M&Aの舞台裏 第1回 成長戦略としてのM&A~買い手企業が語る「決断の裏側」

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MSRweb編集部
M&Aの舞台裏 第1回 成長戦略としてのM&A~買い手企業が語る「決断の裏側」

 今回から新シリーズとして、自動車整備業界におけるM&Aをテーマにお届けします。第1回目は、成長戦略としてM&Aを活用している、東京都で90年以上の歴史を持つS社の事例をご紹介します。

 S社は東京都に拠点を構える自動車整備工場で、現社長が事業を引き継いで7年目、ある壁に直面していました。「引き取りや車検場への移動など、日々の業務に追われ、経営に専念できない状況でした」。

 周囲の経営者が複数店舗を経営しながら経営に専念している姿を見て、1社単独での成長には限界があると認識。都市部での新規出店は用地確保が困難なため、M&Aという選択肢が現実味を帯びてきました。

 S社が重視したのは、第一にエリア。従業員の通勤やシナジー効果を考慮し、自社から通える範囲を条件としました。第二に財務状況。決算書を精査し、健全な経営が行われているかを確認。そして最も重視したのが、譲渡企業の社長の人柄でした。「この方となら一緒にやっていける」という信頼関係こそが、M&A成功の鍵だと考えたのです。

 またM&Aで譲り受けた1社目はリース顧客中心の自社と似た営業構成でしたが、2社目では個人顧客を多く抱える企業を選択。事業の補完性を重視した戦略的な組み合わせで、現在4社を運営しています。

 M&A成立後、当日または翌日に必ず全従業員と個別面談を実施。「びっくりしたでしょう、不安ですよね」とフランクに不安を受け止め、「これから一緒にやっていくので、良いところは伸ばし、良くないところは直していきましょう」と共に成長する姿勢を示しました。「買収した」という上から目線ではない、この姿勢が従業員の心理的な壁を取り除いていきました。

 1社目の統合では約半年を要しましたが、会計業務を会計事務所に一括委託する体制を構築。現在では業務システムを全てクラウド化し、2社目以降の統合は格段にスムーズになったといいます。仕入れ情報の共有や工夫の「いいとこ取り」ができるのも、複数社運営のメリットです。

 3社目のM&Aの時にS社が活用したのは「LBOローン」という手法。受け皿となる子会社を新設し、その会社が親会社の保証で融資を受けて買収を実行。買収完了後、受け皿会社を譲渡企業に吸収合併させることで、融資の返済は買収した企業から直接行われます。この手法により親会社は基本的に自己資金を出さずにM&Aを実現できます。

 仲介会社の価値は「情報量」、「伴走支援」、「時間短縮」。特に業界に精通した仲介会社であれば、安心して情報を検討できます。「ある程度の報酬を払わないと、しっかりしたサポートは受けられない」とS社は断言します。

 そして最も重要なのは決断力。「結局、決断できないんですよね、皆さん。ここだと思ったら、行くしかない」。情報はライバルも見ています。このスピード感こそが、M&A成功の条件です。S社が掲げる目標は「経営者を100人作る」こと。M&Aは単なる規模拡大ではなく、人材を育て、組織を進化させる戦略でもあるのです。

(筆者プロフィール)
長谷川章義 株式会社フォーバル
信販会社の新規立ち上げに携わった後、独立して国内外に法人を2社設立。約9年間にわたり、経営者としてEC事業、医療事業、自動車事業などを展開。現在はフォーバルの事業承継支援部で、中堅・中小企業の次の一手をサポートしている。