夏歩き 2025――高尾山から陣馬山へ
第1章|高尾山口から六号路へ高尾山山頂
毎年、夏の風景に逢うため、高尾山口駅から陣馬山まで縦走している。
いつもは7月末に歩いているが、今年は病気をしたため、山へ向かったのは8月17日になった。
身体を元に戻すためにも、山を歩くのはとても良い。久しぶりの夏空の下を目指し、リュックに荷物をまとめて高尾山口駅へ向かう。
朝の6時台に駅に降り立ち、深く息を吸い込むと森の香りがした。

病気明けの肺に、その空気はことのほか気持ち良い。
ケーブル乗り場の横を通り、いつも歩き慣れた稲荷山コースへ入ろうとすると、通行止めのロープが張られていた。
仕方なく六号路から登ることにした。



思いがけず選んだ六号路では、森の中に咲く小さな花に元気をもらいながら、高尾山山頂を目指す。


靴を水に濡らしながら歩く道は、沢登りをしているようで楽しい。


出発からおよそ1時間、7時40分に高尾山山頂に到着。まだ時間が早いためか、人はそれほど多くない。

さっそく景色が見える場所へ移動し、夏山の風景を目に入れる。
この日の富士山は雲に隠れて姿を見せなかったが、山の緑と夏雲を仰ぎ見れば、それだけで夏の空の下にいるのだと感じられる。

水分補給をして、ふと目に入った「奥高尾へ」の案内板。
ここからが本当の縦走の始まりだ。陣馬山へ向け、歩みを進めていく。
第2章|もみじ台から一丁平へ
もみじ台に着いた頃、初老の男性に「どこまで行くのですか?」と声をかけられた。
「陣馬山まで行きます」と答えると、その方も同じ目的地だという。
「暑い中、大変ですね」と言葉を交わし、互いに笑う。
夏の強い日差しの下、たまたま同じ道を歩くことになった人。
このあと休憩ポイントごとに顔を合わせることになるとは、この時はまだ思っていなかった。


もみじ台を通過し、一丁平へ向かう。
道の途中で、まだ青い栗が落ちているのを見つけた。日はまだ8月半ばだが、確実に秋が近づいているのだと感じる。

登山道に咲く小さな花を眺めながら歩き、やがて休憩地点の一丁平に到着。


リュックを肩から下ろし、スポーツドリンクをひと口。序盤でリズムを崩すわけにはいかない。休憩もそこそこに、小仏城山へ向けて歩き出す。
第3章|小仏城山へ
一丁平から少し進むと、山々を眺められる展望デッキがある。歩くごとに違う景色と出会えるのも、高尾山の魅力なのだろう。


展望デッキからしばらく歩くと、高尾山の次のチェックポイントである小仏城山に到着した。

山頂には茶屋があり、ゆっくり休むことができる。
肝心の眺望はどうだろうと景色が見える場所へ向かうと、草が生い茂っていて視界はあまり開けていない。それでも隙間から何とか景色をのぞくことができ、少しホッとする。

景色を楽しんだ後、景信山から移ってきた青天狗のワンちゃんにご挨拶。暑さのせいか、涼しい場所で気持ちよさそうに眠っていた。まだ標高が高いぶん、街中よりは快適なのだろう。


その後、テーブルのあるベンチに腰を下ろし、OS-1とセブンイレブンの一口羊羹でエネルギー補給。おにぎりは2個持参していたが、景信山まで我慢することにする。
ここから目的地の陣馬山まではまだまだ長い。次のチェックポイント・景信山を目指して出発する。相模湖を上から眺められるのが楽しみだ。

第4章|景信山から堂所山、明王峠へ
小仏城山から景信山への道は、森の中を進んでいく。
夏なのに日の光は柔らかく、思ったほど暑さを感じない。森の中の匂いが心を落ち着かせてくれる。

途中には急な登りもあり、飽きることがない道だ。足元には、ここでもまた青い栗が落ちていた。街中では気づかない季節の移ろいを、山の中では確かに感じることができる。

やがて森を抜け、太陽の光がまぶしい場所に出る。景信山が近い証拠だ。最後の急勾配を登りきると、ようやく山頂に到着する。

念願の相模湖の景色を眺める。何度見ても飽きることのない風景だ。この日は夏雲が程よく浮かび、素晴らしい眺めとなった。



リュックを下ろし、おにぎりを頬張る。
その時、もみじ台で出会った初老の方と再び顔を合わせた。登山中のことを少し言葉にし、またそれぞれの歩みを続ける。同じペースなら、きっと陣馬山でも会えるだろう。
相模湖が見える場所からさらに一段上がると、景信山の山頂であることを示す目印が立っている。

