もうおしまいだ|せりふ三題噺
彼が、今日、私の部屋に来る。
初めてだ。
「手作りのカレー、楽しみにしてる」
彼にそう言われては、ますます失敗するわけには行かない。
でも市販のルーだけでは芸がない。隠し味の決め手は...。スマホでレシピを再確認する。隠し味の工夫って、結構いろいろあるのよね。
・・・あれっ?、なんだか、焦げ臭い。
慌てて火を消したけれど遅かった。
焦げている。
彼が来るまで、あと30分。
作り直す時間はない。
もうおしまいだ。
インターホンが鳴った。
「もう来た?」
時計を見る。
予定より10分早い。
ドアを開けると、彼が立っていた。
「早く来ちゃった。ごめん」
彼が笑った。
「ううん、大丈夫」
私は、彼を部屋に入れた。
「いい匂いだね」
コートを脱ぎながら彼が言った。焦げた臭いが、してるのに。
「うん...でも」
私は、言いかけて、やめた。
「でも?」
「少し、焦げちゃった」
小さな声で私が言うと、彼は笑った。
「僕が焼きカレー好きだって話したっけ?座って良い?」
私は、カレーをよそった。
焦げた部分を避けて、できるだけ、きれいな部分を。
でも、やっぱり焦げの臭いがする。
彼は、一口食べた。
「美味しい」
「本当?」
「本当。少し焦げてるけど、それがいい味になってる」
彼は、カレーを全部食べてくれた。
「ごちそうさま。また作ってね」
彼が言った。
「次は、焦がさないようにする」
うつむいて私が言う。
笑いながら彼が言う、「焦がしても、いいよ」
思わず彼から目を逸らして窓の方を見た。
「わぁっ...。見て、見て」
私は窓を開けた。
「ホントだ。初雪かな」
かたわらに立った彼の体温を感じる。心臓の音が彼に聞こえてしまいそうだ。
はらとけいさんのせりふ三題咄に参加させていただきます。
今回はセリフを使わせて頂きました。
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