<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<rss xmlns:webfeeds="http://webfeeds.org/rss/1.0" xmlns:note="https://note.com" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom" xmlns:media="http://search.yahoo.com/mrss/" version="2.0">
  <channel>
    <title>阿彦</title>
    <description>論理の裏側でうごめく「人間の本質」――それらを追求したいと考えています。私の物語を通じて、現代を生きる皆さんに何かを問いかけ、語りかけることができれば幸いです。

『Yの遺伝子 ―― 虚像の血脈』を連載中。人間が縋る「絆」という名の虚像。その狭間にある真実を見届けにきてください。</description>
    <link>https://note.com/ahiko_y</link>
    <atom:link rel="self" type="application/rss+xml" href="https://note.com/ahiko_y/rss/"/>
    <copyright>阿彦</copyright>
    <webfeeds:icon>https://d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/assets/default/default_note_logo_202212-f2394a9e5b60c49f48650eee13f6e75987c8c4f1cfa7555629a9697dc6015cd9.png</webfeeds:icon>
    <webfeeds:logo>https://d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/assets/default/default_note_logo_202212-f2394a9e5b60c49f48650eee13f6e75987c8c4f1cfa7555629a9697dc6015cd9.png</webfeeds:logo>
    <webfeeds:accentColor>249F80</webfeeds:accentColor>
    <webfeeds:related layout="card" target="browser"/>
    <webfeeds:analytics id="UA-48687000-1" engine="GoogleAnalytics"/>
    <language>ja</language>
    <lastBuildDate>Fri, 17 Apr 2026 01:45:14 +0900</lastBuildDate>
    <item>
      <title>庄の国｜第31話：三冊の決算書</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/266817125/rectangle_large_type_2_3dc7d2c5ad444abcdfaac3d9771b298f.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="0837619D-4362-46FD-ACB1-F3FC03E3AE5D" id="0837619D-4362-46FD-ACB1-F3FC03E3AE5D">湧水技研は、受注件数を伸ばすことに成功し、着実に業容を拡大した。<br><br>会社の成長のスピードは予想以上に速く、自分一人では対応できなくなっていた。技術のことならば、どんな細部でも把握できる。しかし金の流れとなると、話が違った。どの銀行からいくら借りているのか、手形の期日がいつなのか、月末の支払いがいくらなのか。それらが頭の中で一本の線にならない。<br><br>そんな時、人から紹介をうけて、コンサルタントと称する人材を紹介された。<br><br>彼の名前は「風見」と言った。財務担当の取締役として招聘し、我が社の金庫番を任せた。彼の登場は、私にとって、まさに渡りに船であった。<br><br>大手からの受注は、三年は見通すことができた。現状の生産能力で対応するのは厳しかったことから、大規模の設備投資と、大幅に人員を増加させた。<br><br>会社はでかくなればなるほど、金がかかる。出資をうけた金もあっという間になくなり、融資で賄うしかなかった。受注は山ほどあるし、前向きな資金需要、それもベンチャー最優秀賞という箔もある。<br><br>風見は、金融機関への説明資料を作成するのと口がうまかった。ハイエナのように金融機関が群がり、ほぼ無審査で借りてくれというので、借りてやった。<br><br>目の前の受注をこなすことが第一だった。膨らんだ借金は考えないようにしていた。<br><br>ところが、人生はそうはうまくいかなかった。<br><br>翌年、リーマンショックが起きて、世界経済はどん底に落ち、未曾有の不景気がやってきた。大手企業は、世界の水を救う大義名分なんてどうでもよくなった。<br><br>取引先のほぼすべてが、新規発注停止を言ってきた。それだけならばまだ対応できるが、既に注文を受けていたものも、完成間際の仕掛り工事までもストップしてしまった。<br><br>悪循環はまだ続く。今後の受注を見込んで在庫を積み増していたのも仇となった。高止まりした人件費を中心とした固定費が賄えず、赤字が累積してきた。リーマンショックは、金融機関の懐事情も悪くしたようで、既存取引行の新規の融資も引っ張れない。<br><br>あれだけあった潤沢な資金が、あっという間に底をつきそうな勢いとなった。従業員を沢山抱えているのに、開店休業となってしまった。<br><br>財務、経理には疎い私もさすがに焦った。風見を社長室に呼び出した。<br><br>「風見さん。なぜ、こんなに早く資金がなくなっていくんだ。はやく手を打たないと、底をつくんではないか」<br><br>「社長、その通りです。このまま工事が再開しないとなると、三ヶ月後には資金はショートする可能性が高いです。資金繰りを改善するには、従業員をリストラするしかないように思いますが……」<br><br>「そりゃ無理だ。せっかく採用したんだ。もうすぐ、現場が動くと思う。もう少し耐えてくれないか」<br><br>「なら、資金調達をするしかないですね。ただ、取引のある銀行は、新規の融資は厳しそうです。どこか、新規調達出来そうなとこはありませんか。赤海社長の知り合いの方、取引先でもいいです」<br><br>私は頭を抱えて考えた。ここらの地元の金融機関は、信金から信組まで可能な限り、融資を受けた。<br><br>「元メインバンクかぁ……あそこには、死んでも頭を下げたくないな」<br><br>風見は、赤海が渋るのを見透かしたかのように、前に持ってきた融資の提案書を差し出した。やはり、喉から手が出るような条件と金額だ。<br><br>「この後に及んで、背に腹はかえられません。ここは、過去のことは置いておいて頼んでみませんか。その担当者から聞いた話ですが……うちと復活で取引をしたら、行内の評価は上がるらしいのです。今の支店長は役員候補らしく、イケイケの野心家とのことです。融資を引っ張って来られる可能性は十分にあると思います」<br><br>銀行交渉は全てを風見に任せていた。<br><br>「もうすぐ、うちの決算だが、赤字は確実だろ。あの数字では貸してくれないじゃないか」<br><br>「私に任せてください。社長はとなりで座ってもらえればいいです。ちょっと待っててください」<br><br>風見が部屋を出て行った。ドアの向こうで、電話をしているようだった。その声を、私は聞いていた。<br><br>しばらくして、廊下の声が大きくなった。<br><br>「いいか、よく聞け。お前にできないなら、他を当たる。ただし、お前のこれまでの話が世間に出ても、俺は知らんぞ」<br><br>怒鳴り声だった。風見の声だ。私は立ち上がり、ドアに近づいた。<br><br>「できないじゃない。やるんだ。いいな」<br><br>電話が切れたようだった。廊下が静かになった。<br><br><br>数日後、銀行の新しい支店長がやってきた。風見からアポイントが取れたとの報告を受けたが、本当に支店長が来るのか内心では不安だった。<br><br>風見からは、平然としているようにと釘を刺されている。後は余計なことは言うなと。<br><br>「ようやく、お会いできてよかった」<br><br>そういうと支店長と書かれた名刺を出した。<br><br>「前任の支店長が、赤海社長に不愉快な思いをさせてしまったようで。当行とは長いあいだ、いいお取引をさせていただいたと聞いております」<br><br>「その節はお世話になりました。あの支店長はどうされているんですか」<br><br>「いやはや、引継はしっかりしたのですが、それからは全く。関連会社に出向して、頑張っているんではないでしょうかね」<br><br>「赤海社長。これまでのことは、水に流して、真っさらな気持ちでお取引を検討してもらえないですか。もちろん、銀行なので決算書を拝見してからですが……」<br><br>先週、風見が確定申告書を見せて、業績の報告をしてきた。目を通すと、今期は三億五千万の赤字だった。すでに、債務超過に転落していた。見るも無残な数字だった。<br><br>風見は顔色も変えずに、確定申告書と資金繰り表、受注明細を渡した。<br><br>「ご検討ください。ご不明な点があれば、私に質問していただければ、お答えしますので、よろしくお願いします」<br><br>「すこし、拝見させてもらいますよ」<br><br>死刑宣告を待つような気持ちだった。目の前の支店長は、表情が読みにくい。<br><br>「前期は、うちもなかなか厳しくてですね……」<br><br>私は呟いてしまった。机の下で、風見が私の足を押さえた。余計なことを言うなという無言の合図だった。<br><br>「いやいや、この時期に黒字決算されるなんて、なかなか頑張っていらっしゃるじゃないですか。現預金の蓄えもこれだけあれば、当面は安心ですね」<br><br>耳を疑った。遠目に机に置かれた決算書を覗き込む。<br><br>どういうことだ。<br><br>三億五千万の赤字が、三千万の黒字になっている。ショート寸前の現預金が、四億になっている。<br><br>「これから始まるプロジェクトがあれば、工事の紐付きで運転資金を支援しますよ。なにか、工事を確認できるエビデンスのようなものはありますか」<br><br>「ここに、工事請負契約書がありますので、この工事の立替資金をお願いできませんか」<br><br>風見、待ってくれ。その工事は、着工直前でストップしたものだ。<br><br>「わかりました。店に帰ってから、正式に審査に入りますので、前向きに検討させてください」<br><br>支店長はそういうと、決算書を大事そうに持っていった。<br><br>「風見さん。あの決算書はどういうことだ」<br><br>「決算書ですよ。ただし、銀行提出用ですが。社長、大丈夫です。確実に、餌に食らいつきますので、会社を潰さなくてもいいですよ。良かったですね」<br><br>風見はそう言って笑った。<br><br>私も笑おうとして、笑えた。それが怖かった。<br><br>二週間後、三億が実行された。湧水技研には、三冊の決算書ができた。担当税理士のところには、木枯という知らない名前が署名されていた。​​​​​​​​​​​​​​​​</p><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n724057bb5a62'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 12 Apr 2026 14:26:12 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n724057bb5a62</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n724057bb5a62</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第30話：最優秀賞の価値とは</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/266610029/rectangle_large_type_2_6571fb282e1506d8e51603eef7a78e4f.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="D5436162-0E62-43A0-AFC7-C0FCA9F49398" id="D5436162-0E62-43A0-AFC7-C0FCA9F49398">「お待たせしました。二〇〇七年度、ベンチャー企業部門、最優秀賞を受賞したのは……高性能水処理プラントを開発されました湧水技研です。受賞されました赤海社長様、ご登壇をお願いします」<br><br>周りから、拍手の波が押し寄せた。まばゆいフラッシュが、熱い視線とともに浴びせられた。社員たちが、歓喜とともに立ち上がり、握手を求めてきた。<br><br>ゆっくりと立ち上がり、会場の観客が待つ壇上へ足を運んだ。<br><br>七年もの時間と多額の金を費やしてきた。ようやく今までの苦労が実った喜びが、心から湧き上がった。何度、首を吊ろうかと思ったこともあった。妻にも本当に迷惑をかけた。<br><br>世の中が、我々の発想に追いついてこれないのだと思うようにしていた。だが、ついにこの時がきた。<br><br>どうだ。見たか。もっと、私を讃えろ。<br><br>「私は、この高性能水処理プラントの開発にすべての情熱を捧げてまいりました。世界を見渡すと、綺麗な水でさえも供給されないところが多くあります。私はこのプラントを全世界に広め、綺麗で安全な水を提供したいのです。アフリカの子供たちが、泥水ではなく、清潔な水を飲める日が来る。砂漠の村に、水が届く日が来る。これは、人類から自然への恩返しなのです」<br><br>壇上から会場を見渡した。拍手が続いていた。今この瞬間だけは、世界と繋がった気がした。<br><br>商売下手なこともあり、なかなか上手くいかなかった。しかし、この瞬間をもって、貧乏暮らしともこれでオサラバだ。あとは、成功者としての階段を、一歩一歩駆け上がるだけだ。<br><br>この受賞をきっかけに、私を取り巻く世界が一変した。海外に売り込みたいとの商談がいくつも舞いこんだ。出資話もきた。彼らが言う新株予約権とかストックオプションとか、正直よく分からなかったが、金は出すが経営には口を出さないらしい。<br><br>取引のない新規の銀行が、今まで借りていた金利の三分の一の低利で資金を売り込んできた。<br><br>「御社の技術は画期的で、世の中を変える素晴らしいものです。一緒に夢を見させてください」<br><br>銀行員の若い兄ちゃんには、とてもうちの技術のことは分からないだろう。ただ、そのあんちゃんの心意気が嬉しく、言われる条件で金を借りてやった。<br><br>三か月後、メインバンクから電話がかかってきた。その日は、技術者と最終打ち合わせをしていたところだった。<br><br>「条件変更の期日が今月末に迎えますので、返済計画と印鑑証明を持って、来店していただけますか。今回は、今までのように利息だけの支払いでは難しいと支店長もいっておりますので、なんとか元金返済を……」<br><br>そういえば、元金返済猶予している融資の期日が来ることを忘れていた。元金据置対応と、外注先への支払いを繰り延べしながら三年間をしのいできた。税金も社会保険も滞納しており、いつ差押えが来てもおかしくない状況だった。<br><br>それにしても、うちが最優秀賞をとったことを知らないのだろうか。<br><br>「あんた、銀行員なのに新聞も読んでないのか。支店長に伝えておいてくれ。全額現金で借入を返してやるから、明日取りに来いと」<br><br>そういうと、担当者がまだ何かを言っていたが、電話を切った。　<br><br>翌日、黒塗りの車で、支店長と担当者が花を抱えてやってきた。<br><br>「この度は、最優秀賞おめでとうございます。つまらぬものですが……」<br><br>胡蝶蘭を、担当者が渡してきた。ぶくぶく太っていて、腹が大きく突き出ている支店長が、気持ち悪い満面の笑みを見せた。<br><br>「そりゃどうも。それにしても、賞をとったのは、三か月も前の話なんだけどね。私どものような弱小企業には興味がないんでしょうから、お気遣いなく」<br><br>罰が悪いのだろう。暑くもないのに、額に汗をびっしりかいて、ハンカチで拭っている。<br><br>「……いや、お恥ずかしい。いずれにしても、御社の技術力をこれまで高く評価をした訳でありまして……それにしても、世の中に認められて、本当に良かったですな」<br><br>「うちの技術。そうでしたっけ。この前、支店長は自分のことを、会社の目利きのプロ、再建のプロとおっしゃっていましたよね。その支店長が、私どもの高性能水処理プラントは夢物語だ。こんな事業、こんな会社は、本社を売ってさっさとたためばよいと言われたかと……」<br><br>半年前、支店長が再建計画のモニタリングをするとか言って、家宅捜索のように調べあげた結果、侮辱していったことを思い出した。<br><br>「赤海社長、そんなに虐めないでくださいよ。当行とは一行先で永年のお取引をしてきたじゃないですかぁ。これまで通り、仲良くやっていきましょうや。今度、受賞をお祝いとして一杯どうですか」<br><br>「支店長、私はあなたには感謝してるんです。あなたから受けた侮辱をいつか見返そうとこれまで頑張ってきたのです。おかげ様で、大手の企業からも受注がとめどなく来てますし、御行のライバルからも、大きな融資を破格の条件で受けましたので……」<br><br>支店長は、ライバル銀行の名前が出てようやく自分達の置かれた立場をわかったようだ。支店長である自分が頭を下げれば、なんとかなると思っていたのだろう。金を貸す方が偉いのだから。<br><br>「……赤海社長、これまでの無礼、本当に申し訳ありませんでした。なんとか許してください。今の融資の条件は大幅に見直しさせていただきます。元金の返済も結構ですから。なにとぞ、なにとぞ」<br><br>私は立ち上がり、ブラインドをあげて外を見た。そして、経理に金を持ってこさせた。<br><br>「さすが、支店長にもなると、いいお車でお越しですね。ここに二億あります。はやく、持ち帰って全額返済してください」<br><br>机の上に、二億の現金を積んだ。<br><br>「そんな急に。それも、現金で持っていけなんて。ほんと申し訳ありません。御社と取引解消されてしまったら、私も地区担当常務に怒られてしまう……なんとかご勘弁ください」<br><br>支店長は土下座をし始めた。若い担当者が呆気にとられている。自分も土下座をすべきか迷っているのだろう。<br><br>「そんなこと知ったことか。私らは命をかけて商売をしてるんだ。あんたらのような、学校の延長線のように点数稼ぎをやってるやつとは違うんだ。帰って、地区担当常務に怒られて来い。サラリーマン支店長」<br><br>私はドアを蹴破るような音を立てて、部屋を出た。<br><br>七年間の全てが、あの部屋の中で終わったような気がして、体が震えていた。復讐は果たした。なのに、胸の中が空っぽだった。<br></p><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n67a7438d0bb7'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 11 Apr 2026 18:26:38 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n67a7438d0bb7</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n67a7438d0bb7</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第29話：王国を揺るがす大事件が起きた</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/266338873/rectangle_large_type_2_15b5cae2df87c89832170a62aad53b17.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="8EBDE8F3-2CA0-4561-B071-7CF8E651FE58" id="8EBDE8F3-2CA0-4561-B071-7CF8E651FE58">その昔、日輪のごとく栄えていた王国があった。<br><br>東西南北に将軍を配置し、近隣の民族を蹂躙しながら勢力を拡大させていった。東と西と南の将軍は、智略と勇猛さを兼ね備えており、次々と敵の城を落としていった。しかし、北の将軍は連戦連敗であった。みな、北の将軍は無能だと噂し、皇帝の悩みの種であった。<br><br>ある日、王国を揺るがす大事件が起きた。王国の金庫番であった男が、金銀財宝を持ち出して逃げ出したのだ。皇帝は怒り狂い、罪人を捕まえて、八つ裂きにしろと命令を出した。ところが、東の海の向こうの島に逃げてしまった。さすがに、東の海を超えたところには、誰がいるのか、何があるのか分からず、皇帝は困り果てた。<br><br>そこで、皇帝の側近中の側近である南の将軍に相談をした。<br><br>「わたしは、南方の闘いで余裕がありません。ここは、戦果の上がらない北の将軍を更迭して、罪人を追討されましょう。民衆もそれで納得します」<br><br>南の将軍の副官は、その言葉を聞いた時、何か言おうとした。しかし口を開く前に、南の将軍がちらりとこちらを見た。副官は、口を閉じた。<br><br>皇帝はこれは名案だと感心した。万が一、東の海の向こうに新たな強敵がいて、将軍が討たれたとしても、全く問題はない。皇帝は、北の将軍を呼び出した。追討将軍として任命し、百人の兵を与えた。<br><br>東の海の向こうには何があるか全くわからない未開の地だ。皇帝の命令に背くことは死を意味する。渋々、兵士を連れて、東の海を渡った。<br><br>たどり着いた島は、山が富んでおり、水が澄みきって、美しい。通り抜ける風が心地よい。<br><br>皇帝の命令は絶対である。この地に罪人を探し出す拠点を設けることにした。<br><br>一人の老人が訪ねてきた。白髪で、背が低く、目だけが妙に澄んでいた。老人はこの島に長く住むと言い、地図を持ってきた。丁寧に教えた。ただ一つだけ、山の奥の地図が空白になっていた。追討将軍が問うと、老人は首を横に振った。そこには入れない、とだけ言った。<br><br>この島の川はまるで滝のように流れが速く、山は険しい。屈強な兵士達も疲労困憊し、罪人探しは混迷を極めた。追討将軍は、これ以上の捜索は限界だと考え、祖国へ帰ろうとした。<br><br>ところが、探し続けた罪人は、ある日向こうからやってきた。追討将軍は大いに喜び、罪人を縄で縛り上げた。罪人はこう言った。<br><br>「将軍、わたしの話を聞いてください。私達の祖国は、残念ながらすでに滅亡しています。いま、私を連れて、国に帰っても、何もありません。それよりも、この島で我々の王国を作りましょう」<br><br>追討将軍は、その罪人は死刑を逃れるために嘘をついていると思った。だが、我々も祖国を離れて二年にもなる。とりあえず、罪人を捕まえた報告と帰りの手配を依頼するため、祖国に使者を派遣することにした。<br><br>数ヶ月後、真っ青な顔をした使者が、命からがら戻ってきた。使者からの報告では、罪人の言う通り、我々の祖国はすでに無くなっていた。我々がこちらに向かった頃、国の蔵が空となり、南の将軍が謀反を起こし、あっさりと滅びてしまったとのことだった。<br><br>追討将軍は、帰るところがなくなってしまい、途方にくれた。<br><br>罪人が、囁いた。　<br><br>「将軍は、お国のために命を捧げてきました。その国はすでになくなり、すべてを失ってしまいました。将軍、失くしてしまったものは、他から取り戻せばいいのです。この山の向こうに、庄の国という国があります。彼らは武器を持っていません。この縄を解いて頂ければ、貢物を持って、彼らを騙してきます。その後に、庄の国を奪って、王国を築きましょう」<br><br>追討将軍は考えた。<br><br>罪人の言うことも一理ある。今まで、私は皇帝の命令に従い、それこそ死ぬ気で戦ってきた。なのに、恩賞を与えられるどころか、すべてを失った。<br><br>追討将軍は、縄を解いた。<br><br>その時、小さな石が一つ、地面に転がり落ちた。緑色だった。<br><br>「懐から落ちた石は何だ」<br><br>罪人は少し間を置いた。それから、静かに答えた。<br><br>「山の向こうに住む民の石です。いつか、役に立つかと思って、持っていました」<br><br>縄を解かれた罪人は、将軍に向かって深く頭を下げた。しかしその目は、頭を下げながらも、一度も下がらなかった。<br><br>追討将軍は皇帝を名乗り、罪人を平和の使者として、「庄の国」へ派遣した。<br><br>もちろん、偽りの使者である。平和を装った言葉が、武器を持たぬ民のもとへ向かっていったのだ。​​​​​​​​​​​​​​​​</p><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/nf5ea9b42dfef'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 10 Apr 2026 17:22:13 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/nf5ea9b42dfef</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/nf5ea9b42dfef</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第28話：あなたの息子さんです。光輝くんです</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/266062378/rectangle_large_type_2_ede77934a34f91b9919c6e348076c59e.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="00E98BA1-54A9-44AF-9E7D-28040A93970A" id="00E98BA1-54A9-44AF-9E7D-28040A93970A">玄水会の定期総会は、三週間後に迫っている。