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捨てて良いものと捨てられないもの

わたしは、物が捨てられない

物だけじゃなくて
小さな感情や、思い出みたいな
形にならないものも、ずっと持ってしまう

だから、いろんなものが溜まっていく

ある年、もう限界だと思って「捨てよう」と決めた

洋服や着物を、まとめて手放した

部屋の空気が、一気に流れた

そのあとで、引き出しの奥から
ひとつの封筒が出てきた

父の字で

「少しですが、何かの足しにしてください」

そう書かれていた

中身のことは覚えているのに
それをもらった記憶は、ほとんど残っていなかった

父も大変な時期だったはずなのに
いい歳をした娘に、そっと入れてくれていたものだった

その封筒を見たとき、ようやく思い出した

そして、気づいた

形に残っているから、思い出せたものがある

もし、これがなかったら
たぶん、そのまま消えていた

そう思ったら、手が止まった

捨てていいものと
捨ててはいけないものがある

でも、それは
簡単には分からない

だからわたしは
無理に全部を捨てようとは思わなくなった

残るものは、残るし
残らないものは、消えていく

父はもういないけれど
あの封筒を見つけたときから

たしかに、わたしの中にいる

わたしは、少しずつ
父に似てきている

それが嫌だったはずなのに

いまは、少しだけ
そのままでもいいと思っている

これも、たぶん
わたしの中に残るもののひとつ

これが、いまのわたしの遺言みたいなもの

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ひとえ 感謝いたします。