車は動き出した。<br><br>「説明は、してくれないの？」<br><br> 彼女は美しい瞳で前をじっと見続けていた。<br><br>「どこへ行くの？」<br><br>「地獄」<br><br>僕は彼女の言ってることをおおよそ理解した。<br><br>「ねえ、まこと、私のこと考えてた？」やっと口を開いた。だが、セランが言うはずのない言葉だった。セランはもっと自信のない人間だった。顔のない女も、こんなことは言わない。<br><br>「忘れるわけがない」<br><br>「そう。私はね、ずっとまことのことだけを考えてた。あなたの小説、読んだ。ある日、送り手の書かれていない封筒で原稿用紙が百数十枚送られてきたの。何度も読んだ。それで、わかった。あなたにとって、書くことは救いだったんだね。小説を書いて、私を消化しようとした。灰色の日々を消化しようとした。あなたのブログもそう。書くことで、自分の中のどうしようもない部分を吐き出そうとしてた。あなたは、生きるために書いていた。そうでしょ？」<br><br>「たぶん」この人はセランなのか？<br><br>「そうだよ。でも、もう、そんなことしないでいいよ。書かなくていい。あなたはもう書かなくていいよ。いい？ あなたに、その才能はあまりないよ。小説は正直に言ってつまらなかったし、描きたいものもこすられ続けたもので、テーマもブレブレ。新人賞なら一次選考で落ちるレベル。あなたのブログも、確かに注目を集めるという意味では惹かれるものがあるけど、質は低い。あなたが、その道を選んでも、待っている未来は、とても暗いものだよ。確かに書くことで死ぬことは避けられるかもしれないけど、それだけだよ。ごめんね。散々言ってしまった。でも悪い意味じゃないの。私にはあなたの作品が理解できる。あなたの作品は私にとっては何よりの傑作だから。カラマーゾフの兄弟よりもね。これは私だから、だよ。私だけ。だからね、私があなたを救ってあげる」<br><br>顔のない女じゃない。セランでもない。誰だろう。車は高速に入り、速度が速まっていった。僕は彼女の語気に押されて、外の景色を見ることも、できなかった。<br><br>「どうして、君は僕を救おうと思うの？」<br><br>「わからない？ 好きだからだよ」<br><br>「どうして、僕なんかを」<br><br>「そんなの、私に聞かないで。人間、わからないことのほうが多いの。理解できないことは、理解できないものとして受け入れないといけない」彼女は続けた。<br><br>「あのとき、あなたは、私に才能があるだとか、美人だとか、言った。でも、そんなの何も関係ないよ。仮に画家になれたとして、それでどうなるの？ どうせ百年後には死んでる。金持ちになっても、有名になっても、評価されても、同じだよ。結局は皆死ぬ。後世に残る作品を、なんてくだらないことを考える人もいるけど、死んだ後の世界なんてわからないんだから、何にも意味なんてない。今がすべてよ。それに他人がどう評価するかなんて、あなたが昔言ったみたいに、どうだっていいことよ。まことの小説もそう。私一人が認めてるんだから、それ以上、必要？ あなたを無視してきた社会とか他人とかに認められたいの？ もしそうなら軽蔑する。私がいる。そうでしょ？ あなたはあと何回、真夜中に死にたいって思うの？ 薬を過剰摂取するの？ できるだけ早くここから抜け出すのが賢明だよ。だからね、考えた。今、私は、まことと一緒にいたいと思ってる。そしてまことが救われる方法は一つ。答えは明白だよ」<br><br>「そうだね……」<br><br>薬が効きすぎているのか吐き気がしてきた。隣の席に座る女が言うことはあまり理解できなかった。だが、彼女が言うことは僕が今まで思ってきたことの総体のような雰囲気だった。正しいのかどうかはわからなかったが、もはやそれしかないように思えた。僕は考える。思い出そうとする、自分を思い出そうとするが、だめだ、頭がふわふわする。フラッシュバックしてくる。真夜中のコンビニに一人で行ったときの街灯の痛々しいほどの眩しさ、母親と一つだった妹の温かさ、セランの手の温度、顔のない女の声、失われてしまった小説……僕はどこにいる？ <br><br>外に目をやる。高速で流れる黒色の背景、ああこれは、あの部屋の窓の外と同じ光景だ。帰ろうか。でも、帰って何になる？ もう、何も無いじゃないか。ああ<br><br>「キスしよっか」彼女が言った。そして、頭を近づけた。最後の予感がした。<br><br>彼女の一重になった目の中には、僕の顔が写っていた。僕はもう、諦めて目を閉じた。唇が触れた。お互いの粘液が絡み合った。そして、車は加速した。<br><br><br>男と女は手を繋いだ。その瞬間、男は、彼でなくなり、女と一つの新しい生き物に――永遠に成り代わった。それまで考えてきた全てのくだらない思想やら思考は全てが白紙になり、時間がゆっくりと引き伸ばされ、その存在は中を浮いていた。その存在はすべてをわかっている。あるいは、存在すらしていない。すべては無意味だ。もう、何も、いらない。言葉なんて、もう、いらない。<br>僕はまだ一緒に息をしていた。つまり失敗したのだ。車は全身を壊し痛みだけが伴いその後は知らない。僕は僕の一生にそこそこ満足していた。やるべきタスクは全てこなして人生を終えたはずだ。<br>私は目が覚めて一人でいる事に気がついた。彼女はどこにもいなかった。前にも後ろにもいなかった。しばらく彼女を探してみたが、見つからなかった。ここにはいないのではないかという結論を待ち引き出さなければならないと自覚した。辛かったがそれが真実なのだろう。つまり、説明すると一緒に心中しようとしたが、失敗して僕は生きて彼女だけ死んだのだ。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n3735240832f0'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 02 Apr 2026 15:13:08 +0900</pubDate>
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      <title>遺書〔仮〕</title>
      <description><![CDATA[<p name="BB4ECF3C-4DFE-4145-A642-BE1A6A04AA7B" id="BB4ECF3C-4DFE-4145-A642-BE1A6A04AA7B">初めましてでないと思います。とゆうかそう信じています。あなたが誰かは分かりませんがただそれでもこれだけは言いたいです。今日まで長い間ありがとうそして迷惑をかけたあらゆる事についてごめんなさい。あなたを傷つける意思は全くなかったと覚えています。〔あやふやにしか書けずすみません。でも本当です。〕<br>あんな事やこんな事がありましたね。楽しくも辛い日々でした。私は自死した訳ですが、あなたを傷つけたり迷惑をかける為ではありませんでした。すみません。今回は不徳的多数に書く形になり誠にすみませんでした。最後のお願いです、許してください。わたしの短い人生であなたを嫌うような真似は何度もしましたし実際そうする時には好きではありませんでした。しかし、その時の話でずっとではありませんし今は違いますよ。だから、勘違いしないでくださいね。これは皆んなに対して書くものなので、あまり個人的な話は出来ませんが、個人についてもしたいです。あなたと私はすれ違う事や意見や立場が合わない事もありました。でも分かったいてほしいのは、あなたが嫌いでは決してないという事です。正直それだけ分かってくれれば他に言う事はありません。長い間ありがとうございました。あなたが好きで嫌いで、まぁ、いわばそんな感じでした。そして何より私を嫌いにならないでください。前と同じ話し方で私の遺体に話してくださいね。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/na3ae9d6f8e20'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 02 Apr 2026 14:50:31 +0900</pubDate>