私は木枯に連れられて、楪葉が勤めている大学に向かった。<br><br>車窓の外を、春が流れていった。<br><br>東京から遠く離れた田舎にある私立大学だった。校舎に入っても、春休みだからなのか、生徒もまばらで活気を感じられない。<br><br>古びた廊下を、木枯の後ろを黙ってついていく。三階まで駆け上がり、棟の一番奥に、楪葉の研究室がひっそりとあった。<br><br>「よく、こんな遠くまでお越しいただきました。むさ苦しいところで、申し訳ありません。さぁ、お座りください」<br><br>六畳ほどの部屋は、どこか薄暗かった。乱雑に置かれた書類が、微妙なバランスで積み上がっている。窓際の棚に、小さな布袋が置いてあった。<br><br>「今日はお話を聞かせていただく機会をいただき、ありがとうございます」<br><br>「いやいや、本来ならば、私が出向くべきでした」<br><br>差し出された名刺には、大学講師とある。楪葉自らが、コーヒーを出してくれた。<br><br>楪葉は名刺を差し出しながら、一瞬だけ目を伏せた。<br><br>「木枯から概ねの話は聞きました。私は、あなたに嘘をついていたこと、こんなことに巻き込んでしまったこと、謝らなければなりません。決して、許されるとは思っておりませんが、すべてを話そうと思います」<br><br>楪葉の力強い言葉に、隣に座っている木枯も、深く頷いた。<br><br>「私はただ真実を知りたいのです。何が出てきたとしても、全てを受け入れようと思います。覚悟を決めてここに来ました」<br><br>「分かりました。最初からお話しましょう」<br><br>楪葉が語り始めた。楪葉家に代々伝わる古文書との出会い、考古学への情熱、誰にも相手にされなかった長い年月。<br><br>「ある日、生活費を稼ぐために、古文書の読み方教室で、私の研究内容を話す機会がありました。案の定、まわりの反応は冷たかった。ところが、終わった後に、一人の男が話しかけてきました。その男だけは私の話を興味深く聞いてくれて、こう言ったのです。楪葉くんの研究は、素晴らしいものを秘めています。ですが、残念なことに信憑性もなければ、リアリティもない。あなたの夢を叶えるために、手伝ってあげようと」<br><br>「だ、誰ですか？」<br><br>もちろん、その男の名前は知っているだろうと思いながら聞いた。<br><br>「その男とは、赤海だったのです」<br><br>「そのときの私は、三十五歳を超えて焦っていました。論文を何本書いても、誰にも相手にされない。非常勤講師の収入は、正規教員の五分の一にもなりません。アルバイトで食いつなぎ、生きていくのが精一杯でした。考古学の世界においても、成果が全てです。そんな私に、真剣に話を聞いてくれた赤海の言葉が、涙が出るほど嬉しかった。彼から遺伝子の話をされました。実際に検査したところ、私のY染色体は珍しいタイプのものだとわかりました。私にとってそれが全てでした。庄の民はいた。その確信だけがあった」<br><br>楪葉が一拍置いた。<br><br>「ですが、私の論文が評価されたわけではありません。この大学の職も、赤海の人脈で籍を作ってもらっただけです。認められて得た椅子ではない。焦りが、ずっとあった。だからこそ、発掘調査が必要だった。だからこそ、逃げ出せなかった」<br><br>幹部会が終わった後の、あの言葉が来た。<br><br>「途中で騙されていると気づいたんだです。ただ辞めたいと言うたびに、大学にいられなくすると」<br><br>「なぜ、木枯さんを巻き込んだのですか」<br><br>「赤海は技術者としては優秀な男ですが、数字と計数のことになると、からっきし頼りにならないのです。玄水会を立ち上げるにあたって、金の管理を任せられる人間が必要だと言ってきました」<br><br>楪葉がそこで、隣の木枯をちらりと見た。<br><br>「前の仕事をやめて困っていると聞いていました。あの時の私には、仕事を紹介してやれると、それだけしか考えていなかった。木枯を赤海のそばに引き込んでしまったことは、本当に申し訳なかった」<br><br>木枯は、膝の上で手を重ねたまま、首を横に振った。<br><br>「楪葉のせいではありません。私が、受けてしまったのです」<br><br>「木枯さん」<br><br>俺は言った。<br><br>「料亭で話してくれた忘れられない会社の話のことを、覚えていますか」<br><br>木枯の手が、膝の上で止まって、うなづいた。<br><br>「その会社の社長は、赤海です」<br><br>部屋が静まり返った。<br><br>木枯が、ゆっくりと顔を上げた。俺を見た。何かを確かめるように、もう一度見た。<br><br>「……私が粉飾した会社の社長が、赤海さんだったということですか」<br><br>「そうです。赤海が長年かけて水処理システムの技術を開発した会社です。あなたが作った決算書で倒産した。少なくとも赤海はそれを知っている」<br><br>木枯は、しばらく動かなかった。<br><br>「まったく、気づきもしませんでした」<br><br>絞り出すように、それだけ言った。<br><br>「不思議な縁というものがあるんですね……」<br><br>楪葉がぽつりと言った。誰に向けた言葉でもなかった。部屋の空気に向かって、言った。<br><br>「復讐のためにあなた方を手元に置いたのか、それとも偶然だったのか。あの男のことだから、どちらとも言えない。ただ、繋がっていたことは確かです」<br><br>誰も何も言わなかった。この部屋の薄暗さが、少し重くなった。<br><br>俺は二人を見た。二人とも黙っていた。<br><br>「私は覚悟を決めてここに来ました。あなた方は、赤海と戦う覚悟はありますか」<br><br>木枯が、静かに顔を上げた。<br><br>「……あります」<br><br>楪葉も、まっすぐ俺を見た。<br><br>「もう逃げたくありません」<br><br>楪葉も木枯も、頭を擦りつけた。顔を上げると、二人とも泣いていた。<br><br>「私も同罪です。私も自分の会社の業績のために使いました。お二人だけを責める気には、とてもなりません」<br><br>私も頭を下げた。三人が、しばらく黙っていた。<br><br>「Uタイプの民族は、実際には何人くらいいるのでしょうか」<br><br>「正確な数字は私にも分かりません。新会員のほとんどはUタイプの遺伝子を持っていないのではないでしょうか。アンケート情報をもとに、赤海の目にかなったものが、Uタイプの庄の民になるようになっていますから」<br><br>「今度の総会で決着をつけましょう。お二人にも泥を被ってもらう必要があるかもしれない。その覚悟はありますか」<br><br>「できています」<br><br>「私もです」<br><br>木枯が立ち上がった。楪葉も続いた。二人は、同じような身長で、立ち方も瓜二つだった。<br><br>「あなたたちは、さすが従兄弟ですね。よく似ている。偽造の話を聞くと、残念ながら私はUタイプではないのでしょう。あなたたちとは、遠い昔に同じ一族だったら良かったのに」<br><br>「いいえ、あなたはUタイプで間違いありません。理事長選出の時、私が直接立ち会いをして確認しました。赤海と技術者たちが偽造させる可能性があったものですから」<br><br>「それなら良かった。少なくとも私たち三人は同じ祖先だということですね」<br><br>「いいえ、違います。もう一人、確実にUタイプの遺伝子を持った人がいるんです。その人も、私が直接確認したので間違いはありません」<br><br>「えっ、誰でしょうか。私の知っている人ですか。もしかして、畦地さんとかですか」<br><br>楪葉は、首をゆっくりと横に振り、目の前に遺伝子解析の結果報告書を置いた。<br><br>「あなたの息子さんです。光輝くんです」<br><br></p><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n2250929f78e0'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 09 Apr 2026 17:29:34 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n2250929f78e0</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n2250929f78e0</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第27話：受賞式の笑みと、倒産記事</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/265653371/rectangle_large_type_2_243f64a1080e6c1592b1a958a23143d0.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="83A107F7-B7D8-4BBF-89F5-F98A9A78D7D6" id="83A107F7-B7D8-4BBF-89F5-F98A9A78D7D6">「畦地先生、こんばんは。今ちょっとよろしいでしょうか。少々、困ったことが起こりました」<br><br>「あぁ、赤海さんか。どうした」<br><br>畦地は、煩わしそうに電話に出た。最近、この男を避けて、距離を置いてきたのに。<br><br>「どうやら、花城が玄水会のことを調べ始めているようです。我々と揉めている男が、直接、花城に電話したことがきっかけのようです」<br><br>「花城から電話があった。知らんとはいったが。それでどうするんだ」<br><br>「電話の男は、我々を訴えるとか言っているみたいですが、握り潰してやりますよ。いつものやり方でね。我々に刃向かうとどうなるのか。徹底的に、抹殺してやる」<br><br>「そのことについては、私は関与しない。最初に玄水会を作ったときの約束だよな。それよりも、花城が知ってしまったことが問題だ」<br><br>「大丈夫ですよ。汚い仕事は、すべて私の仕事ですから。それに、花城はもう共犯関係です。今さら逃げ出せる立場ではない。畦地先生には、花城が暴走しないように押さえつけてほしいんです」<br><br>「赤海さん、一つ忠告しておく。花城をあんまり舐めない方がよい。いつか、足元をすくわれるぞ」<br><br>「あはは。あんなやつ、なにもできませんって。いざとなれば、代わりは何人もいるのですから。畦地先生は、意外と心配症ですね」<br><br>「あいつは、変わったよ。最初に会ったときに比べると別人だ。あなたには分からないかも知らないが、人はなにかをきっかけに変われるんだよ。花城にこだわるのをやめたらどうだ」<br><br>「買い被りすぎですよ。花城は個人的に許せないことがあるんです。あの男は、私の大事なものを自分のものと勘違いしてる。私がすべてを賭けて作ったものを。あの男を必ずどん底に落としてみせる」<br><br>「ちょっと待て。なんのことだ、それは」<br><br>「先生には関係のないことです。では」<br><br>電話が、切れた。<br><br>赤海が何を言っているのか分からなかった。しかし分からないまま、嫌な感触だけが残った。<br><br>村岡先生のことを、思った。<br><br>村岡先生が生きていれば、今頃どうしていたのか。今の自分を見たら何と言うだろうか。お前は何をやっているんだと、あの低い声で言うだろうか。<br><br>赤海を切れない。<br><br>玄水会を設立した時、金を出したのは赤海だ。あの男は金を持っている。今さら切れば、あの男は何をするか分からない。切れないまま、ここまで来てしまった。<br><br>花城のことが頭に浮かんだ。<br><br>あいつは変わった。どれだけ追い詰められても逃げずに、自分で考えるようになった。花城を逃してやりたいと思った。<br><br>花城に電話しようとスマホを手に取った。花城の名前が画面にあった。<br><br>指が、止まった。<br><br>画面を、消して、テーブルに置いた。部屋の灯りが、静かに燃えていた。<br><br><br><br>翌朝、早く目が覚めた。<br><br>昨夜から残っていた感触が、起き上がった瞬間にまだ体の中にあった。<br><br>木枯は、会社と社長の名前すら知らないと言っていたが、気になってしょうがなかった。<br><br>会社に着いてすぐ、俺が書いた水処理プラントの企画書を引っ張り出した。特許番号があった。特許庁のデータベースに入力した。譲渡履歴を辿った。元の権利者が出てきた。<br><br>湧水技研。<br><br>その社名を、今度は単独で検索した。<br><br>最初に出てきたのは、受賞記事だった。<br><br>二〇〇七年。ベンチャー企業部門最優秀賞。写真が載っていた。五十代と思われる男が壇上に立っている。マイクを持って、笑っていた。成功者の、満面の笑みだった。<br><br>見覚えのある顔だった。<br><br>今よりずっと若い。しかし間違いなかった。<br><br>赤海だった。<br><br>画面から目を離せなかった。この男がこんな顔で笑う日があったのかと思った。<br><br>記事を読んだ。七年間、水処理システムの開発に全てを賭けた。砂漠の子供たちに飲める水を届けるために。首を吊ろうとした夜があったと、本人のコメントに書いてあった。<br><br>次の記事を探した。<br><br>倒産記事が出てきた。受賞から数年後だった。粉飾決算が発覚し、銀行の融資が全て止まった。特許を含む全資産が売却され、自己破産。<br><br>粉飾決算。<br><br>その言葉が来た瞬間に、木枯の顔が来た。木枯が関与していた。木枯が作った嘘の決算書が、この男の夢を奪った。<br><br>しばらく、二つの記事を並べて見ていた。<br><br>受賞式の笑みと、倒産の記事。その間にある数年間に、木枯がいた。<br><br>続けて調べた。破産手続きの中で、保有していた特許は全て売却された。買い取ったのは、拓新コーポレーション。代表取締役の名前があった。<br><br>金川。<br><br>体の中で何かが固くなった。固くなったが、まだ動かなかった。<br><br>霰が降る駐車場の夜が来た。<br><br>赤海がロングコートの肩に霰を受けながら、こう言った。「あなたが開発した水処理プラント事業——あの企画を拝見しました。素晴らしかった。あなたの着眼点、環境問題への姿勢。誰でもできることではない」<br><br>自分が開発したものだから知っていた。その特許を元に俺が製品化した。<br><br>しばらく、画面を見ていた。それから立ち上がり、金川社長室に向かった。<br><br>ドアをノックした。入れ、という短い声がした。<br><br>金川社長は、書類に目を落としたまま顔を上げなかった。なんだ、と言った。<br><br>「少し、お時間をいただけますか。先日、競合他社が水処理プラントの新製品を発表しました。対抗策を検討するにあたり、我々の製品の特許の出所を改めて確認しておく必要があると思いました。調べていたところ、湧水技研という会社の名前が出てきたのです」<br><br>金川社長の手が、止まった。書類の上で、ペンが止まった。それから、ゆっくりと顔を上げた。目が俺を見た。<br><br>「……それが、何か問題はあるのか」<br><br>声は低かった。問いというより、確かめる口調だった。<br><br>「いえ。足元を固めておきたかっただけです」<br><br>社長は少しの間、俺を見た。核心をそらしていることは、見抜かれているかもしれなかった。しかし追ってこなかった。<br><br>「買った。それだけだ。倒産した会社の特許が市場に出た。技術を見て、使い道があると思って買った。二束三文だったよ。それだけの話だ」<br><br>「湧水技研の社長、赤海隆一という人物をご存知でしたか」<br><br>金川社長の目が、一瞬だけ動いた。<br><br>「会ったことはない。特許を買う時も、破産管財人を通して手続きしただけだ。社長と直接会ったことは一度もない」<br><br>それだけ言って、金川社長は再び書類に目を落とした。話は終わった、という動作だった。<br><br>俺は一礼して、社長室を出た。<br><br>廊下に出た瞬間に、背中の方で何かが動いた気がした。振り返らなかった。金川社長は、赤海隆一の名前を聞いた瞬間に、目が動いた。<br><br>自分のデスクに戻った。<br><br>窓の外では、春の光が建物の合間から差し込んだ。気配だけが、春の光の中にあった。​​​​​​​​​​​​​​​​<br></p><figure embedded-content-key="emb6aae6f53b676" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n2250929f78e0" contenteditable="false" name="A74A094A-F277-4A81-BC71-DD49961AC1D3" id="A74A094A-F277-4A81-BC71-DD49961AC1D3" data-identifier="n2250929f78e0">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n2250929f78e0" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n406268b3c2d1'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 08 Apr 2026 18:15:40 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n406268b3c2d1</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n406268b3c2d1</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第26話：水関連の技術。特許。倒産</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/263996439/rectangle_large_type_2_8730bcf8e7db7be903223e12b8c4ee21.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="F6C5FAE4-E4E2-42FA-96ED-300462E1C2E6" id="F6C5FAE4-E4E2-42FA-96ED-300462E1C2E6">「やっと、繋がった。あんた、理事長の花城だろ。あんたらのことを全部調べ尽くしたんだ」<br><br>「え。な、なにをおっしゃっているのか、全然わかりません。とにかく、落ち着いてください」<br><br>「とぼけやがって。口止め料を払えと言われたから払ったのに、約束が違うじゃないか。うちの女房は家を出ていった。子供も俺に口を利かなくなった。家族がバラバラになったんだぞ。許さない。絶対に訴えてやる」<br><br>この一週間、俺の携帯に非通知の電話が鳴り続けた。こうして、怒り狂った電話は切れた。<br><br>全く身に覚えはなかった。しばらく、スマホの画面を呆然と見つめていた。<br><br>畦地に電話したが、知らんの一点張りで切られた。<br><br>赤海に電話をするしかなかった。先ほどの電話の内容を説明した。<br><br>二秒か、三秒か。その短い沈黙があった。それからすぐに、笑いながら言った。<br><br>「そうでしたか。理事長のところに、直接クレームの電話がいってしまいましたか。それは、大変申し訳ございません。こちらの手違いでご迷惑をかけてしまいました」<br><br>「どういうことですか。向こうはこちらを訴えるとまで言っていた。きちんと説明してもらえますか」<br><br>また、静かになった。今度は、さっきより少し長かった。<br><br>「ただのクレームと言ってるでしょう。こちらで対応するので大丈夫です」<br><br>「電話の相手は、口止め料を払ったのに約束が違うと言っていました。一体、何のことなんですか」<br><br>「口止め料。ひどい言い方ですね」<br><br>今度は、間がなかった。<br><br>「とにかくご心配なく。今、別の会合に出ているので、時間がありません。これで失礼します」<br><br>電話が、切れた。<br><br>赤海は明らかに嘘をついている。確かめる必要がある。<br><br>翌日の夜、木枯を食事に誘った。<br><br>酒を勧めたが、木枯は全く飲めないというので、烏龍茶を頼んだ。<br><br>「今日はよく来てくれました。どうしても、あなたに直接会ってお聞きしたいことがあったのです」<br><br>木枯は、前菜に箸をつけようか迷っている。どうぞと言って、俺も前菜を口に運んだ。<br><br>この前の電話の話をした。<br><br>「すみません。何のことか、私には分かりません」<br><br>本当に、隠し事ができない男だ。<br><br>「全てを私に話してもらえないでしょうか。このまま理事長でいることなんてできない」<br><br>俺は深々と頭を下げた。<br><br>木枯は、俺の姿を見て慌てたが、そのまま口を閉ざして頑なに拒んだ。部屋に沈黙の時間が過ぎた。<br><br>「やはり、冬の魚は富山のほうが断然、美味しいですね。時々懐かしくなるんです。木枯さん、以前、一緒に祠に行きましたね。あの時に見た紅葉に彩られた風景は今でも忘れることができません」<br><br>木枯の口元が、かすかに動いた。何かを言おうとして、言えなかった。<br><br>「ここからは私の独り言として聞いてください。あの時、木枯さんは争うことが嫌いです。ただ、武器を棄てる勇気はいいことだとおっしゃいました」<br><br>木枯は、箸をつけずに俺の話を黙って聞いている。<br><br>「私の周りでは不思議なことが起きました。突然、富山へ飛ばされて。子供は血が繋がっていないと宣告された。得体のわからない玄水会の理事長にも祭り上げられました。私は平凡な人生を過ごすことも許されなくなった。すべては遺伝子検査を受けてからです」<br><br>木枯が、一度だけ深く息を吸った。俺はそれを、聞こえないふりをした。<br><br>「最近、思うんです。庄の民は、戦う勇気を棄ててしまった。私も同じです。何事にも本気で向き合おうとしなかった。仕事にも家族にも。本当に大切なものを守るためには、その心は棄てては駄目なんです。木枯さん、あなたは心の綺麗な素晴らしい人だ。その心に偽りはありませんか」<br><br>声を出さずに泣いた。顔を歪めて、唇を噛んで、それでも声を出さなかった。<br><br>俺は、黙って待った。<br><br>「私は、本当に弱い男です。ダメなことをダメだと昔から言えないのです。ある社長に泣きつかれて、粉飾決算に手を染めてしまいました。結局、その会社は借金を膨らませて、倒産してしまいました」<br><br>「それは辛い想いをされましたね」<br><br>「いや、本当の地獄はそれからでした。ある男が、私の周りにまとわりつきました。その男が、私を脅すのです。世間にばれたら、免許剥奪だぞと」<br><br>「あなたは、弱みを握られたわけですね」<br><br>「そうです。その男の指示でいくつもの会社の粉飾決算を作ってきました。その嘘で固められた決算で、沢山の人が迷惑をかけたはずです。その会社の社長、家族、従業員、取引先、銀行」<br><br>木枯は、そこで口を止めてから、視線を少し落とした。<br><br>「その会社の中に、一社だけ、今でも頭から離れないところがあります」　<br><br>木枯の声が、少し変わった。さっきまでの告白とは、質が違った。<br><br>「どんな会社だったのですか」<br><br>「名前は忘れました。社長に会ったこともありません。その社長が一人で長年かけて、水関連の技術を開発していた。本物の技術者で、特許もあったそうです。私が作った嘘の決算書のせいで、最終的に倒産したようです。なぜか、ずっと忘れられないんです」<br><br>木枯は、そこで一度だけ窓の外を見た。暗い夜の窓に、自分の顔が映っていた。<br><br>「私は全てを捨てて逃げることにしました。仕事もなくなり、困り果てていたところ、従兄弟の楪葉からある組織をつくるので、経理を見て欲しいと頼まれました。紹介されたのが赤海さんです。私はあの人が怖くて怖くてしょうがない。あの人からは逃げられない」<br><br>一拍おいた。<br><br>「花城さんはまだ大丈夫です。私とは違う。はやく、この組織から逃げてください」<br><br>木枯は、はにかんだように唇をゆがめた。俺は、その目を、正面から受けた。<br><br>「いや、同じですよ。私もあの男に弱みを握られました。あの人から、もうこの組織から出られないと言われた。私にもあの人の怖さはわかっているのです。ただ、逃げるだけではダメだと気づいたのです」<br><br>自分に言い聞かせるように言った。<br><br>「木枯さん、私と一緒に戦いませんか」<br><br>木枯は深くうなづいた。<br><br>「わかりました。私にも覚悟ができました。この前、質問された玄水会の収入源をお話しします」<br><br>「……収入源？」<br><br>「遺伝子検査を行う目的は、人によって様々です。世の中には、表に出さないほうが幸せなことが沢山あるのです。それを誤魔化すために、人は意図的に解析結果を変えたくなる。依頼者の思う通りに解析結果を偽造する。それを恐喝の道具としたのです」<br><br>木枯はおしぼりで口をふいた。<br><br>「赤海はこの恐喝ビジネスを大きくするために、会員数を増やすことに躍起になっていたのです。玄水会の拡大は、庄の民を集めるためではない。獲物を増やすためだったんです」<br><br>その言葉が、体の中で静かに展開した。<br><br>会員数六千人。一万人の大台へ。赤海が満面の笑みで言っていた数字の意味が、今初めて別の形を持った。<br><br>「科学的に基づいた遺伝子検査解析結果を偽装する。そしてその対価が口止め料ということか」<br><br>「その口止め料の金額は、相手次第ですが、金持ちは数千万という額を払います。それが玄水会の資金源になるというカラクリです」<br><br>「ひどすぎる。人の弱みを餌に金儲けするなんて」<br><br>「全ては、赤海が絵を描いて、彼の指示で行われていました。彼の懐にもかなり資金が流れているはずです。残念ながら、私が知っているのはここまでです。この仕組みを知りながら、黙っていた私も共犯として責められてもしょうがない」<br><br>木枯の目には、もう涙はなかった。すでに戦うことを決めた目だった。<br><br>「玄水会の口座の動きを把握できます。ただ、玄水会の設立経緯や本当の真実を知っているのは、楪葉です。