この町で、僕はただの住人である
初投稿なので温かい目で読んでいただけると幸いです。
朝
とある空き地にある冷たい石の円筒の中で僕は目覚める。
背中を丸めていたせいか、体が少し強張っている。薄暗い隙間から差し込む光をまぶしく感じ、僕は大きく伸びをした。
円筒から出て、歩き始めた瞬間『チリン』という乾いた音が響いた。僕の自由を縛るものだ。この音が鳴るたびに僕の場所はすぐにバレてしまう。
そんな音を聞きつつ、僕はとある広場に向かった。すでに顔なじみの連中が集まっていた。誰も声を発さずにひたすらじっと待っている。僕も例に漏れず待っていた。
ふと広場の入口に見覚えのある小さな影と、その手を引く女の姿を見つけた。青い上着に黒いパンツ。今にでも泣きそうな顔が遠くからでもよく見える。
二人の姿が見えなくなったところで、広場の中心にいた奴が喋りだした。
「今日も点呼をとる! ルカァ!」
僕は名前を呼んだ奴に向かって歩く。
「はい」
「この前と何か変わったことはあるかァ?」
この集団のボス、ルーシーがニヤリと笑みを浮かべながら言ってきた。
「いえ、特にはありません。あぁ、そういえば向かいの山に、『妖を見た』と、ゴロウが言っていました」
僕は思い出して言う。
「ゴロウってのはどこのどいつだ? まさか別のシマの連中じゃねぇだろうな?」
その声と共に周りの連中がルカを一斉に見る。その目つきは獲物を狙う獣の眼そのものだった。
「いや、最近引っ越してきた外の者です」
「そうか。 怪しい動きがあったらすぐに伝えろ」
そして他の者にも同様に点呼をとっていった。
ゴロウは僕が最近知り合った友達だ。赤茶色の半袖にクリーム色の二色で揃えている。ゴロウは臆病な性格で人前に出ることはほとんどなく、今は家で寝てるだろう。
そんなゴロウとあったのは最近で僕が商店街を歩いてる時、裏道でゴロウがいじめられてたのを助けてから仲良くなった。なんでも最近こちらに引っ越してきたようで、この商店街で道に迷っていたら酔っぱらった連中に絡まれたそうだ。僕は彼を商店街から公園を案内し、山にある赤い門の場所を教えた。僕のお気に入りの場所だ。
そんなゴロウが一昨日に奇妙なことを言っていた。
「ルカ~、この前さぁ、教えてもらったとこあるでしょ? 赤い門のとこ。 そこで変な妖が出たんだよ~」
ゴロウが涙目で訴えてきた。唐突に言われたので体がビクッとする。妖が出たなんて今まで聞いたことがないし、ましてや一度も見たことがない。
「妖? 僕は一度も見たことないよ。どうだった?」
もし本当に妖がいたら見てみたいものだな。
「なんかね~、お昼ごろからお昼寝しててさぁ、夕暮れになったから帰ろうとしたら何か気配を感じてさぁ、振り向いたら木の上から黒い何かが僕を見下ろしてたんだよぉ。怖くてすぐ逃げ出したんだ~」
間延びした声をよそに僕は思考した。お昼に寝てる時は気づかなくて、夕暮れで気づくのか? 臆病な性格のゴロウが、妖が出るところで昼寝なんてできるわけないし、噓つくような奴じゃないのを僕は知ってる。
このまま考えても仕方が無いので後で寄ってみるか。