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      <title>恋愛についての少しの散文</title>
      <description><![CDATA[<p name="34376BBD-F8BE-439F-9AC1-959C4B7E2DEF" id="34376BBD-F8BE-439F-9AC1-959C4B7E2DEF">恋とは素晴らしく情熱的に燃え上がるもので、この恋の為に死んでもいいと思えるような、人生がどれだけ辛くてもこの恋の為だけにもう一<br><br><br>そんな素晴らしいものが恋であると思います。しかし巷に溢れる恋やら恋愛と言われるものは殆が本当の恋愛を真似たままごとです。恋人と心中できないのであればそんなものを恋とは呼びません。少し前、蛙化という酷く滑稽な概念が流行りました。あれは恋人を自分の理想を映すスクリーンとしか考えておらず、だから理想とは異なる行動を相手が取った時に興味が失せるというものです。このような概念が流行するくらいには恋愛は腐敗しているのです。恋愛ではなく単なる投影オナニーです。<br><br>恋愛原理主義者としては、恋愛が汚される事に不快感を覚えてしまうのです。それは自分の夢や憧れを否定されているようなものだからでしょう。<br>そもそも恋愛とは男と女が(あるいは同性同士が)セックスをすれば出来るような、そんなものではありません。恋愛は自分でコントロールできるような代物ではなく、突然起こるものです。そもそも恋愛は皆が出来るようなものではありません。<br><br>恋愛像を提案する映画やドラマ、音楽の腐敗も象徴的です。クズ男にぞんざいな扱いを受けるワタシ、余命宣告されちゃった同級生、<br>そんなものを恋愛とは呼びません。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n7440b33ce2cd'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 01 Apr 2026 02:17:29 +0900</pubDate>
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      <title>〔仮〕</title>
      <description><![CDATA[<p name="2978A27A-25E8-4F84-9BB6-526733543CFC" id="2978A27A-25E8-4F84-9BB6-526733543CFC">今はもう夢でしか会えない人がいる<br>彼女は、僕は彼女について彼女が彼女であるという事くらいしか覚えていない。彼女は彼女なのだ。彼ではなく、彼女なのだ。それだけしか覚えていない。沢山話したし沢山触れ合ったはずだった。<br>彼女は美しい人だった。前髪が綺麗で少し精神が狂っててでも僕だけにはいつも優しくて自分は痛くないみたいな顔をする。電話のさよなら間際に言うさよならが少し震えていてとてもそれが愛おしかったのをまだ覚えている。本当はとても痛いと僕は知っている。その痛みを僕も感じられたなら、少しでも君に近づけたのかな。今となってはもう話せないし会えない。ただ思い出に耽るだけだ。私は飛び降り自殺未遂でアパートから落ちており、記憶障害を持っている。<br>彼女の不完全な思い出だけが脳に響き続け鳴り続ける。私を探してととても悲しく叫ぶのだ。僕は助けてあげたいが、実際はそれが僕の妄想で誰も助けてなんて言ってないと実は知っている。誰からも求められていないのだ。トーク履歴が残っている。自分で他のツールにバックアップを取っていたからだ。気持ち悪いが、私はどこかで自分が死ぬと分かっていたのだろう。その辿々しいトーク履歴を見返す。そこにしか彼女はいないし彼女の残した温かみもないのだから。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n0ebe748850e0'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 31 Mar 2026 13:43:30 +0900</pubDate>
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      <title>20260330</title>
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      <description><![CDATA[<p name="9A6270E6-02B4-40F7-89C7-D9AA618DF497" id="9A6270E6-02B4-40F7-89C7-D9AA618DF497">今日、久しぶりの友達と遊んだ。映画を見てボーリングをした。楽しいはずのものだった。会話は二言で終わる。俺は続けるべきものを止めてしまった。楽しくなさそうだった。僕は何がしたかったんだろう。友達たちは受験勉強をしているらしい。彼女がいるらしい。楽しそうだなと思った。友達といるというのは楽しいものなのだろうか。かつては楽しかった、と思う。今は、わからない。楽しいはずのものを楽しめなかった。僕はずっとああななのかなと考えると凄く暗い気持ちになる。誰か僕を愛してくれ。女子高生が行く。バスの中、通学路、安っぽいショッピングセンター。彼女達の世界に俺は、存在していない。僕は誰の視界にも映らない。着飾っても、誰もみてくれない。自分がすごく嫌になった。すごく近くにいるのに、とても深い溝があって僕は、触れられない。触れられない！ああ！何がハイデガーだよくそが。何がイデアだ。くそ</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n18ffe27f2791'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 30 Mar 2026 18:28:55 +0900</pubDate>
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      <title>謝礼</title>