彼に聞けば、もっと詳細な中身と全貌を知ることができると思います」<br><br>「楪葉さんのとこらに行きましょう。こんな馬鹿なことは、はやく終わらせなければならない」<br><br>木枯が深くうなづいた。<br><br><br>水関連の技術。特許。倒産。<br><br>その三つの言葉が、冬の夜の中でまだ動いていた。どこかで聞いた言葉だという感触だけが残った。</p><figure embedded-content-key="emb8b4a6d545d90" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n406268b3c2d1" contenteditable="false" name="570C4CC4-EAF6-4936-9955-A2188FE37603" id="570C4CC4-EAF6-4936-9955-A2188FE37603" data-identifier="n406268b3c2d1">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n406268b3c2d1" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n157481a3e8d7'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 07 Apr 2026 11:29:42 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n157481a3e8d7</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n157481a3e8d7</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第25話：根を張った。外は、冬だった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/263732084/rectangle_large_type_2_e212201861648f69bee3cb577df77a1f.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="8D022947-B0C6-49B9-8489-83B06D5FD659" id="8D022947-B0C6-49B9-8489-83B06D5FD659">ある朝、金川社長に呼ばれた。<br><br>「最近の売上増加の要因はなんだ」<br><br>俺は少し間を置いた。<br><br>「第一営業部の頑張りによるものです。地道に動いた結果だと思っています」<br><br>社長は書類から目を上げた。眼鏡越しに、俺を見た。<br><br>「そうか」<br><br>信じた顔ではなかった。しかし追わなかった。<br><br>「最近の売上は異常だ。お前が動いているのも分かっている。泥にまみれろと言ったが、その意味を履き違えるなよ。雨池のようになるな」<br><br>俺は、何も言えなかった。<br><br>社長が書類に目を戻した。俺は頭を下げて、部屋を出た。廊下を歩きながら、社長の言葉が体の中で何度か往復した。<br><br><br>冬の冷たい空っ風を避けながら、今年最後の幹部会に向かった。ビルのエレベーターで、畦地と乗り合わせた。<br><br>「花城、先日の参院選では、本当に助かった。ありがとう」<br><br>畦地は疲れが滲み出ていた。<br><br>「いえいえ、私の署名の力などありませんよ。先生の実力と頑張りによるものでしょう」<br><br>「そんなわけないだろう」<br><br>畦地が、少し声を落とした。なにかを抱えてるような複雑な顔をした。<br><br>扉が開いた。畦地はいつもの顔に戻った。<br><br>「幹部会を始める前に、嬉しいご報告があります。先月末で会員数はついに六千人を超えました。来年度には、一万人の大台も見えてきました」<br><br>司会の赤海が、満面の笑みで言った。<br><br>「一万人？なぜ、こんなにはやく」<br><br>「すべて花城理事長の影響力でしょうね。あなたの呼びかけに、会員の皆さんが勧誘している模様です。玄水会の会員は、北から南まで全国各地に広がりつつあります。庄の民は全国各地に分散したということですね。楪葉教授」<br><br>「そうですね……」<br><br>楪葉は、うわの空で答えた。全員に聞こえるかどうかというくらいの小さな声だった。<br><br>赤海が、議事の方向性を戻した。<br><br>「これはこれで喜ばしいことなのですが、この会員数になると収拾がつきません。そこで、玄水会の組織を強化することにしました。ご覧ください」<br><br>「まるで、一つの国のようですね……」<br><br>花城大王。その下に、畦地——まつりごと長。赤海——かげの司。楪葉——ふみの司。木枯——くらの司。<br><br>「さすがに、時代錯誤でしょう。荷が重すぎる。もっと現代風に軽いものにしませんか」<br><br>「いえいえ。ただのエンターテイメントですよ。遊びの一種と考えてもらえれば」<br><br>「役職の任期は二年ですか」<br><br>「大王職については、世襲制です。最古の遺伝子はその子に継承されますから。ただ、世継ぎがいない場合は、もう一度探し出さないといけないですね。とりあえず、この組織体系をスタートさせて、追い追い考えていきましょう」<br><br>俺には世継ぎがいない。この言葉が重いものだった。<br><br>楪葉が、恐る恐る手を挙げた。<br><br>「理事長、私からもお願いがあります。前回の幹部会でもお話しましたが、祠の発掘調査を総会の議案としてあげてもらえないでしょうか。なんとかお願いします」<br><br>楪葉の対象は、赤海でなく、俺だった。その目が、充血していた。<br><br>「だから、昨年も言っただろ。なにも出なかったら、誰がどう責任を取るんだ。ここまで作り上げてきた庄の国は間違いでしたと言うのか。そんなリスクは負えない。悪いけど、当分の間、諦めてくれ」<br><br>畦地が苛立ちながら言った。<br><br>「昨年から、寝る間も惜しんで、さらに研究を進めました。この研究資料をご覧ください。間違いなく、庄の国の聖地なのです。まさに、歴史を覆すものが埋もれています。さらに確信を持つことができました」<br><br>楪葉は、髪を取り乱しながら、分厚い研究資料を震える手で配り始めた。<br><br>その資料が、俺の手元に来た。日付は、三年前のものだった。<br><br>「教授、もういいよ。あなたの熱意は十分伝わったよ。でも、いまは無理だ。もうこれ以上は、やめておきなさい」<br><br>畦地は、配られた資料に目を通しながら、なお優しく言った。<br><br>「やめろだって。あなたらは、私を最初から騙すつもりで、嘘をついたのですか。都合のいいことばかり言って。あなたたちは、卑怯だ」<br><br>楪葉は目を充血させながら、引き下がろうとしなかった。<br><br>突然、拳で机を叩く音が部屋中に響き渡った。<br><br>畦地が爆発したかと思ったが、動いていなかった。爆発したのは、赤海の方だった。赤海の震えは、感情を制御しようとしている震えだった。<br><br>「いい加減にしろ。だから、何度もダメだと言ってるだろう。いま、玄水会は一番大事な時なんだ。伝説だから価値があり、人を魅了するのだ。全てを明らかにしたら、人は興味をすぐに失ってしまう。あなたの夢物語に付き合っている暇はないのだよ」<br><br>あまりの怒鳴り声に、心臓が激しく動悸した。赤海は、ゆっくりと息を吸った。それから、その手をテーブルの上で静かに組んだ。<br><br>楪葉が、ゆっくりと胸のポケットに手を入れた。震える手が、小さな布袋を取り出した。テーブルの上に、静かに置いた。<br><br>小さな石が、転がり出た。<br>緑色だった。濁りのない、深い緑だった。<br><br>「これは、私の家に代々伝わるものです。これが庄の民の証です。この石と同じものが、あの祠の下に眠っている。私はこの目で確かめたい。それだけなのです」<br><br>誰も何も言わなかった。<br><br>緑の石を持つ者は庄の民だ。持たない者は違う。散り散りになった者たちを繋ぐのは、その石だけだった。<br><br>赤海は、テーブルの上の石に、一瞥もくれていなかった。<br><br>「発掘調査にはいくらぐらいかかるのですか」<br><br>「規模によりますが、三億くらいは必要かと……」<br><br>絞り出すように答えた。<br><br>「木枯さん、いま玄水会の預金残高は、いくらぐらいありますか」<br><br>「約五億くらいです……」<br><br>木枯の声は震えていた。<br><br>「今の段階では皆さんが言う通りに諦めた方がいいかもしれないですね。残念ですが、また、今度に話し合いをしましょう」<br><br>楪葉は、納得いかないような表情をしていたが、それ以上は何の意思表示も示さなかった。<br><br>幹部会は終わった。<br><br>赤海が歩きながら楪葉の横を通り過ぎた。立ち止まらなかった。<br><br>「教授、お忘れではないですよね。あなたの今の生活は、誰のおかげで成り立っているか」<br><br>楪葉の背中が、わずかに縮んだ。赤海は振り返らず、そのまま廊下へ出た。<br><br>帰り際、楪葉が石を布袋に戻すのが見えた。震える手で、丁寧に戻した。胸のポケットにしまった。その背中を見ながら、俺は廊下に出た。<br><br>エレベーターの前で、赤海が一人で立っていた。<br><br>「赤海さん、玄水会の預金が5億もあるなんて。検査費だけではとても集めることはできない。一体どうやって」<br><br>二人きりになった。<br><br>「花城理事長」<br><br>赤海が、正面を向いたまま言った。<br><br>「玄水会のためならばと、相当な額を出してくださる方がいます。自分の全財産を、という方もいる。遺伝子で繋がった一族のためならばと、そういう方々から集まった金です」<br><br>全財産を。遺伝子で繋がった一族のために。<br><br>「嘘だ。表に出せない金も混じっているのではないでしょうか」<br><br>赤海の表情が、一瞬だけ止まった。<br><br>「花城理事長は、鋭い」<br><br>褒めているのか、警戒しているのか、分からない言い方だった。<br><br>「その通りです。表に出せない金です。そして、あなたはこの組織のトップになる」<br><br>赤海は出る前に、一度だけ俺を見た。頭も体も動かない。<br><br>「それから」<br><br>赤海が、出口に向かいながら、最後に言った。振り返らなかった。<br><br>「あなたは、もうここから出られません。玄水会の金の流れを知った。署名もした。自分のために商売に使った。あなたが勝手にやったことです」<br><br>出られない、という言葉が、体の中で静かに根を張った。外は、冬だった。​​​​​​​​​​​​​​​​</p><figure embedded-content-key="embfc11f78431e8" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n157481a3e8d7" contenteditable="false" name="A1E54F45-CE6A-4824-B2AB-8C02DF308DE7" id="A1E54F45-CE6A-4824-B2AB-8C02DF308DE7" data-identifier="n157481a3e8d7">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n157481a3e8d7" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/ndf19a17f58ff'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Apr 2026 17:31:00 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/ndf19a17f58ff</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/ndf19a17f58ff</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第24話：ジャズだけが、続いていた</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/263731317/rectangle_large_type_2_bae4248adbf7e6200f8eaad76a96a589.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="B66BFC8C-DD41-4B8C-92E7-64A98F9A50BF" id="B66BFC8C-DD41-4B8C-92E7-64A98F9A50BF">雑居ビルの地下へと続く階段を、赤海は静かに下りた。扉を開けると、煙草の煙が薄く漂っていた。<br><br>客は畦地だけだった。<br><br>赤海は入口で少し止まった。一秒にも満たない時間だった。<br><br>「畦地先生、この度の参院選での大勝、誠におめでとうございます。今晩はお一人で美酒を味わっていらっしゃるのですか」<br><br>畦地が顔を上げた。驚いた顔だった。しかしすぐに、その顔が別の表情に変わった。<br><br>「突然現れたと思ったら、いきなり皮肉か。今日は独りで飲みたい気分だったんだが。あんなもの大勝でもなんでもないよ」<br><br>「ご謙遜を。野党大惨敗のなか、唯一、議席数を伸ばしたではないですか」<br><br>赤海は、一つ席を開けて座り、畦地と同じものを頼んだ。<br><br>バーテンダーが無言でグラスを置いた。ジャズが低く流れていた。<br><br>赤海は一口飲んだ。静かにグラスを置いた。<br><br>「契約違反です」<br><br>声が変わった。<br><br>「今回の件、私は聞いておりませんでしたね」<br><br>畦地が、手に持っていた煙草を灰皿に置いた。<br><br>「赤海さん——」<br><br>「玄水会を、選挙の道具に使った。しかも、私に断りもなく、花城をけしかけて動かした。そういうことですね」<br><br>畦地が口を開きかけた。しかし赤海が続けた。言葉が、静かなまま鋭くなった。<br><br>「玄水会は、私のものです。無論、花城も私のものです。先生が勝手にお使いになるものではない。最初からそういう約束だったはずです」<br><br>「わかっている。だが——」<br><br>「先生」<br><br>赤海が、畦地の言葉を遮った。<br><br>「もっとも腹立たしいのは、あの男です」<br><br>一行だけ言った。<br><br>「花城が玄水会を自分の商売に使った。会員たちを営業の道具として動かした。あれも、私は聞いておりませんでした」<br><br>畦地が、何も言わなかった。<br><br>煙草が灰皿の上で、静かに燃えていた。<br><br>「先生と花城が、二人で動いた。そういうことですね」<br><br>「……赤海さん、それは——」<br><br>「これまで、先生の党に流してきた資金のことは、まさかお忘れではないですよね。村岡先生が生きておられた頃から、磯山さんを通じて、ご奉仕させて頂きました」<br><br>畦地の体が、わずかに固まった。表情は変わらなかった。しかし椅子に座ったまま、何かが固まった。<br><br>「資金提供は、明日をもって取りやめます」<br><br>静かな一行だった。<br><br>トランペットが鳴っていた。それ以外、何も聞こえなかった。<br><br>長い沈黙があった。<br><br>畦地が、ゆっくりと息を吐いた。それから、頭を下げた。<br><br>「赤海さん、申し訳なかった。わしが勝手をした。あんたに断りを入れるべきだった。それは認める」<br><br>頭を下げたまま、続けた。声が、少し変わった。<br><br>「ただ……わしにも守らなければならんものがある。あんたもそれを知っているはずだ。村岡先生から引き継いだものを、このまま潰すわけにはいかん」<br><br>頭を下げたまま、少し間があった。<br><br>「玄水会からの金がないと、党はつぶれる。そこだけはなんとか」<br><br>しばらく、黙っていた。一口飲んで、置いた。<br><br>「わかっています。頭をあげてください」<br><br>畦地が顔を上げた。赤海はもうその顔を見ていなかった。グラスの水面を見ていた。<br><br>「それにしても、想定以上でしたね」<br><br>「何がだ」<br><br>「玄水会の力です。最初、あなた方の勝手な行動に腹が立ちました。しかし、選挙の結果をみて、徐々に興奮しました。玄水会の組織票が、取るに足らないあなたの政党に流れた。私が設計した通りに、いや、設計を超えて動いた」<br><br>畦地が、苛立ちの表情を殺して、煙草に火をつけた。<br><br>「わしが一番驚いている。玄水会を作るときにあんたはこう言った。選挙に勝つには、金と妄信的な組織票だと」<br><br>「そんなことを言いましたかね」<br><br>赤海が、かすかに笑った。<br><br>「先生は、これからも玄水会の組織票を思う存分使えばいい。ただし、次からは私に一言入れてから動いてください。ただし、花城は絶対に許しません」<br><br>「ああ。約束する」<br><br>畦地は煙草を深く吸った。煙が天井に向かった。<br><br>「なぜ、花城にそこまでこだわるのだ。あいつも、そろそろ気づく頃だ。すべてを世間に話すかもしれない」<br><br>赤海が、少し間を置いた。<br><br>「大丈夫です。花城はもう共犯です」<br><br>静かに言った。<br><br>「玄水会を使って商売をした。署名もした。今さら知らなかったとは言えない。あの男は、自分でそこまで踏み込んだ。戻れる場所は、もうない」<br><br>畦地が、煙草を灰皿に戻した。<br><br>「情報については、私が管理します。どこに何があるかを知っているのは私だけです。巧妙に隠せる」<br><br>一拍置いた。<br><br>「ただ——永遠に隠せるものなど、この世にはありませんがね」<br><br>その言葉が、どこに向かって言われたのか、畦地には分からなかった。<br><br>「すべてはあんたが決める、か」<br><br>呟くように言った。それ以上は言わなかった。<br><br>「そうです。だから面白い」<br><br>赤海が、グラスを持ったまま続けた。<br><br>「今回の選挙で、玄水会の力が証明された。遺伝子に縛られた人間は、自分で考えることをやめる。花城という虚像の王の声に従う。自分の目で見ることもできないものに踊らされて。その様は——」<br><br>赤海は笑った。今度は先ほどとは違う笑いだった。<br><br>「滑稽であり、同時に、美しい」<br><br>畦地の背中を何かが通り過ぎた。畦地の右膝が、テーブルの下でわずかに揺れていた。<br><br>「恐ろしい人だな。次はなにを考えているんだ」<br><br>赤海が、少し間を置いた。<br><br>「遺伝子は道具なのです。人は拠り所を求める。だからこそ、都合が良い。それを利用して、私が彼らをコントロールする。この前の総会の幸せそうな顔、あれが夢にでてくるのです。私に従順であれば、それでいい」<br><br>「そんなこと——」<br><br>「そのためには、ストーリーが必要だった。目の前に楪葉が描いた夢物語があった。庄の国なんてあるわけもないのに。それを何億もかけて発掘だなんて。バカなやつだ」<br><br>畦地の右膝は、まだ揺れていた。<br><br>「まるで、あんたにとっては、玄水会も花城もおもちゃだな」<br><br>赤海は答えなかった。<br><br>畦地が、その沈黙の中で何かに気づいた。背筋が、わずかに伸びた。<br><br>「わしも、か」<br><br>赤海が、可笑しくてたまらないかのように笑った。<br><br>「あんた、狂っているよ」<br><br>畦地がグラスを置いた。乱雑に置いた。音が静かな店に響いた。<br><br>「最高の褒め言葉です」<br><br>畦地の右膝が、止まった。<br><br>「赤ちゃんはすぐおもちゃに飽きますが、ボケ老人におもちゃを与えたら、一生離しませんよ」<br><br>それから、自分のグラスを静かに持ち上げた。<br><br>「先生、今夜は良い酒です」<br><br>畦地は、しばらく止まったままだった。手が、わずかに震えていた。二人は、黙って飲んだ。<br><br>ジャズだけが、続いていた。</p><figure embedded-content-key="embfbdb2ea68a23" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/ndf19a17f58ff" contenteditable="false" name="C2E55C15-6BEA-4DEF-AE32-46C0977BCDBF" id="C2E55C15-6BEA-4DEF-AE32-46C0977BCDBF" data-identifier="ndf19a17f58ff">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/ndf19a17f58ff" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n27a96dce01de'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 05 Apr 2026 08:42:42 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n27a96dce01de</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n27a96dce01de</guid>
    </item>
    <item>
      <title>【感謝】庄の国、23話まで来ました。</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/264833867/rectangle_large_type_2_1211c67d14a63b2e517e976dd518b443.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="2B9DE88F-1C76-43E9-AAB4-2F95355F9006" id="2B9DE88F-1C76-43E9-AAB4-2F95355F9006">7年前の小説を引っ張り出し、再設計しながら記事を公開していく毎日。</p><p name="AF164AEF-57C1-4FBC-8365-49038AF9C73F" id="AF164AEF-57C1-4FBC-8365-49038AF9C73F">一日一記事をコツコツと掲載しております。</p><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/nd266f5210d42'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 04 Apr 2026 22:43:13 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/nd266f5210d42</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/nd266f5210d42</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第23話：署名した、筆先が</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/263729390/rectangle_large_type_2_70bbd03946cb0302da8c130b5a40dd6d.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="4FC10A8B-6F93-4B4C-9176-20A0CC416B08" id="4FC10A8B-6F93-4B4C-9176-20A0CC416B08"><br>テレビでは、参院選の情勢をレポーターが煽り、評論家もどきがコメントを繰り返していた。誰もが誰かに怒っていた。その誰かが誰なのかを、誰も知らないまま。<br><br>奈緒からの連絡は、あれ以来一切なくなった。振り切るしかなかった。寝る間を惜しんで働いた。それだけのことだった。<br><br>その日の役員会が終わった後、金川社長は俺だけを部屋に呼んだ。<br><br>「いま、この会社の業績はどん底だ。お前は、自分が置かれている立場を分かっているか。そして、何をすべきかを」<br><br>「社長の仰りたいことは、十分わかっています」<br><br>雨池が退任後、会社の膿を出しきり、抜本的な改革を行った。不法行為はもちろんのこと、協力会社への押し付け販売など、この会社全体に蔓延っていた不正を徹底的に排除した。<br><br>一方で、無駄なものを剥ぎ落とした結果、売上は右肩下がりに落ち続けていた。頼みの水処理プラントも公共工事の予算が削られ苦戦していた。<br><br>「お前が言いたいことはわかる。ただ、生き残るためには、そんな悠長なことを言っている時間はない。使えるものは何でも使え。泥にまみれろ。結果をとにかく残せ」<br><br>社長の言葉は分かる。しかし泥にまみれることと、不正をすることの境界線は、どこにあるのか。<br><br>「社長、お言葉ですが。この数字の落ち込みは一時的なものです。根を張り直しているところなので、もうしばらくお待ち下さい」<br><br>金川社長が、少し間を置いた。<br><br>「お前は相変わらず、綺麗事を言う。それが強みでもあり、弱みでもある」<br><br>それ以上は言わなかった。窓の外に目を向けた。<br><br>「お前が間違っているとは言わない。ただ、間違っていなくても、負ける時は負ける。それが経営だ」<br><br>重い一言だった。反論が来なかった。<br><br><br>数日後、畦地から夜の誘いがあった。<br><br>高級料亭の美人の女将に誘導されるまま、立派な奥の部屋に通されると、畦地が下座ですでに待っていた。<br><br>「急に呼んで悪かったな。ま、とりあえず一杯」<br><br>一口含んだ。富山の酒だった。舌の上で切れた。<br><br><br>「それにしても、この前の総会は、本当に素晴らしかった。心からのそう思う」<br><br>畦地がまっすぐ俺を見た。