見出し画像

ブランド進化論 #1 Ace Hotel

301では、ビジネス・クリエイティブ・カルチャーを横断するトピックやストーリーを毎週月曜のコーヒーブレイクにお届けしています。よろしければ以下のページからニュースレターをサブスクライブ(購読)ください。
→ ✉️ 『MONDAY ISSUE by 301

エースホテルを西武ホールディングスグループが最大130億円で買収するという発表で世間がざわついているので、そもそもエースホテルというブランドが何故ユニークなのかという話を、改めて考えてみたいと思います。

「ブティックホテル」「ライフスタイルホテル」と呼ばれ、"アートや音楽といったカルチャーを取り込み若い世代やクリエイティブ層に指示されているホテル"といった文脈での語られ方が多い気がします。しかし、それだけでは「ホテル業界の変革者」と呼ばれるようになった説明としては不十分です。

今回は、「エースホテルというブランドの真価とは何か」そして「その独自性は何から生まれているのか」という、意外とこれまで語られてこなかった「エースホテルの何が革命だったのか」という本質について考察していきます。


それは誰のためのホテルか?

エースホテルは、ホテル経営のプロではなく、カルチャーシーンで遊びと仕事の関係を曖昧にしながらビジネスをしていた、(故)アレックス・カルダーウッド(Alex Calderwood)が中心となった生み出されました。カルチャーシーンという彼の出自がエースに与えた重要な点としては「主語が当事者としての自分であること」「仲間と共有する価値観を大切にすること」「変化や進化を常とすること」等にあると想像できます。

端的に言ってしまえば、エースが行った重要な変革は自分たちがずっと居たい場所を追求することで、「作り手」と「使い手」を一致させ、ホテルをつくる主体を「コミュニティ」へと拡張したこと。そのような極めて主観的な世界観を、ホテル業界という堅苦しいフィールドに、絶妙なバランス感覚によって持ち込んだことで、ラグジュアリーなハイブランドホテルを好む層ではなく、クリエイティブでローカルなカルチャーを愛する情報感度の高い旅行者たちの支持を得ることに成功しました。

自分や(広義の)友人のための「居心地のいい場所」を仲間たちと一緒に作り上げることで、「作り手」であり「使い手」でもある関係性によってつながった人々による独自のコミュニティが形成されることになります。そのような視点から見ると、彼らのアプローチは「ホテルをつくる」というよりも、「場をつくる」という感覚のほうが近いのかもしれません。

世界が誤解するエースの本質的魅力

エースホテルと言えば、個性的で象徴的な1Fのラウンジ/ロビー空間、豪華ではないがセンスのいいインテリア、ローカルコミュニティの交流の場となるカフェの併設、部屋に備え付けられてるレコードプレーヤーといったものが「記号」とした語られがちですが、そうした「記号」だけを観察したところで、そこに込められた本当の意味を読み解くことは難しいかもしれません。このことが、エースホテルの真価に対する誤解を生んでいる最も大きな理由かもしれません。

創業者アレックス・カルダーウッドは、自分たちのことを「カルチュラル・エンジニア(文化的技術者)」と称し、自分たちがつくるホテルのことを「文化的触媒」と表現しました。それこそがエースの本質的な価値であり、ローカルの文化やコミュニティを巻き込みながらホテルという場のためにつくりだすインテリアやアート等は、その合理的結果の断片でしかありません。

だからこそ、世界の各都市につくられるエースホテルは、それぞれの異なる表情を持っています。それは、関わるコミュニティや作り手が異なるからであり、インテリアを担当するチームも違えば、ホテルのロゴすらも変えてしまうという潔さ。しかし、そうした価値観や世界観を「ACE」というひとつのブランドとしてまとめあげ、しかもそれを創業者が亡くなった後にも適切に引き継ぎ、むしろビジネス面ではさらに成長させてきたという点が、さながらスティーブ・ジョブズ亡き後のAppleのように、非常に稀有なブランドだと言えます。

カフェ存在の意味と価値

さて、もうひとつ深堀りする必要がある重要なテーマが、「ホテルの1Fにどのような意味を込めるのか」ということです。

ここまで考察してきた手法によって場をつくることで、協働した仲間やその知人たちが自然とエースホテルに集うようになります。そうしたローカルのコミュニティが出入りする空気を上手に醸成することで、旅行者たちはエースホテルの入口からロビーに入ったその瞬間から、居心地のいいローカルな人々の空気を目の当たりにし、そこを自分のホームのように感じられるというスペシャルな体験をすることになります。だからこそ、ホテルとしての価値を上げることができます。

エースホテルの1Fにカフェが併設されており、ロビー空間でコーヒーを飲んだり友人と雑談したりできるようオープンなスタイルで1Fロビーがデザインされているのも、そのような「体験」をシステムとして有機的に機能させるための重要な意図と意味を持っています。そのような視点から見れば、ローカルなチームやクリエイターとのコラボレーションやクリエーションが、エースというブランドの価値を成立さえる上で極めて重要な要素であることが理解できると思います。

こうしたユニークなシステムがきちんと機能することで、結果的にエースホテルというブランドは、ラグジュアリーホテルブランドとはまったく異なる価値軸での「わざわざ泊まりに行きたいホテル」という評価を得ることになつがっていきます。この全体性こそが、エースホテルの真の革新であり発明であると考察することができます。

唯一性と再現性の間で

エースホテルが、再現性のないモデルであるとすれば、しっかりとした評価額での買収につながらないのではないでしょうか。つまり、エースのビジネスモデルは、一見して特殊性の塊のようでありながら、論理的に展開可能なビジネスモデルであると認識されていると考えることができます。

ここまで考察してきた視点こそ、彼らのような文化をビジネスへと発展させ、文化的価値を損なわずに経済的価値を成長させていくためのひとつの答えであるとも言えます。時代が転換点を向かている現在、多くの不動産業やホテル業は、足元のプロジェクトに向き合いながらも、実際のところ次世代の事業のカタチを必死に模索しています(特に10年後20年後の都市の姿をつくっていく必要がある若い世代は)。

今こそ、単一のブランドの話に終始するのではなく、これからの時代に本当の意味で必要とされるような、そして心から人々の心を動かせる文化を創造するような事業やブランドの在り方について、本質的に向き合うべき時なのではないかと思います。このような視点でのブランド考察を、「ブランド進化論」というシリーズにて、今後もできるかぎり言語化していきたいと思っています。

そして、同様のビジョンや価値観を持つ仲間同士で視点や知識を共有し、未来への道程を拡張していくことができたら嬉しいです。共感していただける方がいれば、不動産業界の方やクリエイション業界の方だけでなく、領域問わずともに考えてければと思っていますので、気軽に301にご連絡ください(info@301.jp)。

おまけ

エースホテルの本質という視点で、日本での類似例を考えると、兜町の「K5」は思想として近しいですし、手前味噌で恐縮ですが301プロデュースの池尻の「大橋会館」も本記事で考察したような思想・手法の影響を強く反映させてつくりました(大橋会館の挑戦についての詳細はこちらの記事を参照)。また、地方に続々と誕生している1Fにローカルなカフェが入るホテル等も近しい文脈にあるように思います。

このような視点を大切にしたホテルや複合施設が、これからも世界でも国内でも増えていくことを楽しみにしていますし、自分たちもそうした未来へ向けてブランディングやクリエイティブの仕事に取り組んでいければと思っています。


301のサービス内容および料金プランについての詳細資料は、以下のバナーからダウンロードできます。案件依頼を検討されている方はご覧ください。

いいなと思ったら応援しよう!