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      <description><![CDATA[<p name="FD4BAEF8-6C74-4CB8-9D5F-7451DE8A1EB5" id="FD4BAEF8-6C74-4CB8-9D5F-7451DE8A1EB5">去年の夏頃にTwitterを始めてから、友達や恋人ができて、振り返ってみればとても貴重な体験だったと思います。  <br>活動する中で炎上したり、冷笑されたりといったこともありましたが、それも含めて、総量としては感謝の方が上回っています。<br><br>これまで関わってくれた皆さん、本当にありがとうございます。<br><br>至らない部分も多く、誰かを傷つけたり、不快な思いをさせてしまったこともあったかもしれません。それでも関わってくれたことに、感謝しています。<br><br>今回この文章を書いたのには理由があります。  <br>当時、好きだった人が突然いなくなってしまって、「ありがとう」や「さようなら」は、言えるうちに伝えないといけないものだと実感しました。<br><br>だからこそ、不特定多数という形にはなってしまいますが、ここで改めて感謝を伝えさせてください。<br><br>Twitterを始めてから、僕の人生はほんの少しだけ良くなりました。  <br>その「少し」は、少しですが自分にとっては確かな変化です。<br><br>ありがとうございます。  <br>そして、これからもよろしくお願いします。<br><br>（最後に一応言っておくと、まだ消えません。）</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n590731f29196'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 29 Mar 2026 20:24:19 +0900</pubDate>
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      <title>午後の逢瀬</title>
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      <description><![CDATA[<p name="5973B196-59B6-4540-9584-3B5B0FF251BC" id="5973B196-59B6-4540-9584-3B5B0FF251BC">自分が特別だと思い込もうとしても結局、あの子に話しかけられたら<br>そんなものは全部吹き飛んで<br>ヘラヘラニヤニヤするしかないんだろうな<br>不幸面しても、あの子に笑いかけられたら幸せなんだろうな<br>どうでもいいからああ<br>好きだったな<br>顔は思い出せないし、名前も覚えてないけれど<br>笑いかけてくれた彼女の笑顔は覚えている<br>幸せだった<br>全てが報われたような気がした<br>何もかもを忘れてただ幸福だった<br>笑顔をシナプスの電気信号に閉じ込めている<br>忘れないよ<br>君の瞳が僕の瞳を写したんだよね<br>理科室で午後2時頃<br>忘れない。大切な僕の僕だけの思い出</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n7bff4c288d39'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 26 Mar 2026 01:00:26 +0900</pubDate>
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      <title>あなた</title>
      <description><![CDATA[<p name="210A08E3-A0A1-40C4-9537-5856B474886B" id="210A08E3-A0A1-40C4-9537-5856B474886B">あなたあなたあなた<br>僕の頭の中はあなたで出来ていた。<br><br>どんな曲も、どんな物語も、<br>最後には君の顔になる。<br>君なんだよ、全部。<br><br>あの作家も、あの暗い歌も、<br>最初から君のことを書いていたみたいだ。<br><br>ねえ、<br>君の声が聴きたいよ</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n93487ddd84ae'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 25 Mar 2026 19:37:26 +0900</pubDate>
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      <title>痛い</title>
      <description><![CDATA[<p name="7264C630-7B64-4F8A-A954-D2E200BB51F0" id="7264C630-7B64-4F8A-A954-D2E200BB51F0">怖い。凄く怖くなる。俺は何もできないんじゃないか。何日も経ったような気分になる。死にたくなる。怖い。俺は何もできない人間なんじゃないか。目の前の今やるべきことをできない。何故か手が動かない。俺はだめだ。こんな事を言っている事自体もだめだ。さっさと手を動かすしか無いのに。同じような問いをオウムみたいに何度も反復しているだけだ。なんの成長もない。中学生の頃から俺は何も変わっていない。不愉快だ。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n6656ddd2e388'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 25 Mar 2026 00:20:10 +0900</pubDate>
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    <item>
      <title>哲学と私2</title>
      <description><![CDATA[<p name="54D09C82-606A-4FA6-AD4F-1F86D99C3E6A" id="54D09C82-606A-4FA6-AD4F-1F86D99C3E6A"><br>哲学がなぜ我々に必要なのか<br><br>哲学は難解だとよく言われる。そしてその難しさゆえ、実生活に役立たないという批判を受けることも多い。実際、哲学を学んでもお金が増えるわけではないし、簿記やTOEICの勉強をしていたほうが経済的にははるかに効率的だ。だが、それでもなお、哲学は私たちにとって深い意味を持つ。お金や実用性を超えたところに、その存在意義がある。<br><br>哲学を学ぶ理由、それは「どうしようもない孤独感を埋めるため」だと私は思う。日常生活の中でふと、「私はなぜ生まれてきたのだろう」といった問いが頭をよぎることはないだろうか。そんな問いを知り合いに投げかけても、「それって哲学じゃない？」と軽くあしらわれてしまうかもしれない。しかし、そういった問いこそが、長く自分の中に残り続ける。<br><br>哲学は答えを教えてくれるわけではない。だが、誰もが抱える不安に寄り添ってくれる。