Noah’s Ark

理性をひっくり返す,思索の方舟

普遍人権論をつくる

普遍人権論をつくる——強制存在による権利の基礎づけ 出生とは「同意なき」存在の強制である.この否定しがたい事実こそが,本稿の議論の揺るぎない出発点となる1.私たちは例外なく,まったくの偶然にこの世界へ「投げ出されて」いる(被投性)のであり,この事実は主にハイデガーやサルトルらの実存主義によって公然のものとなった. つまり,我々はこの被投性によって存在せざるを得ず「実存は本質に先立つ」のである.これは「人生に本質や意味などない」という絶望を引き起こす一方で「主体的かつ自由な意味の創造」という希望をももたらす.悲観的な解釈と楽観的な解釈の二重性が生じているといえる. ここまでは既存のよく知られたクリシェだ.しかし,私は主体の存在に関して,新たにもう一つの「被投性の二重性」を提案する.「被投性」は意味の不在を告げるだけではない.同意なき起源という事実は,他者・社会側に予防・補償・救済の相関義務を即時に課し,当事者側には最小請求権を与える.本稿ではこの転回(絶望からの請求権)を主張する. これは,実存主義が突きつけた形而上学的な問いを,私たち全員が当事者である社会的・政治的な権利の問いへと着地させる試みでもある.個人の内面的な意味の探求だけでなく,他者と共に生きるための制度的な基盤そのものを,私たちの最も根源的な存在条件から導き出す. 被投性の二重性 一方で被投性はその非同意性という点から反出生(生殖)主義の一つの理路としても使用される.つまり「出生は存在の強制なのだから,生殖は非倫理的行為でありすべきでない」と結論づける(これは反出生主義の1パターンにすぎない).我々は,自ら選んだわけではない身体,環境,社会などすべての中に否応なく置かれ,必ずしも快楽や楽しみだけでなく,不可避の苦難を引き受けさせられる.この「生の押し付け」という事実に着目するならば「このような行為(生殖)をこれ以上繰り返すべきではない」という結論は,確かに強力な説得力を持つ.しかし,私の関心はもはやこのルートにはない2. 実存主義による被投性の二重性と対応させる場合,先程の反生殖という結論は被投性の「悲観的な」解釈に該当する.しかしながら,冒頭の議論と同様に,解釈変更すれば次のように結論することもできる. まさに我々が「同意なく存在させられた」からこそ,我々は社会に対して最も強力かつ根源的な道徳的要求を行う権利・請求権を得るのではないか.もし仮に我々が「生まれることに同意した」のであれば,その生に伴う苦難は「自己責任」とみなされうる3.しかし,事実として我々は同意していない.だからこそ,我々はみな例外なく権利をもつのである. これが新たな楽観的解釈にあたる.すなわち,悲観/楽観の2通りの解釈余地があるのだから,実存/出生という2軸でできる4マスのマトリクスのうち3つだけが埋まっていて残り1つが埋まっていないのは奇妙なことであり,私の思考余地はその1マスにある. 絶望的読解 希望的読解 実存 意味の不在 主体的創造 出生 反出生=停止 本稿=最小保障 重要なのは同意がないという一点が,反出生では「停止の根拠」に,ここでは「保障の根拠」になるという非対称である.停止は将来の行為領域に限られるが,保障は既存者と不可避の将来者を同時にカバーすることができる. 以下の章では,この「1マス」が権利の普遍性を担保するにあたり理論的に極めて有用であって既存の権利論を再構築できること,そして他の原理や既存の議論を加えることで実践的な倫理学としても必要十分な説明が可能になることを示す. 強制存在原理(FEP)と2つの原理 以下では一般的な主体について成り立つ公理を「任意の人に対して」という形で提示するが,実際には一般主体について成り立つ. 公理1(非同意性) 任意の人は,自らの存在に関して事前の同意を与えていない. 公理2(退出不可能性) 任意の人は,この世界からコストなしに退出できない.4 公理3(リスク賦課) 任意の人は,自らの存在によって何かしらリスクに晒される. また,以下の一般原理が成り立つ. 原理1(ブリッジ) 任意の人$x,y$に対して,$x$が$y$に同意なく避けがたいリスクを賦課し,それがコストなしに解消できないならば,$y$に対して$x$は補償・救済の義務が生じ,$y$はその権利を得る.5 以上の公理1~3と原理1から以下を得る. 強制存在原理(Forced Existence Principal) 任意の人は人権(最小請求権$R_{\mathrm{min}}$)を有し,社会および制度にはそれに対応する義務が生ずる. この原理(以下FEP)により,権利の普遍性が成り立ち,その閾値が定まる. ただし,ここでいう最小請求権とは,道徳的・法的な完全権利体系すべてではなく「この世界に投げ入れられた者が最低限,自由な本質形成に着手できるための」基礎的なバンドルであり,具体的な内容については実務上の政策設計段階で柔軟に決定すべきである(予防,補償,救済,参加の4軸で設計する6).しかしながら,現行の生存権・身体の自由・表現の自由・請願権などの基本的人権は十分うまく機能しており,$R_{\mathrm{min}}$をカバーしているものと考えられる. もちろん,最小権利束$R_{\mathrm{min}}$の内容をどうやって決めるかという具体的な方法論は残る.しかし,ここでも私たちの出発点である「被投性」が有効な指針となる.哲学者のジョン・ロールズが提唱した「無知のヴェール」の思考実験と同様に,自分がどのような境遇に「投げ込まれる」か分からない状態で万人が合意するであろう最低限の保障こそが,$R_{\mathrm{min}}$の核となるべきだろう.これにより,恣意性を排した公共的な決定が可能になる. ただし,$R_{\mathrm{min}}$やそれ以上の権利の決定にあたっては以下の原理に従うものとする. 原理2(応答的責任) 保障されるべき権利の具体的な「内容」は,その存在が持つ固有の「生の様態」に応じて決定されなければならない. この原理にしたがって,権利自体の質を決定する7. 原理3(直接的責任) 我々が負うべき責任の強度および性質は,我々がその存在の誕生と生のあり方に対して,どれだけ直接的または意図的に関与しているかに依存する. この原理にしたがって,権利保障の強度およびその範囲を決定する8. 既存の権利論との相違点 既存の人権論は 理性や言語能力を根拠とするもの 自律性に訴えるもの 功利主義的に快苦を考慮するもの 権利は天賦とするもの ケイパビリティを根拠とするもの の大きく5種類に大別できる. ...

