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秋は忍び足


 久しぶりに市内の県立公園を歩いた。花壇はすっかり様変わりし、見慣れない顔の猫があちらこちらに住み着いていた。ススキやセイタカアワダチソウなど秋らしい草花が全盛期を迎えていたが、意外なことにツクツクボウシの鳴き声がまだ木陰から聞こえてきたのには驚いた。虫たちも気候変動に適応できていないようだ。紅葉のシーズンはもう少し先。朝晩の急激な気温低下が色づくための必須条件だが、はたして今年はどんな秋の彩りと巡り会うことができるだろう。秋はゆっくりと忍び足で、確実に進んでいる。




 ところで話は飛ぶが、先日のMLBワールドシリーズでの日本人選手の活躍には目覚ましいものがあった。普段野球はあまり見ないが、今回はハイライトと共に、チームメイトや米国のメディアに登場する元大リーガーの解説者たちの話もいくつか興味深く聞いた。特に印象深かったのは、マウンドに立つ山本由伸投手についての分析だった。スタジアム全体がブーイングに包まれるアウェーでの登板にも関わらず、マウンド上には深い静寂が満ちていた。山本選手は冷静沈着な投球を続け、試合を自分自身のペースで完璧にコントロールしていた。ある解説者がこのことに触れ、「彼は囲碁を打つように投げる」、そして「湖面のような静けさ」とコメントした。また別の解説者は「山本由伸は『静』という忘れかけていた感覚を思い出させた」と言った。


 山本選手が瞑想を取り入れているという話は聞かないが、実際には瞑想状態のようなゾーンに入ってプレーしているのは間違いない。おそらく山本選手専属トレーナーである柔道整復師「矢田修氏」の精神面での指導が大きいのではないかと思う。矢田氏は、筋力を鍛えるだけでなく、身体の使い方やバランスを整えることによって力を最大限に引き出すサポートをしているという。山本選手は矢田氏のことを「師」と呼んでいる。彼の所作を見ていると、そこにはまるで武道の居合を彷彿とさせる研ぎ澄まされた集中力と静寂がある。勝敗や名声よりも、己の「美意識」を極めるために野球という道を歩んでいるのではないかとさえ思えてくる。




 日本固有の風土が精神性に与える影響は決して目に見えるものではない。しかしこのように世界を舞台にしたスポーツ競技を通じて明らかになる日本人の特質=『静けさ』は、決してごく一部の傑出したアスリートだけのものではなく、私たち一人一人の中にも刻み込まれていると思う。

 それは長い年月をかけて日本の伝統文化と風土の両面から培われるものだろう。日本固有の美しい自然は、四季の変化によって磨き上げられてきた太古からの賜物。私たちの中にも「湖面のような静けさ」として息づいているDNAが存在の奥深くにきっとあるはずだ。

 どのような世界であっても、純粋な美と静寂を見つめることは、自らの道を生きていくためのぶれない軸=体幹となるのではないかと思う。



 



北九州市 県立中央公園







































November Light
Helmut Schenker




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