<br><br>ジャン＝ポール・サルトルやマルティン・ハイデガー、セーレン・キェルケゴールの著作はどれも難解で、正直ほとんど理解できない。それでも、そこに書かれている不安だけは、自分の中にあるものとよく似ていた。<br><br>生きる意味や存在の意義といった問いは、誰しも一度は考えるものだと思う。しかし、それを口に出すことはあまりない。だから、いつの間にか自分の中にだけ残る。<br><br>哲学は、その孤独を消してくれるわけではない。<br>ただ、同じ問いを抱えたまま考え続けていた人間が、確かにいたことを教えてくれる。<br></p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n3ae69570db70'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 24 Mar 2026 11:54:20 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>PS iloveyou</title>
      <description><![CDATA[<p name="5E3BE0D3-D426-4915-AC3E-D6A983C8CDA0" id="5E3BE0D3-D426-4915-AC3E-D6A983C8CDA0">病院の待合室で手紙の文面を考えています。書く前は何かとても伝えるべきことがあるような気がしていたのですが、いざペンを握ると進みませんね。思いだけがあって、それはなかなか言葉に繋がらないみたいです。僕はあなたと知り合うまで本当に一人で、毎晩はそれはそれは陰惨でひどいものでした。でもあなたと言葉を交わすようになってから日々に少し光のようなものがさしてくるようになった気がします。端的に言えば楽になりました、生きるのが。<br>ぼくがよく行く図書館の前には猫がいます。太った白猫です。誰も借りないような本をたくさん借りていく僕を、いつも優しい瞳で眺めていました。彼、または彼女(名前はしりません)を最近見ません。僕はあなたが猫だったのではないかと疑っています。失礼だったかもしれません。でもぼくにとっては嬉しいことなのです。<br>ビートルズの曲にP.S. I Love Youという曲があります。中学生の頃に初めて聴いて、you you you という部分がなぜか今でも耳に残っています。引用でしめるのが正しいのか自信がありませんが、P.S. I Love You。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n210f6742bb66'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 24 Mar 2026 11:16:10 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/inthecat/n/n210f6742bb66</link>
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    </item>
    <item>
      <title>手紙</title>
      <description><![CDATA[<p name="179A6B95-6F0F-4A61-BF5F-375EA7BE7102" id="179A6B95-6F0F-4A61-BF5F-375EA7BE7102">この手紙は個人的なもので人に見せるようなものではないが承認欲求が溢れ出したので公開します</p><p name="368BFAB6-4A19-44E3-B213-21D9CF7DEB0B" id="368BFAB6-4A19-44E3-B213-21D9CF7DEB0B">お元気ですか？という言葉が何故か出てきた。元気なのも元気じゃないのも知ってるのにね笑。僕はあなたから貰った日記を毎晩辛い時に読んでます。正直返したくないです。ずっと僕のものにしておきたいです。こう言うのも良くないけど、僕は返したら眠れなくなってしまいます。こちらはまだ半袖で過ごせます。そちらはどうですか？返事が来る頃にはもうとても寒いのだろうなと思います。何を書くべきかとても悩むけれど、温かくして寝てね。<br>それだけはたぶん絶対に確かです。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n4d75be23440e'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 24 Mar 2026 10:54:26 +0900</pubDate>
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      <title>志望動機</title>
      <description><![CDATA[<p name="0CB82B53-6114-4193-A585-F4D107D9F14B" id="0CB82B53-6114-4193-A585-F4D107D9F14B">人間はなぜ生きなければいけないのか。私は16歳で鬱病を患い、その問いと対峙した。そんな時にキルケゴールやハイデガー、シオランと出会った。身の回りの人に聞いても軽くあしらわれる根源的な問いを人生をかけて探求する人がおり、それが体系的な学問としてある事に感動した。極めて個人的に欲求で私は哲学を学び始めた。<br>一方世界では今、AIが急速な発展を遂げており、人間の役割だった事が非人間的に存在に代替されている。私はその進化に興味を持って東大工学部が実施するGCIという専門的な講座を受け、実情を知った。AIは学習の仕組みからして人間的であった。だからこそ、人間が人間である事の意味、人間が生きなければいけない意味が問われていると思う。そしてそれを探求できるのは哲学だ。私は社会的な必要性と個人的な興味関心の両方から哲学を学びたい。そして将来は哲学の研究者として人間が生きるべき理由を探求したい。しかし哲学を学ぶ上で、哲学のみであってはいけないと思う。なぜなら人間の思想はその活動、つまり文化によって表現されるからだ。哲学が人間の本質を探求するものだとしたら、それが形になったものが芸術や文学といった文化だと思う。貴学は幅広い単位取得を許し、日本の総合大学で唯一、前述した文化やAI、そして哲学全ての分野で高いレベルの教育を実現している。私にとって貴学以上に必要な大学は存在しない。私は貴学への入学を強く望む。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n0970830055c5'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 24 Mar 2026 10:04:51 +0900</pubDate>
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    <item>
      <title>ハイデッガー存在と時間を個人的に解釈</title>