10月 14, 2025

院試体験記

院試合格体験記 @nosaercによる,東京科学大学 情報理工学院 数理・計算科学系 B日程(内部大の外部系受験・2026年度入学・2025年度受験)についての記録です. 試験の概要 数字は正確な値ではなく概数値です.公式な数値は必ずあなたが受験する年度の募集要項を確認してください.募集要項にはすべてが載っています. 数理計算科学系B日程では,8月の中旬ごろに3時間半の数学の試験を受験し,その結果により面接の受験可否が発表されます.そして試験の翌週に口頭試問が行われ,数学100点,英語(TOEICのスコア)20点と面接の出来で合否が決まります. 数理・計算科学系修士課程の受け入れ定員は約50名です.A日程では10~15名程度が受験し,そのうちほとんど全員が合格します.つまり,B日程の定員は約40名です.受験番号の数から,概ね筆頭試験の受験者数は80~100名前後であるため,B日程のみの倍率は2倍程度です. また,全体の受験者数は100名前後であるため,全体の倍率は2倍前後で推移しています. 筆者の概要 科学大理学院物理学系.数学や哲学など好きな分野の講義には全力で取り組むが,物理学系の専門科目などは必要な単位が取れればOK.合間を縫って系外科目を19単位取得. 期間 GPA GPT 専門GPA 教養GPA 通算 2.97 3.25 2.84 3.11 1年次 3.14 ——- 3.90 3.10 2年次 2.90 ——- 2.86 3.00 3年次 2.68 ——- 2.56 4.00 4年前期 3.28 ——- 3.28 ——- 勉強方法 まず,4年前期までに以下の科目を系外履修して勉強し,単位を取りました. 代数学概論第一(数学系) 環論(部分環,体,剰余環,整域,イデアル) 代数学概論第二(数学系) 環論(準同型,ED,PID,UFD) 確率論基礎(数理計算科学系) 公理的確率論(測度論はスルー) 幾何学概論第一(数学系) \(\mathbb{R}^2,\mathbb{R}^3\)上の曲線論 幾何学概論第二(数学系) \(\mathbb{R}^3\)上の曲面論など 位相空間論第一(数学系) 集合論 位相空間論第二(数学系) 順序,Zorn,距離空間 オートマトンと数理言語論(数理計算科学系) DFA,NFA,正規表現,文脈自由文法,PDA,ポンピング補題 数理論理学(数理計算科学系) 一階述語論理(自然演繹)の健全性と完全性,直観主義論理,様相論理,不完全性定理 加えて,物理学系の講義(物理数学III)と数理計算科学系の講義(代数系)で群論を勉強しましたが,途中からサボりました. ...

9月 21, 2025