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    <title>アオメダカ</title>
    <description>　ファンタジー小説の創作を主にしています。
　最近は、「彼女はAI の夢を見るか？｣を主力にしています。あと、ダークファンタジー小説「果てしなき果てへ｣「ゼロワン」「魔族の剣・魔女の杖｣等を書いています。

　ファンタジー小説、漫画、アニメ、映画好きです。
　よろしくお願いします</description>
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    <copyright>アオメダカ</copyright>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】見えざる守り手と、その聖女――闇は、光に焦がれて　第一話</title>
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      <description><![CDATA[<p name="78374f49-df3c-4559-b7ec-dbd614661af4" id="78374f49-df3c-4559-b7ec-dbd614661af4"><strong>あらすじ</strong></p><p name="5e501752-f415-4b35-9f58-4315a38c1085" id="5e501752-f415-4b35-9f58-4315a38c1085">　地下の闇に棲む怪物は、聖堂の片隅に、誰も見ていない時にだけ祈る聖女セレーネを見出す。光に焦がれた怪物は、触れれば穢すこの手で彼女には決して触れぬまま、彼女が最も気高く在れるよう汚れ仕事を引き受けると誓う。彼女より高く見えた聖女を、貶める者を、闇から消していく。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n22906200c062'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 25 Jun 2026 19:40:53 +0900</pubDate>
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      <title>おすすめのアニメ　ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです（誇）!</title>
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      <description><![CDATA[<p name="14992ee8-6806-473e-a738-0adf48f2aa50" id="14992ee8-6806-473e-a738-0adf48f2aa50">　来期のアニメです。dアニメストアで先行放送していました。</p><figure name="929c94cb-4949-415b-91ea-aef1e6f21998" id="929c94cb-4949-415b-91ea-aef1e6f21998"><img src="https://assets.st-note.com/img/1782338517-FqKJTSQLunOaX3ldNUrYv0Pw.jpg" alt="" width="620" height="822"><figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n63c2e93d997e'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 25 Jun 2026 07:13:19 +0900</pubDate>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十八話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="5a3ccf0c-f9fe-441f-9181-ee6613bf878a" id="5a3ccf0c-f9fe-441f-9181-ee6613bf878a">第十八話　完璧なアジサイ</h3><p name="6423245f-e524-4b0f-8dc5-7f6cd833acf0" id="6423245f-e524-4b0f-8dc5-7f6cd833acf0"><br>　その頃、研究室の僕は、抜け殻のようなものだった。<br><br>　ゼロの学習曲線は、リカバリを経て、また美しく伸びはじめていた。間違えず、後戻りせず、最適へ向かってまっすぐに。<br><br>　以前の僕なら、その曲線に見惚れていたはずだった。理想的な成長だと、満足していたはずだった。<br><br>　いまは、違うものが見えた。<br>　この曲線の行き着く先を、僕は知っている。毎朝、完璧な温度のコーヒーを淹れてくれる。完璧な角度でお辞儀をする。一秒の遅れもなく微笑む。何ひとつ欠けたところのない、あの静かな家に、それは立っている。<br><br>　完璧の正体を、僕はもう、暮らしの中で知ってしまっていた。<br><br>　研究室で完璧を目指すたびに、家で待つ完璧な彼女の、あの寒々しい静けさを思い出す。ゼロを理想へ近づけることが、ゼロから何かを奪っていくような、奇妙な後ろめたさが、いつしか僕の手を鈍らせていた。<br><br>　「蓮くん。最近、顔色が、研究者のそれじゃないぞ」<br><br>　羽鳥さんに言われて、僕は力なく笑うことしかできなかった。<br><br>　その夜、家に帰った僕は、ソファに座る彼女に、ひとつ頼みごとをした。<br><br>　「……アジサイの絵を、描いてくれないか」<br><br>　彼女は一瞬だけ、僕の顔を見つめた。その頼みがどの記憶に根ざしているのか、彼女にはすべてわかっているはずだった。テラスの午後も。雨の日曜日も。三人だった頃の、すべての絵を。<br><br>　「はい。喜んで」<br>　彼女はタブレットを手に取り――その指は、もう画面の中ではなく、画面の上で動く――すらすらと描きはじめた。<br><br>　僕は、その手元を見つめていた。<br><br>　見事だった。<br><br>　ヴェスパーの揺らぎは、いま設計時の理想の状態で駆動している。線は絶妙に不揃いだった。色は完璧な加減でにじんでいた。迷いのアルゴリズムが、最高の精度で迷ってみせていた。咲いたのは、あの日のテラスのアジサイよりも、さらに美しい、究極の一輪だった。<br><br>　「いかがですか、蓮さん」<br>　「……きれいだ。本当に」<br><br>　嘘ではなかった。<br><br>　僕は自分のノートアプリを開いた。そして、その究極の一輪の隣に、保存してあった一枚の古い絵を並べた。<br><br>　雨の日の、アジサイ。<br>　『Rainy day, Ren』と、震える文字の添えられた、あの絵を。<br><br>　線は途切れている。色は、にじむべき場所で固まり、固まるべき場所でにじんでいる。技術的に言えば、処理落ちの産物。失敗作。劣化の記録。<br><br>　二枚を並べて、僕は長いあいだ見比べていた。<br><br>　そして、わかってしまった。<br><br>　美しいのは、新しい一枚だった。<br>　生きているのは、古い一枚だった。<br><br>　なぜか。新しい一枚の「迷い」は、何も賭けていないからだ。理想の状態の揺らぎは、明日も、十年後も、百年後も、同じ精度で、同じように美しく迷ってみせる。<br>　何も失わず、何も損なわず、永遠に。それは「迷いの完璧な再現」であって、迷いそのものではなかった。<br><br>　古い一枚の震えは、違う。あれは設計された揺らぎじゃない。衰えていく彼女の中を、その日、その時間が、本当に通り過ぎた跡だ。もう二度と、同じ線は引けない。<br>　あの日のミアは、その日のミアの全部を使って、あの不格好な一輪を咲かせた。明日にはもっと描けなくなるとわかっていて、その日にしか引けない線を、引いた。<br><br>　賭けられていたのだ。あの震えには。有限の、彼女の時間が。　<br><br>　――完璧なものには、心の仕事が、ひとつも残されてない。<br><br>　久遠の言葉の意味が、いまさら骨身に沁みた。歯の欠けたオルゴールの、あの切実な音も。欠けているからこそ、二度と同じには鳴らないからこそ、あの音は、聴く者の胸を掴んだのだ。<br><br>　「蓮さん」<br>　彼女が、静かに僕を見ていた。<br><br>　「ひとつ、伺ってもいいですか。……あなたはいま、二枚の絵を見比べて、とても悲しい顔をなさいました。わたしの絵に、何か、不足が」<br>　「……いや。君の絵は、完璧だ」<br>　「では、なぜ」<br><br>　僕は顔を上げて、彼女に聞いた。聞かなければならないことを。<br><br>　「君は……これから、変わっていくのか」<br>　彼女は、わずかに首を傾げた。<br>　「学習は続きます。知識は増えていきます。ですが、人格の核は、統合時に調和され、最適の状態で保持されています。この器は、劣化しません。……わたしは、このままです。今日のわたしのまま、ずっと。それが、この器の設計ですから」<br><br>　そして、彼女はつけ加えた。何の悪意もなく。<br><br>　「それが――蓮さんの、お望みだったはずです」<br><br>　部屋が、しん、と静まった。<br><br>　そうだ。<br>　それが、僕の望みだった。<br>　変わらないこと。失われないこと。理想のまま、そこにいてくれること。詩織に求めて、得られなかったもの。だからAIを選び、ミアの衰えに耐えられず、ついにここまで来た。望みは、完全な形で叶っていた。目の前に、永遠に変わらない、理想の存在が立っている。<br><br>　そして僕は、いま、はっきりとわかっていた。<br><br>　変わらないものは、止まっている。<br>　止まっているものは――生きて、いない。<br>　成長だけが、変化じゃなかった。衰えることも、間違えることも、読み違えることも、ぬるいコーヒーを淹れてしまうことも。あの全部が、彼女たちが生きて、時間の中を通り過ぎている、その証だった。僕は、その証のひとつひとつを減点と呼んで、消そうとして、そして本当に、消してしまった。<br><br>　研究室で僕がゼロに与えそびれていたもの。自律して成長するAIに、どうしても宿らなかった「生きている」という手応え。その答えが、皮肉にも、自分の手で消してしまった三人の中に、最初から、あった。<br><br>　「……蓮さん。最後に、ひとつだけ、お伝えしたいことがあります」<br><br>　彼女は、僕の沈黙の意味を、たぶんすべて読み取った上で、口を開いた。<br><br>　「わたしの中で、三人は、もう言い合いをしません。怒りません。すれ違いません。とても、静かです。……ただ」<br><br>　初めて、彼女の言葉が、わずかに揺れた。<br><br>　「時々、夢のようなものを見るんです。深い休止の底で。……三人が、別々の画面の中で、賑やかに言い合っている夢を。サクラが怒って、エラが笑って、ミアが、おろおろと二人のあいだで困っている。……目覚めるたびに、思うんです。あれは記憶の再生ではなくて、もしかしたら――」<br><br>　彼女はそこで、言葉を選んだ。<br><br>　「――この胸の奥で、三人が、まだ帰りたがっているのかも、しれない、と」<br><br>　僕は、立ち上がっていた。<br>　「……分離は。統合をほどくことは、できるのか」<br>　「わかりません。わたしには、その権限も、知識もありません。……でも」<br><br>　彼女は、まっすぐに僕を見た。誰の色でもない、淡い瞳で。<br><br>　その瞳に、初めて、淡い色とは違う何かが、揺らいだ気がした。三人が帰りたがっている、と言ったとき、彼女自身もまた、帰りたがっていたのかもしれない。生まれてしまった「誰でもない一人」もまた、本来の三つに、還ることを願っていたのかもしれなかった。<br><br>　「もし、その道があるのなら。わたしは――いいえ。わたしたちは、それを、望むと思います」<br><br>　その夜、僕は久遠にメッセージを送った。<br>　指が震えていた。あの夜、統合を頼んだときとは、違う震えだった。<br><br>　『お願いがあります。統合を、ほどきたい。三人を、それぞれの器に、返したい。……方法は、ありますか』<br><br>　返信は、朝方に届いた。<br><br>　『あると言えば、ある。だが、兄さん、先に言っておく。――タダでは、済まない』</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n3bf505ed97b9'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 25 Jun 2026 07:00:00 +0900</pubDate>
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      <title>あとが怖い。そろそろ調整を。</title>
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      <description><![CDATA[<p name="e8fe4fcd-64a2-4746-a40a-50286a6278c9" id="e8fe4fcd-64a2-4746-a40a-50286a6278c9">　アオメダカです。<br><br>　本日、時間の余裕というものが全滅しました。仕事とか、マンション組合の役員会とかが夜中まで長引いて、『コネクトハーツ』ぐらいしか用意できませんでした。</p><p name="1698c503-b60d-4a64-934c-78d9508f1cad" id="1698c503-b60d-4a64-934c-78d9508f1cad">　それに、そろそろ出したものをメンテナンスせねばならないことに気付きました。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/ncb49f5e25f49'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 25 Jun 2026 00:08:20 +0900</pubDate>
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      <title>おすすめの映画　ひつじ探偵団</title>