      <description><![CDATA[<p name="60BB905D-2DD8-4D2C-BC9A-789F0C5C60B2" id="60BB905D-2DD8-4D2C-BC9A-789F0C5C60B2">論文というよりは個人的なノートです。</p><p name="6F2D7AC0-F8FF-4C7E-A137-02F4800743C9" id="6F2D7AC0-F8FF-4C7E-A137-02F4800743C9">! 内在性<br>人間存在の根本本質は現。現の本質契機は情状性であり、情状性とは気分。<br>倦怠は存在が重荷になっている、自分の存在に飽き飽きしている状態。被投性(自分自身から逃げられない。わたしの実存が開示され、わたしは自分自身の現に否応なく委ねられているという根源的な事実が開示される。この逃げられないという事実を被投性と呼ぶ)<br>- これは気分によって引き起こされる。(何かに熱中しているときに哲学的な問いを持つことは無いだろう。憂鬱によって被投性は姿を現す)<br>- 気分は選択不可能である。どこからともなく、現れる気分によって実存を開示される(通告される)<br>- 気分は存在仕方というより、人間が世界と関係する仕方の本質を決める(教える)<br>- ということは、人間存在は何らかの比知のもの(無意識、性格、身体、性格)によって根本的に規定されるといえる。<br>- 気分は人間が「自分自身の存在についての根本的な脅えと不安を持っている」ことを教える<br>- 恐れは根本的な存在不安を現し、けだるい気分は存在の重荷を示唆する。<br>- 気分は向こうから告げを知らせ、それにより「わたし」は気分を知る。(気分は懇意性を超越している。気分は自分のなんであるかを知らせ、それが実存の根拠になる。)<br>- 情状性(ハンマーが重たい)を感じ取る事が了解(使いにくい)。了解の受け取り方が解釈(だから軽い物に持ち替えようと思う)。解釈を第三者に伝える事が陳述(共有)である。<br>- 頽落とは。平均的な日常生活を送る人間は基本的に本来的な生き方からずり落ちている状態にある。これが頽落である。詳しくは次へ<br>VRで自分の姿などを自己決定できるようになったとしても、根本的な自我は変えられない(被投性からは逃げられない)<br>ハイデガーの云う気分(情状性)はニーチェの力と似ている。エロスや欲望とも呼べる。現象学における、最小単位。これ以上遡行はできない概念。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/na8ba055a2c2a'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 23 Mar 2026 21:06:38 +0900</pubDate>
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      <title>小説と漫画の媒体の性質の違いについて</title>
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      <description><![CDATA[<p name="438C5355-18F4-42B3-9E55-116443D0AD69" id="438C5355-18F4-42B3-9E55-116443D0AD69"><br>批評してみました。</p><p name="1782C7AD-2AFB-4404-BCAE-A79652C9493A" id="1782C7AD-2AFB-4404-BCAE-A79652C9493A">漫画の同時代性。漫画と小説(書籍)の違い。<br><br>小説は時代を超えて受容されるわ例えば国語の授業などで古典を扱ったことはないだろうか？小説は完成された形態としたの魅力を持つ。しかし漫画は殆ど同時代にしか消費されない。ワンピースやナルトなど総発行部数が一億部を超えるような、ごく一部の超上位層はかろうじて世代を超えているが、それ以外の漫画は一時代に爆発的なヒットをしたとしても読みつがれることはない。他にもAKIRAや攻殻機動隊、手塚治虫作品などカルト的な人気を誇り、アーカイブされていくような普遍性を持った作品も無いわけではないが、しかしこれも同じで、数は少ない。どうして漫画は同時代にしか消費されず普遍性を持ちにくいのか<br><br>その原因を考えると共に、漫画はどのようにすれば<br>と思う。<br><br>仮説<br>漫画はそもそも歴史が短いから、古典が存在できないのではないか。<br>漫画に国語の授業で習うようなまくらのそうしのような話はないであろう〔或いはあるかもしれないが、私は知らない<br>仮説<br>流行、時代の文脈に大きく原因しているため、古い作品に魅力を感じにくく、新しく産まれ作品にしか価値が産まれにくい。<br><br>仮説<br>供給源が基本的に雑誌であるため、出版社がアーカイブより、新規作品を押している。仮説上とも関連して、古い作品に魅力が産まれにくい<br><br><br>漫画は雑誌であり、雑誌が同時代性を尊重したメディアである為、漫画もそうである。<br>批判:普遍性を持った漫画もある。<br><br>仮説<br>手が届きにくい。読者にとって最も直接的なとなるのがここである。古い作品に接触する機会が少ない。<br><br><br><br>対局として教養主義があるだろう。教養主義において、古典<br><br>例えば雑誌は基本的に「この号が名作だ」というような受容はされない。であるから保存されることもない。<br>漫画は雑誌と近いところにあるのかもしれない。<br>漫画の同時代性。漫画と小説(書籍)の違い。<br><br>小説は時代を超えて古典として読みつがれる。そうでなくても世代を超えて受容される。しかし漫画は殆ど同時代にしか消費されない。ワンピースやナルトなど総発行部数が一億部を超えるような、ごく一部の超上位層はかろうじて世代を超えているが、それ以外の漫画は一時代に爆発的なヒットをしたとしても読みつがれることはない。他にもAKIRAや攻殻機動隊、手塚治虫作品などカルト的な人気を誇り、アーカイブされていくような普遍性を持った作品も無いわけではないが、しかしこれも同じで、数は少ない。どうして漫画は同時代にしか消費されず普遍性を持ちにくいのか<br><br>その原因を考えると共に、漫画はどのようにすれば<br>と思う。<br><br>仮説<br>漫画はそもそも歴史が短いから、〔或いはするかも知らないが、私は知らない〕古典が存在できないのではないか。<br><br>仮説<br>流行、時代の文脈に大きく原因しているため、古い作品に魅力を感じにくく、新しく産まれ作品にしか価値が産まれにくい。<br><br>仮説<br>供給源が基本的に雑誌であるため、出版社がアーカイブより、新規作品を押している。仮説上とも関連して、古い作品に魅力が産まれにくい<br><br><br>漫画は雑誌であり、雑誌が同時代性を尊重したメディアである為、漫画もそうである。<br>批判:普遍性を持った漫画もある。<br><br>仮説<br>手が届きにくい。読者にとって最も直接的なとなるのがここである。古い作品に接触する機会が少ない。<br><br><br><br>対局として教養主義があるだろう。教養主義において、古典<br><br>例えば雑誌は基本的に「この号が名作だ」というような受容はされない。であるから保存されることもない。<br>漫画は雑誌と近いところにあるのかもしれない。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n8e282c66f2f9'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 23 Mar 2026 20:30:57 +0900</pubDate>
