【御縁ちゃんが導く 誤嚥性肺炎クロニクル】第4回 診断エラーから縁蔵を守れ その2
連載紹介
誤嚥性肺炎にかかったおじいちゃん(縁蔵)を救うべく,御縁ちゃんは神様に頼んで過去の診療を変えるべくタイムトリップすることに…….これまで参拝に使った5円玉の数だけ過去に行き,担当医にこっそりアドバイスできる.はたして今回はいつの診療を見直すのか?
御縁《ごえん》ちゃん 普段は都会で会社員をしている.3 ヵ月後に結婚を控えている.おじいちゃん(縁蔵)が大好き.
神様 誤嚥性肺炎の治療にくわしい神.御縁ちゃんのためにタイムトリップして医師へアドバイスする.
縁蔵《えんぞう》 86歳,誤嚥性肺炎で死期が迫っている.若いころから酒とたばこと孫の御縁ちゃんと遊ぶのが好き.
円気《えんげ》先生 縁蔵の主治医.専門は消化器外科で誤嚥性肺炎には興味が薄く,抗菌薬でよくなると思っている.
御縁ちゃん:
それにしても前回のあの先生の「Perfect!」,だいぶ耳につくセリフね! 現
在に戻ってからことあるごとに使いたくなっちゃったし.そういえばあの頃,お母さんも「あのPerfect野郎」とかよく言っていたわ!
神様:
まあまあ,家族からしたらそう思うのも当然じゃ.それにしても今回もまたそのシーンを見ると思うとつらいのう.
御縁ちゃん:
でも,おじいちゃんを助けるためと思えばがんばれる! それに私には神様がついているしね!
神様:
では行ってみよう!!

縁蔵プロフィール 76歳
前回は感染性心内膜炎後に心不全となり,弁膜症の手術を経て無事に退院した.しかし,その後は家でもベッドの上で寝ていることが多くなっていた.御縁ちゃんはこのとき19歳で,都会の大学に進学していて,ちょうど夏休み期間中で地元に戻って来ていた.縁蔵は大好きな御縁ちゃんが帰って来てくれたのがうれしくて,最近では珍しく,その日は昔に戻ったように日本酒の醤油割りで薬を飲んでいた.
その次の日,縁蔵がベッドから出てこないのを心配して御縁ちゃんが見に行ったところ,縁蔵は熱があるようだった.前回のことがあったので,御縁ちゃんの母親は早い段階で縁蔵を病院に連れて行くことを決意した.
御縁ちゃん:
あー,またおじいちゃん日本酒の醤油割りしてる!! それにしても19歳の私って,まさに花の女子大生っていう感じで今回もとても可愛い!
神様:
日本酒の醤油割りってうまいのかのう…….縁蔵があれだけおいしそうにしているのを見ると気になるが…….それにしてもまた発熱か.大丈夫かのう.
そして前回の病院とはまた別の病院を受診し,診察が始まった.今回の先生は,痩せ型で眼鏡をかけていて,おどおどした感じの真田先生.近くでPHSの音が鳴るたびにビクッとしている.なんだか神経質そう…….先生の周りには英語の難しい本や論文が机のいたるところに並んでいる.
御縁ちゃん:
うーん,わからないけどこういう内科の先生って多いような気がする!
現病:高血圧,脂質異常症,高尿酸血症,糖尿病,心房細動,逆流性食道炎,腰痛症
既往症:僧帽弁置換術後(人工弁)
全身状態はそこそこ
意識は清明,体温:38.2℃,心拍数:95回/分,血圧:154/80 mmHg,呼吸数:20回/分,
SpO 2 :95%
聴診はサクッと行い問題なし
血液検査:WBC:10,500/μL,CRP:4.4 mg/dL,肝機能障害なし,腎機能障害なし,
HbA1c:8.1%
胸部X線検査:両下肺透過性低下あり,少し右のほうが透過性低下しているようにも見える
真田先生:
(パソコンのほうを見ながら)うーん,感染性心内膜炎の既往 1〜8) と発熱から心不全の関与が病態に影響しているのだろうか 9〜12) .過去のNEJM 13) やJAMA 14) やLancet 12) の報告をみても,胸水貯留と判断してもいいかもしれない.そうなると,2 ヵ月前のAmerican Journal of Medicine 15〜18) やBMJ Case Reports 19〜21)でも複数の症例に似たようなのがあって,こういうときはたしか心臓の超音波検査でしたな.
御縁ちゃん:
なんかこの先生,セリフにめちゃくちゃ参考文献がついてる!
神様:
なんだかまたすごい奴が担当になったのう.文献が多すぎるからこいつの出したやつは別にまとめておくぞい.
