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映画「えんとつ町のプペル 約束の時計台」 "思い出すことなどないほどに、君を忘れていない" 【映画感想文】

春の柔らかな光が街を包む中、私は映画館の暗闇に座っていました。スクリーンに映し出されたのは『えんとつ町のプペル 約束の時計台』

前作から続くかつて煙に覆われていた世界、そして新しく開かれた「千年砦」の世界。二つの場所が交差する物語を観終えた今、私の胸の奥には、温かくて、それでいて少しだけチクりとするような不思議な余韻が残っています。

今日は、物語のあらすじをなぞるのではなく、私の心がどの場面で震え、どんな風に揺れ動いたのか。私自身の感情の記録として、この感想文を綴ってみたいと思います。

なお、前作や今作を観るにあたっての私のスタンスや映画を観た時のことは以前の記事にて綴っています。


お読み頂きありがとうございます😊

逆さまの水面と、つながる世界

映画が始まって間もなく、私の心を強く掴んだのはルビッチが池に落ち、水面から顔を出すシーンでした。

あの瞬間、カメラワークがぐるりと回り、天地がひっくり返ったような表現。画面の上側に水面があり、そこからルビッチが顔を上げる。あの丁寧な描写を観たとき、「ああ、これは単なる異世界への移動ではないんだ」と直感しました。

えんとつ町の下に千年砦があるのではなく、まるで鏡合わせのように、あるいは同じ空気の中で溶け合うように、二つの世界は繋がっている。落下の軌道をそのまま生かしたあの演出は、ルビッチが抱える「喪失感」と「新たな希望」が地続きであることを教えてくれているようで、とても丁寧であるように感じました。


「忘れていない」という、静かな意志

「ルビッチは、もうプペルのことを諦めたみたい」

劇中でルビッチの友達が口にしたその言葉に、私は少しだけ胸が苦しくなりました。周りの人から見れば、日常を取り戻したルビッチは、プペルという友人のことを過去のものとして整理したように見えたのかもしれません。

けれど、私は知っています。ルビッチが眠るとき、その腕にはあのブレスレットが巻かれていたことを。

誰かに言いふらすわけでも、大声で叫ぶわけでもない。けれど、眠りにつくその瞬間に肌身離さず持っているということが、どれほど重い意味を持つか。それは「思い出すことなどないほどに、君を忘れていない」という、静かで、けれど絶対に折れない意志の表れだと思うのです。

「諦める」という言葉は、他人から見れば簡単に見えてしまうけれど、本人の心の中にある炎は、誰にも消すことはできない。ルビッチの小さな寝顔を見ながら、私は自分の大切にしている思い出を、そっと抱きしめ直すような気持ちになりました。


ガスの沈黙、時計台の孤独

物語の後半、時計台が止まった瞬間。そこには、ただ呆然と立ち尽くすガスの姿がありました。

モフやルビッチは、ガスが愛するナギを失った悲しみのあまり、自らの意志で「前に進むこと」を諦め、時計を止めてしまったのだと解釈していました。そんなガスを鼓舞するように叫ぶ二人の言葉はとても力強く、前向きで、物語を導く光のようなものでした。

けれど、私はスクリーンの前で、モフやルビッチとは少し違う感情を抱いていました。

ガスが時計を止めた(ガスの意識に呼応して時計が止まった?)のは、果たして「意志」だったのでしょうか。
私は、彼はただ、正気でいることが出来なくなっただけではないかと思うのです。
愛する人を失い、あまりにも深い悲しみの淵に立たされたとき、人は「こうしよう」と決める余裕さえ失ってしまいます。

あの瞬間のガスの困惑したような表情。彼は「時よ止まれ!」と願ったのではなく、彼の世界が、彼の心が、愛の重さに耐えかねて壊れてしまった。自分でも訳が分からないまま、暗闇に取り残されてしまったのではないか。そう思うと、涙が止まりませんでした。

それでも、ガスは時計台の手入れを続けていました。狂おしいほどの愛ゆえに壊れてしまった彼と、プペルを信じ続けるルビッチ。形は違えど、二人とも「諦めていない」という点において、深く響き合っていた。この対比の構造が、物語に深い奥行きを与えていたように感じます。


散りばめられた謎、そして予感

私の感情が揺さぶられたポイントを上げて作品の魅力を語ってきましたが、物語全体を手放しに賞賛できないような不可解な点はチラホラと見受けられました。

例えば、モフがホーラから呼ばれる「13」という運び屋としての識別番号——不吉な数字として扱われることも多いこの数字が、彼女にとってどんな意味を持っていたのか。
12時の次の番号として設定されたのか、命を運ぶ者としてタロットの死神などを想起させるためにそうしたのか、いまいちピンと来ていません。

千年砦の住人から、『ガスは狂ってる』として煙たがられていましたが、100年間でのガスのキチガイエピソードが何も語られていないので、なぜあんなに嫌われているのか皆目見当もつきません。

ナギの周りを舞っていた蝶たち。彼女自身もその存在に無自覚だったようですが、あの蝶たちは、森の生命力そのものだったのでしょうか。あるいは、言葉にできない想いの化身だったのでしょうか。

ナギの父?が、なぜ人間に惚れるなと忠告したのか、その真意も気になります。そこには、人間と森のモノが交わることで生まれる、もっと大きな悲劇の歴史があったのかもしれない……なんて想像してみたりします。

そして何より、最後に見せたハッピーエンドについて。
なぜナギはいとも簡単に人間の姿に戻れたのか?
ナギは再び植物化してしまうことはないのか?
すべてが解決したかのように見えて、どこか「一瞬の奇跡」のような儚さが漂っている気がしてなりません。


おわりに

この映画は、私にこう語りかけてくれた気がします。

「誰かを想う気持ちは、時に人を狂わせるほど苦しいけれど、その狂おしさこそが、世界を動かす力になるのだ」と。

映画館を出たとき、見慣れた街の景色が少しだけ違って見えました。建物の影や、遠くで聞こえる時計の音。その一つひとつに、誰かの「忘れられない記憶」が宿っているのかもしれない。そう思えるような素敵な時間を、ありがとうございました。



感想文を読んで下さった貴方に質問です。
「前を向いて進むことだけが正解とされる世界で、あまりの悲しみに立ち尽くしてしまったガスの姿に、あなたならどんな言葉をかけますか? あるいは、共に沈黙することを選びますか?」

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投稿日:2026/04/09

筆者:棚島 香帆汰(プロフィール
映画好き小説も書いてます



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