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      <title>償い</title>
      <description><![CDATA[<p name="0D857B8E-0920-480F-9EF7-F957940DBA7A" id="0D857B8E-0920-480F-9EF7-F957940DBA7A">これを本当に書くべきか悩んだ。僕の罪について。あの時、彼女に永遠に消えない傷をつけてしまったことについて。当事者に伝わらないように、部分的に嘘を混ぜました。<br>私はこれ以後罪を抱えて生きて行くのだろう。だが、分からない感じられないし痛くもないのだ。私は自分が悪人になったようで辛いが、私に今更出来る事などないしただ嘆き悲しむだけだ。<br><br>どうにか陽キャグループの一員として高校生活をスタートした私は、順調なスタートを切った。そのなかで一人の女性と出会った。Aちゃんである。Aちゃんは陽キャグループのなかではいじられキャラというスタンスだった。セミロングの茶髪、少し汚れたローファー、美人でも不細工でもなく、少し抜けた顔をしていた。天然キャラだった。<br><br>Aちゃんは、常に誰かを思いやる優しい子だったと思う。3ヶ月ほどたったとき、彼女が陽キャグループのアルファオスのような男(B)と付き合ったという噂を聞いた。その男はとにかく性格が悪く、いじめを常習的に行うような男だった。だから私は彼女を心配したが、ふたりとも楽しそうにやっていたから、私が文句を言えるところはなかった。<br><br>ある日、男達のLINEグループに、Aちゃんのハメ撮りが回ってきた。はじめ見た時、私はそれが何なのかわからなかった。交わっていることを知った時、吐き気がした。どこかの公衆便所で撮影された2分ほどのそれは、人間のセックスというよりは、便器に詰まった糞尿が絡まって出口を失っているような醜さだった。Bを含めた三人ほどの男がAちゃんを犯している動画だった。送信者はBだった。自分の彼女の動画を送る神経もわからなかったし、複数人なのも理解できなかった。動画内の男達に猛烈な嫌悪感を抱いた。他の男達は「えっろ」などと言っていた。誰一人、止めようとはしなかった。私を含めて。ここで止めるとBに目をつけられるのは確実だった。それを言い訳にして私は目を背けるだけだった。<br><br>その夜、私は夢を見た。羊が空を飛んでいる夢だ。でも飛行機がやってきて羊は粉砕される。なんて悪夢だ、と思った。でも、現実よりは遥かにマシだった。<br><br>翌朝クラスラインにその動画が貼り付けられていた。お調子者的な立場だったやつが送信していた。増えていく既読。私は現実が遠のいていくような感覚を覚えた。これはまずいと。しかし、だからといってどうすることもできず、いつも通りに登校するしかなかった。<br>私はこれ以後罪を抱えて生きて行くのだろう。だが、分からないし感じられないし痛くもないのだ。私は自分が悪人になったようで辛いが、私に今更出来る事などないしただ嘆き悲しむだけだ。ただあの時の事を謝りたいごめんね気づけなくてと</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n85ab11f1d079'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 23 Mar 2026 18:50:50 +0900</pubDate>
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      <title>小論文〔仮〕</title>
      <description><![CDATA[<p name="42BC2091-1C52-48F4-9BC9-1234EDEF873D" id="42BC2091-1C52-48F4-9BC9-1234EDEF873D">序論：才能とは何か<br><br>「才能」と聞くと、誰もが生まれつき持っているものだと考えがちです。しかし、実際には、その人が何を吸収してきたかによって才能が形作られるという側面も大きいのです。<br>インプットがアウトプットを決める<br><br>例えば、クラシック作曲家のエリック・サティが他とは違う独特な音楽を作り出したのは、彼がルーマニア音楽に影響を受けていたからです。サティの才能は、彼が他の作曲家とは異なる情報をインプットしていた結果として発揮されました。<br><br>これをアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』にも当てはめることができます。この作品が革新的だったのは、アニメというジャンルに実存主義的な哲学や特撮の要素を取り入れたからです。つまり、エヴァンゲリオンが成功した理由は、監督の庵野秀明が通常のアニメ制作の枠を超えたインプットを得て、それを独自にアウトプットした結果と言えるでしょう。<br>才能とは「異なるインプット」の結果<br><br>クリエイティブな分野で「才能がある」とされる人たちの多くは、特別な生まれつきの素質を持っているだけではなく、他とは違う視点や知識をインプットしてきた結果、他者とは違うアウトプットを生み出しています。才能が「他と違うもの」であると感じられるのは、そうした多様なインプットが影響しているからです。<br>異なるインプットの重要性<br><br>例えば、スティーブ・ジョブズがiPhoneを作り出した背景には、彼がテクノロジーだけでなく、デザインや人間工学など多様な分野からの影響を受けていたことが関係しています。ジョブズの「才能」は、彼の幅広いインプットとそれを適切にアウトプットした点にこそあります。<br>結論：学び続けることが才能を作る<br><br>最終的に、才能というのは生まれつきのものだけではなく、日々何を学び、何を吸収していくかにかかっています。異なるものをインプットし、それを自分の表現としてアウトプットすることで、誰でも「才能がある」と見られる可能性があるのです。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n572194f1e676'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 23 Mar 2026 17:56:39 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/inthecat/n/n572194f1e676</link>
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    </item>
    <item>