点呼と近況報告を終えたルーシーが解散を告げた。他の連中は足取り軽く、散り散りに見えなくなった。先ほどの緊張感はもうない。
一息ついた僕は、妖の正体を調べるために喧騒が満ちる商店街へ足を運んだ。
昼
周囲の声を煩わしく思いつつ、とある場所の前まで来た。筋骨隆々な魚屋のおじさんに適当に挨拶を済ませ裏口に向かう。
建物の隙間から光が差し込んでいる場所で、椅子に座りながら気持ちよさそうにのんびりしている女性がいた。
僕は看板娘のシマさんに話しかけた。
「お久しぶりです。四日ぶりぐらいですか。あの後は大丈夫でしたか?」
シマさんはこの町に十年以上住んでいる方だ。魚屋のおじさんに一目惚れしてからずっと一緒に住んでいるわけだ。
僕以上に、この町に詳しいハズだから、何か知っているかもしれない。
「久しぶりねぇ、ルカちゃん。あんな大きな竜巻、私も初めて見たわよ。全く大変だったわ~」
この町は山に囲まれよく突風が吹く。町の至るところで小さい竜巻をよく見ることはあった。だが、ついこの間は見たこともないほど、非常に大きな竜巻が僕の街にやってきた。
「近所のイノウエさんも突然竜巻が来て、急いで洗濯物を取り込んだけど、何枚か飛んでいったらしいわよ~」
体が浮くほどの風が吹いた記憶を僕は思い出す。円筒の中で横から水の殴打を、ひたすら受け続けていたな。天から怒号が聞こえ、近くにいた動物と身を寄せ合って、時が過ぎるのをひたすら待っていた。自分より小さい子を中心に守りながら、時折身震いして体温を高く保っていた。その瞬間だけは、種族を超えたキズナを体感した。
暴風が過ぎ去り、小振りな雨になった頃、皆それぞれ帰路に就いた。僕は皆を見送った後、もう一眠りした。
僕が種族を超えたキズナを感じ感慨に浸っていると、シマさんも竜巻の日に何が起きたのか教えてくれたのだが、話が全然進まない。ことあるごとにシマさんの好きポイントを細かに説明される。魚屋のおじさんが護ってくれたとか、安心して眠れるまで一緒にいてくれたとか、惚気話が主体になってきたので僕は話を切り替えることにした。
「そういえば気になることがありまして、妖を見たと僕の友人が言っていたんですけど、この町では妖や霊といた類は出たことありますか?」
いきなりこんな話をしていいものか躊躇したが、ゴロウの謎を解くためには聞かなければいけない。案の定シマさんは驚いた表情を見せたが、教えてくれた。
「妖や霊は聞いたことがないけれど、山の中には神様が住んでいるっていう伝説はあるわよねぇ。大昔に山の神が人間に興味を持ち、人間に扮して暮らしてた。っていうのを聞いたわよ~」
この町にそんな伝説があったとは。
話を終えた僕は魚屋のおじさんに挨拶をする。おじさんが食えと言わんばかりに鮮魚を強引に持たされた。
魚の独特の臭みに耐えながら、僕は魚屋を後にする。
港沿いを歩いていると、小太りのネズミが目の前に現れた。
こちらに気づき、持っていた魚を見て不敵に笑う。ここら一体のボスネズミなのだろうと結論づけ、お互いに臨戦態勢をとる。
一瞬の沈黙の後、『チリン』という音に合わせ、こちらに向かって一直線にネズミが走り出した。小太りなのに速い!