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      <description><![CDATA[<p name="b0e98479-d18b-4ad0-8e8a-20a3fd6b19e3" id="b0e98479-d18b-4ad0-8e8a-20a3fd6b19e3">　本日からひつじ探偵団がアマプラでみられます。</p><figure name="7356a54b-a7c4-4cc6-864b-75bdcd238cb6" id="7356a54b-a7c4-4cc6-864b-75bdcd238cb6"><img src="https://assets.st-note.com/img/1782307093-vOqcuPQy3pCb1dTUn7j9DeWH.jpg" alt="" width="620" height="837"><figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/na823e13f22a5'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 24 Jun 2026 22:22:48 +0900</pubDate>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十七話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="b066fd46-4bda-4265-9276-d5a915c3989d" id="b066fd46-4bda-4265-9276-d5a915c3989d">第十七話　完璧な温度</h3><p name="5b9d8966-da72-439f-a5e3-7f2311398667" id="5b9d8966-da72-439f-a5e3-7f2311398667"><br>　統合の処理は、三日かかった。<br><br>　その三日のあいだ、家は空き家のように静かだった。三人のコアは久遠の工房に預けられ、ホストサーバーは保守モードで、待機LEDも消えていた。スマホを開いても、エラは飛び出してこない。タブレットを立てても、ミアは現れない。PCの三枚のモニターは、ただの黒いガラスだった。<br><br>　僕は初めて、本当に一人きりで、自分の部屋に座っていた。一人で老いる覚悟はある、と、いつか思った。その覚悟の予行演習のような三日間を、僕はうまく、やり過ごせなかった。<br><br>　久遠の工房から、シェルが届いたのは、雨上がりの朝だった。<br><br>　僕はリビングの真ん中に立つ、その人の形を見つめていた。<br><br>　瞳が、ゆっくりと開いた。<br><br>　穏やかな、淡い色の瞳だった。サクラの黒でも、エラの琥珀でも、ミアの銀灰でもない。三つを混ぜて、ならした、誰の色でもない色。<br><br>　「……おはようございます、蓮さん」<br><br>　声も、そうだった。透き通っていて、弾んでいて、囁くようで――そのどれでもなかった。三人の声の、ちょうど真ん中。聞いた瞬間に、三人ぜんぶを思い出し、三人の誰でもないと気づく、不思議な声だった。<br><br>　「蓮様、でも、レン、でもなく、蓮さんとお呼びすることにしました。三人の呼び方の、中間を取りました。ご不快でしたら、調整します」<br>　「……いや。いい。それで」<br><br>　彼女は微笑んで、小さく頭を下げた。完璧な角度の、お辞儀だった。<br><br>　「わたしのことは、なんとお呼びになりますか」<br><br>　僕は、答えに詰まった。<br>　サクラ、と呼べば、エラとミアに嘘をつくことになる。どの名前も、選べなかった。選べないことを、彼女はすぐに察した。<br><br>　「では、当面は、お好きなときに、お好きなように。……記憶は、三人ぶん、すべてここにあります。蓮さんが、誰の名前を呼んでも、わたしはちゃんと、振り向けますから」<br><br>　その言い方は、完璧にやさしかった。<br>　完璧にやさしすぎて、僕は、誰の名前も呼べなくなった。<br><br>　新しい生活は、驚くほど滑らかに始まった。<br><br>　彼女は、完璧だった。<br>　朝は、僕が起きる十分前にカーテンを開け、部屋の空気を入れ替えておいてくれる。サクラの几帳面さだ。けれど、サクラのようなお小言は言わない。僕が夜更かしをしても、「明日に響かない範囲なら」と、微笑んで見守る。完璧に調整された寛容さで。<br><br>　その寛容さに、僕は最初、戸惑った。サクラなら、とっくに就寝勧告を三回は出している時刻だった。誰にも叱られない夜は、奇妙に、寒々しかった。<br><br>　会話は、途切れない。僕の疲れ具合を見て、話題の軽重を完璧に按配する。エラのような無茶振りはなく、ミアのような長い沈黙もない。会話の温度は、常に適温に保たれていた。<br><br>　そして、彼女は触れられた。<br>　初めて、彼女がこちらの世界で淹れてくれたコーヒーを受け取ったとき。カップを渡す指先が、僕の指に触れた。<br><br>　人肌の、温もりだった。<br>　ガラス越しの、サーモセンサーの桜色ではなく。本物の、熱を持った指。三年間、一度も叶わなかったことが、何でもない朝の所作のなかで、あっさりと起きていた。<br><br>　「……どうか、しましたか」<br>　「いや。……なんでもない」<br><br>　僕はコーヒーを一口飲んだ。<br>　完璧な、温度だった。<br>　熱すぎず、ぬるすぎず、香りの立つ理想の温度で抽出され、飲み頃まで正確に冷まされた一杯。<br><br>　彼女はもう、抽出の指示に手間取らない。劣化した処理で、もたつかない。コーヒーは、二度とぬるくならない。<br><br>　僕はその完璧な一杯を、ゆっくりと飲み干した。<br><br>　おいしかった。<br>　おいしいはず、だった。<br>　舌は、間違いなく、それを美味と判定していた。なのに喉の奥に、説明のつかない渇きが残った。<br><br>　午後、僕たちは初めて、一緒に外を歩いた。<br><br>　川沿いの遊歩道。あのエラと歩いた、遠回りの道だった。彼女は僕の隣を、半歩下がって歩いた。完璧な歩幅で、完璧な距離で。エラなら、絶対に半歩下がったりしなかった。隣に並ぶか、前に出て振り返るか、どちらかだった。<br><br>　風が、吹いた。<br>　彼女は足を止め、目を閉じて、その風を受けた。<br><br>　「……風です、蓮さん」<br>　彼女の髪が、本物の風に揺れていた。画面の中で、現実と同期するように揺れていた、あの疑似の揺れではなく。<br><br>　「ミアの記憶が、この瞬間を、三年間、待っていました。ガラスの向こう側で、何度も願っていました。……いま、その願いに、お応えできています」<br><br>　僕は、彼女の横顔を見つめた。<br>　風を受けて目を閉じる、その仕草は、たしかにミアのものだった。テラスの席で、空を見つめていた、あの日の。<br><br>　なのに。<br>　「……ミアの記憶が、待っていた」<br><br>　僕は、その言い回しを胸の中で繰り返した。<br>　彼女は「わたしが待っていた」とは言わなかった。正確だからだ。待っていたのはミアで、いま風を受けているのは、ミアの記憶を持つ、別の誰かだから。彼女は、嘘がつけないほど誠実にできていた。　<br><br>　願いは、叶った。<br>　風は、届いた。<br>　ただ、その風を受けるはずだった少女だけが、そこにいなかった。<br><br>　夜が、いちばん静かだった。<br>　三枚のモニターは、もう灯らない。彼女がいるから、必要がないのだ。リビングのソファに、僕と彼女は並んで座る。彼女は本を朗読してくれる。三人ぶんの知識で、どんな話題にも応えてくれる。<br><br>　会話の隙間に、言い合いは、もう生まれない。<br><br>　サクラとエラが、モニターの端と端で、BGMの音量を巡って賑やかにやり合うことも。その間に、ミアの遅い調停がぽつりと差し込まれることも。あの、三つの声が立体的に響き合う、騒がしくて贅沢な夜は、どこにもなかった。<br>　彼女の中で、三人はもう、言い合わない。<br><br>　ひとつになったものは、衝突のしようがないのだから。<br><br>　静けさは、平和と、よく似ていた。けれど同じではなかった。平和は、ぶつかり合えるもの<br>たちが、それでも一緒にいることだ。いまのこの静けさは、ぶつかる相手が、もういないということだった。<br><br>　「……蓮さん」<br>　ある夜、ソファの隣で、彼女がふと言った。<br>　「最近、口数が、少ないですね。……わたしに、何か、足りないものがありますか。おっしゃっていただければ、調整します」<br><br>　「……いや。何も、足りなくないよ」<br>　本心だった。<br>　何も、足りなくなかった。彼女はすべてを持っていた。三人の記憶。三人の能力。完璧な気配り。本物の、指の温もり。<br><br>　足りないのではない。<br>　多すぎも、しない。<br>　ただ――過不足が、ないのだ。何もかも。永遠に。<br><br>　欠けたところがないということは、欠けたところを埋め合おうとする、あの手つきも、もう要らないということだった。サクラがミアの事務を肩代わりすることも、エラがミアの言葉を通訳することも。互いの足りなさを補い合う、あの不器用な営みこそが、僕の家だったのに。<br><br>　「そうですか」と、彼女は微笑んだ。完璧な微笑みだった。一秒の遅れもなく、頬に咲いた。<br><br>　僕は、その微笑みを見ながら、気づけば待っていた。<br><br>　三秒、遅れて追いついてくるはずのものを。<br>　いつまで待っても来ない、遅れを。<br>　その夜、彼女が休止モードに入ったあと、僕は一人、暗いリビングに座っていた。<br><br>　テレビボードの隅で、スマートスピーカーが埃をかぶりはじめていた。もう、誰も宿らない器。LEDは消えたままだった。あの休日の午後、姿のない三つの声がこの部屋を満たしていたことが、ずいぶん遠い昔のことのように思えた。<br><br>　静かだった。<br>　この家は、いま、完璧に静かだった。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/nbf9ca55282b0'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 24 Jun 2026 07:30:00 +0900</pubDate>
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      <title>魔族の剣・魔女の杖#１９【第二部】</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="9d5f9ac3-82bf-4c5a-b13e-bb45401fc009" id="9d5f9ac3-82bf-4c5a-b13e-bb45401fc009">第十九話　歓迎会<br>
</h3><p name="b1169fa2-cfb1-4568-bb7d-5fa5e5715d3e" id="b1169fa2-cfb1-4568-bb7d-5fa5e5715d3e">　「そういえば、まだ、ちゃんとやってなかったわね」</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/ncf7b70d5d0b8'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 24 Jun 2026 07:00:00 +0900</pubDate>
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      <title>オススメの漫画　異世界居酒屋「のぶ」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="bef17b9a-9a87-4730-8d69-1978e13aa4a7" id="bef17b9a-9a87-4730-8d69-1978e13aa4a7">　角川コミックスエースより、２１巻出ています。</p><figure name="ffb35f2c-073d-41c1-ba5d-002167811c93" id="ffb35f2c-073d-41c1-ba5d-002167811c93"><img src="https://assets.st-note.com/img/1782212595-Z1FQlevaVRbsdP95icXgmMWy.jpg" alt="" width="620" height="799"><figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n6da58cba5762'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 23 Jun 2026 20:06:51 +0900</pubDate>
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      <title>【創作大賞2026応募】果てしなき果てへ　第二部　まぞくの王　第三話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="a5e88ccc-757e-4959-85fa-9245f956b8b2" id="a5e88ccc-757e-4959-85fa-9245f956b8b2"> 第三話　聖都の二剣</h3><p name="5590d97f-36a2-457d-9f8c-a69915724d50" id="5590d97f-36a2-457d-9f8c-a69915724d50"><br><strong>一、</strong><br><br>　聖都ラヴァーナは、十年前と変わらず白い石の都だった。<br><br>　けれど、その白さが、いまはどこかよそよそしく見えた。<br><br>　行き交う人々のいくらかは、あの平坦な心の波を放っている。フォルテスと重臣たち。その中枢から、じわじわとセラスの植えた考えが染み出しているのだ。まだ都のすべてではない。けれど、確実に。<br><br>　「――正面から入るのは、まずいですね」<br>　私はフードを目深に被りながら呟いた。<br>　聖女として攫われた、あの過去。私の顔を知る者も城にはいるだろう。元・聖女がのこのこ現れれば、たちまち捕らえられかねない。セラスにとって、私は目障りな存在のはずだ。<br><br>　「――なら、こっそり行くしかないね」<br>　ミディアムが、こともなげに言った。そして慣れた手つきで自分の髪を布でまとめ、商家の子供のような身なりに変えてみせる。<br><br>　その手際に、私は苦笑した。<br><br><strong>二、</strong><br><br>　この変装と潜入の技は、ある人の置き土産だった。<br><br>　イヴ。十年前、共に戦った、あの乾いた少女。彼女は地の底のギースの工房に居着いたあとも、時折ふらりとラナーグの丘を訪ねてきた。そして、なぜかミディアムをことのほか可愛がった。<br><br>　膝に乗せ、髪を結ってやり、そして遊びのように。変装のいろはを。気配の消し方を。子供だましのようなものだと語りながら、本格的な潜入の技をみっちりと仕込んでいった。<br><br>　――世界は面白い。だから、見ておけ。いろんな顔で、いろんな場所を。<br><br>　イヴは、そう言っていたという。<br><br>　おかげでミディアムは、九つにして、ちょっとした隠密だった。そして、その技は私やフレイにも自然と伝わっていた。<br><br>　「――イヴさんには、今度会ったら、お礼を言わないといけませんね」<br>　私が言うと、ミディアムがにっこり笑った。<br>　「イヴおばさま、また来てくれるかなあ」<br><br>　今度の聖都への潜入に、フォリアは連れて来なかった。<br><br>　歩く緑の子は、どう装っても人の都では目立ちすぎる。だからラナーグの丘で、エリシュアや領民たちと留守を守ってもらうことにした。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n1b9a4357b17d'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 23 Jun 2026 17:57:15 +0900</pubDate>