      <title>ドストエフスキー地下室の手記レビューしてみた</title>
      <description><![CDATA[<p name="456AB3CF-0098-47CF-8236-889159EE101D" id="456AB3CF-0098-47CF-8236-889159EE101D">個人的 ドストエフスキー 地下室の手記論<br><br>「俺は病んでいる……。ねじけた根性の男だ。人好きがしない男だ。」いささか気持ちの悪い書き出しで始まるこの傑作短編小説は現代人、つまりあらゆる価値を相対化され信仰するべき絶対を見失い、全てからあぶれ、己の存在の拠り所を見失った私達にとってバイブルとも言うべき寓話になりうると、私は思う。キリストがキリスト足り得たのはその受難にある。日本人にとって磔はあまりに遠い。感情を移入できる距離にはない。しかし彼は(この小説の主人公は)、彼の受難は<br><br><br>彼は根本的に拠所となる所を持たない。アイデンティティがないと言い換えることができる。「俺は意地悪な人間になれなかっただけじゃない。何者にも――意地悪にも善良にも、手のつけられないろくでなしにも、正直者にも、英雄にも、虫けらにさえ、なりえなかった。」12-13p<br>ここには国家、伝統、仕事、家庭、恋人、仲間の何も無い。自己喪失している。<br>そこで彼が行うのは自傷的自己検証である。「自らの」<br>なるほどたしかに<br><br>つまり、あなた方が自分たちの世代特有の悩みだと思っているそれは160年前の文学者によって既にこれ以上無いほど詳細に描かれているものなのだ。すなわち私達は孤独ではない。<br><br>例えば中島梓がコミュニケーション不全症候群で指摘したような<br><br><br>彼の問題として、他者性の欠落がある。哲学の全てが自己の内面との対話の中で構築されており、そこには他者が存在していない。頭の中の、他者は<br>マルティン・ブーバーに言わせれば反射運動でしかないそれを繰り返し、遂に<br><br>彼は他者性を嫌悪し、自らの深い内的世界に入っていく。しかしそれは娼婦リーザに対する自己の(加虐的な)欲求を満たすことによって強制的に壊される。<br><br><br>自己との対峙とは自己の喪失の第一歩<br>個人的 ドストエフスキー 地下室の手記論<br><br>「俺は病んでいる……。ねじけた根性の男だ。人好きがしない男だ。」いささか気持ちの悪い書き出しで始まるこの傑作短編小説は現代人、つまりあらゆる価値を相対化され信仰するべき絶対を見失い、全てからあぶれ、己の存在の拠り所を見失った私達にとってバイブルとも言うべき寓話になりうると、私は思う。キリストがキリスト足り得たのはその受難にある。日本人にとって磔はあまりに遠い。感情を移入できる距離にはない。しかし彼は(この小説の主人公は)、彼の受難は<br><br>彼は根本的に拠所となる所を持たない。アイデンティティがないと言い換えることができる。「俺は意地悪な人間になれなかっただけじゃない。何者にも――意地悪にも善良にも、手のつけられないろくでなしにも、正直者にも、英雄にも、虫けらにさえ、なりえなかった。」12-13p<br>ここには国家、伝統、仕事、家庭、恋人、仲間の何も無い。自己喪失している。<br>そこで彼が行うのは自傷的自己検証である。「自らの」<br>なるほどたしかに<br><br>つまり、あなた方が自分たちの世代特有の悩みだと思っているそれは160年前の文学者によって既にこれ以上無いほど詳細に描かれているものなのだ。すなわち私達は孤独ではない。<br><br>例えば中島梓がコミニケーション不完全症候群で指摘したような</p><p name="6769B9B3-0391-43EF-A3AF-B51C3E287EB1" id="6769B9B3-0391-43EF-A3AF-B51C3E287EB1">自己との対峙とは自己の喪失の第一歩</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/nc92c8a3ba8e9'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/252316851/profile_4e7af2f7e42f1a65fcac905fad2afd2f.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 22 Mar 2026 23:08:25 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/inthecat/n/nc92c8a3ba8e9</link>
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    </item>
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      <title>枯れた思い出</title>
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      <description><![CDATA[<p name="27737ED1-6E7C-4ACC-AA17-901A73E09F2F" id="27737ED1-6E7C-4ACC-AA17-901A73E09F2F">学校と家の間にあるコンビニに私は立ち寄った。朝ご飯のおにぎりを買うためだ。食事などする気もなかったが、ルーティーンだった。コンビニから出ようとした時、制服姿のまま泣いているAちゃんを見つけた。彼女はしゃがんで泣いていた。私は横に立って、しばらくじっとしていた。何も言えなかったが、立ち去る勇気もなかったのだ。数分経って、彼女は私のジャケットの裾を掴んだ。その時、これ以上無いほどに醜い高揚感を感じた。私は、彼女の指に触れた。指が絡み、お互いを掴んだ。<br><br>「したい？」彼女はそう聞いた。私は、理解していた。彼女は性交渉によってしか関係を築くことが出来ないと思い込んでおり、本当は私を愛しているわけではなく、ただ助けてほしかっただけだということを。けれど、私は「うん」と言った。その時、私は自分の残酷な醜さを忘れて、これから行われるであろうことを想像していた。<br><br>私の手を掴んだ彼女は立ち上がり、住宅街の方へ足を進めた。古く、狭そうなアパートの前にたどり着いた。彼女は「ここだよ」と言った。私はただ頷き階段を登った。彼女の狭いアパートには、チューハイの缶が散らばっていた。彼女は申し訳無さそうに言った。「ごめんね汚くて」彼女のせいではないのは明らかだった。この家の他の誰かが汚したものだった。私は異性の家に上がることなど久しくなかったから、何も答えられなかった。彼女は水道水をコップに入れて出してくれた。そしていきなり服を脱ぎだした。横腹や、肩の下、胸の上辺りに痣があった。そんなところに痣ができる理由は一つしか無い。私がなにか言いかけると「ほら早く脱いで」と彼女は言った。私はズボンを脱いだ。彼女は慣れた手つきで私のそれに触れ口に含んだ。無言で、行為は行われた。私の思考はほとんど停止し、ただ身を任せた。<br><br>どこからか彼女が出してきたゴムをつけた。私は温かさに包まれた。行為はいつの間にか終わっていた。