街並みもよく見える場所だ。どこの街なのか私には分からないが、地上で営まれる人々の生活と、別世界のような山の中の時間。その対比をいつも面白いと感じる。

ここから先、堂所山・明王峠、そして陣馬山へと続く道を歩く。私にとって、この区間が一番きつい。リュックを背負い直し、気合を入れて出発した。
景信山から淡々と森の静けさの中を歩いていくと、堂所山への急な登り坂が現れる。

体勢を崩せば転がり落ちそうな斜面だ。慎重に足を運び、登り切ると堂所山の頂上に到着する。

ここでは周りの景色は望めず、頂上の目印だけがある。それでも、急登を登り切ったあとの小さな達成感は格別だ。ひと息つき、しばらく満足した後で明王峠へ向かう。
明王峠は陣馬山へ向かう前の最後の休憩場所。多くの人がベンチに腰を下ろし、最後の頑張りに備えてエネルギーを蓄えている。自分もおにぎりを頬張り、OS-1を飲む。


陣馬山に着けば、冷たいアイスコーヒーと美味しい蕎麦が待っている。それを楽しみに、明王峠を後にした。
第5章|陣馬山のご褒美
陣馬山の山頂へ向かう最後の坂を登りきると、唐突に白馬像が姿を現す。ここが山頂到着の目印だ。

陣馬山は日陰がなく、夏の太陽が容赦なく降り注ぐ。要は暑い。しかし私にとっては、この暑さの中でしか出会えない風景がある。夏雲と山々が織りなす景色だ。幸いこの日は天候にも恵まれ、空には大きな夏雲がしっかりと浮かんでいた。ひと夏の風景を心に刻む。



そして待ちに待った信玄茶屋のアイスコーヒーと、冷たい山菜蕎麦。山頂で冷たいものを飲み、食べられることのなんと幸せなことか。


蕎麦は少し塩気が強いが、それが歩いてきた身体にはちょうど良い。添えられたわさびがアクセントとなり、さらに美味しい。アイスコーヒーを飲みながら景色を眺める時間は、贅沢そのものだった。
少し休んでいると、目的地でまた初老の男性と再会した。世間話をしながら、これまで歩いてきた山々の写真をスマホで見せてくれる。多くの山を歩いてきた経験者らしく、ペース配分も見事だった。
やがて下山の時間となり、それぞれ別のルートへ。私は終着点の藤野駅を目指して歩き出した。
第6章|藤野駅への下山
藤野駅へ向かう下りのルートは、思いのほか長い。標高が下がるにつれて気温が上がり、下りの衝撃が脚に響く。転ばないように慎重に進む。かつてこのルートで転んだことがあり、尖った岩が多いので注意が必要だ。
途中の休憩場所でポカリスエットを飲み、水分を補給してひたすら下る。

地面を見ながら歩いていると、まだ青いどんぐりが落ちていた。

山はすでに秋の準備を始めているようだ。夏の終わりが近づいていることを感じ、少し寂しくなる。
後ろから男性が急いで下ってきた。どうやらバスの時間が迫っているらしい。自分は藤野駅まで歩いて途中で野菜を買う予定なので、マイペースで進む。やがてバス停付近に着くと、先ほどの男性がちょうどバスを待っていた。間に合ったようで、こちらもなんとなく嬉しくなる。
さらに藤野駅方面へ歩き、農家の家の前に並ぶ無人販売所で野菜を購入する。ブルーベリーを手に入れ、次の家では「暑さで出せないものもある」と言いながら、いろいろな野菜を持たせてくれた。買い物袋に野菜を詰め込み、藤野駅へ向かう。

やがて車がやっと通れるほどの狭いトンネルを抜けると、藤野駅が見えてくる。

駅から山を振り返ると、山肌に「ラブレター」がある。ゴールの目印だ。


長かった登山が終わる。自販機で冷たい炭酸水を買い、一気に飲み干すと、火照った身体がようやく落ち着いた。駅のベンチに腰を下ろして荷物をまとめ、クーラーの効いた電車に乗り込む。家路につきながら、この夏の縦走を振り返った。
今回歩いたルート(2025年8月17日)


⛰️登山ルート
高尾山口駅 → 六号路 → 高尾山山頂 → もみじ台 → 一丁平 → 小仏城山 → 景信山 → 堂所山 → 明王峠 → 陣馬山 → 藤野駅
歩行距離:約23.70km
所要時間:約8時間39分