<br><br>「あれほど人の心を打つ演説は、なかなかできるものじゃない。俺はこの世界で長くやってきたが、ああいう引力を持っている人間は、そうそういない」<br><br>褒め言葉にしては、声が静かすぎた。<br><br>「品性がないとか、理事長を辞退しろとか言ってしまって、これまでの非礼を詫びなければならない。すまなかった」<br><br>「先生、いきなり、どうしたんですか。そんなことを仰るなんて、逆に気持ち悪いですよ」<br><br>濡れタオルで乾いた唇を拭いた。<br><br>「そんなことはないさ」<br><br>長い息を吐いた。部屋の空気がわずかに動くのを感じた。<br><br>「先生、今日はどのようなご用件ですか。私になにかさせようと企んでいるのでしょう」<br><br>畦地が猪口を置いた。<br><br>「さすが、察しがいいな」<br><br>苦笑した。それから、徳利を手に取り、俺の猪口に酒を注ぎながら言った。<br><br>「この国の政治に興味はないか。いや単刀直入にいう。日本民権党から出馬をしてくれないか」<br><br>日本民権党。選挙のたびにテレビに出てくるが、誰が代表なのかも知らない。そういう党だった。<br><br>「やっぱり無理な要求が来ましたね。冗談にも程がありますよ」<br><br>思わず、笑いが出た。畦地も笑った。二人で笑ったのは、初めてだった。笑い声が消えた後、部屋が静かになった。<br><br>「笑い事ではない。俺は本気でお願いをしてるのだ。今度の参院選がどうなっているのかを知っているか。わが党設立以来、最大のピンチにある」<br><br>数日前の政治面だった。「日本民権党、議席半減の恐れ」という見出しの記事を見せた。<br><br>「お気持ちはわかりますが、私のようなものが政治家など務まるわけがありません。仕事もあるし、さすがにお受けすることはできません」<br><br>「そうか」<br><br>一度だけ言った。<br><br>「お前が思っているより、この話は真剣なんだ」<br><br>静かに言った。<br><br>「誰でもいいわけではない。お前のような人間が政治の場に立つことに、意味がある。仕事を辞めなくてもよい。ただ、顔と名前を出してくれるだけ、党の空気が変わる」<br><br>「先生」<br><br>「聞いてくれ。今の政治には、人を引きつける人間が圧倒的に足りない。お前の総会での立ち姿を、俺は会場の端で見ていた。あれは本物だ。恥ずかしながら、お前に嫉妬したのだ」<br><br>畦地の声に、熱が来ていた。計算の熱ではなかった。<br><br>「申し訳ありませんが、お受けすることはできません。私には、今やるべきことが別にあります」<br><br>畦地が、長い息を吐いた。<br><br>「……わかった。無理強いはしない」<br><br>仲居が廊下を歩く音が遠くに聞こえて、消えた。<br><br>「なら、わしを信じて力を貸して欲しい。玄水会の会員達へ、わが党に投票するように、玄水会の理事長として宣言してくれないか」<br><br>「会員って、確か二千五百人くらいですよね。仮に会員に投票を呼びかけたとしても、国政選挙の勝敗を左右する数とは思えない」<br><br>畦地の顔に真剣さが増した。<br><br>「いま、玄水会の会員は、先月末で四千人を超えたと報告を受けている。この前の総会からこの半年で千五百人も増えたという計算だ。なぜ、そこまで増えたか分かるか」<br><br>「えっ、なぜですか」<br><br>「お前の演説だよ。会場にいた会員達が、親族や周りの人達に遺伝子検査を勧誘しまわっているらしい。だから、会員数が爆発的に増えているんだ。お前の声かけに会員達は必ず動く。その積み重ねは、馬鹿にできんよ」<br><br>総会の時に沸き起こった熱狂を思い出した。俺は、一族を結集させようと宣言してしまった。あの言葉が動かした。<br><br>「で、私に何をしろと言うんですか」<br><br>「会員向けに配る文書をこちらで用意した。直筆でサインをしてくれれば、それでいい。あとは、俺が責任をとる」<br><br>手渡された文書に目を通した。庄の国が目指した国造りと日本民権党が掲げる公約は一致すると書かれている。<br><br>『戦争はやめよう！　武器を放棄しろ！　景気を良くして我々の生活を守れ！』<br><br>俺は文書を置いた。<br><br>「さすがにこの公約で戦えるのでしようか」<br><br>「真面目にやっているさ」<br><br>畦地が、急に笑いを消した。<br><br>「政治家なんてものは、それぞれの器が違うだけで、中身は大体同じもんだ。結局は、お国よりも自分のことを考える人種さ。俺も含めてな」<br><br>沈黙があった。<br><br>「先生は、なぜそこまでして、この党を守ろうとするんですか」<br><br>聞くつもりではなかった。口が動いていた。<br><br>「村岡という男がいた。俺が若い頃に世話になった政治家だ。この党の創設者で五年前に死んだ」<br><br>なにかを思い出しながら、呟くように言った。<br><br>「あの人は、本物だった。国のことを、本当に考えていた。わしはあの人の隣で二十年見てきた。あの人が死ぬ前に言った。あとは頼むと。だから、俺は地べたを這いつくばっても守ってみせる」<br><br>畦地が顔を上げた。<br><br>「お前しか頼るものがいないのだ。この通りだ」<br><br>畦地は深く頭を下げた。<br><br>目の前の男は、この前の俺と同じだ。人は追い詰められると、どんな毒でも飲む。それは守るものがあるからだ。この男を助けたいと純粋に思った。<br><br>その手が、文書に触れる前に、一拍だけ止まった。<br><br>なぜか、金川社長の険しい顔が来た。業績速報値の数字が来た。頭を下げ続けるこの男が道具に思えた。<br><br>「頭をあげてください。先生がそこまで言うなら引き受けます。ですが、その書類に署名するかわりに、私にもお願いしたいことがあります」<br><br>「交換条件ということだな。いいだろう。なんでも力になるぞ」<br><br>畦地が安堵の表情を浮かべた。ただ、交渉の主導権は俺にある。<br><br>「昨今の公共事業の削減で苦しんでいます。もっと民間に広げたい。だから玄水会の会員を頼りたい。先生のお力で、繋いでもらえませんか」<br><br>「いい考えだ。だが、やり方を間違えている。わしの口から頼むより、お前が直接玄水会の会員に声をかければいい。採算度外視でも願いを聞くだろう。わしの方からも一声かけてやるよ」<br><br>利害が見事に一致した。われわれの商談は成立した。目の前の書類に署名した。<br><br>「ああ、そうだ。この話は——」<br><br>畦地は少し声を落とした。<br><br>「赤海には、まだ言っていない」<br><br>それだけ言って、また猪口を傾けた。<br><br><br>参院選は、与党が圧倒的多数で圧勝し、野党連合は惨敗した。日本民権党は予想を覆し、議席数を僅かながらに伸ばした。新聞の隅っこに「健闘」とだけ書かれていた。<br><br>営業第一部の部長が、業績速報値を俺に見せた。営業部に捌ききれないほどの注文が舞い込んだらしい。興奮しながら説明を始めたが、全く、頭には入らなかった。<br><br>あの夜を思い出した。署名した筆先が、いつもより軽かった。その軽さが、少し、怖かった。</p><figure embedded-content-key="emb9a360b913ddd" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n27a96dce01de" contenteditable="false" name="42612182-4DAA-4006-B868-9B133A91C7C4" id="42612182-4DAA-4006-B868-9B133A91C7C4" data-identifier="n27a96dce01de">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n27a96dce01de" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n7fa64ab7d5d9'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 04 Apr 2026 12:36:54 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n7fa64ab7d5d9</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n7fa64ab7d5d9</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第22話：緑の石を持つ者は、庄の民だ</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/263289144/rectangle_large_type_2_3541431d61b984d9b55b2ffe6701fe5f.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="1F2BF61C-5229-4160-9C77-3EDA17024E00" id="1F2BF61C-5229-4160-9C77-3EDA17024E00">総会から数日後、楪葉から一通の封書が届いた。中には、手書きの文書が入っていた。冒頭に一行だけあった。<br><br>「花城理事長へ。あなたには、庄の民の真実を知って欲しい」<br><br>西暦XX年。庄の国は滅亡した。<br><br>辛うじて生き残ったものたちは、身を潜めて、離れ離れとなった。誇りある庄の民であったことを忘れないために、この地で沢山採れた小さな緑の石を証として、それぞれが持つことにした。散り散りになった者たちを繋ぐのは、その石だけだった。<br><br>数年後、後から来たものたちは、最先端の武器と持ち前の強欲さをもって、本土を制圧した。<br><br>彼らは、自民族とは違う民族を汚いものとして扱い、人が住めない僻地に追いやった。隔離されたものたちは、厳しい生活を送ることとなった。<br><br>虐げられた民の中から、反乱の声が上がった。ある日、小さな緑の石を持ったものたちが集まって、反乱を起こそうと企てた。しかし、武器を持って戦おうとする抗戦派と、平和外交を望む反戦派に分かれた。<br><br>結局投票することになったが、抗戦派が過半数を占めた。反戦派は必死に戒めたが、もう止まらなかった。<br><br>ただ一つ、計算が狂った。<br><br>ある夜のことだった。反乱軍の集会に、見慣れない男が現れた。緑の石を持っていた。しかし石の色が、わずかに違った。気づいた者はいなかった。<br><br>後から来た者たちは、庄の民がいつか結集し反乱を起こすことを、すでに想定していた。緑の石の偽物を用意し、間者を紛れ込ませていた。反乱軍の動きは筒抜けとなり、あっさりと鎮圧された。<br><br>生き残った庄の民たちは、再び集まり話し合った。我々には戦いの才能はない。後から来た者たちには、とてもじゃないが勝てそうもない。<br><br>その時、一人の若者が立ち上がった。<br><br>「こんな負け続ける生き方はウンザリだ。おれは、庄の国を捨てる。そして、身分を偽って、後から来たものの国へ行くことにする」<br><br>小さな緑の石を、床に叩きつけた。<br><br>乾いた音がした。石が転がった。誰も拾わなかった。<br><br>年老いたものたちが必死に引き留めたが、若者のほとんどが、庄の国を棄ててしまった。庄の民の若者たちは、後から来たものの国に潜り込んだ。あるものは、将軍と呼ばれ、あるものは権力者の側近となったという。<br><br>石を棄てた者たちは、そのまま戻らなかった。<br><br>文書の最後に、三行だけ付け加えられていた。楪葉の文字だった。<br><br>「小さな緑の石とともに、庄の民は綺麗な心を棄ててしまいました。<br><br>古文書には、武器を封印した祠の下に、庄の民が最後に持ち寄った緑の石が眠っていると記されている。その石が出れば、全てを立証できるのです。<br><br>あの石が現代に蘇れば、人々は庄の民の心がかつて実在したことを知る。この世界はまだ変われると、私は信じています」<br><br>俺は、その三行を、しばらく見ていた。手の中で、紙が、わずかに震えていた。</p><figure embedded-content-key="embef2b65832ac8" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n7fa64ab7d5d9" contenteditable="false" name="881F3764-BD32-4336-9A2C-DA626162A188" id="881F3764-BD32-4336-9A2C-DA626162A188" data-identifier="n7fa64ab7d5d9">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n7fa64ab7d5d9" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n2472b7fda6dc'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 03 Apr 2026 08:00:53 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n2472b7fda6dc</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n2472b7fda6dc</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第21話：俺は、王になってしまった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/264133700/rectangle_large_type_2_a6a27b1f0f855bb966fb3dd6bf8fbf0b.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="9A0986D2-A4D5-422E-8C67-A17779ADFEFE" id="9A0986D2-A4D5-422E-8C67-A17779ADFEFE">「あとから来た奴らが攻めてきたぞ！！」<br><br>総会の第一部である如月ケンジによる演劇が始まった。映像と舞台が一体化していた。<br><br>暗闇から演者が叫び、闘いのシーンとなった。会場の至るところで叫び声が聞こえ、舞台の横からは灼熱の炎があがる。<br><br>裏方で待機しながら、その声を聞いていた。<br>目の奥が、熱くなっていた。<br><br>幕袖から、会場の客席が見えた。<br><br>畦地が、最前列の端に座っていた。<br>腕を組んで、舞台を見ていた。<br><br>楪葉は何かを呟いていた。<br>同一化していた。<br><br>木枯が、一番後ろの壁際に立っていた。<br>その顔が、遠くからでもわかった。泣いていた。<br>声もなく。<br><br>クライマックスに差し掛かった。我々の一族が、後から来たものたちに皆殺しにされた。庄の国のシンボルである祠が、無残に壊された。辛うじて生き残った者たちは、身を隠すように離れ離れになって村を去った。<br><br>司会の赤海がマイクを持ち、感極まっているのを恥じるかのように、掌で顔を撫で下ろした。<br><br>その時、如月ケンジが耳元に来た。<br><br>「サクラを何人か仕込んでいたんですけど。この様子をみると、そんな必要はなかったみたいですね。気乗りしなかったんですが——最高の舞台ですね」<br><br>如月ケンジの目が、会場を見ていた。<br><br>「原稿は忘れていい。花城さんの言葉で話してください」<br><br>「……申し訳ありません。心が大きく揺さぶられてしまいました。我々は辛い歴史を嘆いてばかりいてはいけません。楪葉家に伝わる庄の国の古文書には、こう書かれています。我が一族の王は、神から最初に分岐したものとすると。解析の結果、我々の王が特定されました」<br><br>赤海は目を閉じ、観衆に感情をぶつけた。<br><br>「これからの我々一族の未来を導いてくれる王を紹介します。花城新理事長です」<br><br>会場が暗転した。<br><br>あの森の中の崩れかけた祠の残骸の映像が現れた。<br><br>冬が来た。祠が猛吹雪に吹き付けられた。<br><br>厳しい冬が過ぎて、春が来た。雪解け水の音がした。桜の花びらが、一枚一枚と空から降ってきた。<br><br>会場がピンク一色に染まったところで、一番後ろの扉が開いた。<br><br>光の奥に、俺がいた。<br><br>会場の何人かが立ち上がり、頭を下げた。それにつられて、全員が一斉に立ち上がった。後ろの扉から壇上まで、光の道ができた。<br><br>俺はその道を歩いた。七百人の眼差しが集まる。<br><br>壇上に立ち、目を瞑った。自分でも驚くほど、心は穏やかだった。<br><br>「この度、理事長に就任した花城と申します」<br><br>「我々は、後から来たものに追われ、身を潜め、離れ離れになりました。そして、長い年月が過ぎることにより、我々は庄の民であることも忘れてしまったのです。ただ、現代の科学技術の進歩のおかげで、私たち庄の民は、こうしてまた集まることができました。それが、この玄水会なのです」<br><br>七百人の顔を見た瞬間、言葉が来た。<br><br>「皆さん、ようやく会えましたね」<br><br>幕袖で、如月ケンジの気配が変わった。<br><br>「みなさんと同じです。自分の祖先がどこで生まれ、どこからやってきて、どういう歴史を辿ってきたのか、何者かも分かっておりませんでした。その時に、皆さんも体験された遺伝子検査サービスを受けたのです。私は嬉しかった。我々の祖先は、平和を好み、仲間を愛し、誇りある民族だったのです」<br><br>マイクをもち、観衆に語りかけた。<br><br>「父親から小さい時に教えてもらったことを思い出しました。うちの遠い遠い先祖はね。昔、花の城に住んでいたんだよ。だから、うちは花城と名乗ったのだと」<br><br>厳格で厳しかった父親の顔がでてきた。<br><br>最前列で、畦地の腕が解けて、背もたれから体が起きていた。観衆の一人になっている。<br><br>「我々の民族は、争いを嫌い、すべての武器を放棄することを選択しました。そのため、野蛮で残虐な後から来た者達に滅ぼされ、全てを失いました。みなさん、悔しくないでしょうか。我々の祖先はなにも間違っていない。正しい生き方を貫いただけなのです」<br><br>これ以上踏み込むのはやめろ。<br><br>七百人の顔が俺を見ていた。その顔の中に、秋谷に似た顔があった。<br><br>「私達は必死に生き抜いてきました。この時代は平和が守られているような気はします。ただ、それは幻想に過ぎないことは皆さんも気づいていらっしゃるのではないでしょうか。人は憎しみあい、人を蹴落とし、人から奪う。世界を見渡せば、今この瞬間においても戦争で何人もの弱い者たちが犠牲となる。どの世も弱い者たちはいじめの標的となる。こんなにも科学技術が進んだ時代に」<br><br>「そんなのはおかしい。もう、こんなことはやめにしましょう。今の国家でできないのならば、我が一族でやり遂げましょう」<br><br>止まれなかった。止まれなかったことが、一番怖かった。<br><br>「そこで、皆さんの心の奥底にある遺伝子に話しかけます。もう一度、離れ離れになった我が民族を結集させましょう。みんなで一緒に、我が民族の誇りを取り戻す。そして、この腐り切った世の中を立て直し、先人たちが夢見た真の争いのない理想の国を作ろうではないか」<br><br>言い終わった瞬間に、体が静かになった。嵐の後のような静けさだった。<br><br>会場の誰かが立ち上がって、スタンディングオベーションをした。それにつられて数人が続いた。そして会場全体が拍手に包まれた。<br><br>その拍手の音の中で、俺は一つのことだけを考えていた。俺は今、本当のことを言ったのか。それとも、何かに言わされたのか。<br><br>答えは出ないまま、拍手は続いた。<br><br>袖口で赤海がマイクを持った。<br><br>「我が一族の王の誕生です。そして、今日は我が国、庄の国の建国記念日です」<br><br>民衆が、我を忘れて乱舞した。あるものは叫び、あるものは、涙を流している。<br><br>その光景の中で、俺は壇上から降りた。赤海とすれ違うときに、目を見た。乾いた目だった。<br><br>「想像以上でした」<br><br>俺の耳元でこう囁いた。赤海はマイクを持ち直して、民衆の乱舞の中に入り、中心の輪に入った。高く、遠くまで届く声で叫んだ。<br><br>「皆さん。今日という日を、どうか忘れないでください。我々は長い眠りから、ようやく目を覚ました。しかしこれはまだ始まりに過ぎません」<br><br>いつの間にか、赤海を中心に民衆が拳を突き上げている。<br><br>「我々を踏みにじったものへの答えを、我々は今日ここから始める。庄の民よ、目を覚ませ」<br><br>俺はその様子を一人で舞台裏から見ていた。膝が震えている。得体の知れない何かが込み上げてくる。それが何かはわからない。ただ、必死に押さえた。</p><figure embedded-content-key="embc75a3e9cad29" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n2472b7fda6dc" contenteditable="false" name="C0968223-1D26-428C-B45E-8A0C480EC22F" id="C0968223-1D26-428C-B45E-8A0C480EC22F" data-identifier="n2472b7fda6dc">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n2472b7fda6dc" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n32504409d66a'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 02 Apr 2026 10:37:09 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n32504409d66a</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n32504409d66a</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第20話：それでも、信じきれなかった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/263726819/rectangle_large_type_2_0eadbc64ecba02e6a09cb76a9ac6e164.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="C89F62FC-FA1F-4E52-996F-36DE21C3573A" id="C89F62FC-FA1F-4E52-996F-36DE21C3573A">長年にわたって雨池が守ってきた縄張りを、俺は奪い取った。<br><br>廊下の空気が変わった。それだけで、十分だった。雨池を慕っていた部下たちは、俺の顔をまっすぐ見なかった。<br><br>秋谷も職場復帰した。秋谷の妻から電話が来た。<br><br>「あの人が戻ってきました」<br><br>それで、十分なはずだった。<br>——悪くなかった。<br><br>目の前のスマホが鳴った。着信の相手を見ずに、無意識で出てしまった。<br><br>「やっと、繋がった。あなた、一体どういうことなの。最近、連絡も取れないから、どれだけ心配したと思ってるの。富山に様子を見にきたら、アパートは引き払っているし、本社に戻っているというじゃない」<br><br>奈緒が、光輝を連れて富山のアパートに向かったようだった。向こうの社員に問い合わせたらしい。<br><br>出た瞬間、遅かったと思った。<br><br>東京に戻ってからの数ヶ月、奈緒からの着信を無視し続けていた。向き合った瞬間に何を言うべきか、まだ決まっていなかった。電話の奥からは、怒りと憤りと同時に追い詰められた声だった。<br><br>とりあえず、きちんと話すとだけ言って、電話を切った。<br><br>奈緒の声を聞いた瞬間に、なにも変わってないことに気づいた。<br><br>自己嫌悪が来た。静かに、確実に来た。胃の奥が、重くなった。<br><br>奈緒との結婚生活は、もう十三年になる。<br><br>大きな喧嘩はしたことはなかった。頼りない旦那だったとは思うが、後悔はなかった。しかし子供の問題は、二人の間に静かに積み上がっていった。<br><br>不妊治療を始めたのは、結婚して四年目だった。注射のたびに奈緒の腕に痣が残った。期待しては、絶望した。奈緒の体と心が少しずつ削れていった。<br><br>医者から、もう諦めた方がいいと諭された夜、布団の中で奈緒が泣いた。声を殺して泣いていた。俺には何もできなかった。体を丸めて泣いている奈緒の背中に、手を置いた。それだけだった。<br><br>「子供を産めなくてごめん……」<br><br>押しつぶされたような声だった。俺も泣いた。暗闇の中で、二人とも泣いた。<br><br>あの夜から半年後、奈緒が自然妊娠していることがわかった。泣きながら検査キットを持ってきた奈緒の顔を見た瞬間、出会った頃の顔が来た。どこか不思議な感じがした。笑うとこういう顔になる女だった。<br><br>苦労した分、この子には光り輝く人生を歩んでほしいと、「光輝」と名付けた。<br><br>あの夜の、奈緒の背中に手を置いた感触を、今も覚えている。<br><br>翌日、奈緒は会社近くの喫茶店に俺を呼び出した。<br><br>行きたくなかった。向かいながら、何度か足が止まった。このまま引き返せば、また先延ばしにできる。ただ、逃げ続ける疲れも限界だった。<br><br>光輝は、奈緒の実家に預けてきたようだった。光輝が目の前に現れたら、自分を制御する自信もない。<br><br>久しぶりに見た奈緒は、目の下に大きなクマができており、やつれていた。疲れ切って、別人かと思うほどだった。<br><br>その顔を見て、何も感じなかった。<br>——昔、あれほど好きだった顔なのに。<br><br>アイスコーヒーがテーブルに運ばれるまで、二人とも一言も話せなかった。