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「ダイヤモンド半導体」世界初の社会実装など…材料ユニコーン生み出す国家プロジェクト、異例の事態も

「ダイヤモンド半導体」世界初の社会実装など…材料ユニコーン生み出す国家プロジェクト、異例の事態も

世界初の300℃環境下でも動作可能なダイヤモンド半導体増幅回路(大熊ダイヤモンドデバイス提供)

基礎研究から実用化まで数十年単位の時間がかかる材料分野からユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)を生み出す国家プロジェクトが進んでいる。率いるのはベンチャーキャピタル(VC)の代表だ。アカデミアの常識は通用しない。大学発ベンチャーが採択されても、親元の大学は落選するといった異例の事態が起きている。(小寺貴之)

VC代表が目利き役に

「プレAラウンド(事業本格化の前段階)で民間から約40億円を調達した。思っていたよりも大きな額が集まった」―。ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI、東京都中央区)の木場祥介社長は目を細める。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のプログラムディレクターを務める。

SIPでは大熊ダイヤモンドデバイス(札幌市北区)がダイヤモンド半導体の開発に取り組んでいる。9億円を投じて世界初の社会実装を目指す。この国の投資が呼び水になり、プレAラウンドで40億円の資金調達につながった。木場社長は「国がユニコーン予備軍として認めている信用力は大きい」と説明する。

信州大学発ベンチャーのヴェルヌクリスタル(長野市)は工業団地上水処理向けに重金属除去材を展開する。インドネシアの地下水はカルシウムなどのミネラルが多い硬水だ。鉄やマンガンなどの重金属を除去するには他のミネラルはとらずに重金属のみを除去する必要があった。同社の材料は選択性が高く、寿命が長い。除去反応も速く、反応槽の体積を100分の1にできた。田中厚志社長は「タンクローリー車がドラム缶1本になる」と説明する。同社は材料をトンスケールで製造し実証を進めている。リプレース需要を狙って攻勢をかける。

事業化支援業務を公募 北大、落選も人材DBで採択

大熊ダイヤモンドデバイスが建設するダイヤモンド半導体工場(同社提供)

こうした大学発ベンチャーの事業化を支援するのは親元の大学だ。文部科学省事業などではベンチャーが研究開発事業に採択されると、間接経費として採択額の3割が大学に入る仕組みがある。

木場社長は「研究者が評価されると、自動的に支援部門にお金が落ちるのはなぜか」と疑問が湧いた。SIPでは事業化支援業務を公募することにした。大学の運営費交付金の削減分を競争的資金の間接経費で補うための仕組みだった。

木場社長は「ちゃんと戦略と計画を作り、支援能力を磨いてもらいたい」という。事業化支援を本業とするVCならでは発想だ。公募にすると大熊ダイヤモンドデバイスを支援するはずの北海道大学が落選した。

手前の円筒が新しい重金属除去システム。奥のタンクを代替(ヴェルヌクリスタル提供)

北大は1年かけて計画を作り、2年目には大手監査法人と並んで採択された。北大はベンチャーの成長段階に応じて必要な人材を集められるよう人材データベースを整備する。

信州大はベンチャーの無名期を国立大学の信用力で支える。海外の展示会では“水研究の信州大”を前面に出す。大学とベンチャーのブランドを戦略的に使い分ける。

支援業務の公募移行はSIPのガバニングボードが興味を持った。他のプログラムディレクターにも共有され今後は広がっていくと見込まれる。

文科省や経済産業省のベンチャー支援策との相乗効果も見込める。文科省は大学発新産業創出基金事業で経営人材のデータベースを整える。大学が事業開発経験者や起業経験者、弁護士などの人材情報を共有する。北大のようにベンチャーの成長に合わせて必要な人材を集められる環境が全国に整う。木場社長は「SIPから好事例を出していきたい」という。SIPは内閣府事業のため制約が少ない。常識に縛られない試みから、次の政策の種が生まれている。

日刊工業新聞 2025年01月16日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
幸か不幸か、確信犯かたまたまか、間接経費3割ルールにメスが入りました。SIPでは好評なので今後広がる可能性があります。内閣府と経産省vs文科省で綱引きして3割ルールがどこに落ち着くか。3-5年かけて徐々に3割ルールが形骸化していくということも考えておいた方がいいように思います。文科省としてつらいのは大学で寄附講座が増えていて、寄附は必ずしも3割ルールが適用されず、抜け穴のようにもなっている点です。そもそも運営費交付金の削減分を競争的資金の間接経費で取り返すという作戦が破綻していたのだと言われかねません。また研究者がいい研究プランを提案したら支援部門に自動的にお金が落ちるという仕組みは、VCから見たら違和感があって当然だと思います。VCは研究支援や実用化支援が本業で、そこに生き残りを賭けています。いい先生がいないとどうにもならないのは仕方がないですが、いい先生がいたら安泰というのは受け入れがたいものがあるのだと思います。いい先生をそろえた上で支援部門として競争力を磨く。それを公募に耐えられるくらいには説明可能にしておく。こう求めるのは当然といえるかもしれません。いずれにせよ好き好んで間接経費を払いたがる人はいません。文科省が綱引きしてくれている間に、大学は支援部門の競争力を見える化しておいた方がいいように思います。

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