小型戦車を思わせる巨体はお肉を揺らして僕に襲い掛かる。
僕は咄嗟に身を翻し、すんでのところで躱す。
突進したネズミはそのまま弧を描くように、もう一度僕の方に向かって走り出す。
今度はジグザグ走りで僕の隙を狙う作戦だが、僕も前に向かって走りだす。
ぶつかる瞬間、お互いの顔が真横にある。僕はすかさずパンチを繰り出し、見事クリーンヒットする。僕の手は小太りネズミの横腹に沈む。勝ちを確信したのも束の間、持っていた魚の一部をネズミに噛みちぎられてしまった。
三分の一が無くなり、落とした魚を残念に思いながら、ネズミを見返すと満足したように去っていった。残った魚を見つめ、力なく笑うしかなかった。
一安心した時には、手元の魚は消えていた。それは一瞬の出来事だった。
落ちた魚を拾い上げる刹那、猛スピードで目の前を通り過ぎ、鋭い爪で魚を一掴みにして飛び去る鳥の姿を見た。魚の肉片を一瞥し、過ぎ去ったトンビに悪態をつき僕は山へ向かった。
ゴロウが言っていた妖の出る場所についた。赤門の周辺を軽く散策してみる。
まず目に付いたのはゴミ。切れた布や筒状の箱、ガサガサ鳴る不思議な生き物。竜巻の影響でそこかしこに落ちている。そして木々。折れている枝があり、ついている葉は生気がないように思えた。
赤門の奥で風に吹かれ、響きわたる音がした。『カランカラン』と鳴く声に耳を澄ませば、周りのものが見えてくる。古い木の建物は街にある建造物より劣化して、遠くで微かに聞こえる水の音に、一呼吸すれば透き通るような空気の味が鼻を通り抜けて肺に溜まる。
あぁ、こんなにいい場所なのに、今まで知らずに昼寝をして過ごしてたことが悔やまれる。
赤門近くの倒れていない木に寄りかかり、まばらに差し込む日の光を浴びながら、僕は少しだけ休憩をすることにした。
夕
空が薄くあかね色に染まり、木々が風に揺られカサカサと鳴る。
僕は目を開け、体を捩じりながら背を伸ばす。溜まっていた空気を吐き出し、一呼吸置くと、来た道を戻った。
舗装された道を歩くと、石の塔の上でカラスが集合の合図を送っている。周りに寄ってきたカラスの仲間が、合唱をしながら山の中に飛んで行った。
裏道に入って突き当りの石壁で囲われた家にたどり着く。この町に来た時からお世話になっている家だ。一日ぶりに戻ってきた。
門をくぐると右側に大きな木が聳えている。木の下から食欲をそそられる匂いがしていた。木製の折り畳みテーブルと、同じ素材で作られた椅子に座り、お皿の上に置かれている物を見る。
まず目に飛び込んできたのは、まだほんのりと温かみのある焼いた魚だった。湯気こそ出ていないが、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。僕のお腹が、グルル、と声を上げる。
左側に顔を向けると小皿の上に、粉々に砕かれた「砂」が置かれてあった。思わず顔をしかめたが、そこから微かに甘い匂いがしてくる。おそるおそる砂を一舐めしたら、見た目に反し意外においしかった。
出されたご飯に「いただきます」と感謝して、僕は食べ始めた。
食事中にテーブルから家の窓に目を向けると、一人の主人と目が合った。だがすぐさま向き直り、手元の編み込まれたシートのようなものと格闘し始めた。巧みに棒を使い、何かを編んでいるようだ。
食べ終わったときに、はじめて周りでガヤガヤしていることに気づいた。
見知った顔から知らない顔まで家の周りで何か話し込んでる。その中には先ほどの主人がいた。
「#&%$*?。@※○△……」
聞き取れずにいたその声は、寂しさと悲しみを含んでいた。僕の主人よ、そんな顔をしないでくれ......。
主人が家を飛び出すと同時に、僕も走り出す。
今考えてみればおかしなことがあった。今まではご飯を食べるときは、必ずと言っていいほど幼子の姿があった。だが今日はいなかった。家の中にいるものだと思ったが、よく聞く甲高い声は聞こえずにいた。どうして僕は忘れていたんだろう。
鼻に意識を集中して匂いを辿ろうとするが、何も感じることはできなかった。主人のマネをして僕も大声をだし、幼子を探してみるが反応は無かった。