まともに目線も合わせられなかった。十三年も夫婦をやってきたにもかかわらず。<br><br>奈緒が、絞り出した。<br><br>「どういうことなの。ちゃんと説明してよ」<br><br>「そうだな。黙ってて悪かった」<br><br>奈緒は、アイスコーヒーを一口含んでから、俺の顔をまっすぐ見た。<br><br>「年明けに戻ってきたのに、なんで連絡もしなかったの。まさか、向こうで好きな人でもできたの。そうならば、ちゃんと言ってよ」<br><br>奈緒がそう思っていたとは、知らなかった。体のどこかが固まった。怒りを通り越して呆れた。<br><br>「いい加減にしろ。そんなことあるわけないだろう」<br><br>裏切ったのはお前だろう、という口の奥まで来た。しかし出なかった。<br><br>また、沈黙が来た。<br><br>奈緒がうつむきながら言った。<br><br>「あの時、私は光輝を連れて、あなたと一緒についていくべきだった。でもね、あなただって分かってるでしょ。全部後回しにして、光輝を優先してきた。私も限界だった。本当に悪かったと思ってる。お母さんにも、素直に謝りなさいって叱られたから、言いに来た。でも、私だけが悪いわけじゃない」<br><br>奈緒の声は、震えていた。<br><br>謝罪だった。謝りながら、別のところに話が行っていた。この女は昔からこうだ。<br><br>奈緒は知らないのだ。俺が何を抱えているかを。知らないまま、誠実に、そして奈緒らしく謝っている。<br><br>光輝の名が、奈緒の言葉の中に何度も出てきた。出てくるたびに、胸の奥で何かが固まった。<br>——父親であるはずなのに。<br><br>「それはもういい……」<br><br>「よくないでしょ。あなたが何を考えているか、全然わかんない。はっきり言ってよ。ねえ、光輝、知ってる。とうとはいつ帰ってくるの、って毎晩聞くの」<br><br>返す言葉が、なかった。<br><br>「お母さんのところに預けた時も、途中で急に泣き出してね。とうとに会いたい、って。まだ三歳よ、あの子は。私一人であの子を育てるのなんて絶対に無理。助けてよ」<br><br>物静かな喫茶店に、奈緒の声が響いた。<br><br>「お前の気持ちはわかった。生活費は払う。しばらくの間、別々に暮らさないか」<br><br>卑怯だと分かっていた。分かっていて、それ以外の言葉が出なかった。<br><br>「なぜよ。私は思っていることを全て話したわ。あなたは、自分の気持ちをなにも話してくれないじゃない。あなたは卑怯よ。私のことはいいわ。光輝はまだ三歳よ。あの子が可愛くないの」<br><br>アイスコーヒーの氷が、ぱちんと鳴った。<br><br>頭が割れるように痛かった。<br>——ずっと、言えなかった。<br>それが、勝手に出た。<br><br>「頼む。教えてくれ……光輝は本当に俺の子なのか」<br><br>言った後に、聞いた。<br><br>自分の声が、自分の耳に届いた。取り消せなかった。<br><br>「自分がなにを言ってるのか分かっているの。あなた、一体どうしてしまったの」<br><br>なにも答えることができなかった。<br><br>奈緒は、まっすぐに俺を見ている。スマホの画面を俺に向けた。<br><br>「これがあなたの息子です。忘れたの。しっかりと、目に焼き付けておきなさい！！」<br><br>奈緒の顔が、崩れていた。怒りではなかった。哀れみと悲しみが、混じっていた。<br><br>俺は立ち上がった。ドアを押した。<br><br>振り返らなかった。<br><br>——また、逃げた。<br><br>待ち受け画面の光輝の顔を思った。満面の笑みだった。生まれたばかりの面影を残した、その顔。<br><br>不妊治療をやめた夜、俺が奈緒の背中に手を置いた。その手の記憶がある。<br><br>あの手も、仕草も、顔も——<br>何も、動かなかった。<br><br>三日後、玄水会という組織の理事長になる。</p><figure embedded-content-key="emb657e83cffd5f" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n32504409d66a" contenteditable="false" name="3CB9277E-346B-4F4D-AFD0-FA0285C8A091" id="3CB9277E-346B-4F4D-AFD0-FA0285C8A091" data-identifier="n32504409d66a">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n32504409d66a" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/ndddec5f6d7c8'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 01 Apr 2026 10:22:42 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/ndddec5f6d7c8</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/ndddec5f6d7c8</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第19話：王は、作られる</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/263406936/rectangle_large_type_2_c56577335f35e9c1b0fae9ab5f169912.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="69596BF7-8989-49E5-932A-947A82C7047D" id="69596BF7-8989-49E5-932A-947A82C7047D">ふいに背中を叩かれた。<br>後ろからきた声と手からは温もりを感じた。<br><br>「雨池の話は聞かせてもらった。見事だったな」<br><br>畦地だった。<br><br>「その節は本当に助かりました」<br><br>この男を信用したわけではない。<br>それでも、礼は言えた。<br><br>玄水会の定期総会まで、あと二週間を切った。<br><br>「これより幹部会を始めます。まず一点、ご報告があります」<br><br>赤海が静かに言った。<br><br>「今回の総会から、家族の参加を認めます」<br><br>楪葉が、急に顔を上げた。<br>——明らかに、想定外だった顔だ。<br><br>「そ、それは、どういうことですか。そんな話は聞いてない」<br><br>抑揚はなかったが、強い口調だった。<br><br>「一族の集いは、男系だけだと決まっている。その掟を破るつもりですか」<br><br>「ご家族に体験してもらうことで、新しい会員を呼び込む。血の純粋性は遺伝子検査で担保されています」<br><br>赤海が丁寧に返した。<br><br>「そんな簡単な話ではありません。一族の集いに、血を持たない者を入れる。それは——」<br><br>「……教授」<br><br>赤海が、低く遮った。<br><br>「会員数が増えれば、あなたの研究費用も増える。そういうことです」<br><br>一言だった。楪葉の口が、途中で止まった。<br><br>「そんなことより、今度の定期総会では、花城新理事長のお披露目となります。失われた庄の国の首長の誕生ということです。失敗は絶対に許されない。しっかり準備をしていきましょう」<br><br>赤海がそう言うと、分厚い総会資料が配られた。その資料を見るだけで、気が滅入った。<br><br>「最初にお聞きしたいのですが。本当に、私なんかが理事長となってよろしいのでしょうか」<br><br>「花城さんの遺伝子が、我が民族で最も古いタイプであると、再解析により認定されました。その血の掟は守らなければなりません。よって、花城さん以外に考えられません」<br><br>楪葉がどこか冷めた口調で言った。<br><br>この玄水会の人間はいまいち信用できない。<br><br>木枯に目を向けた。肩の角度が、話しかけるなと言っていた。何かを知っているから、避けている。<br><br>沈黙が流れた。観念した。<br><br>「約束したことなので、従います。具体的に何をすれば良いのでしょうか」<br><br>「ご心配には及びません。玄水会の運営、雑務については、すべて私にお任せください。花城さんは、この一族の首長として、象徴のような存在でいいのです」<br><br>——それでいいのか。<br><br>「ただ、ここにいる役員の皆さんが認めるとしても、何千人といる会員の皆さんが納得するわけがないと思いますが」<br><br>「その通りです。これが王ですとただ発表するだけでは、血の結束など生まれません。我々が庄の民であると同化させる必要があります。そこで、この方に総合演出をお願いしました」<br><br>「ながながとご説明ありがとうございます。よろしく」<br><br>部屋に入ってから、幹部会に見慣れない若い男が座っていると思っていた。その男が、初めて言葉を出した。<br><br>映像ディレクターの名刺を差し出してきた。「如月ケンジ」とあった。<br>黒いタートルネックに細身のジャケット。場違いな男だった。<br><br>「こちらこそ。それで、何をすれば」<br><br>「花城さんは、思ったよりも地味だけど。僕の中で庄の国のイメージが大分出来上がっています。大丈夫。台本通りにやれば、それなりになりますよ」<br><br>「多少は脚色のある演出を彼にお願いしております。総会の進行は私が行いますので、そこまで負担はかけません。ただ、総会の最後に、ご挨拶をしてもらうことになります」<br><br>「え、なにを話せば」<br><br>「お前なら大丈夫だろ。もっと自信をもて」<br><br>畦地が俺を褒めた。<br><br>「ここに、如月さんと挨拶の原稿を用意しました。そのまま読めばいい」<br><br>赤海が、就任挨拶の原稿を渡してきた。如月ケンジが、総会の流れを一通り説明した。そして、幹部会を終えようとした。<br><br>楪葉が、慌てて手を挙げた。<br><br>「ちょっと待ってください」<br><br>その目に、今まで見たことのない色があった。追い詰められた色だった。<br><br>「みなさんに、お願いがあります。例の森の中にある祠は、私の研究では庄の国のものと特定できました。早く、玄水会で予算組みをして、発掘調査をやってみたいのです。あの祠の下には、必ず何かある。予算組みをお願いしたい」<br><br>言葉が止まらなかった。少し声が上ずっていた。<br><br>「教授のお気持ちも分かりますが、まだ、発掘調査をするのには早いのではないでしょうか」<br><br>赤海が、丁寧な言葉づかいとは裏腹に冷たく返した。楪葉の目が、険しくなった。赤海を正面から見た。<br><br>「早いとはどういうことですか。これ以上の根拠として、何が必要なのですか。発掘調査を伸ばす別の理由があるのでしょうか」<br><br>「そんなことは——」<br><br>「庄の国は実在した。遺伝子がそれを証明した。あとは物証だけです。あの祠の下には、必ず何かある」<br><br>声が震えていた。怒りではなく、何かを焦っていた。この男には、時間がないのかもしれない。もっと深い場所にある何かが、この男を動かしていた。<br><br>楪葉が俺に懇願するように問うた。<br><br>「花城さんは、一族の長としてどう思われますか。庄の国の遺跡を早く見たいと思いませんか」<br><br>「私にはよく分かりません。ただ、一度だけ森の中の祠を見たことがあります。廃れてはいましたが、神聖なものを感じました」<br><br>そう言いながら、あの日のことが来た。本物かどうかは、わからなかった。しかしあの場所に、何か感じたことは確かだった。<br><br>「その通りです。これは、この国の歴史的な発見に繋がります。今すぐ、発掘調査に取り掛かりましょう。玄水会に資金もたっぷりあるはずだ。そうだろう」<br><br>楪葉は、木枯に頼み込むような眼差しを向けた。木枯は俯いたまま動かなかった。<br><br>赤海が畦地に、一度だけ目を向けた。<br><br>なにかを受け取った畦地は、数秒、天井をみた。<br><br>「何も出なかったらどうする。その瞬間に、庄の国も玄水会も終わる。責任を取れるのか」<br><br>「責任はとれる。私には積み上げてきた研究データがある」<br><br>畦地は勢いよく、机を叩いた。苛立ちをこめてこう言い放った。<br><br>「この玄水会はお前一人のものではない」<br><br>畦地が打ち切った。結局、幹部会で決まったのは、俺が理事長になることだけだった。<br><br>席を立とうとしたとき、赤海が畦地の肩を叩いた。<br><br>「やはり、畦地先生だけが頼りです。この前もご協力をいただきまして有難うございます。これからも頼みますよ」<br><br>一瞬、畦地の顔が歪んだ。<br>——それを、赤海は見ていない。</p><figure embedded-content-key="emb3a1dede82e51" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/ndddec5f6d7c8" contenteditable="false" name="CF97487F-376E-43C9-9771-111ACE56E7DE" id="CF97487F-376E-43C9-9771-111ACE56E7DE" data-identifier="ndddec5f6d7c8">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/ndddec5f6d7c8" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n390388fdc606'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 31 Mar 2026 18:22:48 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n390388fdc606</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n390388fdc606</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第18話：裏切りは、すぐ隣にあった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/262233744/rectangle_large_type_2_2442b48e73774cefee8294960156c204.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="9C43FC1A-B593-4A7C-B393-BC20BD957058" id="9C43FC1A-B593-4A7C-B393-BC20BD957058">すべてが終わり、一人になった。<br><br>体の奥に、静かな達成感だけが残っていた。<br>興奮はない。終わった、という感触だけがある。<br><br>告発状の原本を手に取った。これが全ての始まりだった。差出人不明の封筒も残っていた。しばらく、それだけを見ていた。<br><br>引き出しを開けた。赤海の手紙が、そこにあった。<br><br>二枚が、机の上に並んだ。<br><br>乱雑に書かれた封筒の宛名と、赤海の手紙の筆跡が、視界に入った。<br><br>手が、止まった。<br><br>——同じだ。<br><br>筆跡が、重なっていた。<br><br>どのくらいそうしていたか、わからなかった。<br>二枚の紙を、見つめ続けた。<br>何も、言えなかった。<br><br>今は早み。<br>曲がったものは、まっすぐに戻る。<br><br>——違う。<br><br>言葉にならないまま、その感触だけが残った。<br><br>全て終わった後で、もう一度この言葉を思い出してください——赤海はそう書いた。<br><br>まだ終わっていない。その感触だけが、はっきりしていた。​​​​​​​​​​​​​​​​<br><br>一週間後、俺は玄水会の幹部会に呼び出された。<br><br>幹部会が始まる少し前、赤海が資料を手に部屋の隅に立っていた。他の幹部はまだ揃っていなかった。<br><br>声をかけようとした。しかし足が止まった。この男に何を聞くのか。聞いてどうするのか。答えが返ってきたとして、何かが変わるのか。それでも足が動いた。<br><br>「少し、よろしいですか」<br><br>赤海が顔を上げた。表情は変わらなかった。<br><br>一枚の書類を差し出した。<br><br>「会社のところに届いた告発状です。ご存知ないですか」<br><br>赤海が、表情を変えずに書類を目を通す。<br><br>「告発状ですか？物騒なことが書かれていますね。私には何のことかよくわかりませんが」<br><br>しらばっくれている。そう思った。思いながら、封筒と手紙を取り出した。<br><br>「これは、あなたからの手紙です」<br><br>二枚を、赤海の前に並べた。<br><br>「封筒の宛名と、あなたの手紙です。ここの筆跡が、同じです」<br><br>赤海が二枚を見た。長くは見なかった。一瞬だけ見て、顔を上げた。窓の外に、目を向けた。<br><br>「そうですか。多少、筆跡をかえたつもりでしたが、よく気づきましたね」<br><br>感心しているのか、それとも想定内だったのか、わからなかった。その言葉のどこにも、動揺がなかった。<br>最初から、ここに辿り着くことを知っていた。——そういう目をしていた。<br><br>「告発状を会社に送ったのは、あなたですか」<br><br>「そうです」<br><br>あっさりと認めた。<br>用意していた言葉が、崩れた。<br><br>「なぜですか」<br><br>「花城さんのためです。あなたには、輝く未来を歩いていただきたい。あの雨池という男は、あなたにとって邪魔な存在だと思ったもので」<br><br>「私はそんなこと頼んだことはない。勝手なことをしないでもらいたい」<br><br>「では、聞きますが。私が告発状を送らなかったら、あの雨池を追い出すことができましたか？秋谷くんを助けることができましたか？私は、きっかけを作っただけです。動いたのは——あなたでしょう」<br><br>「では、あなたの手紙の意味はなんですか？あれは、早く動けという意味だったのですか」<br><br>少し間があった。赤海が初めて、わずかに目を細めた。<br><br>「そうかもしれませんね」<br><br>答えをもらった感触がなかった。その空白が、体の中に残った。<br><br>花城はもう一度聞こうとした。しかし赤海が先に言った。<br><br>「花城さん、畦地先生からあなたが取締役会でどう動いたかを聞きました。我々が手に入れた証拠を持って雨池専務が失脚させた経緯もね。さすがだと思いました」<br><br>褒められた。しかし体が、素直に受け取らなかった。<br><br>「庄の民の血というのは、本物ですね。追い詰められた時に、本来の力が出る。古文書にも、そう書かれています。首長の血を引く者は、窮地において覚醒する。花城さんを見ていると、その言葉が本当だとわかります」<br><br>遺伝子の話が来た。花城の中にある何か——血筋か、遺伝子か、あるいは別の何かを見ていた。木枯の言葉が、よぎった。<br><br>「私にはそんな力はありません。買いかぶりすぎです」<br><br>「そうは思いません」<br><br>赤海は静かに言った。感情がなかった。ただ、事実を述べているだけの声だった。それが余計に怖かった。<br><br>「花城さん。告発状の件は、あなたの会社の話です。しかし今日からは、玄水会の話になります。我々はあなたのお願いを叶えました。こんどは、我々のお願いを聞いてもらう番です。わかりましたね」　<br><br>わかりましたね、という言葉が、会話を閉じた。開いた扉を、静かに、しかし完全に閉める言い方だった。<br><br>たしかに、雨池は依願退職で会社を去った。牛島も、地方の関連会社へ出向となった。そのために、俺は毒を飲んだ。<br><br>他の幹部が入ってきた。赤海が資料を持って席に戻った。<br><br>花城はその背中を見ていた。この男が何を考えているのか、まだわからなかった。わからないまま、この男の隣で理事長になる。腹の底に、沈んだままだった。</p><figure embedded-content-key="emb4fc0f66fc48a" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n390388fdc606" contenteditable="false" name="3C4232C3-78FA-4DF6-91F1-25263EB80087" id="3C4232C3-78FA-4DF6-91F1-25263EB80087" data-identifier="n390388fdc606">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n390388fdc606" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/nedd59facad2f'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 30 Mar 2026 17:58:33 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/nedd59facad2f</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/nedd59facad2f</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第17話：もう、引き返せなかった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/267933466/rectangle_large_type_2_2e02452a02c926f6e6a57c8e24e3d77b.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="B98EEBC5-C0C9-4D52-924B-12F6BED0C65B" id="B98EEBC5-C0C9-4D52-924B-12F6BED0C65B">「な、なんだと……花城、貴様」<br><br>怒鳴り声が、ただの音に聞こえた。<br><br>雨池が机を思いっきり叩き、凄い勢いで立ち上がった。今まで見たことのない血相だった。<br><br>あんなに恐れていた恫喝が一向に響いてこない。<br><br>「雨池専務、説明します。——まずは、これを」<br><br>会議室が静寂に包まれる中、告発状の写しを、総務部の部下たちが手の震えを抑えながら、丁寧に配った。<br><br>「な、なんだ、これは」<br><br>雨池が絶句しながら、渡された書類を凝視した。<br>他の役員たちも、黙って読み込んでいる。<br><br>「会社に届いた告発状です。内部の人間しか知らない内容です。——誤れば、すべて公表される」<br><br>「雨池。ここに書かれている内容は、真実か」<br><br>金川社長が雨池に問うた。最後のチャンスを与えた。雨池は告発状を呆然と見返していたが、ハッと我に返り顔を上げた。<br><br>「社長、まったく身に覚えがありません。こんなもの、怪文書だ」<br><br>そういうと、雨池は告発状を机に放り投げて、大笑いした。<br><br>「そうか。雨池は全面否定をするということか。では、花城、お前の調査結果を報告してくれ」<br><br>「分かりました。調査報告書をご覧ください。パワハラ・セクハラについては、複数の証言があります。——パワハラは明らかです」<br><br>「そんなもの……俺だって、そりゃ厳しく指導したことも確かにある。甘ったるい社員の一人一人の戯言を聞いてどうなる」<br><br>周りの役員に向けて、もっともらしい言い訳をした。彼の派閥と思われる役員たちが同情するそぶりを見せた。<br><br>「見解の相違ですか。では、報告書にある秋谷についてはどう説明しますか」<br><br>「営業第一部の部下だ。目に入れてもいいくらいかわいい部下だよ。彼の成長のために指導もしたし、よく飲みに連れて行ったなぁ」<br><br>そう、酒の飲めない秋谷を、何度も。<br><br>「彼はもう四ヶ月近く、会社に出てきていません。雨池専務はなにかご存知ですか」<br><br>「あいつは、もともと体が弱くてな。自分の成績が伸びないことを悩んでいた。家族のことも。とても残念だ。心の底から心配しているんだ」<br><br>「人事部は把握しているのか」<br><br>金川社長が牛島に聞いた。急に発言を求められた牛島が、慌てふためいた。<br><br>「はい。確かに、彼は体調を崩しており……休みを取っています」<br><br>「違う。休んでいるのかと聞いたのではない。その原因が、雨池専務のパワハラかと聞いておるのだ」<br><br>「あ、あっ、違います。人事部が本人に確認しました。パワハラはありません。本人の業績不振によるものです」<br><br>「人事部の見解はわかった。花城、反論はあるか」<br><br>「本当に、彼の心の叫びを聞いたのですか。秋谷はほとんどまともに話もできない状況でした。彼は勇気を出して、すべてを話してくれました。彼が私に託した事実確認書です」<br><br>秋谷という名前の文字が、微妙に揺れていた。病と闘いながら、ここまで赤裸々に書いてくれた。——あの震える手で。<br><br>「これでも、秋谷を疑いますか。では、皆さんで確認しましょう。こちらの映像もご覧ください」<br><br>部下に指示して、営業第一部の監視カメラの映像を流した。<br><br>雨池をはじめ、役員たちが呆然としながら映像を眺めた。——誰も動かなかった。<br><br>「みなさん、どうでしょうか。パワハラがなかったと言えるでしょうか。人事部もこの問題を真摯に向き合えば、わかったはずだ。——見えていたはずだ」<br><br>「わかった。うちの人事部は、真剣にパワハラを調査したが全く見抜けなかったいうことか。それとも、分かっていたが、もみ消したということか。貴様、この責任は人事担当役員として極めて重いぞ。わかってるな」<br><br>牛島が、居場所をなくして下を向いた。<br><br>「この件について、雨池は申し開きはあるのか」<br><br>「今の映像を見て、私もやりすぎたと反省しました。