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インフラ老朽化対策の切り札「省インフラ」 優れたアイデアを生む「施設と機能の分離」とは

<情報工場 「読学」のススメ#146>『インフラ崩壊』(根本 祐二 著)
インフラ老朽化対策の切り札「省インフラ」 優れたアイデアを生む「施設と機能の分離」とは

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高度成長期に整備されたインフラの老朽化対策は喫緊の課題

これから3月にかけての年度末は、都市部や都市郊外では、街のいたるところで道路工事が目立つ。よく言われる「余った予算を使い切るため」という解釈は、正確ではないようだ。実際には、単年度主義の予算の中で、もともと工期を3月末までに終わらせる計画を立てていることが多く、着工までの準備期間が長かったりすると、1月から3月にかけて本格的な工事が行われることになるのだという。

ということなので、必要もないのに無駄に道路を掘っているわけでは決してない。ましてや、今年は多くの人が、とりわけ地下に埋まっている水道管などの点検・修理のための道路工事には、温かい視線が注がれるのではないか。およそ1年前に埼玉県八潮市で起きた、犠牲者も出した大規模な道路陥没事故の記憶があるだろうからだ。

インフラ老朽化は多くの人の生活の質を毀損するだけでなく、時に命にもかかわる。インフラ整備がピークを迎えた1970年代の高度成長期や、80年代のバブル期からかなりの年月が経った今、その対策は行政にとって喫緊の課題だ。解決のための指針として「省インフラ」を主張し、複数の事例を挙げながら具体的方策を提言するのが『インフラ崩壊』(日経プレミアシリーズ)だ。

著者は東洋大学名誉教授兼国際PPP研究所シニア・リサーチパートナーの根本祐二さん。この本では、「インフラ」の定義を、公共施設と土木インフラの総称としている。公共施設とは、役所の庁舎や消防署、警察署、学校、公営住宅、公立病院、図書館、公民館などの建築物であり、土木インフラは道路、橋りょう、トンネル、ダム、水道、下水道、公園、港湾、河川施設、空港、治山治水などを指す。

「そこでなくてもかまわない」施設を減らしていく

「省インフラ」とは、インフラを必要に応じて、あるいは予防的に点検・修繕するのに加えて、「必要最低限に減らす」という考え方を表す造語だ。老朽化対策が求められるインフラが減れば、コストも小さくなり、その分、絶対に必要な対策に力を注ぐことができる。

インフラをただ減らすのではなく「必要最低限に」というのが難しいところだ。現状の機能を大きく損なうことなく、住民の生活の質に多大な影響を与えない線で「減らす」には、いろいろな工夫が要る。

公共施設と土木インフラにはそれぞれ異なる機能と特徴があるので、各々に合った省インフラ策が求められるという。根本教授は、公共施設については「施設と機能の分離」を対策の方向性の一つとして主張しているのだが、これには目からウロコが落ちた。

公共施設は、あくまで公共的な活動を行う場所であり、施設そのものが公共的であるわけではない。つまり、公共的な活動は、そのほとんどが公共施設でなくてもできる。たとえば、地域の問題を話し合う、住民による「集会」は、もちろん公共的な活動だ。しかし、それを実施するのは、専用の集会所でなくてもいい。庁舎の会議室、学校の空き教室でも可能だ。なんなら物理的な建物を使わずとも、オンライン会議で代用できるかもしれない。

「施設と機能の分離」とは、上記のような、機能を発揮するのに「そこでなくてもかまわない」施設を減らしていくことだ。異なる地方公共団体同士が共同で施設を設置する「広域化」、民営化や民間施設を利用する「ソフト化」、複数の施設を統廃合する「集約化」、地域住民と学校の生徒などが同じ施設を共同利用する「共用化」、別の施設に機能だけを移転する「多機能化」などの方策が挙げられている。

土木インフラに関しては、機能を分離できないケースがほとんどだ。水道インフラを配電・配ガス網で代用することはできない。なので「量を維持して費用を削減する方法」を基本とし、効率的な保全の方法を検討する。

あるいは、公共施設と土木インフラ共通の対策として「施設やネットワークを使わない方法」も提案されている。たとえば、ネットワークを使わずに必要な場所に個別に提供する「分散処理」。再エネ電力の「地産地消」の取り組みなどがこれにあたるのだろう。さらに、たとえば移動図書館のようにサービスを配達する「デリバリー」、デジタルな手段を使う「バーチャル化」などがある。

全域の住民の利便性に配慮した「串と団子のコンパクトシティ」

「施設と機能の分離」の一つとして「移転・集住」も、省インフラの具体策に挙げられている。コンパクト・シティと呼ばれる、狭い地域に都市機能、公共機能を集約して、住民にサービスを「届ける」のではなく住民の方に移動してもらう方策だ。

コンパクトシティの成功事例としては、富山県富山市の「串と団子のコンパクトシティ」が紹介されている。一カ所をコンパクトシティにして機能をまとめるのではなく、数カ所拠点(団子)を設置し、それらの間をバス路線や鉄道といった公共交通網(串)で結ぶ、という政策だ。

富山市の場合、中心市街地であるJR富山駅周辺は市の北部にあり、南端の長野県境からはかなりの距離がある。もし富山駅周辺のみをコンパクトシティにすると、長野県境の、引っ越さない住民の利便性は著しく下がり、移住を考える住民は、どうせ引っ越すなら、と他の大都市圏への引越しを選ぶ可能性が高くなる。そこで、コンパクトシティ化を複数拠点に分散させ、市の全域の住民に利便性に配慮したとのことだ。

インフラ老朽化対策というと、得てして、どのようにしてリスクのある箇所を見つけ修繕していくか、といった「インフラそのものを見る」視線になりがちだが、インフラを使う住民の立場になる姿勢が何よりも重要なのだろう。

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『インフラ崩壊』
-老朽化する日本を救う「省インフラ」
根本 祐二 著
日本経済新聞出版(日経プレミアシリーズ)
296p 1,210円(税込)
情報工場 「読学」のススメ#146
吉川清史
吉川清史 Yoshikawa Kiyoshi 情報工場 チーフエディター
「省インフラ」という言葉は、言うまでもなく「省エネルギー(省エネ)」にかけたものだが、省エネと同様に、新しい産業を生み出すものであり、日本経済の発展に資するものであると著者は述べている。付け加えるならば、省エネと同じように省インフラでは、ユーザーである住民一人ひとりの意識変革が求められると思われる。たとえば「施設と機能の分離」で公共施設の代替案が示されたときに、従来の施設にこだわらず柔軟に考え、案を受け入れる。もしくは、いろいろな代替のアイデアを住民の側からも出して、前向きな話し合いをする。省エネもそうだが、省インフラは単なる「我慢」ではない。行政や民間企業、住民が、省インフラをテーマに「共創」することで、画期的なイノベーションが生まれるかもしれない。

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