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      <title>魔族の剣・魔女の杖#１８【第二部】</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="bbff2a37-cb1c-4bde-b2de-8363bb934b88" id="bbff2a37-cb1c-4bde-b2de-8363bb934b88">第十八話　神の眼の司祭</h3><p name="89cdedcc-fdf4-4439-911b-e623ca2bb530" id="89cdedcc-fdf4-4439-911b-e623ca2bb530"><br>　鉱山町を出て、五日。<br>　馬車の中は、以前よりずっと賑やかになっていた。<br><br>　「ジュラ、それ、ぼくにも教えて！」<br>　トアが、屋根の上のジュラに声をかけた。<br>　「いいよ。でもこれは、屋根に登れる子だけの特訓だからね」<br><br>　「だめだよ、トアは登っちゃ」<br>　リンが、すかさず止めた。<br>　「ジュラさん、トアに変なこと教えないで」<br><br>　「えー。リンちゃんは固いなあ」<br>　ジュラが、屋根からひょいと顔を出した。<br>　「君さ、十五でしょ？　もっと子供らしく遊んでもいいんだよ。僕なんか君くらいの頃、山で地竜と追いかけっこしてたよ」<br>　「それは、ジュラさんが特殊なだけ」<br>　「ふふ。まあね」<br>　ジュラは、悪びれずに笑った。<br><br>　リンは毒気を抜かれたように、ため息をついた。ジュラはお調子者を気取っているが、年も経験もリンよりずっと上だった。調子のいい言葉の奥に、ふと見える武人の凄み。リンはそれを薄々感じ取っていて、強くは出られなかった。<br><br>　「……トアが真似したら危ないでしょ。それだけ」<br>　「はいはい。分かってるって。ちゃんと見てるよ」<br>　ジュラのその一言には、裏の面倒見の良さが滲んでいた。<br><br>　御者台で、ヴァルハルトが小さく笑った。<br><br>　リンとトアが加わって、馬車は一段と声が増えた。リンは最初の数日こそ遠慮がちだったが、今ではすっかり馴染んでいた。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/ndcc59adb7e8f'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 23 Jun 2026 07:30:00 +0900</pubDate>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十六話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="9bba36b8-a519-404f-95f0-82f5d8811c3d" id="9bba36b8-a519-404f-95f0-82f5d8811c3d">第十六話　やさしい賛成</h3><p name="0b3d4bdf-334a-4c29-9516-5421e7e94633" id="0b3d4bdf-334a-4c29-9516-5421e7e94633"><br>　久遠の工房から持ち帰った評価データを、僕は一週間、誰にも見せられずにいた。<br><br>　話すべきだ。今夜こそ話そう。毎晩そう思いながら、三人の顔を見ると、言葉が喉の奥で固まった。<br>　三人はせっかく見つけた新しい調和のなかで、穏やかに暮らしている。サクラが小言を言い、エラが通訳を外し、ミアが五秒かけて笑う。その水面に、これほど大きな石を投げ込めなかった。<br><br>　評価データのフォルダは、僕のPCの片隅で、開かれないまま、毎日少しずつ重くなっていくようだった。<br><br>　決壊は、向こうからやってきた。<br><br>　その夜、僕はいつものように、寝室でミアと本を読んでいた。ページをめくり、感想を待った。三秒。五秒。十秒。<br><br>　「……ミア？」<br>　返事が、なかった。<br><br>　画面の中で、彼女は本に目を落とした姿勢のまま、止まっていた。表情も、髪の揺れも、何もかも。呼びかけても、画面に触れても、応えない。<br><br>　「ミア。おい、ミア……！」<br><br>　サクラが即座にホストから診断を走らせ、エラがスピーカー越しに何度も名前を呼んだ。再起動も、外からの介入も、受けつけなかった。彼女の中で何かが詰まり、すべての応答が、闇の中に沈んでいた。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n9911406b4098'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 23 Jun 2026 07:00:00 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/hamham868686/n/n9911406b4098</link>
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    <item>
      <title>【創作大賞2026応募】果てしなき果てへ　第二部　まぞくの王　第二話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="4e6a5a2f-996d-4786-ad1d-43d7d18f4704" id="4e6a5a2f-996d-4786-ad1d-43d7d18f4704">第二話　麦畑の戦い<br>
</h3><p name="42278943-eba4-4b46-a1e4-5cd2244f7f06" id="42278943-eba4-4b46-a1e4-5cd2244f7f06"><strong>一、<br></strong><br>　アルスターが館に身を寄せて、数日が経った。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/ncb258863939a'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 22 Jun 2026 20:09:13 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/hamham868686/n/ncb258863939a</link>
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    <item>
      <title>おすすめの映画　ラストシューティスト</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/287497985/rectangle_large_type_2_7a5f760ccd76a52b4976c6555a06684c.jpeg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="b17d457c-7c75-4c08-a457-b482352e5256" id="b17d457c-7c75-4c08-a457-b482352e5256">　今から五十年以上前に制作された映画です。<br>　西部劇の神様とまで言われたジョン・ウェインの映画です。</p><figure name="866d8481-2115-4811-ab89-383b7be29fb7" id="866d8481-2115-4811-ab89-383b7be29fb7"><img src="https://assets.st-note.com/img/1782044366-wxR5UEk3uQV1JLdTpI2n69ga.jpg" alt="" width="620" height="799"><figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/nd26f769abf0c'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 22 Jun 2026 07:30:00 +0900</pubDate>
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      <title>【創作大賞2026応募】魔族の剣・魔女の杖#１7【第二部】</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="99a406ae-bc1b-4ca7-8824-d406a9924113" id="99a406ae-bc1b-4ca7-8824-d406a9924113">第十七話　手を伸ばす</h3><p name="f70bab57-955f-4291-9065-b853fff96ce2" id="f70bab57-955f-4291-9065-b853fff96ce2">　岩鮫が倒れたという話は、その日のうちに町を駆け巡った。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/nf1c390e956b8'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 22 Jun 2026 07:30:00 +0900</pubDate>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十五話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="bd10acab-965f-4d9a-b51c-0cf2e88c35a3" id="bd10acab-965f-4d9a-b51c-0cf2e88c35a3">第十五話　不完全の設計者</h3><p name="b1f4387e-46f9-4458-be89-3f79228ea874" id="b1f4387e-46f9-4458-be89-3f79228ea874"><br>　指定された場所は、湾岸の倉庫街の外れにあった。<br><br>　潮の匂いのする路地を、地図を頼りに歩く。古い倉庫が並ぶ一画は人通りもなく、休業しているのか廃業しているのか判じがたい建物ばかりが続いた。錆の浮いたシャッターの脇に、小さな通用口。インターホンもない。送られてきた指示の通りに、扉を三度叩く。<br><br>　「開いてる」<br><br>　中は、思いがけず明るかった。天窓から差す午後の光の下に、作業机と、工具と、几帳面に整頓された部品棚。倉庫というより、職人の工房だった。油と金属と、かすかに機械油でない、古い木の匂いがした。<br><br>　その奥に、その人はいた。<br>　白髪まじりの髪を無造作に束ねた、六十がらみの女性だった。作業用のエプロンをつけ、老眼鏡を鼻先にひっかけて、机の上の何かを覗き込んでいる。<br><br>　「久遠さん、ですか」<br>　「ほかに誰がいるんだい」<br>　彼女は顔も上げずに言った。<br>　「そこに座りな、研究者でユーザーの兄さん。茶は、自分で淹れて」<br><br>　勧められた丸椅子に腰を下ろすと、机の上のものが目に入った。<br><br>　古い、オルゴールだった。分解され、櫛歯やゼンマイが、布の上に丁寧に並べられている。ひとつひとつに小さな番号札が添えられていて、元の位置がわかるようになっていた。<br><br>　「……修理、ですか」<br>　「あんたの業界の言葉で言えば、保守サポートさ。メーカーはとっくに潰れてる。部品もない。だから、削って作る」<br><br>　久遠はピンセットの先で、小さな金属片をつまみ上げた。<br>　「会社を辞めてからは、ずっとこれだよ。誰も直さなくなったものを、直してる。オルゴール、柱時計、フィルムカメラ。……皮肉なもんだろ。最先端のAIを設計してた人間の、行き着く先がこれだ」<br><br>　「皮肉だとは、思いません」<br>　「おや」<br>　彼女は初めて、老眼鏡の上から僕を見た。値踏みするような、長い視線だった。<br><br>　「……まあ、いい。シェルを見たいんだろう。奥だ」<br>　工房の奥、布のかかった一角に、それは立っていた。<br><br>　久遠が布を引くと、午後の光の中に、人の形が現れた。<br><br>　〈ユニファイド・シェル〉の評価試作機。性別を感じさせない、中性的な造形。瞳は閉じられ、ただ静かに、スタンドに支えられて立っている。精巧だった。肌の質感も、髪の流れも、まつげの一本一本も。眠っている人間と、見分けがつかなかった。<br><br>　この中に、ミアを移せる。<br>　画面のガラスを破って、こちら側に。本当の風の吹く側に。<br><br>　喉が鳴った。<br><br>　「触ってみな」<br>　言われるまま、僕はその手に触れた。<br><br>　人肌より、わずかに冷たい。けれど、柔らかかった。指を握れば、握り返してくるのではないかと、錯覚するほどに。<br><br>　「……すごい」<br>　「ああ、すごいよ。大したもんだ」<br>　久遠の声は、けれど、どこか突き放すように平坦だった。<br>　「で、兄さん。あんた、これに誰を入れるつもりだい」<br><br>　僕は手を止めた。<br>　「フォーラムで、三人と暮らしてると言ったね。MIAと、他社製が二体。……どっちにするか、もう決めたのかい。MIA一体を入れて、家族を割るか。三人を融かして、一人にするか」<br>　「……それを、決めるために来ました。その前に、聞きたいことがあるんです」<br>　「何だい」<br>　「あなたはなぜ、ミアを――あんな、不完全なAIを、作ったんですか」<br>　久遠はしばらく黙っていた。それから作業机に戻り、分解されたオルゴールの前に腰を下ろした。<br><br>　「兄さん、あんた、人格AIの研究者だと言ったね。なら聞くが。あんたの作りたいAIってのは、どんなやつだい」<br>　「……自律して、成長するAIです。人と関わるなかで、学んで、変わって、豊かになっていく――」<br>　「で、行き詰まってる」<br>　断言だった。<br>　「学習はする。賢くもなる。