不審な男からの接触/他人の不幸は蜜の味 #12
大学卒業を間近に控えた1月下旬、ボクは気が気ではなかった。
この時期に就職が決まっていなかったのだから無理はない。
同級生たちが就職活動を頑張っていた中、ボクは演劇に没頭し、1社も受けていなかったのだから、これで就職先が決まっている方がおかしい。
ボクは、とにかく焦っていた。
ただ、既に新卒の募集はどこの会社もほとんど終わっていて、そもそも就活って、何から始めて良いのかすら分からない。
求人誌を買って読み漁り、その中で給料の高い仕事を見つけて面接を受けに行った。
すぐに仕事が出来ると思っていたが、ボクに合うモノがあれば紹介されるタイプの派遣会社だった。
いつから仕事を始められるのかも分からず不安でいると、面接を受けてから2日後に電話が来る。
選り好みをしている余裕などなく、案内された日時に指定された駅の改札を出た待ち合わせ場所に向かった。
派遣会社の社員が、ボクを含めたそこに集まった人達を引率してゾロゾロと目的場所まで歩いて行く。
不安であたりを見回し、まわりに来ている人の様子を伺うため、皆んなの後ろをついていく。
ボクの更に後ろには、ケータイで話しながら歩く男がいた。
大きな声で電話しながら、時よりゲラゲラ笑ったりしているが、とにかく忙しそうだった。
これから派遣される仕事の研修が始まる。
席は自由だったが、その男はボクの隣の席に座っていた。
特にその男を気にせず、研修資料に目を向けると膨大な量に驚いた。
こんなに覚えることがあるのかと思いつつ、前で話す講師の話に耳を傾ける。
隣の男は全く集中していない。
というより、そもそも聞く気がないといった方が正解の態度だった。
それどころか研修中に、こちらへちょっかいを出しながら、ボクの集中を妨害して来た。
休憩時間となり、講師より指示が出た。
「各々、昼食をとって13時にまた今の席に座って下さい。」
近くのファーストフードで済ませようと思ったら、さっき隣に座っていた男が声をかけて来る。
「昼メシ、一緒に食おうぜ」
特に断る理由もなく一緒に食べに行くと、彼はボクに色々と質問ばかりして来る。
「何でこの仕事に来たの?」
「今まで何やってたの?」
「何才?」
「将来やりたいことは?」
(面接かよ…)
「つい最近まで舞台役者を目指してました」などと、初対面の人間に言う気になれなかった。
テキトーな返事で時間が経過するのを待っていた。
ただし、彼はボクのどんな発言に対しても否定をせず、「いいねー」「それはすごいな」などと応えてくれた。
正直悪い気はせず、というよりどちらかというと心地良く、いつの間にか次第にボクは自分のことをペラペラと話していた。
ずっとボクが話してばかりでいたので、ちょっと申し訳なくなり、特に興味もなかったが、こちらからも彼に質問してみた。
ボク「普段は何してるんですか?」
彼は「まあ、金はあんだけどよぉ、ヒマで仕方ないから来たんだわ」と言う。
とんでもなく怪しい返答だった。
午後の研修も終わり、時刻は夕方前になっていた。
帰り際にも彼はボクに声をかけて来た。
ヒトタラヲ
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