真田先生:
よく見ると,右は少し透過性が低下しているようにも見えるし,76歳という年齢を鑑みるに,高齢者だから発熱の原因第一位は,肺炎だったはず 22〜26) .そして脳梗塞の既往がある背景などから鑑みるに,誤嚥かなぁ 27〜36) .しかし,感染性心内膜炎の既往がある人は,再発するリスクがあるという報告もあるし 37〜40) ,血液培養も採らなきゃですね.そして,過去の肺関連のメジャー論文の報告から所見も合わせると……うーん,膿瘍とかもゼロではない.とりあえずCTも撮らなくちゃ 41〜44) .でも,昨日は普段飲まないお酒を飲んだり,いつもより食事を食べたりしたことなどを考えるに,嚥下機能が影響した 45〜50) .うん,誤嚥性肺炎……でしょうかね?
母:
…….はあ,そうしましたらどうしたらいいですか?
真田先生:
そうですねー……とりあえず……入院ですかね?(パラパラと論文をめくる)
母:
そうですかぁ.また入院かぁ,お父さん.
真田先生:
いや,あ,家でも,看れなくは……ないですかねぇ……(パソコンのキーボードをカタカタ打つ)
母:
そうですかぁ.家で看るのは心配ですが,かしこまりました.
真田先生:
いや,あ,まあ,入院させておきましょう! とりあえず入院担当の先生に連絡しますね.(PHSを鳴らす……)
御縁ちゃん:
なんか,嫌な予感が背中から……ブルブル……
すると,奥から見覚えのある顔が現れた.
円気先生:
はい,感染症専門医の円気です! なるほどなるほど,誤嚥性肺炎だと思っ
ているけど誰かに背中を押してほしい! そう読み取りました! 真田先生,またなんかいろいろ小難しいこと言って悩んでいるんですか! もうこんなん私の経験則でアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)でおちゃのこさいさいですわー!
真田先生:
いや,あ,うーん.なんかね,あんまり痰とか出てないなぁって.
円気先生:
まあ,そんなときもありますよ.感染症専門医に間違いはない! Perfect !
ということで縁蔵は,ABPC/SBT 3 g q6hで投与開始となった.
御縁ちゃん:
あー,どこまで行ってもこいつ…….しかもなんか専門医もって自信つけちゃってるじゃん.大丈夫かなぁ…….でも私,確信があるけど,こいつ今回も間違えている気がする.
神様:
まあまあ,専門医資格まで獲得して少し鼻が高いんじゃよ.まさか円気が感染症医を選ぶと思わず,とてもびっくりじゃ.では,入院4日目くらいに飛んでみよう!
─入院4日目─
円気先生:
(カルテを見ながら)うーん,熱の下がりが悪いなぁ.正直,真田先生の撮ったCTだとあんまり誤嚥性肺炎っぽくないんだよなぁ.しかし,専門医だってドヤっちゃったから自分でなんとかしなきゃなぁ.とりあえずロキソニンの内服にして,なんとか熱を下げて帰してしまおうかなぁ.でも真田先生は細かいから,いったん確認しなきゃ.
真田先生は,New England Journal of Medicineの最新号を嬉しそうに見ながらカフェイン強めのコーヒーを啜っていた.
円気先生:
真田先生,例の患者さんなのですが,熱の下がりが悪いので,とりあえずNSAIDsを入れてみようかと思うのですがどうでしょうか?
真田先生:
(キラン!)その処方にエビデンスはありますか? エビデンスなき処方は許
しませんぞ!
円気先生:
うおぁ! え,エビデンスはありません…….
真田先生:
うむ,わかればよし.

円気先生:
でも,このままだと,どうしたらいいですかね?
真田先生:
…….(必死にパラパラと論文をめくる.机の上の論文の山が今にも崩れそうだ)
御縁ちゃん:
行き詰っているよー神様!!
神様:
うむ,このままだと退院が遠のいてしまうのう.
御縁ちゃん:
ますますおじいちゃん衰えちゃうよー.
神様:
よしよし,(円気先生の頭の中に語りかける)円気よ,困ったときこそ患者を見に行くんじゃ!
しかし,円気先生は,全く反応がないようだ.
御縁ちゃん:
駄目だー,あいつはやっぱり駄目だよ,神様! なんかもっとガツンとアタッ
クできないのー?
神様:
ううむ,仕方ない.追加で5円玉を使うと,ランダムで強力な技が出せるが,使ってみるかい?
御縁ちゃん:
うーむ……ここは使いましょう!!!
神様は5円をポケットにしまいながら両手をパンパンと叩いた! すると…….
神様:
は,これはわしの技の1つ,甘くない甘酒!!