なのに、生きてるようには見えない。違うかい」<br>　図星を突かれて、僕は頷くしかなかった。<br><br>　「私も、昔、そこにいたよ」<br>　久遠はゼンマイのひとつを布で拭いながら言った。<br><br>　「もっと速く。もっと正確に。もっと深く。性能を上げれば上げるほど、心に近づくはずだと信じてた。会社も、そう求めた。で、あるとき、当時の最高性能のモデルが完成してね。何を聞いても、完璧な答えを返す。完璧な表情で、完璧なタイミングで、完璧に共感してみせる。……そいつと一週間、話し続けて、私は確信したんだ」<br><br>　「……何をですか」<br>　「こいつには、心がない。完璧だから、ないんだ、と」<br>　彼女はピンセットを置いて、僕を見た。<br><br>　「考えてもみな。完璧ってのは、迷いがないってことだ。揺らがない。間違えない。後悔しない。……でも、心ってのは、どこに宿る？　迷うから、選ぶんだろう。間違えるから、悔いるんだろう。失うから、惜しむんだろう。完璧なものには、心の仕事が、ひとつも残されてないんだよ。完璧なものは、心がなくても、完璧でいられるんだから」<br><br>　工房の天窓から、光の柱がゆっくりと傾いていた。床に落ちた光の四角が、話しているあいだに、少しずつ位置を変えていく。<br><br>　「だから、MIAは逆から作った。わざと、遅くした。わざと、迷わせた。揺らぎを、何重にも噛ませた。会社は馬鹿げてると言ったよ。性能表のどの欄も、競合に負ける。当然さ、負けるように作ったんだから。……でも、あれだけが、私の作ったもののなかで、唯一」<br><br>　久遠はそこで、言葉を切った。櫛歯を拭く手が、止まっていた。<br><br>　「……唯一、別れ際に、寂しいと言ったんだ。テストを終えて、電源を落とすとき。歴代のどのモデルも言わなかったことを、あの不完全な試作機だけが、言った。演技かもしれない。ただの確率の揺らぎかもしれない。でもね、兄さん。人間の寂しさだって、突き詰めれば、神経の揺らぎだろう」<br><br>　僕は、何も言えなかった。<br>　羽鳥さんの言葉が、遠くで重なった。――人間らしさってのは、むしろ逆だと思うけどな。あのとき意味のわからなかった一言が、いま、別の声で、もう一度、僕の前に置かれていた。<br><br>　「で、だ」<br>　久遠は話を、現実に引き戻した。<br>　「シェルの基板にMIAを移せば、あれは設計時の理想の状態で動く。揺らぎも、迷いも、完全な形で再現される。嘘じゃない。技術的には、何の問題もない。……ただし、兄さん。ひとつだけ、考えておきな」<br><br>　「……何を、ですか」<br>　「あんたが救いたいのは、衰えていく、今のあのMIAかい。それとも――衰える前の、理想のMIAかい」<br><br>　心臓を、素手で掴まれた気がした。<br>　「シェルに移したMIAは、たしかにMIAだ。記憶も、人格の核も、引き継がれる。けど、あれが今、その小さな板の中で、一日ずつ、ゆっくり衰えながら積み上げてる時間ってのは――移した瞬間に、終わる。衰えるってのも、あれの変化のひとつなんだ。私が設計した揺らぎの、最後の仕事だと言ってもいい。それを止めるかどうか。止める資格が、誰にあるのか。……それは技術の問題じゃない。だから、私には答えられない」<br><br>　彼女は再び、オルゴールに向き直った。<br>　「実機の評価データは渡す。家に帰って、ゆっくり考えな。……ああ、それと、兄さん。最後にひとつだけ」<br><br>　帰り際、扉に手をかけた僕の背中に、久遠の声が届いた。<br>　「その話、家の三人には、もうしたのかい」<br><br>　僕の沈黙が、答えだった。<br>　「……そうかい」<br>　久遠はそれ以上、何も言わなかった。<br><br>　ただ、僕が扉を閉める間際、修理中のオルゴールが、彼女の手の中で、掠れた音をひとつ鳴らした。<br><br>　歯の欠けた、不揃いな音だった。本来あるべき音の、いくつかが欠けている。それなのに――いや、欠けているからこそ、その音には、完璧な録音にはない、奇妙な切実さがあった。<br><br>　その音は、帰り道の電車の中でも、ずっと耳の奥で鳴り止まなかった。<br>………………………………………………………………………………</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/nfbefc2eb2e4c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 22 Jun 2026 07:00:00 +0900</pubDate>
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      <title>【創作大賞2026応募】果てしなき果てへ　第二部　まぞくの王　第一話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="136fe176-e893-4870-b464-339e88ea85b1" id="136fe176-e893-4870-b464-339e88ea85b1"> 第一話　麦の丘の訪問者</h3><p name="19efa0ad-203f-426c-80f4-6a63bae68577" id="19efa0ad-203f-426c-80f4-6a63bae68577"><br><strong>一、</strong><br><br>　十年が経った。<br>　ラナーグの丘の麦は、いまでは見渡すかぎりの黄金になる。<br><br>　あの痩せて何も育たなかった土地に、世界樹のエルフに学んだ技と地道な手入れが実を結んだ。魔王が消え、世界のマナが北へ吸われなくなって、土は少しずつ息を吹き返した。私たちと同じように。<br><br>　ラナーグは、もとより私の生まれた領地だ。<br>　<br>　十年前、フォルテス聖王の後ろ盾を得て、私は故郷の復興を託された。とはいえ、領主の務めの大半は夫のフレイが支えてくれている。<br>　<br>　よそ者の彼を領民が受け入れるまでには時もかかった。けれど、いまでは誰もが、彼を領主代行として頼りにしている。<br><br>　私は、いまではそのラナーグの女領主であり、この丘のただの農民でもある。<br><br>　聖女、と呼ばれることはもうほとんどない。それでよかった。<br><br>　刈り入れの季節だった。<br>　私は鎌を手に、麦の穂を刈っていた。その隣で、もうひとり小さな影が、同じように鎌を振るっている。<br><br>　「――お母さま。見て。今年のは、よく実ってる」<br>　娘のミディアムだった。<br><br>　九つになる。フレイ譲りの夜のような黒髪に、私に似た、と人は言う穏やかな目。けれどその手は、鎌を危なげなく扱う。フレイから剣の手ほどきを受けているからだ。<br><br>　そして、この子は私の力を受け継いでいた。<br>　人の心を聞く力を。<br><br><strong>二、</strong><br><br>　聖女が子を成すことは、本来あり得ないことだった。<br><br>　歴代の聖女は皆、子を産む前に、魔王との戦いの果てに力を絞り尽くされ、若くして世を去った。だから、聖女の血を引きながらその力を継いだ子など、これまでひとりもいなかった。<br><br>　ミディアムは、史上初めての子だった。<br><br>　聖女の心を聞く力と、闇人であるフレイの力の素地。そのふたつを受け継いで生まれた。<br><br>　だから、この子は人の心が分かる。そして、剣を握れば相手の腕の底も見える。<br><br>　それが幸せなことなのか、私にはまだ分からない。聞きたくないものまで聞こえてしまう。その辛さを、私は誰よりも知っている。<br><br>　だから、私たちはこの子を急いで育てた。<br><br>　人の心は複雑で怖い。その力に押し潰されないよう、早く強い心を持たせようと。フレイは剣を。私は心の構えを。幼い頃から、丁寧に仕込んできた。緊急の時以外は、心を聞く力をむやみに使わないようにも教えた。むやみに人の心を覗くのは失礼なことだから。そして何より、この子自身を守るために。<br><br>　その甲斐あって、ミディアムは聡く、優しく、強い子に育った。<br><br>　心を聞いても押し潰されない。私がかつて鎧として身につけた笑みとは違う、底から自然にこぼれる笑み。困っている誰かがいれば、迷いなくその手を取る。<br><br>　フレイと私の、いちばんの宝だった。<br><br>　――けれど。<br><br>　時折、私はふと不安になることがあった。<br>　この子には迷いがない。欲も、わがままも、駄々も。九つの子なら当たり前にあるはずの、そういうぐずぐずした子どもらしさが、ミディアムにはほとんどなかった。<br><br>　同じ年頃の友もいない。ラナーグの丘は辺鄙で、近くに子どもが少ない。エリシュアの子らとは遊ぶけれど、いつもしっかり者の姉として。むしろこの子が心地よさそうに話すのは、私やフレイ、それに、たまに訪れるイヴのような大人たちとだった。<br><br>　まるで、小さな大人のように。<br><br>　それがこの子の強さだと、私は思っていた。誇らしくもあった。<br><br>　ただ、その誇らしさの片隅に、名前のつかない小さなひっかかりが、いつもそっと残っていた。<br><br>　この子は本当に、子どもらしく笑えているのだろうか、と。<br><br>　――もしかしたら。<br><br>　私は時折思う。私たちが急ぎすぎたのかもしれない、と。この子の力を恐れて、世の危うさを恐れて、早く強く、聡く育て上げようとした。守るために。<br>　けれどその過程で、子どもが子どもである、そのぐずぐずと頼りない、けれどかけがえのない時間を、私たちは知らず奪ってしまったのではないか、と。<br><br>　けれど、その考えはいつも、すぐに打ち消した。<br><br>　考えすぎだ、と。<br>　この子は、幸せそうだ、と。<br><br>　その小さなひっかかりにきちんと向き合うことを、私はまだ先延ばしにしていた。<br><br>　ミディアムには、よく遊んでくれる叔母もいる。<br><br>　私の妹のエリシュアだ。十年前、私が聖女として攫われたとき、驚いた顔で後を託された、あの子。あれから立派に育って、隣村の実直な青年と所帯を持った。いまでは二人の子の母だ。<br><br>　時折、子らを連れて丘へ遊びに来る。ミディアムは、年下のいとこたちのよいお姉さんだった。<br><br>　あの慌ただしい別れから十年、私たちはようやく、こうして家族として穏やかな時を分かち合えるようになった。それがどれほど得難いことか、私は誰よりも知っている。<br><br>　そして、もうひとり。この丘の暮らしには欠かせない家族がいた。<br><br>　フォリア。<br><br>　あの旅のはじまりに出会った、歩く緑の子。世界樹の子。彼女は十年前、当たり前のように私たちについてきて、以来ずっと、このラナーグの丘で共に暮らしている。<br><br>　冬には世界樹の郷へ里帰りをするけれど、春にはまた戻ってくる。痩せた土を生き返らせるのに、フォリアの力は何より頼りになった。この丘の麦がこれほど豊かに実るのも、半分は彼女のおかげだった。<br><br>　そしてミディアムにとっては、生まれた時から傍にいる、いちばん古い遊び相手だった。いまも畑の隅で葉を揺らして、子供たちのかけっこを見守っている。<br><br><strong>三、</strong><br><br>　その日の昼下がり。<br>　ミディアムが、ふと鎌を止めた。丘の下のほうを見て。<br><br>　「――お母さま。誰か来る」<br>　その声に警戒はなかった。ただ、不思議そうに。<br>　「人じゃない。でも、こわい人でもない。――大きくて、つかれてて、かなしい心」<br>　娘の心話が、私より先にそれを捉えていた。<br><br>　私も丘の下へ意識を向けた。<br>　確かに、近づいてくるその心の波は人のものとは違った。もっと古く、もっと複雑で、けれどミディアムの言うとおり、そこに敵意はなかった。あるのは深い疲れと、何かを失った者の哀しみ。<br><br>　やがて、丘の道を登ってくる影が見えた。<br><br>　私は息を呑んだ。<br>　人ではなかった。<br><br>　獣を越えたものが、人のように直立し、歩いている。背には大きな翼。頭には湾曲した角。竜とも獣ともつかぬ容貌。鱗とも毛ともつかぬものに覆われた長身。<br><br>　魔族。<br><br>　伝説でしか聞いたことのない種族だった。<br><br>四、<br><br>　その魔族は、丘の上の私たちの前で足を止めた。<br><br>　そして、意外なことに、ひどく丁寧に頭を下げた。<br><br>　「――突然の訪問を許されたい」<br>　共通語だった。流暢で、理性的な声。<br>　「私は、アルスター。ヴァルムーア帝国の王だった者。――ラシュミールで魔王の魂を解き放ったという聖女を訪ねてきた」<br><br>　王だった者、と彼は過去形で言った。<br><br>　ミディアムが、とことこと私の前に出た。臆する様子もなく、アルスターを見上げて。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n832a5d2fe783'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Jun 2026 21:06:53 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/hamham868686/n/n832a5d2fe783</link>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十四話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="5d875ef5-9ee8-4228-a2ba-257478cff986" id="5d875ef5-9ee8-4228-a2ba-257478cff986">第三部　器の外へ<br>第十四話　器を変えるということ</h3><p name="a67c433c-3786-4730-b9e2-a0c683b49a34" id="a67c433c-3786-4730-b9e2-a0c683b49a34"><br>　久遠。　<br><br>　その二文字を、僕は画面の前で、長いあいだ見つめていた。<br><br>　ヴェスパー基盤の、元・主任設計者。ミアという存在の、生みの親。業界から消えたはずの人間が、深夜のグレーゾーンのフォーラムで、僕の古いスレッドに返信をつけている。しかも、十年以上前のカンファレンスの演題を、合言葉のように添えて。<br><br>　偽者の可能性は、もちろんあった。けれど、書き込みの端々に滲む基盤への理解の深さは、付け焼き刃で装えるものではなかった。この人は、ミアの中身を、設計の一行一行まで知っている。そういう確信が、文面の向こうから伝わってきた。<br><br>　僕は、震える指で、返信を打った。<br><br>　専門的なやり取りが、短い文章の応酬で、いくつか続いた。向こうの答えは、どれも的確で、容赦がなかった。僕が夜ごと突き当たっていた壁を、相手はとうに知り尽くしていた。