ホラー掌編 海の雫になりました
証言台のマイクが、小さく息と、揺れる音を拾っていた。
『お父さんは、海の雫になったんです』
『ええ、そうです。そのとおり』
『私は、あの時も同じこと言いましたよね。でも、分かるんです。分かってしまうんです』
『これは──誰が悪いんでしょう?』
『でも……。それでいいんですか』
『私が、父のために?』
『代わりにどうぞ』
『それでは、さようなら』
チャプン。
「えっと……。それは、海の事故に遭ったということですか?」
「あの──お父さんは行方不明なんですよね?なぜ、あなたは知ってるんですか?」
「つまり、知らないと言ったけど、分かる。証言が誤りだった、ということでいいですか?」
「少なくとも、供述は、あなたの言葉で、あなたの責任です」
「えっと……いったい何がですか?あなたの言葉に真実がないのであれば、供述を撤回する必要があります」
「もちろんです。ここは、あなたが法の精神に則って、真実の告白をするための場所と、時間です」
「あ、あの。理解できてますか、今の状況。あなたは──被告人なんですよ?」
チャプン。
今日午前に入ったニュースです。
父親を海に突き落として殺害した罪に問われているA被告の公判中、A被告が突如姿を消しました。
現在も、A被告の行方は分かっていません。
所轄の千代田警察署では、詳しい経緯を調べています。
チャプン。
コップになみなみと注がれた水が揺れる。
『また、明日──』