時計の針は10時30分を指していた。彼女は「私のこと好き？」と問うて、キスを迫った。私は何も言えずに唇を合わせた。少し甘い唾液だけが記憶に残っている。「そろそろお母さん帰って来るから」と言って私を家から追い出した。この時間に帰って来る母親…<br><br>私は魂が抜けたようにふらふらと学校へ行き、先生に怒られた。見つめ合ってニヤけている男達が酷く気持ち悪く見えた。誰一人Aちゃんの話をせず、しかし全員が確実に秘密を共有していた。クラスメイトたちは、なぜか連帯感があるように見え、いつもより仲が良さそうだった。私はそれに耐えられなくなり、昼食の時間に早退した。<br><br>それ以来、彼女は二度と学校へ来なかった。私は2週間学校を休んだ。どこへも行けなかった。食事も喉を通らず、体重がかなり減った。自分が犯してしまった罪と、彼女のことを思った。彼女のアパートへ行こうと、何度も考えたが、その度に足が動かなくなり、呼吸が加速し、動けなくなった。彼女について、たくさんの噂が飛び交った。東京へ行った。半グレの彼氏を作った。円交している。云々。それらに信頼に値するものは一つもなかった。でも、彼女がもういないことだけは確かだ。<br><br>あのコンビニの前を通る度に、私は吐き気を覚え、自分を殺したくなる。浄化できないこれを、どうすればよいのだろうか。僕は罪を犯してしまった。彼女を傷つけてしまった。どうにかできたかもしれないのに、どうもしなかった。弱さに漬け込んで自らの欲を満たそうとしてしまった。彼女は死んだのかもしれない。僕に、恋愛する資格なんてない。彼女を癒せたかもしれないのに、僕は醜い性欲でそれを全て壊した。未だに、幸せを感じると思い出す。思い出さなければならない。クラスメイト達は悪い。僕含めて全員が加害者だ。あの学校はもうやめた。あんな地獄で行きていくなんて狂っていると思う。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n2559747d6076'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/252316851/profile_4e7af2f7e42f1a65fcac905fad2afd2f.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 22 Mar 2026 14:43:19 +0900</pubDate>
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      <title>私を構成する本〔小説〕</title>
      <description><![CDATA[<p name="02A335F5-72D1-4AAA-ADCB-0C4B997A93DC" id="02A335F5-72D1-4AAA-ADCB-0C4B997A93DC">ドストエフスキー、白夜<br>ドストエフスキー、地下室の手記<br>ドストエフスキー、カラマーゾフの兄弟<br>村上春樹、海辺のカフカ<br>村上春樹、1973年のピンボール<br>村上春樹、一人称単数<br>村上春樹、ねじまき鳥のクロニクル<br>JKユイスマン、さかしま<br>江國香織、ホテルカクタス<br>江國香織、東京タワー<br>村上春樹、女のいない男たち<br>村上春樹、ダンスダンスダンス<br>村上春樹、ノルウェイの森<br>村上春樹、街とその不確かな壁</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n0d92f4936a1b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 19 Mar 2026 11:09:09 +0900</pubDate>
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      <title>消えていく者達について</title>
      <description><![CDATA[<p name="FEC69545-BF8F-4A74-B931-7B021593CCBB" id="FEC69545-BF8F-4A74-B931-7B021593CCBB">君、正確には君達は音も立てずに消えてしまった。僕が悲しむ前に君達はもういなかった。僕は叫んでごめんねと呟くがこの声が届くはずはない。僕は孤独に嘆くだけだ。僕が幾ら悲しくなって涙を流して君達を求めても返事は何も帰ってこない。僕、そんなに悪い事をしたかなしてないと思いたいそう信じたい。でもたった一つ分かる事実として君達は傷ついて僕から離れていった。別離は常に悲しい。大好きな好きな人は消えてしまった。友達達もそれに追従するように消えていく。僕は止めるけどそれくらいで止まるのなら初めからやってないだろう。僕の身の回りの人は誰1人例外なく皆んな消えていくし、僕を嫌って離れていく。僕は止めるけどこの声はきっと届かない。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n97b32e7a9314'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 19 Mar 2026 09:43:24 +0900</pubDate>
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      <title>痛み</title>
      <description><![CDATA[<p name="FB88D81F-861F-4DDA-85AE-FAF971EE98CC" id="FB88D81F-861F-4DDA-85AE-FAF971EE98CC">痛い苦しい寂しい僕を嫌ったあなたに愛を求めるけどりこの声は絶対に届かない。というか誰にも届かない。僕が死んだら君は、君達は気を引いてくれる？ねえ、僕今とても寂しいし悲しいし辛いんだよここに来て抱きしめて嘘でも良いから大丈夫なんてて呟いて。<br>出来る事といえば過去に縋る事だけだ。過去の好きな人にこんな時は頼ってしまう。彼女について考えてしまうんだよ。君のいない夜を知らない。毎晩涙と共に君が僕を救う。ねぇ、君は知らないし僕がまだ君に執着してると知ると嫌な気を持つだろうけど、大好きだったし大切だったし消えた今でもまだ思ってしまうよ。最後にありがとうとごめんねを言いたい。ごめんね全く君のほしい行動を出来なくて。でも僕が死んでも君は責任を感じるだけで別に嬉しくはないよね。ごめんね。まだ君と会ったあの街あの景色あの空を回想してしまうんだ。</p><br/><a href='https://note.com/inthecat/n/n015006086c40'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>湿度サブ</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 18 Mar 2026 23:04:54 +0900</pubDate>
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