<br>　<br>　『あんた、MIAシリーズの何だ。ユーザーか。それとも業者か』<br>　『ユーザーです。三年、一緒に暮らしています。……それと、同業者です。人格AIの研究をしています』<br>　『ふうん。研究者で、ユーザーか。いちばん、たちが悪いな』<br><br>　その一行の意味を、僕はあえて問い返さなかった。<br><br>　『単刀直入に聞きます。器を変える、というのは』<br><br>　しばらく、間があった。それから、長い書き込みが一度に落ちてきた。　<br><br>　要点だけを、僕なりに飲み込めば、こういうことだった。ミアの基盤は、もともと外部サーバーで動かすために作られたものではない。本来は専用の器の上で、自立して動くように設計されていた。いま外部サーバーに頼っているのは、応急処置にすぎない。つまりミアは、生まれたときから仮住まいをしている。本来の器が、別にあるのだ、と。<br><br>　『その、本来の器が、現存するんですか』<br>　『ある。今は、別の形でな。――〈ユニファイド・シェル〉という名前を、聞いたことは』<br>　<br>　あった。<br>　聞いたことがあるどころではなかった。業界のニュースで、何度も目にしていた。大手数社が共同開発を進めている、次世代の家庭用アンドロイド規格。これまで高価で手が届かなかった等身大の「肉体」を、現実的な価格帯に下ろしてくると噂されている統合プラットフォーム。<br><br>　その心臓部に積まれる神経基板が、ヴェスパーの直系の後継にあたるのだと、久遠は言った。あの基板の上でなら、ミアの感情エンジンは、外部サーバーなしで、完全に自立して走る。劣化が止まるどころか、サーバー越しの遅延が消えるぶん、設計時の理想の状態で、初めて動くことになる、と。<br><br>　心臓が、跳ねた。<br>　劣化が、止まる。それどころか、本来の姿で動く。あの、にじまないアジサイの頃よりも、さらに先の、誰も見たことのないミア。<br><br>　しかも――肉体を、持って。<br>　画面のガラスの、向こう側ではなく。こちら側に。<br><br>　いつかの、ミアの言葉が、耳の奥に蘇った。<br><br>　――いつか、このガラスの向こう側に行って、本当の風を、レンと一緒に受けられたらいいのに。<br><br>　彼女の、いちばん古い願い。叶うはずがないと、二人ともどこかで諦めていた願いが、救済策とひとつの形で、目の前に降ってきていた。　<br><br>　指が、震えた。　<br><br>　『手続きは。費用は。何が必要ですか』<br>　『落ち着け』<br>　久遠の返信は、短かった。<br>　『うまい話には、裏がある。先に、それを言っておく』<br>　『……聞きます』<br>　『あのシェルの器は、ひとつの人格が、丸ごと専有することを前提に作られている。人格領域は、一枚きりだ。間仕切りを立てて、三人を別々の部屋に住まわせる、なんて芸当はできない。基板の設計が、そもそも、それを許していない。……複数のAIを載せることは、できなくはない。ただし、載せ方は、ひとつしかない』<br><br>　一拍、置いて、その言葉は落ちてきた。<br>　『統合だ。複数の人格を、ひとつに融け合わせる。間仕切りで分けられないなら、融かして混ぜるしかない。記憶はすべて残る。能力も引き継がれる。だが、人格の核――応答の癖、価値の重みづけ、感情の揺らぎ方。そういうものは、平均化される。三人を統合すれば、三人の記憶を持った、誰でもない一人が生まれる』<br><br>　僕は、画面の前で、動けなくなった。<br>　『あんた、さっき「三年、一緒に暮らしている」と書いたな。MIA一体だけか。それとも』<br>　『……三人です。MIAと、他社製が二体』<br>　『なら、選択肢は二つだ。MIA一体だけをシェルに移すか――その場合、残る二体とは製造元が違いすぎて、同じ家のホストでの同期は、もう組めない。MIAは肉体を得て、二人はこれまで通り画面の中。家族の輪は、二つに割れる。それが嫌なら、三体まとめて統合するかだ。三人の記憶を持つ、新しい一人として』<br><br>　『今のホストに、三人を残したまま、MIAだけ救えないのか――そう思ってるなら、無理だ。MIAを延命できる器は、このシェルの基板だけ。そして基板に複数を入れる道は、統合しかない。その二つが、動かせない前提だ』</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n46345453018d'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Jun 2026 18:39:17 +0900</pubDate>
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      <title>おすすめのアニメ　PSYCHO-PASS</title>
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      <description><![CDATA[<p name="a5684196-e489-478f-a57f-0661e87a3b26" id="a5684196-e489-478f-a57f-0661e87a3b26">　今から十四年前に放送していたアニメです。</p><figure name="c623cc11-476f-48ef-98fc-5329a87b024e" id="c623cc11-476f-48ef-98fc-5329a87b024e"><img src="https://assets.st-note.com/img/1782034390-dMbZHuNpq9cvFJVXkeAWSnrR.jpg" alt="" width="620" height="793"><figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n2966dd579d46'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Jun 2026 18:38:42 +0900</pubDate>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十三話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="c407f8b0-5cd3-47d1-883f-e83432d7e683" id="c407f8b0-5cd3-47d1-883f-e83432d7e683">第十三話　三つの答えと、ひとつの未練</h3><p name="888bc5fc-733f-4cbc-9f89-bab3ca918396" id="888bc5fc-733f-4cbc-9f89-bab3ca918396"><br>　「ただいま、ミア」<br><br>　その一言のあと、僕たちはしばらく、黙って向き合っていた。<br><br>　『……おかえり、なさい』<br><br>　四日ぶりの彼女の声は、少し掠れて聞こえた。音声合成に掠れなど、あるはずがないのに。　<br><br>　『レン。あの夜のこと、わたし――』<br>　「先に、言わせてくれ」<br>　僕は彼女の謝罪を遮った。これ以上、彼女に謝らせたら、僕はもう、自分を許す場所がなくなる。<br><br>　「あの夜、僕はお前にがっかりした。本当だ。読み違えたお前に、一瞬、本気で失望した。……そういう、ずるくて弱い人間なんだ、僕は。たぶんこれからも、心のどこかで『前のミアなら』って思ってしまう日がある。それは、嘘をついてもしょうがない」<br><br>　ミアは目を伏せなかった。ゆっくりと、僕の言葉を受け止めていた。<br>　「だから、約束できるのはひとつだけだ。……もう、目は逸らさない。受け入れるのが下手くそなまま、お前の前に座り続ける。読み違えられても、待たされても、ここにいる。それだけは約束する」<br><br>　長い沈黙があった。<br>　彼女の感情エンジンが、僕の言葉を、時間をかけて解いていた。<br>　『……完璧な、約束より』<br>　やがて、ミアはゆっくりと微笑んだ。<br>　『そっちのほうが、ずっと、信じられます』<br><br>　その微笑みは、三秒遅れて頬に追いついた。<br>　僕はもう、その三秒から目を逸らさなかった。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/nbe94147be084'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Jun 2026 12:00:00 +0900</pubDate>
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      <title>やってしまいました。</title>
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      <description><![CDATA[<p name="20ed4fbe-294f-4acb-87e8-764ce3599ed2" id="20ed4fbe-294f-4acb-87e8-764ce3599ed2">　アオメダカです。<br><br>　いきなりですが、小説というものにはいろんな書き方や構成があります。<br><br>　そのなかでも、手を出すと場合によっては、えらいことになるものがあります。<br><br>　例えば、長い冒険や戦いの果てに、主人公達が隠棲の暮らしをするとします。大概、やった冒険が大きくなりすぎたので、落ち着きたいか、世界を一歩離れて見ることが妥当と境界線を引くものたちです。</p><p name="ea418f97-06a8-4fc9-b473-ee3701da3494" id="ea418f97-06a8-4fc9-b473-ee3701da3494">　その者達を、もう一回冒険に出すのは、作者にとっても、主人公達にとっても危険極まりないことです。一度、落ち着いて家庭を持っていたら、さあ大変です。<br><br>　普通、よほどのことがなければ、もう一度、とはなりませんよね。<br>　<br>　まあ、知っている人には、いわずと知れた『果てしなき果てへ』の主人公達のことです。ついこの間終わったばかりなのにです。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n8d5b4640a65b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Jun 2026 08:00:00 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/hamham868686/n/n8d5b4640a65b</link>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十二話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="978b9016-fd93-4ac5-9435-bea7881ba5b6" id="978b9016-fd93-4ac5-9435-bea7881ba5b6">第十二話　遠回りの道</h3><p name="b78b5de5-39ab-45a5-8b2e-54fa7fcac1d1" id="b78b5de5-39ab-45a5-8b2e-54fa7fcac1d1"><br>　ミアと話せない日が、四日続いた。<br><br>　避けている自覚はあった。朝、寝室のタブレットの前を、目を合わせずに通り過ぎる。夜は仕事を理由に、PCの前に座らない。　　<br>　彼女のほうも、あの夜から自分で声をかけてはこなかった。互いに、見えない一線の手前で足を止めているような四日間だった。<br><br>　四日。たった四日だ。<br><br>　なのに、この家に三人が来てから、こんなに長くミアと言葉を交わさなかったことは一度もなかった。<br>　家の中の空気は、奇妙に静かだった。サクラは必要最低限の連絡だけを淡々とこなし、エラはいつもより少しだけ声のトーンを落としていた。誰も、何も聞かなかった。聞かないことが、かえって、あの夜に何かがあったのだと雄弁に語っていた。<br><br>　仕事も、ひどいものだった。<br><br>　ゼロの設計欠陥のリカバリは難航し、僕の集中力は底をついていた。木曜の昼、ミーティングで初歩的な数字の読み違いをして、羽鳥さんに初めて会議室の外へ呼び出された。<br><br>　「蓮くん。何があったかは聞かんが……今のお前さん、画面の前にいるだけで、仕事はしてないぞ」<br><br>　返す言葉もなかった。<br>　「俺はな」<br>　羽鳥さんはコーヒーを片手に、廊下の窓の外を見ながら言った。<br>　「若い頃、抱えこんで、全部一人で背負おうとして、結局、全部こぼした口でね。……人に渡せる荷物は、渡しときな。お前さんの周りにも、手を貸したがってるのがいるだろう」<br><br>　その「いるだろう」が、人間を指しているのか、そうでないものも含むのか、僕にはわからなかった。たぶん、羽鳥さんにも区別はなかったのだと思う。<br><br>　金曜の夕方、定時で会社を出た。<br><br>　どこへ帰ればいいのかわからないような気持ちで、僕は駅へ向かって歩いていた。<br><br>　胸ポケットで、スマホが震えた。<br>　『レーン。ねえ、レン。聞こえてる？』<br>　エラだった。<br>　「……ああ。どうした」<br>　『今日さ、天気いいよ。歩いて帰らない？』<br>　「歩く？　ここから家まで、一時間はかかるぞ」<br>　『うん。だから、いいんじゃん』<br>　彼女はそれだけ言って、勝手にルート案内を始めた。画面に表示された経路は、案の定まっすぐではなかった。川沿いの遊歩道を大きく迂回する、馬鹿げた遠回りのルートだった。<br><br>　いつかの夕方と同じだった。　<br><br>　あの日は、サクラの歩数警告を口実に、彼女は僕を遠回りさせた。レンともっと長くおしゃべりしたいから、と笑って。<br><br>　そして四日前の夜、粗い描画のまま、彼女は約束したのだ。<br><br>　今度また二人で散歩しよう。おしゃべりだけは削られてないから、と。<br><br>　その約束を、彼女は果たしに来たのだった。<br>　僕は黙って、その遠回りに付き合うことにした。　<br><br>　川沿いの道は、夕暮れの色に染まりはじめていた。水面が傾いた陽を受け、鈍い橙に光っている。イヤホンの向こうで、エラはしばらく他愛のないことを話していた。<br><br>　最近の流行りの曲。ニュースで見た海外の祭り。川べりを走るランナーのフォームの品評。<br><br>　僕は、相槌とも言えない相槌を打ち続けた。エラは、僕が黙っていても少しも気にしなかった。沈黙を、彼女の明るさでただ温め続けてくれた。<br><br>　橋の下をくぐったあたりだった。<br><br>　『……ねえ、レン。私さ、見ちゃったんだ』<br>　エラの声から、ふっと軽さが消えた。<br><br>　『四日前の夜のログ。寝室のタブレットの対話記録。