秋谷くんに、直接お詫びをしたいと考えています。申し訳ありませんでした」<br><br>決定的な証拠を突きつけられて、比較的逃げ道のあるパワハラを素直に認めた。どこか寂しい笑いだった。<br><br>「専務、キックバックは？」<br><br>「事実無根、私は清廉潔白だ。これ以上、嘘八百を並べると、花城。貴様を名誉毀損で訴えるぞ！」<br><br>金の問題については高圧的な態度で睨んできた。<br><br>「名誉毀損？　あなたは大きな勘違いをされている。専務と言う立場を利用して、人の生活をめちゃくちゃにした上に、私利私欲に走った」<br><br>「偉そうに。貴様から説教を受ける筋合いなど無い。証拠はあるのか。そんなものはどこを探してもない。ないのだから。後から間違いでしたなんて、絶対、許さんぞ！」<br><br>「なら、見せます」<br><br>「相当、隠したつもりでしょう——バレないとでも思いましたか」<br><br>「まわりくどいわ。だから、なんだ」<br><br>「——レインポンド」<br><br>……沈黙。<br><br>雨池の顔色が、一瞬で変わった。<br><br>その瞬間、金川社長の顔を見た。社長の想像したものと違う単語だったようだ。何を求めていたのか、俺には理解できなかった。<br><br>「では、これをご覧ください」<br><br>「レインポンドの三年分の口座移動明細」を、テーブルに置いた。<br><br>畦地との取引で手に入れた、猛毒だ。<br><br>「倒産したサジタ産業という会社から定期的な入金があります。そして破産の一年半前——五千万円という一度限りの入金がある」<br><br>「……くだらん」<br><br>明らかに狼狽していた。預金の移動明細を破り捨てようとした。<br><br><br>金川社長が、腕を組んだまま目を開けた。<br><br>「雨池。隠すことがないなら、花城の問いにしっかり答えろ！！」<br><br>雨池が初めて怯えた。<br><br>「えーー。たしか、リフォーム会社に修繕を頼もうとしたのですが、キャンセルをしたため、戻ってきた金で。リフォーム代金の返還金だ。間違いない」<br><br>「では、サジタ産業というのはリフォーム会社ということでしょうか」<br><br>「そうだ……くどい。もういい加減にしてくれ」<br><br>「リフォーム？あなたは、明らかに嘘をついている。この調査報告書では、二年前に倒産したソフトウェア開発会社となっている。この倒産した会社に見覚えはありませんか。……三年前に当社が共同開発の提携を組み、着手金二億を支払った直後、自己破産をした会社。私がこの会社の責任をとって出向したと言った方が早いでしょうか……」<br><br>「……………」<br><br>雨池が、黙った。<br><br>「共同開発の着手金として、我が社に二億を出させた。裏では、自分の資産管理会社にキックバックさせた。隠蔽するために、私を出向させ、秋谷を精神的に追い込んだ」<br><br>「社長、こんな話……すべて作り話です。花城が、個人的な恨みを私にぶつけているだけです。どれだけ私がこの会社に貢献したのか。よく考えてみてください。私はこの会社に必要な人間だ」<br><br>秋谷の子供の顔が浮かんだ。立ち上がろうとした。足が、震えていた。<br><br>「花城、もういい。ここは取締役会だ。場をわきまえろ」<br><br>そう言って、俺を制した。<br><br>「雨池、お前のいう我が社への貢献というのがこのざまか……」<br><br>金川社長はそういうと、席を立った。<br><br>「このような男を専務に据えていたこと、代表として、詫びる雨池専務の解任に賛成のものは、起立をお願いしたい」<br><br>全員が、立った。<br><br>雨池が、初めて小さく見えた。<br>この男に、あれだけ怯えていた。<br><br>——勝った。<br><br>手の中に、毒が残った。</p><figure embedded-content-key="embccfaf3305b47" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/nedd59facad2f" contenteditable="false" name="31D4C98A-2C71-40E9-89CC-5B96133FF87C" id="31D4C98A-2C71-40E9-89CC-5B96133FF87C" data-identifier="nedd59facad2f">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/nedd59facad2f" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n3d1df9cff9d9'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 29 Mar 2026 13:30:50 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n3d1df9cff9d9</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n3d1df9cff9d9</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第16話：人は、理屈では動かない</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/267946880/rectangle_large_type_2_f316106b5908496a6a18967338685c76.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="9E0CFF31-2B3A-4B87-9E4D-7226CC0F1973" id="9E0CFF31-2B3A-4B87-9E4D-7226CC0F1973">取締役会が始まった。<br><br>窓の外に、冬の東京の空が見えた。この時期の富山は、鉛色の空だろう。<br><br>反対は分かっている。経済合理性はない。社長が味方かどうかも、わからない。<br><br>送別の品としてもらったネクタイを、今日も着けてきた。彼らの生活を必ず守ってみせる。<br><br>「以上が、子会社の株式譲渡スキームです」<br><br>金川社長からの「切れ」という指示は、解散して潰してしまえという意図だった。経営判断としては妥当だ。固定費削減は限界。売上も三年で三割落ちた。黒字化の目処は立たない。<br><br>しかし解散して潰すことは、俺をどん底から救ってくれた社員たちへの裏切りだ。従業員五十三名、その背後に、百を超える生活がある。それだけは避けたかった。<br><br>この案は、金川社長の意向とは、真逆に位置するものだ。<br><br>仲介業者にも断られた。赤字企業に買い手はつかない。それでも諦めきれず、地元を駆け回った。<br>——一社だけ、手を挙げた。<br><br>売値はただ同然だった。簿価の十分の一にも届かなかったが、従業員全員の雇用維持の確約は取り付けた。これしか方法がなかった。<br><br>「解散でいい」<br>「節税に使える」<br>「甘い」<br><br>想定通りの反対意見が出た。<br><br>「確かに、解散して特別損失を計上することは楽です。しかし、あの会社は当社が十年前に買収した会社であり、従業員は五十三名在籍しております。平均勤続年数は十八年です。我々にとっては地方の子会社の一つかもしれませんが、彼らの生活がかかっているのです」<br><br>一拍おいた。<br><br>「先月、私は出向中にお世話になった現場の班長から、こんな言葉を聞きました。『不良品は出さん。それだけや。それだけのことを、五十年やってきた』。五十年です。この会社で五十年、その言葉だけを支えに働いてきた人間がいる。地元経済への影響、従業員の雇用、その家族の生活——それを最優先に考えるべきだと思います。幸いにも買収に前向きな企業も出ております。なにとぞ、このスキームで進めさせていただくことをご了承賜りたいと存じます」<br><br>十名いる役員に、深々と頭を下げた。あなた達にも生活があるように、向こうのみんなにも大切な生活がある。<br><br>「確か……この子会社というのは、花城くんが前に出向していた会社だよね。情が移ってしまったのではないかね。こんなちっぽけな会社、さっさと切ればいいんじゃないかな」<br><br>雨池が、さほど興味もなさそうに、いつものように俺を見下した物言いをした。<br><br>「雨池専務。あくまで客観的かつ合理的な案として申し上げているまでです。そこに私情はありません」<br><br>嘘だ。しかしそれを覆い隠すように、冷静なトーンで言った。<br><br>「そうかなぁ。ひょっとして、向こうで気になる女子でもできたんじゃないの。それとも愛人でも守っているのかな。はっきり言ってやる。従業員五十三人？時間の無駄、金の無駄、人の無駄！！」<br><br>「もういい」<br><br>金川社長が、静かに遮った。怒鳴らなかった。声を荒げなかった。それが余計に重かった。<br><br>雨池の方を見なかった。花城の方も見なかった。テーブルの一点を、ただ見ていた。<br><br>「うちのグループは、創業して三十年になる。このグループを守るために、私が切り続けてきた。数字が出ない事業、先が見えない投資、動かない人間。迷わず切ってきた。それがこの会社を今日まで生かしてきた。それが間違っていたとは思わない」<br><br>誰も口を開かなかった。<br><br>「今の花城の話を聞いて思ったことがある。その班長が五十年やってきたことは、うちの貸借対照表のどこにも載っていない。だが、それで会社は立っている」<br><br>また一拍おいた。<br><br>「会社は数字で動かない。動かすのは、人間だ。<br>……花城の案でいく」<br><br>「ちょっと待ってください。社長、この案件については——赤字の子会社を情で残すなど、今までの経営判断からして筋が通りません。花城が向こうで腑抜けになっただけのことを、我々が——」<br><br>「黙れ」<br><br>金川社長が、遮った。<br><br>声は低かった。怒鳴っていない。しかしその低さが、怒鳴る声より重かった。眼鏡の奥の目が、初めて雨池を正面から見た。この男を許さない、という目だった。<br><br>雨池の口が、途中で止まった。止まったまま動かなかった。<br><br>会議室が静まった。役員たちが誰も動かなかった。金川社長が「黙れ」と言うのを、誰も聞いたことがなかった。社長はいつも、相手に感情を見せない。役員たちの顔に、同じ戸惑いがあった。<br><br>沈黙が続いた。金川社長は雨池から目を離し、テーブルの一点に視線を戻した。<br><br>「採決に移る」<br><br>それだけだった。雨池以外の役員が一斉に手を上げ、可決された。雨池は不満を抑えきれずに、俺を睨みつけた。<br><br>ネクタイを、強く握りしめた。<br><br>「他の議案はないか」<br><br>社長の視線が、こちらに向いた。<br><br>手を挙げた。<br><br>まだ数人が、書類を片付けていた。<br>その手が、止まる。<br><br>「議長」<br><br>一拍。<br><br>「もう一つ、諮りたい議案がございます」<br><br>誰も動かない。<br><br>「——雨池専務取締役の、解任動議を提出します」<br><br>音が、消えた。</p><figure embedded-content-key="emba58d82f11b83" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n3d1df9cff9d9" contenteditable="false" name="0E661D17-6548-482C-8442-2A6A24F3296A" id="0E661D17-6548-482C-8442-2A6A24F3296A" data-identifier="n3d1df9cff9d9">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n3d1df9cff9d9" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n98b64e7a3435'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 28 Mar 2026 17:01:24 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n98b64e7a3435</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n98b64e7a3435</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第15話：自分で、毒を選んだ</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/262057993/rectangle_large_type_2_cfc050584c08e3f837c7bcec9375a7d5.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="8391E50B-EF76-41E0-8347-B68E0617FBFB" id="8391E50B-EF76-41E0-8347-B68E0617FBFB">決戦の取締役会まで、残り一ヶ月を切った。<br><br>パワハラの証拠だけでは足りない。<br>決定打は、口座だ。——だが、不可能だ。<br><br><br>畦地という男が受付にきていると内線が鳴った。<br><br>「それにしても、貧相な役員室だな。調子はどうだ」<br><br>ノックもせずに、畦地が乗り込んできた。<br>俺の椅子の正面に、勝手に座った。<br><br>「見ての通りです。水処理プラントでの打ち合わせでしたら、雨池専務をお呼びしましょうか」<br><br>「あの男には興味はない。そもそも、あいつのためにやっているのではない。お前のためだ」<br><br>笑い声だけが、やけに大きかった。<br><br>「水処理プラントは口実だ。お前に会いに来た」<br><br>「会社としては歓迎です。<br>本日はどのようなご用件で」<br><br>「相変わらずそっけないやつだな。お前が困っていると耳にした。助けてやってもいいぞ」<br><br>心がざわついた。しまった、顔に出た。<br>畦地が少し声を落とした。笑いが消えた。<br><br>「花城、安心しろ。何に困っているかは知らない。お前が欲しいもの。知りたいことを言ってみろ。持ってきてやるよ」<br><br>答えが出ないまま黙っていると、畦地が身を乗り出してきた。その距離が縮まった瞬間に、俺の口が動いてしまった。<br><br>「いま、私にはどうすることもできず、困っている事があります」<br><br>「ほう」<br><br>畦地は、ただ俺を見た。<br><br>「極秘で調査していることがあるのですが。……ある人の口座を調べたいのです」<br><br>「人の口座か、誰のだ」<br><br>「それは、教えることはできません」<br><br>「誰の口座かわからんもの、調べようがない。だが」<br><br>畦地がなんとも言えない笑みを浮かべた。<br><br>「方法がないと思ってるのか？……甘いな」<br><br>胸の奥がざわついた。  <br>言うつもりのなかった言葉が、喉まで上がってきた。<br><br>「絶対に口外しないでください。……うちの雨池専務です」<br><br>「あの男か。飛ばされた恨みか」<br><br>畦地はそう言った。復讐だと思っている。<br><br>「違います。理由は言えません」<br><br>畦地は少し間を置いた。俺の顔を見た。何かを測るような目だった。その感触が言葉になる前に、畦地が口を開いた。<br><br>「わかった。俺に任せろ。全部、俺がなんとかしてやる」<br><br>「でも、どうやって」<br><br>「そんなもの、俺でもできんよ。特捜部でも税務署でもないからな。だがな、方法はある。人間は弱いからな」<br><br>「分かりました。お願いします」<br><br>「わかった。すぐに動く」<br><br>畦地は膝を叩いて立ち上がりかけたが、座り直した。<br><br>「花城。一つだけ言っておく」<br><br>畦地は一呼吸おいた。<br><br>「今回の件で、お前は、その力を知ることになる。正直に言う。俺も、玄水会の本当の深さはわかっていない。わかっていないまま、俺はあの組織に乗っている。お前もそうなる」<br><br>「なぜそれでも乗るのですか」<br><br>畦地は少し間を置いた。<br><br>「乗らない選択肢が、俺にはなかったからだ」<br><br>畦地が、そこで一瞬だけ黙った。<br>何かを言いかけて、やめた。<br><br>「……そしてお前にも、今はない」<br><br>どこか寂しい笑いだった。畦地はスマホで誰かの番号を探しながら、部屋を出ていった。<br><br>部屋が静かになった。玄水会の本当の力、という言葉だけが、空気の中に残っていた。<br><br><br><br>取締役会の二日前に、待ち続けた電話が鳴った。<br><br>「花城、喜べ。雨池の口座明細がここにある」<br><br>「是非その資料を頂けませんか。このままでは私たちの負けです。なんとかお願いします」<br><br>「この資料は、お前のために手に入れた書類だ。だが、かなり際どい道を渡ることになった。これをただでやるわけにはいかん」<br><br>毒を飲む覚悟は、すでにできている。<br><br>「わかりました。金は払います」<br><br>「金なんかいるか。わしはクリーンな政治家で有名なんだぞ」<br><br>「では、私に何をしろというのですか」<br><br>「たった一つの交換条件を言う。条件は一つだ。玄水会の理事長になれ」<br><br>指が止まった。縁を切ったはずの玄水会がふたたび呼んでいる。<br><br>「できません。私は、玄水会も、あなたも信用していない。私を巻き込まないで欲しい」<br><br>「玄水会の定期総会はもう来月だ。時間もない。玄水会にも、わしにも守るものがある。そのために汚いことでもなんでもやる。理事長をやれ。頼む」<br><br>証拠書類は喉から手が出るほど欲しい。<br><br>「さすがに、できない」<br><br>「最初に言った。条件は理事長就任だけだ。これは赤海が言い出した事だ。あいつは自分の理想のためなら何でもやる。あの人がここまでお前にこだわる理由が、俺にはまだ全部はわからん」<br><br>畦地が、ドスの効いた声で最後の言葉を出した。<br><br>「最後の警告だ。いま返事をしないと、この書類を渡さない。いや、今すぐ回答しないとこの書類を全部破く。覚悟を決めろ」<br><br>窓の外を見た。空が曇っていた。<br>電話の向こうで、紙の擦れる音がした。<br><br>——破られる。<br><br>秋谷の顔が浮かんだ。<br>あの涙。<br>あの震え。<br><br>「……わかりました」<br><br>数時間後、バイク便が届いた。封筒の中に、二つのものが入っていた。<br><br>一つは書類だった。もう一つは、手書きの短い手紙だった。差出人の名前を見た。<br><br>畦地でなく赤海、とあった。<br><br>雨池の資産管理会社——レインポンドの入出金明細だった。玄水会と畦地の名前はなかった。そのかわり、見覚えのある会社名があった。<br><br>サジタ産業<br><br>口座に定期的な入金がある。破産する直前まで、途切れることなく続いていた。そして破産の一年半前——金額が変わった。それまでの月次の入金とは別に、五千万円という一度限りの入金がある。<br><br>手が、止まった。<br>すべてが繋がった。<br><br>赤海の手紙を開いた。短かった。<br><br>「今は早み。曲がったものは、まっすぐに戻る。全て終わった後で、もう一度この言葉を思い出してください。——赤海」<br><br>玄水会の本当の力。<br><br>窓の外は、まだ曇っていた。<br><br>「今は早み」<br>その言葉だけが、手紙の中で光っていた。</p><figure embedded-content-key="emb891c61aeda1e" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n98b64e7a3435" contenteditable="false" name="40326C4B-A610-4DBC-B289-8417C274A83F" id="40326C4B-A610-4DBC-B289-8417C274A83F" data-identifier="n98b64e7a3435">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n98b64e7a3435" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n0dd2f7909163'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 27 Mar 2026 17:26:15 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n0dd2f7909163</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n0dd2f7909163</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第14話：すべては、繋がり始めた</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/261707481/rectangle_large_type_2_6e19d717f2f521c9ef46c294f4cf602e.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="FC3A6915-1663-499D-8621-5F640B983FF6" id="FC3A6915-1663-499D-8621-5F640B983FF6">噂は、あった。<br>——だが、誰も口にしなかった。<br><br>産業医の協力で、鬱病による長期欠勤者のリストを入手した。思った以上に多い。<br><br>リストの中に、信じられない名前があった。<br><br>　営業第一部　秋谷（欠勤　三ヶ月　鬱病）<br><br>なぜ。秋谷が。彼には、うちと同じくらいの子供がいたはずだ。<br><br>その瞬間、本社に戻った最初の日のことが来た。秋谷の席が空だった。隣の社員に聞いた時、目が一瞬だけ泳いだ。あの目はこれだった。<br><br>秋谷の経歴をみた。俺が出向になった直後、秋谷は雨池直轄の営業第一部に異動させられていた。そこで何かが起きたのだろう。<br><br>——話を聞く。<br>それが、そのまま証拠になる。<br><br>何度も携帯を鳴らしても出なかった。自宅に電話した。<br><br>「主人は、もう会社の誰とも会いたくない、話したくないと申しております。どうかそっとしていただけませんか」<br><br>秋谷の妻が、申し訳なさそうに電話を切ろうとした。彼女自身も限界に近い声だった。<br><br>「待ってください。ご主人にこれだけ伝えていただけないでしょうか。私はご主人の上司だった花城です。花城が、本社に戻ってきたと」<br><br>丁寧に電話を切った。<br><br>——証拠になる。<br><br>笑みがこぼれた。<br>吐き気がした。<br><br>数日後、秋谷の妻から電話が来た。<br><br>「主人は、花城部長だけならば会うと言っております。信頼できる方だと」<br><br>思わず、声が出そうになった。電話の声にでないように、感情を必死に押し殺した。<br><br>「ありがとうございます」<br><br>「花城さん。勝手なお願いなのですが。主人をなんとか助けてくれないでしょうか。私には、どうしようもないんです。その姿を見ているだけで辛いんです」<br><br>「とにかく、ご主人のお話を聞きます。明日お伺いします」<br><br>電話を切った。菓子折りを買って、秋谷の家に向かった。<br><br>「久しぶりだな、秋谷」<br><br>目の前に座っている秋谷は、俺が知っている秋谷とは別人だった。以前の彼は、最近の若者らしく軽くて何を考えているかわからないやつだった。その面影もなく、痩せ細って顔色が悪く、目線が合わない。<br><br>来る前は、証拠のことしか考えていなかった。<br><br>この顔を見た瞬間、<br>その自分が恥ずかしくなった。<br><br>「部長が本社に戻れて、本当に良かったです。ずっと、気になっていて。申し訳ない気持ちで」<br><br>「俺のことはどうでもいい。秋谷、いったい何があった」<br><br>「部長にはお世話になったので、お話したいんです。お詫びの気持ちも。で、でもその当時のことを思い出すと……頭が、ガンガン痛く」<br><br>秋谷の目が、あっという間に涙でいっぱいになった。体が身震いし始めた。<br><br>「すみません。ずっとこんな感じなのです。どこでも涙が止まらないんです。仕事中も、電車の中でも」<br><br>「毎日、自分に言うんです。情けないって。<br>でも、体が動かないんです」<br><br>秋谷は今まで一人でこれを抱えていた。<br><br>「秋谷、すまん。俺も逃げた。怖かった。<br>……その結果がお前だ。すまない。」<br><br>深く頭を下げた。<br><br>「頭をあげてください。部長……久しぶりに会って、なにか雰囲気が変わりましたね」<br><br>「そうかな。全部失ったからかもしれない。今は、雨池なんてただのクソ親父だ。怖くも何ともない」<br><br>秋谷の口元が、わずかに緩んだ。<br><br>「クソ親父だなんて……わかりました。気持ちに波があるので、上手く話せるかはわかりませんが、少しずつ話します」<br><br>「ありがとう。無理しなくていいからな」<br><br>「部長が出向してから、私の地獄の生活が始まりました。専務は、自分のミスを隠蔽するために、自分の配下である営業第一部に私を異動させたのです。それから、事あるごとに執拗に苛めを繰り返してきたのです」<br><br>必死に伝えようとする秋谷の言葉が、心をえぐってくる。<br><br>「秋谷、もういい。それ以上言わなくていい」<br><br>「毎日罵られていると、自分がダメな人間だと思えてくるんです。昼も夜も、いらない人間だって声がする。……家族のことまで言われて。気がついたら、起き上がれなくなっていました」<br><br>「周りの人間も気づいていたはずだ。