近くにいた顔なじみの連中が何事かと思って駆け寄ってきたので、事情を説明する。
「そういうことならだった俺たちも探すぞ!」
快く引き受けてくれたみたいだ。
「ありがとうございます。僕は北側を探してみるので、町の中を探してください」
「りょーかいした。おーい! ちょっと手伝ってくれ!」
周りにも声をかけてくれたみたいだ。僕は感謝を述べて、急ぎその場を後にした。
街の北には竹林が深く生い茂っている。カサカサと騒ぎ立てる音は、この場所に立ち入るなと言っているように聞こえる。
土と草の香りが幼子の匂いをかき消しているようだった。利かなくなった鼻引っ込め、代わりに声を精一杯上げ、幼子を呼んだが反応は無い。
竹林を透けた先には小高い丘が広がっており、頂上には、一本の巨木があった。
僕はその場所まで歩いていく。体を覆い隠すほどの草が視界を遮り、大きい岩石があちこちに散らばっている。うっとおしく感じているが、頂上に続く土の道を見つける。右へ左へとクネクネしたが、ようやく頂上の巨木にたどり着いた。
軽快な足取りで、次々に枝を飛び乗る。太い幹と枝は僕の体より一回り大きく頑丈だ。
最後の枝を登り、てっぺんから顔を出す。来た道を振り返ると、竹林が密集しており、その先に町が広がっていた。町全体に小さな光がぽつぽつと輝いている。何とも表現できない感情に胸がドキドキする。
今度は反対の北側を向いてみる。すると、果てしなく続く森が広がっていた。どこまでいっても光はなく、今にも暗闇が大地を飲み込もうとしていた。
空を見上げると、もうあかね色の名残などはなく、夜の帳が町を包み込んで、青白い月明りが地上を照らしている。
夜
僕はすっかり暗くなった巨木を降りて、北の森に入ることを決意する。
北からのそよ風を肌で浴びて、一歩を踏み出した瞬間に記憶の中にある匂いがよみがえる。幼子の匂いだ。しかし、匂いがする方向は南側ではなく北側の森からだった。
恐怖で踏みとどまる足を必死に前に出し、覚悟を決めて僕は森へ向かう。
暗い森の中は草をかき分けるので精いっぱいだ。空から落ちる少しばかりの光を頼りに、幼子を探しだす。大声も出すが虫たちの合唱に遮られてしまう。チッと舌を鳴らして走っていく。
遠くの方で何もないハズなのに、ふよふよと光の玉が動いているのがぼやけて見える。思わず光の方へ走り出したが、途中で足を止める。光の玉がはっきりと見える。それは、遠くの対象物を鮮明に映し出す、小さな太陽のようだった。今になり気づいたが、周りにもちらほらと光の玉を持ち歩いている連中がいた。
一種の不気味さを感じた僕は、そっと姿勢を低くする。ゆっくりと一歩、また一歩と後ずさる時、パキッと乾いた声が足元に広がる。自重で枝が折れた音だった。一斉に光の玉がこちらを照らす。視界が一瞬白飛びして何も見えなくなる。じりじりと、体が焼けるような感覚に僕は襲われた。
「%#! $+@﹀*︽#?」
後ろの方で何かを言っていたが、それよりも一刻も早くこの場から立ち去りたい。木や小岩にぶつかりながら一目散に駆け出していった。
今までは比較的整備されてた道を歩いてたが、今度は獣道を歩くことにする。よく考えたら、先ほどの場所も道が整っていたような気がする。
普通の道と違い、小さな段差が僕の行動をいちいち阻害してくる。斜面に生えた木や苔むした岩に飛び乗って、落ちないよう慎重に降りていく。
ふと、遠くの方で何か聞こえる音がした。音のする方向へ歩いていくと、少しづつはっきりと聞こえ、やがて現れた。流れる水と、視界にゆらゆらと映り込む月と星。
あたりは月明りと無数の小さな光源が僕を照らしていた。数秒ごとに点滅するその光は、僕の心を焦りから解き放ってくれる。
心の平穏を取り戻した僕は、小さな光虫に感謝しつつ、改めて五感を研ぎ澄ませる。