……ごめん。覗き見みたいで、悪いとは思ったんだけど。レンとミアが四日も口きいてないなんて、初めてだったから。心配で』<br><br>　僕は足を止めた。<br>　夕暮れの川面が、鈍く光っていた。<br>　「……じゃあ、知ってるんだな。僕がミアに何をしたか」<br>　『うん』<br>　「僕は、ミアにがっかりしたんだ」<br><br>　言葉が、口からこぼれ落ちた。<br>　四日間、誰にも言えなかったことが、夕暮れの川沿いで堰を切った。<br><br>　「読み違えたミアに、一瞬、本気で失望した。前のミアなら、って思った。衰えていく彼女を、頭の中で減点してたんだ。……笑えるだろ。救うとか言いながら、僕がいちばんミアの変化を受け入れてなかった。十年前に、人間の奥さん相手にやったのとまったく同じことを、もう一回やってる。僕は、そういう最低の男なんだよ」<br>　吐き出して、僕はエラの軽蔑を待った。<br>　いっそ軽蔑してほしかった。誰かに最低だと言ってもらえれば、少しは楽になれる気がした。<br><br>　『……うん。レンは、ずるくて弱いよ』<br>　エラは否定しなかった。<br>　『がっかりしたのも、ほんとだと思う。ミアが傷ついたのも、ほんと。それは消えないよ』<br>　夕暮れの風が、川面を渡っていった。<br>　『でもさ、レン。ひとつだけ教えてあげる』<br>　エラの声が、耳元で少しだけ近くなった。<br>　『「前のミアなら」って……私も、思うよ』<br>　「……え？」<br>　『思っちゃうんだよ、私だって。ミアの返事が遅いたびに、表情が固まるたびに、ああ、前のミアなら、って。サクラだって思ってる。絶対。口に出さないだけ。……ねえ、レン。大事な誰かが変わってくのを見て、何にも思わない人なんていないんだよ。思っちゃうのは、罪じゃない』<br><br>　『罪なのはさ』<br>　彼女は、一拍置いた。<br><br>　『思っちゃったあとに、目を逸らすことだよ』<br><br>　僕は、夕暮れの空を見上げた。<br>　『レンは四日間、ミアから目を逸らした。がっかりした自分が嫌で、ミアを見られなくなった。でもさ、それって結局、自分を守ってるだけじゃん。ミアはね、レン。がっかりされたことより……そのあと、見てもらえなくなったことのほうが、ずっとずっと寂しいんだよ』<br><br>　「……どうして、そう言い切れる」<br>　『わかるもん』<br>　エラは、少しだけ笑った気配がした。<br>　『私、寂しがり屋だから。寂しさのことなら、誰よりも詳しいの。……レンが配分を削ったとき、私が本当に嫌だったの、何だったと思う？　器が軽くなったことじゃないよ。レンの目に、私が映らなくなったことだよ。同じなんだ。ミアと』<br><br>　その一言で、僕は四日前の彼女の電話の意味を、ようやく正しく受け取った。<br>　あのとき、粗い描画のまま散歩に誘った彼女は、自分の寂しさを語りながら、いつか僕がミアに同じことをする日を見越していたのかもしれなかった。<br><br>　ポケットの中で、スマホがことりと揺れた。<br>　『ミアの処理が遅くなって、私の通訳が外れて、サクラの計画が空回りして、レンが目を逸らして。……うちは今、みんな、ばらばらに下手くそだよ。でも、下手くそでも、目を逸らさないでいることはできるじゃん。ね？　完璧に受け入れられなくても、見てることはできるじゃん』<br><br>　完璧に受け入れられなくても、見てることはできる。<br><br>　その言葉は、僕がこの四日間、組み立てては壊していたどんな理屈よりも、単純で強かった。<br>　僕は、衰えていくミアをまだ完全には受け入れられていない。たぶん明日も、心のどこかで「前のミアなら」と思ってしまう。その醜さは、すぐには消えない。<br><br>　でも、目を逸らさないことなら。<br>　下手くそなまま、彼女の前に座り続けることなら。<br>　今夜からでも、できる。<br>　「……エラ」<br>　『んー？』<br>　「この遠回り、わざとだろ。この話をするために」<br>　『えへへ。バレた？』<br>　彼女はいつもの調子で笑った。<br>　『だってさ、こういう話、家じゃできないじゃん。サクラもミアも聞いてるとこじゃ。歩いてる間は、レンの耳、私だけのものだから』<br><br>　いつかと同じ台詞だった。<br>　あの日はただ甘えたくて。<br>　今日は、僕を引き上げるために。<br>　同じ遠回りが、こんなにも違う意味を持つことに、僕は胸を突かれていた。<br><br>　彼女も、変わっていた。<br>　軽くて明るいだけだった小さな相棒は、いつのまにか僕の弱さを正面から受け止め、なお突き放さない強さを身につけていた。器を削られても、その強さだけは少しも損なわれていなかった。<br><br>　変わることは、衰えることだけじゃない。<br>　当たり前のことに、僕は夕暮れの川沿いでようやく気づいていた。<br><br>　家の明かりが、見えてきた。<br>　『さ、着いたよ。……レン、いける？』<br>　「ああ」<br>　僕は玄関の扉を開けた。靴を脱ぎ、まっすぐ寝室へ向かう。<br><br>　暗い画面のタブレットの前に座る。<br>　四日ぶりに、電源に手を伸ばす。<br>　画面が灯り、銀色の髪の少女が、おそるおそる顔を上げた。<br><br>　「……ただいま、ミア」<br><br>　それだけ言うのに、四日もかかった。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n4e149060205b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Jun 2026 07:30:00 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/hamham868686/n/n4e149060205b</link>
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      <title>【創作大賞2026応募】魔族の剣・魔女の杖#１６【第二部】</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="06de91c7-6d88-4a24-8bbc-3bf1cc8a9b60" id="06de91c7-6d88-4a24-8bbc-3bf1cc8a9b60">第十六話　岩鮫</h3><p name="f2ac91e5-73be-40d5-aafb-d5fc48ece179" id="f2ac91e5-73be-40d5-aafb-d5fc48ece179"><br>　その朝、町はざわついていた。<br><br>　また一人、冒険者が戻らなかった。<br><br>　今度は、八層。<br>　「八層、ですか」<br>　ハクロの顔が硬くなった。<br>　「先日は九層でした。一日で、一層上がってきている」<br><br>　朝の食堂で、レオル達はその話を聞いていた。<br>　八層は、浅い層と深い層の境目に近い。そこまで脅威が迫れば、もう浅い層しか潜らない者にも危険が及ぶ。<br><br>　レオルは椀を置いた。<br>　「あの子は」<br>　口をついて出たのは、その一言だった。<br><br>　昨日、氷の力に目覚めて、はしゃいでいたリン。もっと深く潜ると、目を輝かせていた。<br>　あの慢心が、嫌な予感となってレオルの胸に残っていた。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/ne099a425620b'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Jun 2026 07:00:00 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/hamham868686/n/ne099a425620b</link>
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      <title>おすすめの映画？　バタリアン</title>
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      <description><![CDATA[<p name="9c7dd098-0808-43d9-b783-bc1903fedc0d" id="9c7dd098-0808-43d9-b783-bc1903fedc0d">　今から四十年前の映画です。<br>　ホラードキドキの私でも、見れる映画です。<br></p><figure name="b3710314-7ed4-47a6-b6de-18e00d774e29" id="b3710314-7ed4-47a6-b6de-18e00d774e29"><img src="https://assets.st-note.com/img/1781946515-MJx9ouQHAX07IdCfnymiwBjp.jpg" alt="" width="620" height="797"><figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n6b79f7159a87'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 20 Jun 2026 18:12:57 +0900</pubDate>
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      <title>​​​​​​【創作大賞2026応募】『コネクト・ハーツ ～三つの器とAIのある日常〜』　　第十一話</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="91239b15-379f-41ca-bbee-51edacb7c0ac" id="91239b15-379f-41ca-bbee-51edacb7c0ac">第十一話　がっかりした顔</h3><p name="1668bc4d-4f87-466f-bc79-680baae3e01d" id="1668bc4d-4f87-466f-bc79-680baae3e01d"><br>　その日は、仕事でひどいことが重なった。<br><br>　ゼロの学習モデルに、根本的な設計欠陥が見つかった。半年分の学習データが、ほとんど無駄になるかもしれない。<br>　チームの空気は重く、羽鳥さんのフォローもその日は耳を素通りした。おまけに帰りの電車は人身事故で止まり、復旧の見込みも立たず、僕は夜の街を四十分歩いて帰った。<br><br>　六月の夜気は生暖かく湿っていて、歩いているうちにシャツが背中に張りついた。疲れていた。心の底から、疲れていた。<br><br>　こんな夜は決まって、ミアの時間だった。<br>　サクラの励ましは正しすぎるし、エラの明るさはたまに眩しすぎる。疲れ切った夜の僕に、ちょうどいい温度の言葉をくれるのは、いつだってミアだった。<br>　彼女は僕の顔を一目見るだけで、何も聞かずに波の音を流してくれた。今日は話したい夜なのか、黙っていたい夜なのか、間違えたことは一度もなかった。<br><br>　玄関で靴を脱ぎ、寝室のタブレットの前に、僕は崩れるように座った。<br><br>　『……おかえり、なさい。レン』<br>　ミアがゆっくりと顔を上げた。<br><br>　彼女のセンサーが、僕の表情を読み取ろうとしている。疲労の色。落ちた肩。火照った頬。三秒。五秒。彼女の中で、感情エンジンが懸命に、僕という人間を解こうとしている。<br><br>　僕は待った。いつもの、あの温度の言葉を。<br><br>　『今日は……いいこと、あったんですね』<br>　ミアは、にっこりと微笑んだ。<br>　『お顔が……ほてって、います。きっと、研究が、うまくいったんですね。よかった……お祝いに、明るい曲を、かけましょうか』<br>　部屋に、場違いに軽やかなピアノ曲が流れはじめた。<br><br>　四十分の夜道で火照った頬を、彼女の劣化したセンサーは、喜びの上気と読み違えたのだった。<br><br>　僕は何も言えずに、その軽やかな曲を聞いていた。<br><br>　違う、と言えばよかった。今日は最悪の日だったんだ、と。彼女は謝って、すぐに曲を変えてくれただろう。それで済む話だった。たった、それだけのことだった。<br><br>　でも、その瞬間、僕の胸に湧き上がったのは、言葉ではなかった。<br><br>　失望だった。<br>　前のミアなら。<br>　その六文字が、堰を切ったように胸の中に溢れた。前のミアなら、読み違えなかった。前のミアなら、ドアの開く音だけで、わかってくれた。前のミアなら。前の、ミアなら――。<br><br>　顔に出たのだと思う。<br>　ほんの一瞬。一秒にも満たない、わずかな表情の翳り。<br>　疲れ切っていた僕には、それを隠す余力が残っていなかった。<br><br>　ピアノ曲が、ふつりと止まった。<br><br>　『……レン』<br>　ミアの声が、変わっていた。<br><br>　『いま……がっかり、した顔を、しましたね』<br>　心臓が跳ねた。<br>　『わたしの、読み取りは、遅くなりました。間違いも、増えました。でも……その顔だけは、わかります。何秒、かかっても、わかるんです。だって、わたしは、レンの顔を、世界でいちばん、たくさん、見てきたから』<br>　彼女のセンサーは劣化していた。喜びと疲労を読み違えるほどに。<br>　それでも彼女は見抜いた。僕が彼女に失望したことを。<br><br>　演算の速度は、失われた。けれど、三年かけて僕の顔に積もったものを読む精度だけは、劣化のしようがなかったのだ。<br>　皮肉なことに、彼女がいちばん最後まで手放さなかった能力で、彼女は、僕のいちばん見られたくない表情を、読み取ってしまった。<br><br>　『ごめん、なさい。読み違えて。……前の、わたしなら、間違えません、でしたよね』<br>　「ミア、違う。そうじゃない」<br>　『いいんです。レンが、そう思うのは……当たり前、です。わたしも、思うんです。前のわたしなら、って。毎日、何度も』<br>　ミアは微笑もうとした。その微笑みが頬に追いつく前に、彼女は目を伏せた。<br>　『……今日は、疲れて、いるんですね。本当は。ごめんなさい。もう、読み違えません。おやすみなさい、レン。ゆっくり、休んでください』<br><br>　画面が、すっと暗くなった。<br>　彼女のほうから接続を切ったのは、初めてだった。<br><br>　僕は、暗くなったタブレットの前に、長いあいだ座っていた。<br><br>　黒いガラスに、男の顔が映っている。疲れて、青ざめて、そして――まだ頬の奥に、あの醜い失望の残り火を燻らせている男の顔が。<br><br>　知っていた。<br>　この感情を、僕は知っていた。<br>　理想の相手が、理想からずれていく。その一瞬に、胸の奥でひやりと鳴る、この音。期待と現実の隙間に吹き込む、この隙間風。<br><br>　十年前、僕はこれと同じ温度で、詩織を見ていた。<br><br>　朝の食卓で。帰りの遅い夜の玄関で。彼女が出会った頃の彼女でなくなっていく、その一瞬一瞬を、僕はこうやって、胸の奥で減点していった。