ブランディングの要諦② 脱「机上の空論」の体験デザイン
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前回はブランディングにおける「人の車輪」の重要性と具体的な進め方について解説しました。今回はもう片輪の「計画の車輪」について話します。「人の車輪」がブランドにおける「心」だとするならば、「計画の車輪」はブランドの「頭脳」のようなものかもしれません。多くの人がこのワークに最も時間がかかり、苦労する場面を見てきたので、少し長くなりますが詳しく書いていこうと思います。
ブランド体験をデザインする
「計画の車輪」では、「人の車輪」で整理した内容を踏まえ、プロダクトやサービスを人が生活のどのような場面でどのように使うのかを考えていきます。これだけ聞くと一般的な手法と変わらないように思えますが、結局のところ体験デザインでやるべきことはリアリティの追求に尽きます。それをどこまでしつこく追求するか、つまり様々な視点から「本当に?」という問いを狂気的なまでに繰り返すことで、圧倒的にリアリティのある「これ以外ありえない」というブランド体験を導き出す、ということです。
「顧客像」を研ぎ澄ます
まずはじめに、「ペルソナ」という存在しない架空の人物では考えないということ。「ペルソナ」は大きなマーケットを大局的な視点から想像する上では役に立つかもしれませんが、0から1を生み出すフェーズでは、創造したい体験の解像度を逆に下げてしまう可能性があります。
ではどうするのかというと、最も象徴的で、かつ自分が親しい人物を一人想定します。どれくらい親しいかといえば、その人がどんなときにどういう振る舞いをするかを頭の中でクリアに想像できるくらいの関係の人を選びます。チームでこのワークに取り組む場合は、共通で知り合いの人物を想像できるのが理想ですが、それが難しい場合はブランドのファウンダー(責任者)がその人物を決め、その人がどんな振る舞いをするのかをチームに共有しながら進めていくのがよいでしょう。
また、この議論でよく起きるのは、「こんな人にも、あんな人にも使ってもらえるはず」と広げていくこと。作り手としては多くの人に使ってもらえることを望むので、想定顧客を特定することに違和感や不安を覚えるのは自然ですが、この段階ではラディカルに特定の一人に絞り込み、解像度の高いブランド体験を設計する必要があります。生み出される体験が人間の本質に深く根ざした意味と価値を持っていれば、結果として想定していたよりも広い層の顧客に支持されることになります。
どうしても作ろうとしている体験の象徴的な顧客が想像できない場合、そもそもイメージしている体験自体を見直したほうがいい可能性があります。再度「人の車輪」で整理したことに立ち戻り、改めてどのような体験であるべきかを考え直す必要があるかもしれません。
「体験」を磨き上げる
さて、象徴的人物を決めることができたら、次に自分が想像しているブランド体験が、その人の生活のいつ・どんな場面で・どんな気持ちで・何のために行われるのか、それが一回だけではなく継続的に生活習慣として取り入れられることが想像できるか――を、繰り返し問い続けます。
ここは具体的な例があったほうがわかりやすいかもしれないので、301がブランディングを手掛けたクラフトジン「HOLON」を事例に取り上げてみます。「HOLON」は"DRINKING AS MEDITATION"というコンセプトを掲げ、お酒を「他者との酔いの嗜み」ではなく「自分自身の時間と親密に向き合う嗜み」として定義しました。そうすると、ブランド体験は「外で誰かと飲む時間」ではなく「家で自分の好きなことをしながらゆったりと過ごす時間」という、多忙な都市生活者たちのための現代的なテーマに結びついてきます。もちろん「人の車輪」を磨き上げた確固たるアイデンティティがあることが前提ですが、お酒との時間に対してこのような提案をするブランドとしてのユニークネスもあり、「HOLON」は競争の激しいクラフトジン市場の中でも、いまだ独自のポジションを築いています。
(「HOLON」のブランディング詳細は以下の記事を参照)
このワークでの注意点としては、想定した人物がそのブランド体験をしているイメージが、作り手側の願望によって導き出されていることが多い、ということです。だからこそ、「本当に?」という問いを繰り返すこと、そして想定した人物の感情や振る舞いを高い解像度で想像できることが、極めて重要になります。この体験であれば、絶対にこの人なら求めてくれる、そして継続的にその体験を必要としてくれる、ということが(できればチームメンバー全員の)頭の中でクリアに描けるようになるまで、ひたすらこの問いを繰り返していきます。
これは一人で考えていくのが難しいワークでもあるので、ブランディングの伴走者やファウンダーチームのメンバーが、客観的な視点で「本当に?」と問い掛けながら思考を深め、解像度を上げ続けることをおすすめします。
アナロジー(類推)を活用せよ
ブランド体験を考えていく上で有効な手法として、アナロジー(類推)から想像してみることもおすすめしています。
例えば、イソップのハンドソープを家に置くことの意味は、それが部屋にあることで空間に対する美学や質を上げようと意識すること、そして手を洗うという何気ない生活の瞬間に、洗練された上質な時間を織り込むこと――と想像したときに、それはハンドソープ本来の機能を超えた意味と価値を顧客に提供していると言えます。では別のプロダクトでも、そのように空間に対する美学や、生活の一瞬を上質にするというブランド体験に落とし込むことができるのではないかと想像してみる。
そのようなアナロジーをあらゆる側面から想像していくと、自分たちがつくりたいブランド体験に極めて近しい体験を発見できることがあります。それが見つかれば、かなり解像度高く「人物」と「体験」を紐づけて想像していくことができます。
「人と計画の車輪」のうち「計画の車輪」の要となるのは、このように体験と深く向き合い、リアリティのあるブランド体験を導き出すことです。今回はいったんここまでで、次の記事に続きます。
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