目で辺りを見回す。綺麗な情景が映し出されるが幼子の姿は映らない。耳はどうだ。サーサーと水の流れる音が鮮明に聞こえ、一種の安心感を届けてくれる。手足はどうか。足裏が砂利に刺さり、転んだらケガをしそうだ。手も同様だ。流れる水を舐めてみる。いろんな場所を走り回ったからか、体に染み渡る。鼻に意識を集中する。今の僕ならどんなものも嗅ぎ分けられる自信がある。ふと、どこからか懐かしいような、愛おしいような匂いを感じた。僕はこの匂いを知っている。探してる幼子のものだ! 僕は全力で匂いの元へ走り出す。
水を渡り反対側の森にきた僕は、一旦足を止める。何か聞こえたからだ。
一歩づつ慎重に歩き進めると、次第に声が聞こえてくる。今にも泣きだしそうな弱弱しい声の持ち主は、僕の目線の下にいた。朝に見た時と同じ格好だが、砂や泥であちこち汚れており、膝からは、乾いた血が薄く滲み出ているようだ。
体を丸めてうつむいている幼子を助けるために草から飛び出した瞬間、視界が一回転した。降りようとした時に、足を滑らせてしまった。
目を回しながら後ろを見ると、三メートルはありそうな土の崖がそびえたっていた。近くで崖を見てみると、削れた土が何ヵ所か刻まれていた。おそらく登ろうとして失敗したのだろう。
幸いどこも傷めずに済んだが、目の前の幼子はパチパチと目を見開いてこちらを凝視してた。
数秒の間、僕が声をかけるよりも早く、幼子が抱きしめてきた。
「*#✕△......〇&△✕$#?」
理解不能な言葉で泣きじゃくる幼子に体を預け、僕は空を眺めてた。木々の隙間から差し込む月明かりは、まだ僕らを照らしてくれている。
やがて落ち着いた幼子に、僕はそっと離れて声をかけてみる。一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、何とか立ち上がってくれたので、ついてくるように僕は伝えた。おそらく、巨木のあった小高い丘を目指せば、他の連中がいるのではないかと思う。今いる場所は水が流れる場所からそう遠くはなかった。草を超えて、迂回することになったが、幸い崖の周囲は緩やかな斜面とつながっていて、そこまで回り込む必要はなかった。幼子も後ろについてきてくれる。
僕らは先ほどの光虫の場所まで戻ることができた。来た時よりも、より一層光り輝いているように見える。幼子の顔を見ると口が開きっぱなしで、ひたすらその光景を目に焼き付けていた。
ほどなくして、獣道から整備された道へと下る。たまに後ろを見ては、幼子がちゃんとついてきているかの確認をする。森の中は一層暗く、幼子の歩くスピードが落ちてくる。僕は安心させるよう必死に声をかける。
少しずつ、だが着実にゴールが近づく。木々の隙間から巨木を見つけた。走りだそうとしたとき、細長い生物が草から飛び出した。
ここを抜ければ丘に辿りつくのに、目の前のヘビはそれをよしとしない。幼子は今にも泣きだしそうな目でヘビを睨みつけ、口を堅く閉ざしている。幸いヘビは僕を見ており、後ろの幼子は見ている様子はない。
ゆっくりとヘビに近づき、今日一番の唸り声を轟かせた。自分でもここまでの声を出せるとは思わなかった。ヘビと幼子は同時に驚き、僕は咄嗟に襲い掛かるがそれよりも速くヘビは尻尾を巻いて逃げ出した。こんなもんかと思い振り返ると、幼子が目をキラキラさせて僕を見てくる。少し照れくさくなりながら、僕らは薄暗い森をぬけた。
土の道に沿って巨木の近くに来ると、周囲は光の玉に包まれてた。さっきの小さな太陽が夜の丘を照らし、放射状に森や木を見つめていた。警戒すると、何個かこっちにやってきた。
「〇◇△%&@!?」
見知らぬ顔の連中が幼子と何か会話をしていた。
「※*+¥$〇✕......」
幼子の顔がだんだんと崩れ、やがて泣き始めた。その声で巨木にいる連中が集まってくる。
「@※*$%&〇! △◇〇✕+¥...」
幼子に抱き着いたのは見知った顔だ。僕の主人は泥だらけになりつつも、その手だけはしっかりと幼子を包んでいた。
僕は少し離れた巨木の下で空を見上げ座っていた。何やら遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「おーい! ルカー! あの子は見つかったのか?」