誰か、助けてくれる人はいなかったのか」<br><br>「部長、あの会社ではしょうがないです。専務の力は絶対ですから。……周りも、笑ってました」<br><br>「——この会社は、ここまで腐っていたのか」<br><br>「ただ、か、家族にも相談できなくて、つ、つらくて……つらくて。何度も電車に飛び込んで、死のうと思いました。でも、死に切れなかったんです。たまに、駅のアナウンスで、何々線で人身事故がと流れるじゃないですか。次は自分の番だと思うと。こわくてこわくて」<br><br>また、秋谷の涙があふれてふさぎ込んだ。<br><br>「わかった。もうなにも言わなくていい。——俺がやる」<br><br>「よろしくお願いします。これ以上の犠牲者を出さないためにも」<br><br>後日、雨池のパワハラに対する事実確認書を取り付けることになった。<br><br>「部長、本当に変わりましたね。昔はもっと頼りなかったというか……冗談ですよ。また一緒に働いて、いろいろ教えてほしいです」<br><br>「また一緒に働こう。今度は手加減しないからな。待ってるぞ」<br><br>昔の秋谷の笑顔が少し戻った。<br><br>「あっ、こら。お父さんが会社の人と大事なお話しているから、ダメでしょ！！」<br><br>秋谷の妻が叫んだ。<br><br>「パパーー」<br><br>秋谷の息子が勢いよく出てきた。廊下を走る足音が、床を踏んでいた。小さいが、確かな重さがある音だった。ぺたぺたではない。秋谷にまとわりついた。<br><br>いまの光輝と同じくらいだ。<br><br>その子を見た瞬間、俺の手が、何もない空間を一度だけ握った。秋谷の息子が、笑っていた。<br><br>久しく会っていない。<br>——もう、あの頃の音では、ないのだろうか。</p><figure embedded-content-key="embbf3e936578bd" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n0dd2f7909163" contenteditable="false" name="9033AB71-A9A4-4781-A0AC-04C176A07978" id="9033AB71-A9A4-4781-A0AC-04C176A07978" data-identifier="n0dd2f7909163">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n0dd2f7909163" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n91cebd9ceff4'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 26 Mar 2026 17:26:45 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n91cebd9ceff4</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n91cebd9ceff4</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第13話：正しさが、誰かを壊した</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/261706977/rectangle_large_type_2_53ee8a1f8b07335eadb2956d6409bb81.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="0C9BC05C-A74E-45A4-B4FB-07B6C1AE299E" id="0C9BC05C-A74E-45A4-B4FB-07B6C1AE299E">「花城、お前の仕事だ。お前にやってもらいたいことがある」<br><br>金川社長は、机に書類を思いっきり投げつけた。何枚かがヒラヒラと床に落ちた。今まで見たことのない顔だった。<br><br>社長自ら電話してきたのは、十五分前だ。今すぐ来いという口調だった。走ってきたため、まだ息が上がっている。<br><br>落ちた書類を拾い上げた。表題に、大きく『告発状』と書かれていた。<br><br>『我々、会社の明るい未来を考える有志一同は、雨池専務取締役を糾弾する。もし、会社が対応を見誤ることがあれば、マスコミに全てを公開し、恥部を晒すことになるだろう。経営陣が道を踏み外さず、真っ当な道を歩むこと、悪の権化である雨池を浄化することを期待する』　<br><br>キックバック、横領、セクハラ——三項目にわたって、雨池の名前が書かれていた。<br><br>社長は目をつむっていた。<br><br>「こ、これは……。この書類が外に漏れると、我が社の信用が一気に失墜します。社長、特定企業とは——」<br><br>「知らん。お前が調べろ」<br><br>畦地の声が、頭の奥で蘇った。あの男が、これを仕掛けたのかもしれない。<br><br>「そうだ。我が社の信用問題に発展し、株価も下がる。最悪、会社が傾く。マスコミもすぐに飛びつく。表にでるのも時間の問題だろう」<br><br>「では、どのように対応されるおつもりですか。告発者を逆撫ですると、何をされるかわかりません」<br><br>社長は何も言わなかった。社長からの答えを待つ時間の重さが、息を詰まらせる。<br><br>「無論、あいつを切る」<br><br>「専務をですか。しかし、どうやって」<br><br>「そうだ。この告発文の裏付けが必要だ。再来月の取締役会までに、完全な証拠を持って、お前が解任動議の議案を出せ」<br><br>「この件、顧問弁護士を通じて進める必要があります。証拠収集の手続きも含めて、法的に正しい形で進めないと、逆に告発者側に足元を見られます」<br><br>社長は少し間を置いた。<br><br>「弁護士は使わん。穏便に終わらせる。外に出さずに終わらせる。それがこの会社にとって一番いい。わかるな」<br><br>穏便に。その言葉の裏に何があるのか。しかし社長は続けた。<br><br>「お前ならできる。そう思っている」<br><br>それだけだった。<br><br>「しかし、専務は社長の縁戚にあたる方。対外的な信用力、社への貢献がある方ですし、社内でも動揺が——」<br><br>口が勝手に動いた。<br><br>「縁戚、か」<br><br>社長が静かに繰り返した。嘲るような、しかしどこか苦いものが混じった口調だった。<br><br>「あいつの父親には世話になった。だから役員にした。それだけだ」<br><br>社長は窓の外を見た。芝居がかった笑みを浮かべた。<br><br>「あいつがいなくなっても、会社はなにも変わらん。お前が一番わかっているだろう。水処理システム。今、地公体から注文がたくさん来ているらしいな。あいつは、全ては自分が一から企画し、自分の力によるものだと報告してきよった。昔からそうだ。他人のものを横取りするのがうまいんだ」<br><br>社長の話しぶりは冷静だったが、たまに苦悩の表情が見えた。<br><br>「この告発文に書かれていることはすべて正しい。そんなことは前から知っていたさ。俺も見て見ぬふりをしてきた。だが、今の時代ではこのような形で会社の恥を晒すわけにはいかない。会社を守るためだ」<br><br>「社長、しかし……」<br><br>「本当にお前は甘い男だな。だから、お前はダメなんだ。去年、俺が出向を命じてお前を切ろうとした理由がわかるか」<br><br>答えられなかった。<br><br>「お前を飛ばした案件。あいつが絡んでいたことはすべて知っていたさ。だが、あの時お前はどうした。すべて自分の責任ですとか言って、逃げただろう」<br><br>金川社長はまっすぐに俺を見た。<br><br>「なぜ戦わなかった。あの時、お前は逃げた」<br><br>膝が、わずかに震えていた。社長には、社内の問題点も、あの案件の真相も、俺の弱さまでをも見抜いていた。<br><br>「社長、一つ質問があります。なぜ、私を本社に連れ戻し、役員にまで昇進させてくれたのですか。しかも、このような機会を」<br><br>「前から雨池のことを調べていた。正してやるつもりだった。その中で、水処理プラントのお前の企画書が本棚からでてきた。それだけのことだ」<br><br>「雨池専務の不正を内偵していたということですか」<br><br>「そうだ。社長のわしが、これ以上一人でうごくことはできない」<br><br>「では、私はそのために呼び戻されたのですか。最初から、この仕事をやらせるために」<br><br>窓の外を見た。答えは帰ってこなかった。<br><br>「時間がない。もう失敗は許されないからな」<br><br>社長は、何も言わない。<br>俺を見た。<br><br>「お前に期待している」<br><br>それだけだった。<br><br>「わかりました。今度は、決して逃げません」<br><br>礼をして部屋を出ようとした。<br><br>「あと、これも潰すことにした。清算案を同時に上げてくれ。話は以上だ」<br><br>社長から手渡された書類に、富山の子会社の名前があった。<br><br>一年、あそこにいた。あの会社の現場を知っている。人手不足の深刻さも、社員たちの仕事の誠実さも、地域との繋がりも、全部見ていた。数字だけで切れる会社ではない。<br><br>「社長、あの会社は——」<br><br>社長が俺を見た。<br><br>「もう決めた」<br><br>それだけだった。首に巻いた赤いネクタイが、今この瞬間、喉を締めていた。富山の仲間からの贈り物なのに。<br><br>顔が浮かんだ。ひとり、またひとり。<br><br>可愛い文字と下手くそな文字が入り乱れた寄せ書きが来た。倉庫の吐く息の白さが来た。金属の棚に触れるたびに痛んだ指先が来た。<br><br>正しいのかどうか、わからなかった。<br><br>雨池に対する復讐か。社長から与えられた仕事か。あの人たちの会社を潰した上でやる戦いに、どれだけの意味があるのか。<br><br>答えは出なかった。<br>誰を切るのか。<br>それでも、足は動いた。</p><figure embedded-content-key="emb7bd466476a63" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n91cebd9ceff4" contenteditable="false" name="4CC6B85F-B003-4FAD-A72C-0B640A51B2B4" id="4CC6B85F-B003-4FAD-A72C-0B640A51B2B4" data-identifier="n91cebd9ceff4">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n91cebd9ceff4" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n26a6798b58cb'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 25 Mar 2026 17:51:06 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n26a6798b58cb</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n26a6798b58cb</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第12話：操られていたのは、俺だった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/267945299/rectangle_large_type_2_1d3d083dac5ce508d0118b99a146d320.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="91D18A62-5AE6-4D28-B741-508A91B926AA" id="91D18A62-5AE6-4D28-B741-508A91B926AA">執行役員就任が正式に決まった。<br><br>富山のみんながくれた赤いネクタイを締めた。<br>——繋がっている気がした。<br><br>俺の後釜が本社から補充されないまま、社員全員で送別会を開いてくれた。<br><br>「花城部長、短い時間でしたが、本当にお世話になりました。絶対に忘れないでくださいね」<br><br>社員の一人が花束と寄せ書きを涙ぐみながら、両手で押しつけてくれた。可愛い文字や下手くそな文字が入り乱れていた。<br><br>別れの挨拶をしながら、涙が出た。自分でも驚いた。黙って聞いていた現場の班長が、俺の肩をひとつ叩いた。<br><br>「俺らは、花城さんの味方だ。苦しいときは帰ってこい」<br>——帰る場所は、あったはずだった。<br><br>必死に隠していたつもりだったが、俺の苦しみを知っていたようだ。<br><br>富山のアパートを引き払い、東京に戻った。奈緒は、正月休みなのにと不審がったが、急遽海外出張が入ったと嘘をついた。帰る勇気がなかった。<br><br>東京のマンションで退屈な正月番組を流しながら、一人で荷物を片付けた。<br><br>いつかはバレる。少しだけ時間が欲しかった。正月は、考える時間と苦しみを与えた。<br><br>年が明けて、本社へ戻った。<br><br>金川社長から具体的な命令は何もない。何をすればいいのかわからないまま、役員室の椅子に座った。<br><br>元の部署で秋谷を探した。顔が見えなかった。席を外しているのかと思い、隣の社員に聞いた。<br><br>一瞬だけ、目が泳いだ。それ以上は言わなかった。<br><br>ある日、役員室に内線が鳴った。<br><br>「今日の夜、空いてるか。付き合え。水処理プラントの件で世話になった人がいる。挨拶しておけ。遅れずに来い」<br><br>雨池だった。傲慢な切り方だった。不愉快感だけが残った。<br><br>指定された場所は、会社から遠くない高級クラブだった。時代遅れのバブル風な店に入ると、雨池が遠くから大声で手招きをした。<br><br>「やっと来やがった。遅いじゃないか。早く来い。先生がお待ちだ」<br><br>コートを脱ぎながら向こうの様子を見ると、雨池はかなり出来上がっていて機嫌が良さそうだった。<br><br>古びた洋館のような店内は薄暗く、遠くの顔は見えない。タバコの煙で霞んでいた。赤いドレスの女が、奥でグラスを磨いていた。<br><br>見覚えがあった。<br><br>若い女性の横でべったりしている男が、世話になった人物らしい。女性の肩に腕を回し、耳元で何かを囁いている。あの雨池がへつらっているのが、薄暗い店内でもわかる。<br><br>「はじめまして。話は聞いてる。よろしく」<br><br>えっ、なぜ、この男がここにいるのか。<br><br>先生とは、畦地だった。<br><br>畦地がギロリと俺の顔を覗き込んだ。俺の驚く表情を確認してから、ゆっくりと微笑んだ。<br><br>次の言葉が出ない間に、雨池が強引に割り込んだ。<br><br>「先生の前でなに緊張しとるんだ。失礼だろう。それでも役員か」<br><br>思い切り背中を叩かれ、席に押し込まれた。強く肩を抱かれ、顔を近づけてこう言った。<br><br>「いいか、よく聞け。先生はお前の大恩人なんだ。お前が以前に開発した水処理プラントを高く評価してくださってな。あちこちの地公体へ声をかけてくださったんだ。つまり、お前を役員にしてくれたのは畦地先生だ。ほら、先生に頭を擦り付けて感謝しろ」<br><br>また、雨池の生温かい手の感触がした。<br><br>「それは、ありがとうございます……」<br><br>周りの空気に押されて、そう言うのが精一杯だった。<br><br>「花城もこう言っておりますので。先生、これからも私どもの会社と行政との橋渡しをなんとか頼みます。全面的に協力させていただきますので」<br><br>「いえいえ、彼が開発したものが今の時代に必要なんでしょう。私は微力ながらそのお手伝いをしているだけです。今日は楽しみましょう」　<br><br>今日の畦地は紳士的だった。権力が滲み出ている。<br><br>雨池が下手くそな歌を上機嫌で歌っている。隣の女の子が拍手した。<br><br>冷えたおしぼりを持つ手が、止まっていた。<br><br>記憶が来た。<br>夜の駐車場。霰。白い粒が足元に積もっていく老人。<br>あの男は、罪滅ぼしをすると言った。<br><br>——赤海。<br><br>「必ず取り戻してみせますよ」<br><br>最初から、一本だった。<br><br>ふと、向かいの畦地を見た。まずい、目が合った。慌てて目を伏せた。その様子に気づいた畦地は、隣の女性をぞんざいにどかした。<br><br>「あっちで飲んでろ」<br><br>俺の隣に座り、ソファが沈み込んだ。この男にとっては全てが道具だ。<br><br>「本社に戻れてよかったじゃないか。役員という箔もついた。おめでとう」<br><br>耳元で囁いた。<br><br>「……どういうことですか」<br><br>「さぁな。花城くんにクイズです。巨大な力を持っている玄水会は、貴方を使って何をしようとしているんでしょうか」<br><br>沈黙した。<br><br>「冗談だよ。そんなに警戒すんなって。よかったじゃないか、立派に出世したことだし。これからは持ちつ持たれつ、仲良くやっていこうじゃないか」<br><br>畦地が水割りを飲み干し、俺のグラスにぶつけてきた。<br><br>二人の目線が、壇上の雨池を捉えた。<br><br>「あそこで馬鹿面で歌ってる専務とやらが、お前を出向へ貶めた張本人だろ」<br><br>答えなかった。<br><br>「お前のことはなんでも知ってる」<br><br>畦地が静かに言った。笑っていなかった。<br><br>「あいつはいいね。傲慢で強欲だ。ああいう馬鹿が一番使いやすい。困ったら俺に相談しろ。捻り潰すことも可能だ」<br><br>「先生、私をおいてなにをこそこそ話してるんですか。花城、お前も先生が喜ぶような歌を歌え」<br><br>マイクを俺に向けてくる。<br><br>「いえいえ、さすが雨池専務、芸達者ですな。もう一曲聴きたいですわ」<br><br>畦地が嘲笑うように言った。さっさとあっち行けという意味だ。雨池がアンコールの舞台へ戻った。<br><br>「ほんと、頭がすっからかんだな。ああいう風に単純に生きられれば楽なんだろうな……」<br><br>——こんな男に、怯えていたのか。<br><br>先ほどどかされた女性が、いつの間にか戻ってきていた。畦地の隣に静かに座り、何も言わずにグラスに酒を注いだ。畦地はそれを当然のように飲みほした。<br><br>笑っていた。<br>——同じ場所に、立っていた。<br><br>舞台の上で、ピエロはまだ歌っていた。</p><figure embedded-content-key="emb0f25b9090240" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n26a6798b58cb" contenteditable="false" name="47F67E55-18FA-4BA6-928D-DE41CF8AE76A" id="47F67E55-18FA-4BA6-928D-DE41CF8AE76A" data-identifier="n26a6798b58cb">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n26a6798b58cb" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n37432aba4689'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 24 Mar 2026 17:07:59 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n37432aba4689</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n37432aba4689</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第11話：すでに、誰かの手の中だった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/260960141/rectangle_large_type_2_51e44b326b6775cbe7b273e4f7bc020d.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="2ACDAC7F-9BDE-44CE-9ED1-ADFD4F169541" id="2ACDAC7F-9BDE-44CE-9ED1-ADFD4F169541">昨日の忘年会の余韻が、一瞬で消えた。<br><br>「花城。明日、本社に来てくれないか。緊急の用件だ」<br><br>本社の牛島だった。<br>人事と処分を楽しむ男だ。<br>返答も待たずに電話を切った。相変わらずだ。<br><br>出向期間が切れれば、転籍か、別会社か。<br>このまま富山で終わるのも、悪くなかった。<br><br>トンネルを抜けると、快晴だった。久しぶりの東京の光に、目を細めた。<br><br>本社の前に立った。<br>何年も通い続けた場所が、久しぶりに見ると異質だった。元部下と目が合った。顔を背けた。<br><br>指定の時間より十分遅れて、牛島の部屋に通された。<br><br>「なんだ、その格好は。礼儀も知らんのか！！」<br><br>開口一番、大声を上げた。作業着で来たからだ。<br>少しの反抗だった。<br><br>「検収の途中に呼び出されたもので」<br><br>狼狽する様がおかしかった。もっとからかってやろうと思っていたが、牛島はすぐにあきらめ顔になった。<br><br>「時間がない。ついてこい」<br><br>牛島が呼び出したわけではないとわかった。<br>赤絨毯の廊下の奥の、社長室だった。<br><br>失うものが何もない人間は、恐れるものがない。<br><br>牛島がノックした。<br><br>部屋に入ると、社長はソファに座っていた。片手に書類を持ち、目を閉じて何かを考えている。話しかけられるまで直立不動で待つ。この会社の暗黙のルールだ。<br><br>社長の眼光が、俺を捉えた。その目が一瞬だけ俺の全身を見た。作業着を見た。そして何も言わなかった。それだけだった。この男にとって、服装は関係ない。<br><br>「きたか。急に呼んで悪かったな。お前にはもう用はない。下がれ！！」<br><br>牛島が、逃げるように部屋を出た。<br><br>「まぁ、座れ。向こうはどうだ」<br><br>「慣れました。魚と蟹はめちゃくちゃ美味いです。こんな格好で申し訳ありません」<br><br>「それはよかった」<br><br>社長は書類を膝の上に置いた。俺を真正面から見た。<br><br>「残念だが、またネクタイ生活をしてもらう。本社に戻ってこい。それだけだ。お前に選択肢はない」<br><br>言葉を失った。<br><br>「え……なぜですか」<br><br>社長は少し間を置いた。窓の外を見た。<br>それからまた俺を見た。<br><br>「花城。お前はこの会社に入ってどれくらいになる」<br><br>「もうすぐ二十年になります」<br><br>「そうか」<br><br>社長は窓の外をしばらく見ていた。<br>何かを思い出すような間があった。<br><br>「会社を作って三十年。やってきたことは単純だ。必要な物と人間に、時間と金を突っ込んだ。それだけだよ。無駄なものは切った」<br><br>必要な人間に、時間と金を突っ込んだ。<br>——その言葉が、残った。<br><br>「ふと、お前のことを思い出した」<br><br>社長が言った。独り言のような口調だった。<br><br>「思い出した、というのは——」<br><br>「本棚の奥深くに眠っていたあるものを調べていた。<br>——お前の名前が、そこにあった。それだけのことだ」<br><br>社長の目が、一瞬鋭くなった。それだけだった。何も言えなかった。<br><br>「今回、うちの会社を掃除することにした。会社の膿をな。その仕事をお前に任せようと思う」<br><br>膿、という言葉が残った。<br><br>社長はソファから立ち上がった。窓際に歩いた。背中を向けたまま言った。<br><br>「きつい仕事だ。ただでやれとは言わん。次の取締役会で執行役員にする。この会社の最年少役員だ。出向した人間がすぐに役員になる話など、この会社で前例はない。それをお前にやらせる」<br><br>執行役員。前例がない。<br><br>「花城、俺の命令に選択肢はない。わかるな」<br><br>「……はい。自分で良いのでしょうか」<br><br>「サラリーマンをやめろ。上を見て、下を見て、風向きを読んで動く。お前はそういう生き方を、これまでしてきた。違うか？これからは自分の信念で動け」<br><br>返す言葉がなかった。<br><br>「わかっているなら、もう繰り返すな。次はない。以上だ」<br><br>社長は窓の外に向き直った。退席しようとした。その時、社長が何か言った。<br><br>小さかった。<br>窓に向けたまま、ほとんど独り言のような声だった。<br>聞き取れたのは、「期待」という言葉だけだった。<br>——なぜか、その言葉だけが体の中に落ちた。<br><br>赤絨毯の廊下を歩いた。社長の言葉の答えは、あの部屋に残ったままだった。<br><br>廊下の角で、雨池と目が合った。<br><br>「おっ、話は聞いたぞ。なんだそのみすぼらしい格好は」<br><br>雨池は俺の作業着を上から下まで見た。それから急に表情が変わった。<br><br>「なぜ、本社に戻れたのか不思議そうな顔をしているな。昔、お前が失敗した水処理プラント。あれ、売れなかったはずだよな。——いつから売れるようになったんだろうな。俺が売ってきた。だから社長もお前を本社に戻したんだろうよ。お前の力ではない。全部俺のおかげだ。感謝しろ」<br><br>胸糞の悪い笑い声が廊下に響いた。そして、耳元で囁いた。<br><br>「これからは、全て俺のいうことに従え」<br><br>そういうと、肩に触れようとした。その手を避けた。黙って頭を下げた。目線は合わせなかった。<br><br>完全な嘘とも言い切れなかった。<br><br>水処理プラント。雨池がその大口契約を取ってきただと。なぜこの男が、この時期に。手が、冷たくなった。<br><br>赤海の顔が来た。<br>「必ず取り戻してみせますよ」<br><br>——もう遅かった。<br><br>自分が、誰かの手の中にいる。<br>足の下に、その感触だけが残っていた。<br><br>帰りの新幹線の中で、妻に連絡しようとした。<br><br>指が止まった。<br><br>光輝の顔が来た。「とうとーーー」と走ってくる顔が来た。腕の中で震えていた小さな体が来た。<br><br>その後に、あの文字が来た。Dタイプ。<br><br>追い払った。また来た。<br>——帰る気にはなれなかった。<br><br>会社の近くに、単身用のマンションを借りた。​​​​​​​​​​​​​​​​<br>帰る場所は、そこしかなかった。<br>——そう思うことにした。<br><br>スマホの電源を落とした。</p><figure embedded-content-key="emb01a85a11ec53" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n37432aba4689" contenteditable="false" name="AA11C3F3-82E2-4065-8AEF-638ABFFE62BE" id="AA11C3F3-82E2-4065-8AEF-638ABFFE62BE" data-identifier="n37432aba4689">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n37432aba4689" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/nafb60ddf508a'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 23 Mar 2026 17:19:23 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/nafb60ddf508a</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/nafb60ddf508a</guid>