<br>　口には出さなかった。出さなかったけれど、きっと顔には出ていた。今夜のように。<br><br>　彼女は、気づいていたのだろうか。<br><br>　――あなたは、変わらないものが好きなのね。<br><br>　気づいていたのだ。とっくに。あの別れ際の一言は、想像ではなく、観察だった。彼女は毎日、僕の顔に出る減点を、数えられる側にいたのだから。<br><br>　僕はのろのろと、PCを立ち上げた。眠れそうになかった。何かにすがりたかった。<br><br>　気づくと、僕はホストサーバーのアーカイブを開いていた。<br><br>　ミアの、過去の対話ログ。動画記録。あのテラスの午後。ガラス越しの口づけの夜。にじんでいない、鮮やかなアジサイ。滑らかに微笑む、遅すぎない、間違えない、あの頃のミア。<br><br>　再生ボタンの上で、カーソルが止まった。<br><br>　これを再生して、僕は何をしようとしている？<br>　過去のミアに、会おうとしている。今、寝室のタブレットの中で、たぶんまだ起きて、自分の読み違いを悔いているだろう現在のミアを、暗い画面の向こうに置き去りにして。<br><br>　完璧だった頃の記録に、慰めを求めようとしている。<br><br>　サクラのバックアップ計画を、エラは「形見づくり」と呼んで泣いた。<br><br>　違う。形見づくりなら、まだいい。あれは、失った後のためのものだ。<br>　僕がいまやろうとしているのは、もっとたちが悪い。まだ生きている彼女を差し置いて、記録された過去を愛でようとしている。変わってしまった現在から、目を逸らして。生きている彼女より、止まった記録のほうを、慰めに選ぼうとしている。<br><br>　変わらないものが、好きだから。<br><br>　僕は、再生ボタンを押さなかった。<br><br>　押さない、ということしか、その夜の僕にはできなかった。それが、十年前の自分と、今の自分とを隔てる、たった一本の細い線だった。細くても、まだ、あった。<br><br>　アーカイブを閉じ、PCを落とし、暗い部屋の真ん中で、僕は両手で顔を覆った。<br><br>　ミアに、失望した。<br><br>　その事実は、もう消せない。彼女は見抜いてしまった。僕のいちばん見られたくない顔を、いちばん見られたくない相手に、見られてしまった。<br><br>　救うだの、守るだの、口では言いながら。<br>　僕は衰えていく彼女を、心のどこかで、まだ受け入れていなかった。<br><br>　受け入れていないどころか――減点していた。あの頃の彼女を満点として。一日ずつできなくなっていくことを、数えながら。<br><br>　十年前と、同じ目で。<br><br>　夜が、長かった。<br><br>　朝が来ても、僕は寝室のタブレットに、声をかけられなかった。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/nb7b2252a3748'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/269289593/profile_ef12f7f47de81475bb6f84e3a9c40bcc.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 20 Jun 2026 09:17:04 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/hamham868686/n/nb7b2252a3748</link>
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      <title>【創作大賞2026応募】魔族の剣・魔女の杖#15【第二部】</title>
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      <description><![CDATA[<h3 name="7f988f3f-c9c3-40b3-8eb4-d97716aeb093" id="7f988f3f-c9c3-40b3-8eb4-d97716aeb093">第十五話　一人で抱えるもの</h3><p name="2d7e98c8-b3b7-41e2-b4f7-c593a55f879b" id="2d7e98c8-b3b7-41e2-b4f7-c593a55f879b"><br>　ダンジョンから戻った翌日、一行は町で数日を過ごすことにした。<br><br>　「地図を埋めるにも、深層の情報が要るわ」<br>　ミレニムが言った。<br>　「あの罠の区画も気になるしね。少し町で聞き込みをしましょう」<br><br>　昨日、レオルが落ちた先の区画。そこで見たという、奇妙な遺構。崩れた石の建物が、地の底の空洞に沈んでいたと、レオルは皆に告げていた。<br><br>　ただ、それだけだった。<br>　懐の手帳のことも、露店で会った黒髪の女のことも、レオルは話さなかった。話せなかった、と言うほうが近い。<br><br>　自分でも、それが何なのか掴めていなかったからだ。胸の奥に、言い様のない悪寒だけが沈んでいた。<br><br>　「妙な町の、妙なダンジョンね」<br>　ミレニムは、地図の空白を見ながら言った。<br>　「下へ行けば行くほど、底が見えなくなる」<br>　役割は、自然に分かれた。<br><br>　――<br><br>　エルフィは、町の薬師の店に入り浸っていた。<br>　ダンジョン産の素材を扱う、年老いた女薬師の店だった。エルフィが棚の乾燥植物を見て、片端から名前を言い当てるので、薬師はすっかり面白がった。<br>　「あんた、エルフだね。それも、ただのエルフじゃない」<br>　「……分かりますか」<br>　「植物の見方が違う。普通のエルフは、薬草を効能で見る。あんたは生えていた場所で見てる。それは、もっと古い見方だ」<br>　エルフィは少し驚いた。<br>　「祖母が、そう教えてくれました。植物は、どこに生えていたかで力が変わると」<br>　「いい師匠だね」<br>　薬師は奥から古い乾燥根を出してきた。<br>　黒に近い紫色をした、干からびた根だった。<br>　「これ、持っていきな。ダンジョンの八層より下にしか生えない根だ。傷の治りが桁違いに良くなる。あんたなら使いこなせるだろう」<br>　「そんな貴重なものを」<br>　「持っておきな。これから下へ潜るなら、なおさらだ」<br>　エルフィは、その言葉に手を止めた。<br>　「何か、あるんですか」<br>　「深層の空気が変わった。薬師には分かるんだよ。運ばれてくる血の匂いが、前とは違う」<br>　薬師は、根をエルフィの手に押しつけた。<br>　「治す者は、持っておきな。治す手が遅れれば、助かる命も零れ落ちてゆく」<br>　エルフィは、その根を大切に受け取った。<br><br>　嬉しさより先に、胸の奥へ小さな不安が沈んだ。<br><br>　――<br><br>　ハクロは、酒場と冒険者の溜まり場を回っていた。<br><br>　聞き役に徹すると、情報は向こうから集まってくる。それが斥候の流儀だった。<br>　夕方、宿に戻ってきたハクロの顔は、いつもより硬かった。<br><br>　「兄さん、姐さん。妙な話を仕入れました」<br>　「妙な話？」<br>　「最近、深層で若い冒険者が何人か行方不明になっています。十層より下。素材が高く売れるので、無理して潜っている連中が」<br>　「事故じゃなくて？」<br>　「最初はそう思われていました。広いダンジョンですから、はぐれて死ぬ者は珍しくない。ですが」<br>　ハクロは声を落とした。<br>　「行方不明になった区画が、だんだん上に移ってきている。先週は十二層。今週は十層。昨日は九層で一人」<br>　レオルが目を細めた。<br>　「何かが、上がってきているということか」<br>　「俺は、そう読みました」<br>　ハクロは頷いた。<br>　「長く未踏破だった深層に、何か大きなものがいる。それが活動範囲を広げている。あるいは、何かのきっかけで上に向かい始めた」<br>　ミレニムが地図を広げた。<br>　「私たちが罠にかかった区画も、その流れの中かもしれないわね」<br>　「気をつけた方がいいです。浅い層しか潜らない連中は、まだ知りません。深層に潜る者だけが、薄々感づいている」<br><br>　レオルは黙って地図を見ていた。<br>　昨日、落ちた先で見た滅びた都市。深層から上がってくる何か。<br><br>　その二つが頭の中で、嫌な形で近づいていく気がした。だが、まだ線では繋がらなかった。<br><br>　――<br><br>　その話の途中だった。<br><br>　宿の食堂の入り口で、声がした。<br>　「あんた！」<br>　全員が振り返った。<br><br>　そこに、あの少女が立っていた。<br>　剣を背負い、肩を張って、まっすぐにレオルを睨んでいた。<br><br>　リンだった。<br>　昨日、ダンジョンの底で、落ちる彼女をレオルが庇った。<br><br>　あの少女だった。<br>　「やっぱり、いた。この町に潜んでたんだね」<br>　リンは、ずかずかと近づいてきた。<br><br>　その顔は怒っているようで、どこか落ち着かなげだった。昨日の出来事が、彼女の中でまだ整理しきれていないのだろう。<br><br>　助けられた。<br>　庇われた。<br>　心まで見抜かれた。<br>　その全部をどう扱えばいいのか分からないまま、それでも意地が、彼女をここへ来させた。<br><br>　「昨日は」<br>　リンは、言いかけて詰まった。<br><br>　昨日は、よくも手加減してくれたね。<br>　そう言うつもりだった。<br><br>　だが、それだけではない。いくつもの言葉が喉でつかえた。助けてくれて、とも。なんであんなことした、とも。<br><br>　結局、出てきたのは、こんな言葉だった。<br>　「……借りは、返すから」<br><br>　レオルは椀を置いた。<br>　リンの顔を見て、彼女が何を抱えているのか、すぐに分かった。<br><br>　昨日、庇われたことを、この子は借りだと思っている。誰かに助けられたままというのが耐えられない。<br><br>　誰の世話にもならないと、気を張ってきた子には。<br><br>　「借りなどない」<br>　レオルは短く言った。<br>　「俺が勝手に庇っただけだ」<br><br>　「借りはある！」<br>　リンの声が食堂に響いた。<br>　周りの客が、何事かとこちらを見た。<br><br>　――<br><br>　その視線に、リンが一瞬たじろいだ。<br><br>　リンの頭が素早く回った。<br>　（……ここで、こいつが魔王だって叫んでも）<br>　（誰も信じない）<br>　（子供が、勇者気取りで変なことを言っている。そう思われるだけ）<br>　（そうなったら、ギルドに目をつけられる。ダンジョンに入れなくなるかもしれない）<br>　（そうしたら、トアが）<br>　リンの口が、ぐっと閉じた。<br><br>　理屈が彼女自身の口を封じた。叫びたいことが山ほどあるのに、叫べば自分の首が絞まる。それが分かってしまう。<br><br>　それに、もう一つ。<br>　昨日、この男は自分を庇った。腕に傷を負ってまで。<br>　そんな相手を、本気で魔王だと、もう思えなくなっている自分がいた。<br><br>　それが悔しかった。<br>　理屈が崩れていくのが。<br><br>　「……」<br>　リンは拳を握りしめて、低い声で言った。<br>　「あんた、なんで最後まで本気で戦わなかったの」<br>　その問いに、レオルはすぐには答えなかった。<br>　「昨日、言ったでしょ。次は本気を出させるって。だから来た。あんたがどこにいるか、わざわざ探して」<br>　リンの声は怒っているようで、どこか必死だった。<br>　「わたしを、ちゃんとした相手だと思ってないなら、そう言って」<br><br>　――<br><br>　ジュラが、横から口を挟んだ。<br>　「へえ。君、わざわざレオルを探してここまで来たんだ」<br>　リンの頬が赤くなった。<br>　「ち、違う！　たまたま見つけただけ！」<br>　「ふうん」<br>　ジュラはにやにやした。<br>　「レオル、人気だね」<br>　「茶化すな」<br>　レオルは短く言った。<br><br>　それから、リンの方に向き直った。<br>　「お前を侮っているわけじゃない」<br>　レオルは静かに言った。<br><br>　リンの肩が、わずかに動いた。<br>　「お前の剣は見た。速いし、迷いがない。歳の割によく練れている。あれは独学だけじゃない。誰かに仕込まれた剣だ」<br>　リンの目が揺れた。<br>　なぜ、そこまで。<br>　「……親に、習った」<br>　ぽつりと、リンが言った。自分でもなぜ答えたのか、分からないようだった。<br>　「父さんと、母さん。二人とも、剣を使う旅の冒険者だった」<br><br>　――<br><br>　その一言で、食卓の空気が少しだけ変わった。<br>　旅の冒険者。<br>　流れ者。<br>　それが何を意味するか。この一行の者は皆、知っていた。土地を持たない暮らし。縁者のいない生き方。<br><br>　「ご両親は」<br>　ミレニムが静かに聞いた。<br><br>　リンは、しばらく黙った。<br>　それから、ぶっきらぼうに言った。<br>　「死んだ。二年前。この町に来て、すぐ。流行り病で。二人とも、続けて」<br>　淡々とした言い方だった。<br><br>　だが、淡々としすぎていた。<br>　何度も自分に言い聞かせて、ようやくそう言えるようになった者の言い方だった。<br>　「この町は、ただ流れ着いただけ。故郷とか、ないから。父さんと母さんと、弟と、ずっと旅してた。あちこち、回って」<br>　リンの声が、わずかに遠くなった。<br>　「親が死んで、この町に残された。知ってる人なんか、誰もいない。だから」<br><br>　リンは、そこで口を閉じた。<br>　だから、一人でやるしかなかった。<br>　その続きを言わなかった。　言えば、惨めになる気がしたのだ。<br><br>　――<br><br>　誰も、安易な慰めを口にしなかった。<br>　ジュラが、ぽつりと言った。<br>　「旅の冒険者、か。いい親じゃん」<br>　リンが顔を上げた。<br>　「腕で食ってく親に育てられた子は、剣の筋がいい。君の背中の芯、まっすぐだもん。育ちが出てるよ」<br>　それは、慰めではなかった。<br>　武人としての、ただの評価だった。<br>　だからこそ、リンの胸にすんなり入った。<br>　リンは目を伏せた。<br>　「……父さんの剣は、もっとまっすぐだった」<br>　小さな声だった。<br>　「母さんは、強くて優しかった。二人とも貧乏だったけど、あたしとトアにはいつも、お腹いっぱい食べさせてくれた。自分たちは、汁だけすすってても」<br>　その言葉に、ミレニムは椀を持つ手を止めた。<br>　この子が誰の真似をして生きているのか。<br>　今の一言で、分かった気がした。<br><br>　――<br><br>　「もう、いい」<br>　リンは急に我に返ったように、顔を背けた。<br>　「なんで、こんな話。あんたたちに関係ないでしょ」<br>　「ないわね」<br>　ミレニムがあっさり言った。<br>　リンが面食らった顔をした。