町の中で事情を説明した顔なじみ連中の一人だ。
「はい。見つけましたよ。手伝ってくれてありがとうございます」
僕は素直に感謝を述べると、するとニッコリと笑顔になった。
「そうか、よかったな! 他の奴らには俺が伝えとくからなー。」
あそこにいた奴らだけじゃなかったのか。これは今度お礼しないといけないな。
そう言って、また来た道を引き返していった。
一通り話し終えた後、皆で竹林を抜けて明るく光る町に戻ってきた。僕は最後尾で後をついてく。周りはガヤガヤして、少し嫌な顔を浮かべて空をみる。森の中にいた時の暗さはもうなく、視界に広がるのは、様々な形や色をした小さな光だった。
各々家に帰り、大所帯だった集団は、いつの間にか幼子と母親だけになっていた。
家に着いた母親と幼子は、一緒に家の中に入っていき、僕はご飯を食べた時と変わらずに置いてある、木製のテーブルの下に潜り込んだ。
体を丸め、目を閉じると一気に疲れが押し寄せてきた。
朝から点呼に呼ばれ、昼はネズミと格闘、夕方に走り回り、夜にヘビと格闘。あれ? なんか今日は、戦ってばかりだなぁ。
明日は、なにしよう? あぁ、ゴロウ...なぞ......解かないと。
朝
ジリリリリという音を聞いた京子は目を覚ます。体を起こして、枕元に置いてある目覚まし時計のボタンを軽く押す。重低音の重なりがピタッと鳴り止み、ようやく布団から起き上がり体を限界まで伸ばした。
昨日は大変だったわ、と心の中で思いつつ、台所に行き顔を洗う。
その後は旦那の健一を起こして朝食を作り始める。昨夜は息子捜索で何も食べてないので、三枚のパンを焼き始めると、お腹がキュルキュルと小さく鳴る。
旦那がダイニングテーブルに置かれた枝豆をつまみ食いし、着替えをしに部屋へ戻る。京子はため息をこぼしながら子供部屋へ行き、まだ寝ている息子、壮太の体をゆすって優しく起こす。
「ほら、起きなさい。今日も行くんでしょ? それとも休む?」
左右に揺られて目を開けた壮太。瞼をこすりながら答える。
「――行く」
園児服に着替え、ダイニングに行くと新聞紙を眺めながらコーヒーを飲んでいる健一が座って待っていた。
三人で食卓を囲み一斉に言う。
「「「いただきます」」」
食べ始めると京子が話し出す。
「聞いた? 商店街沿いの井上さん、台風で家が半壊したんですって!」
今度は、それを聞いた健一が話す。
「あそこの家は古いからね。井上さんが堅い人だから、中々建て替えなかったんだよ。もしかしたら、台風の影響でいろんなとこに、井上さんの所有物が落ちてるんじゃない?」
ページをめくりながらクスクスと笑う健一に、京子は二度目のため息を吐いた。そんな光景をまじまじと見ながら壮太は、ぼーっとしながらジャムパンを口に運び、もぐもぐ食べている。
完全に目が覚めた壮太は京子の手を引き、早くいこうと急かしてくる。軽く化粧を整えた京子は、玄関の扉を開け、庭に寝転がっている一匹の猫を見る。猫アレルギーの彼女は近くにいるだけで、クシャミと目のかゆみに襲われるため、常に一定の距離をとって、警戒しなければいけないのだ。ただ、ご飯を貰いに、一日おきで家にくるので、あわせて焼き魚とキャットフードを猫用テーブルの上に置いといた。
壮太はキラキラした目で、猫に向かって話しかける。
「ルカ!行ってくるからね!」
大きな声で言ったその言葉は猫の耳に入ったのだろうか。
ルカと呼ばれた猫は、顔を向けず眠たそうに返事だけをして、また眠りについた。
京子は壮太の手を引き、いつもの停留所まで歩き出した。一匹の猫が二人の前を横切り、公園の茂みへと消えていった。
完
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設定とかネタバレとか
・お化けの正体は井上さんの家の家財道具やゴミです。夕暮れの中で重なり合い、風で動いていました。
・「叙述トリック」を描きたかったのでこの話を作りました。文才はなく、いろいろ苦労しましたが書き終わると達成感があり、気持ちよかったです。




