シリコンバレーの“食版”、新潟に作るプロジェクトが始まった
10年後の2035年までに“食”のスタートアップ企業500社を生み出すプロジェクト「新潟フードテックタウン構想」が始まった。IT企業を輩出する米シリコンバレーの“食版”を新潟県につくろうという構想だ。主導するオイシックス・ラ・大地は食産業が根付く地域性に潜在力を感じ、新潟を選んだ。地域の特色を生かしたスタートアップ育成のモデルとして期待されている。
オイシックス主導 モデルはシリコンバレー
「日本はおいしくて品質の高い食品を作れる。工場で生産した食品もおいしい。国際的に競争力があるはずであり、食産業クラスターをつくりたい」。オイシックス・ラ・大地の村田靖雄氏は、新潟フードテックタウン構想の狙いを語る。これは同社の高島宏平社長の思いだ。
“食産業クラスター”のモデルが米国にある。シリコンバレーがある米カリフォルニア州ではビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズなど、食のスタートアップが次々と誕生している。また、米国には食産業に投資するベンチャーファンドが400社あるという。スタートアップというとITやバイオ、環境分野が思いつくが、食分野も有望だ。
高島社長が食産業クラスターの候補地を探していると、オイシックスが新潟市を本拠とするプロ野球2軍球団の経営に参画することになり、新潟の潜在力に気づいた。
亀田製菓やブルボン、岩塚製菓、サトウ食品、一正蒲鉾など、県内上場企業の4分の1を食品メーカーや食品スーパーが占める。未上場でも全国的に知られた食品会社が多い。また、コメの収穫量は全国1位、酒蔵の数も1位だ。農業関係の大学、公立の農業・食料の研究所もある。
コメだけでも大きな可能性を秘めている。小麦粉のグルテンを含まない「グルテンフリー」に基準を設けている欧米では、米粉製品のニーズが強い。こうじも砂糖代替として注目されている食材だ。
すでにオイシックスは、食のスタートアップ支援の実績もある。同社は19年、食に特化したコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を立ち上げ、セブン&アイ・ホールディングスやモスフードサービスなど食関連を中心に19社から総額42億円の出資を受けた。そのCVCはすでに39社に投資した。
国内有数の米どころ、高い潜在力 「まず成功事例を」
CVCを通じ、スタートアップが出資企業から原材料を仕入れたり、出資企業がスタートアップの商品を販売したりする協業が生まれた。「出資企業がスタートアップを育て、盛り上げる成功体験を得られた。新潟でも応用できる」(村田氏)と自信をみせる。
オイシックスは、新潟総合学院などの教育事業を展開するNSGグループ(新潟市中央区)と共同で「フードテックタウン新潟構想」を始動。地元の企業や金融機関、行政、教育機関なども賛同した。24年12月、25年4月の2回、新潟市内でキックオフイベントを開いた。このイベントでは県内外のフードテック8社が事業内容を発表。その後、参加者はチームに分かれて企業、行政、教育機関がそれぞれの立場からスタートアップ支援のアイデアを出し合った。スタートアップも議論に加わることで「その場でつながり、取り組みがスタートできる」(村田氏)ことを目指した。
オイシックスの新潟フードテックタウン構想推進室の吉田美穂コミュニティマネージャーが、スタートアップと地域をつなぐコーディネーター役だ。少量の生産からでも対応できる工場や試作品を販売してくれる店舗の紹介、新商品の開発や分析の相談ができる関係性を構築する。スタートアップ500社創出に向けた第一歩を踏み出したが、「まずは成功事例をつくることが大事。日本の食産業を世界に羽ばたかせたい」と思いを語る。
新潟県は長野県とともに6月、内閣府から「スタートアップ・エコシステム拠点都市」に選ばれた。新潟フードテックタウン構想にも追い風だ。全国各地に地域に根ざした産業や文化がある。他の地方都市でも、地元の特色を生かしたスタートアップ創出の可能性がある。