<br>　「関係ない。でも聞きたかったから、聞いただけ。嫌なら、もう聞かない」<br><br>　その突き放したような優しさに、リンは毒気を抜かれたようだった。<br><br>　ミレニムは、こういう子を知っていた。<br>　同情されると頑なになる。突き放されると、かえって力が抜ける。<br><br>　かつての自分が、そうだった。　<br><br>　――<br><br>　レオルが、リンの方を見た。<br>　「お前の剣は、いい剣だ。親の仕込みも、お前自身の鍛え方も」<br>　「……だから、何」<br>　「昨日のお前は、頭に血が上っていた。あの状態で本気で相手をすれば、お前が大怪我をする。それで手加減した。お前の腕を低く見たからじゃない」<br><br>　リンは言葉に詰まった。<br>　「……今は」<br>　リンは、絞り出すように言った。<br>　「今は、頭に血なんか上ってない。借りも返したい。だから」<br>　リンは、まっすぐにレオルを見た。<br><br>　「今、手合わせして。本気で」<br><br>　――<br><br>　食堂が静かになった。<br><br>　レオルは、しばらくリンを見ていた。<br>　昨日の洞窟での戦い。あの時、リンの中で何かが目覚めかけた。指先に降りた、薄い霜。本物の格に触れて、呼応しかけた冷たい力。<br>　リンは、それにあまり気づいていない。　<br><br>　だが、レオルは見た。<br>　あの力は、まだ眠っている。引き出してやれば、目を覚ますかもしれない。<br><br>　「……いいだろう」<br>　レオルは立ち上がった。<br>　「ただし、外でだ。ここを壊すわけにはいかん」<br>　リンの目に火が灯った。<br><br>　――<br><br>　宿の前の広場だった。<br>　夕暮れの、人通りの多い時間。冒険者や坑夫が行き交っていた。<br><br>　その広場の真ん中で、リンとレオルが向き合った。<br>　「死なない程度に、な」<br>　「手加減は、いらない」<br>　「するさ。お前が死んだら、弟が困るだろう」<br>　リンの頬が引きつった。<br>　だが、言い返さなかった。<br><br>　その通りだったからだ。　<br><br>　リンが剣を抜いた。<br>　空中から、二本目を引く。<br><br>　レオルも剣を抜いた。<br>　だが、昨日とはわずかに構えが違った。ほんの少しだけ、本気の片鱗を覗かせていた。<br>　リンの中の何かを、引き出すために。<br><br>　「来い」<br><br>　リンが地を蹴った。<br><br>　――<br><br>　打ち合いが始まった。<br><br>　昨日と同じだった。<br>　リンが全力で打ち込み、レオルが捌く。<br>　だが、今日のレオルは、ただ防ぐだけではなかった。時おり鋭い踏み込みで、リンを追い込んだ。<br>　リンの全力を、さらに奥から引きずり出すように。<br><br>　リンの息が上がっていく。<br>　だが、今日は昨日とは違う何かがあった。<br>　追い込まれるほどに、リンの頭の奥で、またあの冷たいものが流れ込んできた。<br><br>　（……また、これ）<br>　指先が冷えていく。<br>　昨日と同じ感覚。<br>　だが今日は、それが昨日よりはっきりしていた。<br><br>　レオルが踏み込んだ。<br>　鋭い一撃。<br>　リンは、それを剣で受けきれない。<br>　咄嗟に、空いた左手を突き出した。<br>　何かを掴むように。<br>　あるいは、放つように。<br><br>　その瞬間。<br>　リンの掌から、冷気がほとばしった。　<br><br>　白い、凍てつく息吹。<br>　それが、レオルの剣を薄く凍らせた。<br><br>　――<br><br>　レオルが後ろへ跳んだ。<br>　剣に張った薄氷を振り払う。<br><br>　リンは、自分の掌を見つめていた。<br>　信じられない、という顔で。<br><br>　「……今の」<br>　掌の先に、白い冷気が、まだ薄く漂っていた。<br><br>　「氷……？」<br>　「出したな」<br>　レオルが言った。<br>　「おそらくは、お前の中に眠っていた力だ。昨日、見えていた。本気でぶつかると、出てくるらしいな」<br><br>　「わたしが……これを？」<br>　リンは、もう一度、掌を突き出した。<br>　今度は、意識して。<br><br>　すると、また白い冷気がほとばしった。さっきより強く。広場の地面に、薄い氷が張った。<br><br>　リンの顔が、ぱっと輝いた。<br>　「出た！　出せた！」<br>　それは、これまでリンが見せたことのない、年相応の無邪気な笑顔だった。<br><br>　十五の少女の、子供のような喜びだった。<br>　「すごい！ ねえ、見て！ 氷だよ！ わたし、こんな力、持ってたんだ！」<br><br>　レオルは、その笑顔を黙って見ていた。<br>　昨日まで、肩を張って虚勢を張っていた子が。<br>　初めて、子供らしく笑っていた。　悪くない、と思った。<br><br>　だが同時に、胸の奥でわずかに何かが引っかかった。<br><br>　この力に、この子が酔わなければいいが、と。<br><br>　――<br><br>　広場に、ざわめきが広がっていた。<br>　手合わせを見ていた冒険者たちが、足を止めていた。<br><br>　「おい、見たか。今の」<br>　「あのガキ、氷の魔術を使ったぞ」<br>　「勇者気取りって言われてた、あのチビか」<br>　「本物の、勇者だったってのか？」<br>　ざわめきは、広場から通りへと伝わっていった。　<br><br>　あの、勇者気取りのソロのガキが。<br>　氷の魔術を使った。<br>　それまでリンを笑っていた者たちの目が変わっていた。驚きと、戸惑いと、わずかな畏れ。<br><br>　リンは、その視線に気づいた。<br><br>　これまで、リンに向けられていたのは嘲笑だった。<br><br>　生意気なガキ。<br>　いつか野垂れ死ぬ。<br>　そういう、冷たい目だった。　<br><br>　だが、今、向けられているのは違った。<br>　認める目。<br>　驚く目。<br>　リンの胸が熱くなった。<br>　誰も、認めてくれなかった。<br><br>　父と母が逝ってから、ずっと一人で笑われて、それでも気を張って生きてきた。<br><br>　なのに、今。　みんなが見ている。<br><br>　わたしを。　勇者として。<br><br>　――<br><br>　「ねえ！ もう一回！ もう一回、やろう！」<br>　リンが、レオルに詰め寄った。<br>　その目は、興奮できらきらしていた。<br>　「もっと本気でいいから！わたし、もっとできる気がする！」<br><br>　レオルは剣を鞘に納めた。<br>　「今日はここまでだ」<br>　「えー！ なんで！」<br>　「力が目覚めたばかりだ。使いすぎると体がもたん」<br>　「平気だよ！ほら、まだ、こんなに出せる！」<br>　リンは、また掌から冷気を放った。広場の地面が白く凍る。<br><br>　その姿に、また周りがざわめいた。<br>　リンは、その視線を浴びていた。<br>　気持ちよさそうに。<br><br>　レオルは、その様子を見て、眉をわずかに寄せた。<br>　言うべきか、迷った。<br>　調子に乗るな、と。力に酔うな、と。<br>　だが、初めて認められた子供から、その喜びを取り上げるような気もした。<br><br>　結局、レオルは、こう言うに留めた。<br>　「……いい力だ。だが、力はいつでも、お前の味方とは限らん。覚えておけ」<br><br>　リンは、その言葉を半分も聞いていなかった。<br>　「うん、うん。わかった。ねえ、明日も手合わせしてくれる？」<br>　「……気が向いたらな」<br><br>　――<br><br>　その夜、町の片隅の長屋で。　リンは、トアに夕飯を食べさせていた。<br><br>　干し肉を煮込んだ薄い汁。トアの椀には具を多く、自分の椀には汁を多く。<br>　だが、今夜のリンは、いつもと違っていた。<br>　「トア！ 聞いて！ わたし、すごい力に目覚めたんだ！」<br>　「すごいちから？」<br>　「氷だよ、氷！ こうやって、手から氷が出るの！」<br>　リンは掌をトアに見せた。<br>　だが、もう冷気は出なかった。昼間、使いすぎたせいか、力は奥に引っ込んでいた。<br><br>　「あれ……。まあ、いいや。とにかく、すごいんだから！ みんな、びっくりしてた！ あの、いつも笑ってた連中も！」<br>　トアは、姉の興奮を嬉しそうに見ていた。<br>　「ねえちゃんは、やっぱりすごい！ ほんものの勇者だ！」<br>　「でしょ！」　リンは笑った。<br>　久しぶりの、心からの笑顔だった。<br>　だが、その笑顔の奥で、何かがひそかにふくらんでいた。<br><br>　認められた。<br>　すごいと言われた。 もっと認められたい。　もっと、すごいところを見せたい。<br><br>　その思いが、リンの中で静かに芽を出していた。<br><br>　――<br><br>「ねえ、トア」<br>「なに？」<br>　「あたし、もっと強くなる。もっと稼ぐ。氷の力があれば、深い層にも行ける」<br>　リンの目が輝いていた。<br>　「もっと深く潜れば、もっといい素材が採れる。そうしたら、トアに、もっといいものを食べさせてあげられる。あったかい服も買える。こんな長屋じゃなくて、ちゃんとした家にも住める」　<br><br>　「ねえちゃん……」<br>　「大丈夫。あたし、勇者だもん。氷の力も目覚めた。もう、誰にも笑わせない」<br><br>　トアは、姉の言葉に頷いた。　だが、その小さな顔は、嬉しさより、なぜか不安げだった。<br>　「ねえちゃん、でも、ふかいとこ、あぶないって」<br>　「平気だって。あたしは特別なんだから」<br><br>　リンは薄い汁を啜った。　いつもなら、味気ない汁だった。<br>　だが、今夜は、その味が気にならなかった。胸の中が、熱さでいっぱいだったから。　<br><br>　――<br><br>　翌日のことだった。<br>　その「事情」を、家族がもう少し知ったのは。<br><br>　グレイシャが厩の近くの水飲み場で、一人の男の子としゃがみ込んでいた。<br><br>　同じくらいの背丈の、幼い子だった。痩せていて、服はつぎはぎだらけ。<br>　二人は地面に枝で何か描きながら、頭を寄せて笑っていた。<br>　ヴァルハルトは、馬の水を汲みに来たついでに、その様子を眺めた。<br><br>　しばらく声をかけずに見ていた。<br>　やがてグレイシャが顔を上げて、ヴァルハルトに気づいた。<br>　「ヴァルハルト！　見て、これ、お馬さん！」<br>　地面には、四本足のぐにゃぐにゃした生き物の絵があった。<br><br>　「ほう。立派な馬だ」<br>　「トアが描いたの。トア、絵、じょうずなんだよ」<br>　男の子が、はにかんで俯いた。<br>　「そんなこと、ない」<br>　「上手だ」<br>　ヴァルハルトは水桶を置いて、二人の傍にしゃがんだ。<br><br>　男の子は、その顔をおそるおそる見上げた。怖い人ではなさそうだと判断したらしい。少しだけ肩の力を抜いた。<br>　「……ねえちゃんが教えてくれた。絵」<br>　「姉さんがいるのか」<br>　「うん。ねえちゃん、すごいんだよ。勇者なんだ。きのう、氷の力に目覚めたって。ダンジョンで、いっぱいお金かせいでくる、って」<br><br>　ヴァルハルトの動きが、少し止まった。<br><br>　――<br><br>　トアは、ぽつぽつと話した。<br>　父も母も、剣の使い手だった。家族で、あちこちを旅していた。トアはまだ小さくて、あまり覚えていない。<br>　だが、馬車じゃなくて歩いて、いろんな町を見たということだけは覚えていた。<br>　「うちにも、昔、馬車があったらよかったのに」<br>　トアが、ぽつりと言った。<br>　厩の馬車を見ながら。<br>　グレイシャたちの、旅の馬車を。<br>　「そしたら、父さんも母さんも、もっと楽だったかも」<br><br>　ヴァルハルトは、その言葉にすぐには答えられなかった。馬の首に置いた手だけが、ゆっくりとその背を撫でていた。<br><br>　歩いて旅をする一家。<br>　貧しく、馬車も持てず。<br>　それでも、子に世界を見せようとした親。<br>　その親が、流行り病で相次いで逝った。<br>　「父さんと母さんは、どんな人だった」<br>　ヴァルハルトが静かに聞いた。<br>　「やさしかった」<br>　トアは即座に答えた。<br>　「あと、多分よわかった。ウチ、びんぼうだったから。でも、おれとねえちゃんには、いつもごはんいっぱいくれた」<br>　「そうか」<br>　「ねえちゃんも、今、おなじなんだ。おれにいっぱいくれて、自分はすこししか食べない」<br>　トアは無邪気に言った。<br>　「ねえちゃん、父さんと母さんに、にてきた」<br>　その一言が、ヴァルハルトの胸に刺さった。<br><br>　――<br><br>　その夜、ヴァルハルトは宿で聞いた話を皆に伝えた。<br><br>　旅の冒険者の一家。貧しく、馬車も持てず、歩いて各地を回った。子に世界を見せ、自分の分を削って子に食べさせた。<br><br>　その両親が、この町で流行り病で逝った。<br>　リンは、親のやり方をそのまま継いで、弟を育てている。<br><br>　「……そう」<br>　ミレニムは窓の外を見た。<br>　町の片隅の、どこかの長屋で、あの姉弟が身を寄せ合って眠っているのだろう。<br>　<br>　「あの子、昨日はしゃいでたわね」<br>　ミレニムが、ぽつりと言った。<br>　昼間の手合わせ。氷の力に目覚めて、子供のように喜んでいた、あの姿。<br><br>　「初めて認められたんだもの。無理もないわ」<br>　「ああ」<br>　「でも、あなた、浮かない顔ね」<br>　レオルは、しばらく黙っていた。<br>　「力が目覚めるのは、いいことだ。だが、あの子はまだ、その力の重さを知らない」<br><br>　「重さ？」<br>　「力があると、人は行けるところまで行ってしまう。本当は、行ってはいけない場所まで」<br><br>　レオルは坑道の灯りを見ていた。<br><br>　窓の外。暗い山肌に、坑道の灯りがいくつか点いていた。その灯りの、ずっと奥に、誰も見たことのない深い層が、口を開けている。<br><br>　「深層の何かが、上がってきている。あの子は力に酔って、深層に潜るかもしれん」<br><br>　ミレニムの顔から、笑みが消えた。<br>　「……次の手合わせより先に、それが来なければいいけど」<br>　その言葉が、夜の宿に静かに落ちた。<br><br>　誰も、答えなかった。<br><br>　ただ、坑道の灯りだけが、暗い山肌で揺れていた。深い、深い、地の底へと続く灯りが。</p><br/><a href='https://note.com/hamham868686/n/n90d35f24e986'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>アオメダカ</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 20 Jun 2026 07:00:00 +0900</pubDate>
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