    </item>
    <item>
      <title>【感謝】note開始10日でフォロワー100人超えしました</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/261249138/rectangle_large_type_2_dbebe048f1df8ff2049b9dd7fc5f3744.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="F91AB5B7-226C-4E6E-B7ED-867EC68B0B0B" id="F91AB5B7-226C-4E6E-B7ED-867EC68B0B0B">7年前の小説を引っ張り出し、再設計しながら記事を公開していく毎日。<br><br>今、とても充実した時間を過ごしています。<br><br>noteを始めて、今日で10日となりました。<br>おかげさまで、フォロワー100人を突破しました！<br>正直、驚いています。<br><br><br>たくさんの方に読んでいただけている実感があり、少し恥ずかしさもありますが、今は感謝の気持ちでいっぱいです。noteを始めて、本当に良かったです。<br><br>久しぶりに筆を執ってみて、気づくことが多いです。<br>7年前、この物語を書き出したのは、ちょうど私の子供が生まれた頃でした。<br><br>「血縁」や「遺伝子」という重いテーマを扱いながら、当時の原稿を読み返すと、当時の記憶が鮮明に蘇り懐かしさを感じます。<br><br>もし皆様も、昔書いたものや大切にしていた想いがあれば、ぜひ読み返してみてください。今の自分だからこそ気づける「宝物」が眠っているかもしれません。<br><br>「庄の国」を追いかけてくださる皆様へ<br><br>現在連載中の作品を、一気読みしやすいようにマガジンにまとめました。<br>おかげさまで、物語は第10話「鰤起こし」まで進んでいます。</p><figure embedded-content-key="emb2d08bcd13520" embedded-service="external-article" data-src="https://note.com/ahiko_y/m/m17980e7cae87" contenteditable="false" name="4D6CF266-3B55-4DFB-804D-FD66BEFF30F3" id="4D6CF266-3B55-4DFB-804D-FD66BEFF30F3">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-external-article">            <span><div class="external-article-widget">
<a href="https://note.com/ahiko_y/m/m17980e7cae87" rel="" target="_blank"><strong class="external-article-widget-title">庄の国｜阿彦｜note</strong><em class="external-article-widget-description">あらすじ  遺伝子検査が、すべての始まりだった。  　ある夜、満員電車の広告が目に止まった。「太古からの祖先から、未来の子</em><em class="external-article-widget-url">note.com</em></a><a class="external-article-widget-image" href="https://note.com/ahiko_y/m/m17980e7cae87" rel="" style="background-image: url('https://assets.st-note.com/production/uploads/ext/c783af11684dd6f6fa7dd67bab006623a09db51b07ce2b14ea4fa64dd82e.png?x-type=ogp');" target="_blank"></a>
</div></span>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n6ba96205ee75'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 22 Mar 2026 20:31:07 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n6ba96205ee75</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n6ba96205ee75</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第10話：まだ、終わっていなかった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/266614518/rectangle_large_type_2_688a53fe75600984d151fd50e7b749ec.png?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="2D3318F8-B681-4CEA-9CC8-4504109B736D" id="2D3318F8-B681-4CEA-9CC8-4504109B736D">轟然たる雷鳴が走った。<br>この土地では、それを「鰤起こし」と呼ぶ。<br>冬の到来の合図だ。重い空気は、体にまとわりつく。<br><br>その日は午後一番に年末年始向けの急な注文が入り、全員が倉庫に集合した。<br><br>使い古されたマニュアルを手元に置きながら、検収作業を見よう見まねでこなした。<br>単純なはずなのに、うまくいかない。<br>目の前のおばさんの手さばきが、別世界に見えた。<br>伝票も箱も、迷いなく流れていく。<br><br>倉庫は凍てつく寒さで、吐く息が白い。金属に触れるたびに、指先が痛んだ。<br><br>「さっさと終わらせて、みんなで飲みに行こうぜ！！」<br><br>中堅の社員がハッパをかけた。冗談交じりに、円陣を組もうという話になった。<br><br>「花城さんも、入ってくださいよ！！」<br><br>「俺はいいって」<br><br>「恥ずかしがらないで……」<br><br>みんな笑った。<br>よそ者の俺も、笑った。<br><br>言い出しっぺのリーダーがもじもじしている。<br><br>「こんなとき、なんていえばいいんだろう」<br><br>「寒いぞ。テキトーになんか言え！！」<br><br>「わっ、なんでもいいや。みんな、頑張るぞ。エイエイ………」<br><br>「オーーーー！！」<br><br>締まらなかったが、みんな笑った。<br><br>「花城さん、お疲れさまでした。みんなでお疲れさん会するんですが、ぜひ」<br><br>円陣で掛け声をかけた部下が誘ってくれた。慣れない立ち仕事に足がパンパンだった。<br><br>「また今度な。若者たちで行ってこいよ！！」<br>「花城さんもそこそこ若いじゃないっすか」<br><br>当たり障りのない形で断った。<br><br>社員たちがワイワイと飲み場所を決めながら出ていくのを横目に、会社を出た。駐車場に出た瞬間、夜気が顔に貼り付いた。<br><br>雲の切れ間に、星が一つだけ浮かんでいた。<br>一人になった。急に静かになった。<br>さっきまでの笑い声が、嘘のようだった。<br><br>小走りで駐車場に向かおうとした時、暗闇からロングコートの男が近づいてきた。ブーツの音が聞こえた。<br><br>一直線に俺の方へ来る。<br><br>「花城さん、ご無沙汰しております。先日の非礼をお詫びに参りました。少しだけ、話を聞いていただけないでしょうか」<br><br>赤海だった。<br><br>こんな辺境の地まで来たのか。<br>しかもこの寒空の下、俺を待っていたのか。<br><br>吐き気がした。<br><br>「なんなんですか。わざわざこんなところまで。もうあんたたちに巻き込まれたくない。帰ってくれ」<br><br>「あなたの気持ちはわかります。まさか、ご子息にあのような結果が出るとは、私どもも思いませんでした」<br><br>「気持ちはわかります、だと」<br><br>声が低くなった。怒鳴ろうとした。しかし怒鳴れなかった。体が疲れすぎていた。<br><br>「幼い子供をさらって、強引に唾液を採取した。そういうことでしょう。普通の人間のすることじゃない」<br><br>赤海はゆっくりと深々と頭を下げた。<br><br>「おっしゃる通りです。やり方を間違えました。ただ、息子さんに危害を与えるつもりは全くありませんでした。そこだけは」<br><br>「言い訳はいい」<br><br>また込み上げた。<br><br>「そんなことも、もうどうでもいい。関わらないでください。今日は疲れた。あなたと話をするだけで面倒だ」<br><br>行く手を遮ろうとする赤海を制して、車へ向かった。数歩進んだ。<br><br>赤海が、低い声で語りかけてきた。<br><br>「今日は寒いですね。倉庫は相当冷えたでしょう。これは独り言なのですが。あなたが開発した次世代水処理プラント事業——あの製品は素晴らしかった。あなたの着眼点。誰でもできることではない」<br><br>足が止まった。<br><br>七年前の企画だった。<br>社内のコンテストで大賞を取ったが、全く売れなかった。<br><br>素晴らしかった、とこの男は言った。その言葉の表面は穏やかだった。<br><br>「なぜ、そんな事を知っているのですか」<br><br>「あなたのことは、以前から拝見していました。あなたは、優秀な方です。自信を持ってください」<br><br>胸の奥に、不快感が走った。<br><br>「過去の失敗です。あなたには関係ない」<br><br>「謙虚な方ですね。そんな悲しい事は言わないでください。なにかのきっかけがあれば、全てが変わる。あの商品はそれだけの力を持っています」<br><br>「失敗した商品にいまさら何を言っているのか」<br><br>「理不尽な世の中です。今回のご出向の件はどうですか。あなたは全く悪くないのに、責任を取らされた」<br><br>「それが会社だ」<br><br>「そんな人生、悔しくはないですか」<br><br>「悔しいですよ」<br><br>気づいたときには、口に出ていた。<br><br>「そうですか。あなたは、まだ悔しい気持ちをお持ちなんですね」<br><br>赤海は、間を置いた。<br>そして、一歩近づいた。<br><br>「花城さん」<br><br>赤海の声が変わった。柔らかくなった。<br><br>「悔しかっただろう。辛かっただろう」<br><br>俺の言葉ではなかった。しかしこの男の口から出ると、俺の感情が、この男のものになるような気がした。<br><br>「いいでしょう。この老人にも分かりますよ」<br><br>老人、と言った。頭を下げるような言い方だった。<br>しかし目は下がらなかった。<br><br>「あなたに、罪滅ぼしをさせてください。お任せください。取り戻してみせますよ。あなたの誇りと地位を。そして、あの技術を」<br><br>気持ち悪さが走った。<br>ここにいると飲み込まれる。<br><br>車に乗った。エンジンをかけた。<br><br>バックミラーの中に、赤海が見えた。<br>傘も差さずに立ち尽くしている。<br>まるで、最初からそこにいたように。<br>霰が、ロングコートの肩に当たって散っていく。<br><br>白い粒が、足元に積もっていく。<br><br>「悔しいですよ」と、俺は言った。<br>——車の中で、一人で。<br><br>アクセルを踏んだ。赤海が小さくなった。<br>見えなくなった。<br><br>胸の奥に、何かが残った。<br>それは怒りとも違った。<br>——あの男の言葉が、正しいような気がした。<br><br>霰だけが、まだ降っていた。​​​​​​​​​​​​​​​​</p><figure embedded-content-key="emb2aeed704685a" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/nafb60ddf508a" contenteditable="false" name="898F3EEC-3315-4FE5-A935-5F565E6D3DD1" id="898F3EEC-3315-4FE5-A935-5F565E6D3DD1" data-identifier="nafb60ddf508a">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/nafb60ddf508a" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/n9cdeec4eaea0'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 22 Mar 2026 09:21:20 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/n9cdeec4eaea0</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/n9cdeec4eaea0</guid>
    </item>
    <item>
      <title>庄の国｜第9話：歪んだものは、戻らなかった</title>
      <media:thumbnail>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/267936492/rectangle_large_type_2_bd1eafeccf3cc9cc16684a95b1f25cba.jpg?width=800</media:thumbnail>
      <description><![CDATA[<p name="DA1AE0DF-63D6-4810-8EF9-98CD5DE6D761" id="DA1AE0DF-63D6-4810-8EF9-98CD5DE6D761">奈緒からの電話のたびに、画面に光輝の顔が来る。<br><br>来るたびに、追い払う。<br>追い払うたびに、重くなった。<br><br>食欲がない。気力がない。<br>薬も効かなかった。<br><br>奈緒からのLINEが三件ある。<br><br>「うちの息子が、こんなに話かけるようになりました」<br>「うちの息子が、ボールを蹴るようになりました」<br>「うちの息子が、おむつを卒業するために頑張っています」<br><br>動画が添付されている。<br><br>「とうと、いつ帰ってくるの？……」<br><br>光輝の声だった。<br><br>スマホを布団の下に押し込んだ。<br>それでも聞こえた。<br><br>誰の子だ。<br><br>その問いが来るたびに、奈緒に電話をかけようとした。できなかった。<br><br>何も言えなかった。<br><br>——なのに、涙が出た。<br><br>「我々の歩み」が、床に落ちていた。さっき壁に投げつけたものだ。<br><br>あいつらのせいで、こうなった。庄の国などというものが、本当にあるのか。全部妄想なら、遺伝子の結果はどう説明するのか。<br><br>止めに赤海の声が来た。「遺伝子からは絶対に逃げられません」。くそったれ。<br><br>考えているうちに、居ても立ってもいられなくなった。スマホが俺を縛り付けるのだ。投げつけて、車に乗った。<br><br>庄の国があると言われた町まで、車で二時間ほど走らせた。<br><br>祠を探そうと思ったが、「我々の歩み」には肝心の場所が書いていない。道を歩いている老人に尋ねた。<br><br>「庄の国？　なに寝ぼけたこと言っとるがいね。わしは生まれてからずっとここにおるけど、そんな話なんぞ聞いたこともないちゃ。それより、あんた東京から来たんけ？　テレビの取材かなんかけ？」<br><br>歯の抜けたじいさんに、大笑いされた。<br><br>庄の国など、なかった。<br><br>帰りのナビに手を伸ばそうとした時、コンビニから出てきた男の背中が目に入った。あの見覚えのあるリュック。<br><br>あいつだ。<br><br>「ちょっと待ってください」<br><br>急いで車を降りた。木枯だ。なぜ、こんなところに一人でいるのだろう。俺の顔を見た瞬間に、逃げようとした。<br><br>「木枯さん。待ってください。あなたを責める気はありません。ただ、祠がどこにあるのか、それだけ教えてください」<br><br>山の奥の方を、指差した。しかしその説明では全くわからない。<br><br>「せっかくなら、一緒に行きませんか」<br><br>嫌がる木枯を、半ば強引に車に乗せた。ドアを閉めると、木枯は観念したように黙った。<br><br>車の中で、二人とも話さなかった。<br><br>木枯は助手席の窓の外を見ていた。ラジオをつけようかと思ったが、やめた。この沈黙でよかった。二人とも、それぞれの重さを抱えて、同じ方向に向かっている。<br><br>庄川沿いの道を、上流に向かって上っていった。次第に民家が消え、人の気配もなくなった。道が狭くなっていくにつれて、不安になってきた。<br><br>「花城さん、着きました。ここです。脇道を進んだところにあります。車を停めてください」<br><br>木枯が初めて口を開いた。<br><br>森の中の道とも言えないところを、枝を掻き分けながら木枯が先を行く。はぐれないようについていった。十五分ほど歩いたところで、木枯が止まった。<br><br>なんだ、これは。<br>本物だった。<br><br>足元の落ち葉が、音を立てた。<br>見上げると、空が赤かった。<br><br>その中に、ぽつりとした空間がある。秋の夕陽が真っ直ぐ差し込んだ先に、小さな朽ちかけた祠の残骸が佇んでいた。<br><br>もともとは石祠だったのだろうが、崩れかけており、苔が、静かに張り付いていた。立派な社を想像していた。誰も触れていない形だった。<br><br>木枯はリュックから雑巾を取り出して、崩れかけた石祠を丁寧に拭き始めた。俺はその様子を黙って見ていた。<br><br>「ときどきくるんです。誰も来ないから、なぜか落ち着くんです」<br><br>木枯は拭きながら答えた。手が止まらない。<br><br>「……これが、そうなんですか」<br><br>「わかりません。少なくとも、従兄弟の楪葉は古文書の研究からそう言っています」<br><br>「木枯さんは、どう思いますか」<br><br>「わかりません」<br><br>「庄の民は、武器を全て棄てた。そのせいで滅ぼされたそうですね。それは正しかったのでしょうかね」<br><br>木枯は答えなかった。<br>石祠の上の枯葉を、ゆっくりと払った。<br><br>「木枯さんは、なぜ玄水会に残っているんですか」　<br><br>「会計事務所をやめて、途方に暮れていた時に、拾ってくれたのが赤海理事長でした。声をかけてくれた時、私には他に行くところがなかった。だから今もここにいます。それだけです」<br><br>木枯は一度だけ、祠の方を見た。<br><br>「赤海理事長は、怖い人です」<br><br>「幹部会のとき、赤海たちが、私の息子になにをするのか知っていましたよね。あの人たちのことを私は許すことができません」<br><br>木枯の手が、一瞬止まった。また動いた。<br><br>「……すみません」<br><br>それだけだった。<br>言い訳はなかった。<br>その一言が、重かった。<br><br>しばらく、二人とも黙っていた。木枯は石祠を拭き続けた。俺は秋の森を見ていた。<br><br>木枯が、拭く手を止めずに言った。<br><br>「……花城さんは、なぜここへ」<br><br>「分かりません。玄水会も庄の国も信用していない。仕事も家族も失った。全てをなくして、ここに向かっていた。なぜかはわからないんです」<br><br>木枯は何も言わなかった。手が、少しだけ遅くなった。<br><br>「息子さんのことは、聞きました。なんて言ったらいいのか……」<br><br>木枯が先に触れた。俺は黙っていた。<br><br>「そもそも家族って、親子ってなんなんでしょうね。同じ屋根の下で住んで、ご飯を食べて、毎日同じことの繰り返し。それが家族だと思っていました。子供が生まれて、自分の子かどうかを疑う方がおかしい。それが、いきなり——」<br><br>「私には家族がいないので、すみません。わかりません……」<br><br>木枯はそれだけ言って、また黙った。<br><br>誰も何も言わなかった。<br>それでよかった。<br><br>陽が落ちてきた。<br>立ち上がりながら、俺は言った。<br><br>「木枯さん。一度あなたにお会いしたことがあるんですよ。幹部会の前に」<br><br>「えっ、」<br><br>「東京の電車の中。若い人と揉め事が会った時です」<br><br>木枯の表情が、初めて崩れた。<br><br>「……あの時いらしたんですか。お恥ずかしい限りです。ホームで私が暴れてしまって、誰かが緊急停止ボタンを押したやつですね。まさか見られていたとは」<br><br>「あの時、木枯さんが言った言葉がずっと頭の中で引っかかっていて」<br><br>「イマハヤミ、アワラナオシ」<br><br>木枯が足を止めた。振り返らなかった。<br>しかし歩みが止まった。<br><br>「楪葉が教えてくれました。庄の国の民が、滅びる前夜に唱えた言葉だと」<br><br>「どういう意味なんですか」<br><br>「今は早み、今こそ、急げ。曲がったものは、まっすぐに戻る。ゆえに、常に心を直く保て」<br><br>俺はその言葉を、頭の中で繰り返した。木枯も、俺も、その言葉の下にいた。その言葉で、足が止まった。一瞬だけ。<br><br>「本当に急ぎましょう。これ以上暗くなると遭難する」<br><br>俺がそう言うと、木枯がわずかに笑った。<br>張り詰めていたものが、わずかにほどけた。<br><br>スマホが鳴った。<br>画面に、光輝の顔が出た。<br><br>——指が、動かなかった。</p><figure embedded-content-key="emb6b1c2c757891" embedded-service="note" data-src="https://note.com/ahiko_y/n/n9cdeec4eaea0" contenteditable="false" name="8BF85924-0437-4095-B92B-19BABA139846" id="8BF85924-0437-4095-B92B-19BABA139846" data-identifier="n9cdeec4eaea0">    <div class="fude-iframe-container">        <div class="fude-iframe-container-note">            <iframe class="note-embed" height="98" scrolling="no" src="https://note.com/embed/notes/n9cdeec4eaea0" style="border: 0; display: block; max-width: 99%; width: 494px; padding: 0px; margin: 10px 0px; position: static; visibility: visible;"></iframe>        </div>    </div></figure><br/><a href='https://note.com/ahiko_y/n/nb2c2931e9efd'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/poc-image/manual/preset_user_image/production/i04f97ff72d86.jpg</note:creatorImage>
      <note:creatorName>阿彦</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 21 Mar 2026 14:29:58 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/ahiko_y/n/nb2c2931e9efd</link>
      <guid>https://note.com/ahiko_y/n/nb2c2931e9efd</guid>
    </item>
  </channel>
</rss>