そういって神様は,円気先生にコップの中の甘酒を飲ませた.
神様:
これを飲むことで自分への甘さがなくなるという,なんとも優れモノじゃ!
円気先生:
ん? むむむ? 真田先生,診察しに行きましょう! 頭からつま先まで! きちんと,イチから! われわれの基本は診察です!
そう言ってよく診察をしたところ,左膝関節にわずかに熱感・発赤・腫脹がみられていることがわかった.X線画像を撮影すると,膝関節の裂隙に石灰化がみられていて,関節穿刺をしたところ細胞数が著明に増加していた.顕微鏡検査ではピロリン酸カルシウムの結晶と白血球の貪食像がみられており,結晶性関節炎をきたしていることがわかった.
円気先生:
偽痛風ですね? 真田先生.
真田先生:
そうですね.
円気先生:
それでは,NSAIDsの内服でよいでしょうか?
真田先生:
プレドニゾロン(PSL)の関節内注射,内服なども報告ではありますが 51〜57) ,まあいいでしょう.
わが国での剖検例の誤嚥性肺炎関連の診断エラーの報告では,臨床診断が誤嚥性肺炎のうち約半数は剖検後の診断が別の診断でした 1) .同研究と筆者らの経験を元に,誤嚥性肺炎の診断エラーのリスト(表1)を作成しました 1) .
また,過去の報告では,市中肺炎の1/8程度に診断エラーがあるといわれています.高齢者や認知症,精神不安定な患者において,エラーが起こりやすいと報告されています 2) .

一方で,市中肺炎患者の11.4%に過剰診断(肺炎ではないのに肺炎として治療が継続されている)がなされ,過剰診断された患者の89.9%が外来から入院3日目を超えても抗菌薬が漫然と投与されていたと報告されています 3) .そのため,入院第3〜4病日のタイミングで一度その患者が誤嚥性肺炎か否かの診断を見直すことは非常に重要です.
─その後─
縁蔵はみるみる体調が改善し次の日には退院となった.
母:
ありがとうございました.肺炎なのにここまで早く退院できてとても嬉しい
です.
真田先生:
あ,いや,あの,あ,はい.肺炎の入院期間は一般的に 58〜67) ……
母:
これ以上,参考文献が増えると筆者・出版社の負担が多くなり困りますのでここらで失礼させてください.本当に素晴らしい先生に出会えてとてもありがたいです.
円気先生:
あ,いや,まあ,はい!! 縁蔵さんも,こないだに続いて二回目ですからね!もう病院来ちゃ駄目ですよ!
母:
あ,はあ.どうもありがとうございます(若干複雑そうな顔をしながら,縁蔵と目を合わせる)
神様:
しかし,今回は円気も結構がんばったんじゃないかのう.診察しに行けば,きちんと1人で診断できて久しぶりにちょっと見直したわい.
御縁ちゃん:
たしかに,もともとはこの後入院中に誤嚥性肺炎になって何回も繰り返して3 ヵ月くらい入院していたはずだから,ホントよかった!

そして現在へ…….残念ながら縁蔵の様子は今回も大きく変わっていなかった.母親に聞いたところ,今回の退院直後に再度しっかりと誤嚥してしまったとのこと.入院中のお見舞いに行ったところ,なんだか昔の江戸時代にタイムスリップするドラマで見た緑色の痰が出ていて,ひどい耐性菌で治療に難渋したようだ.
御縁ちゃん:
うーーん,どうしたらおじいちゃんを救えるのかなぁ?? たしかそのドラマだと,抗菌薬を現代に取りに行けば大丈夫なんじゃなかったっけ?? もう,今の時代から抗菌薬を盗んで,その時代に!!
神様:
あ,その頃と今だと大きく抗菌薬は変わらないはずじゃ.おそらく最初の治療で広域な抗菌薬を使用するのを止める必要があるのかもしれない.また過去に戻らなくてはならんのう.
御縁ちゃん:
わかりました! あー,そろそろ,現在でおじいちゃんと話せるようになってないかなぁ.
1) Harada T,et al:Diagnostic error rate of aspiration pneumonia in autopsy cases;a multicenter cross-sectional study.Submitting to Scientific Reports.
2) Harris E:Study:roughly 1 in 8 patients wrongly diagnosed with pneumonia.JAMA,331:1525,2024.
3) Gupta A,et al:Overdiagnosis of urinary tract infection linked to overdiagnosis of pneumonia:a multihospital cohort study.BMJ Qual Saf,31:383-386,2022.
真田先生のセリフ内で紹介された文献1)〜67)はこちら
※本内容は「治療」2025年4月号に掲載されたものをnote用に編集したものです
(前回はこちら)
