医療過疎のラストワンマイルを埋める。ヘルステックと地域伴走型IT企業で挑む地方の健康づくり

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医療過疎のラストワンマイルを埋める。ヘルステックと地域伴走型IT企業で挑む地方の健康づくり

自治体や教育機関を中心に様々なITサービスを提供している中央コンピューターサービス株式会社の親会社であるシーシーエス・プラス・ホールディングス株式会社は、ウェアラブルデバイスを用いた健康管理システム「Sano(サーノ)」などを手がけるヘルステックスタートアップ、株式会社AreaJapanへ出資を行いました。

成約に至る前から、協業後の具体的な戦略について本格的な議論を交わしていたという両社。どのようなメリットを見出し、成約に至ったのでしょうか。グループ全体の投資・経営戦略を担うシーシーエス・プラス・ホールディングス代表取締役社長の谷田浩一氏と、同社取締役の川端康仁氏、AreaJapan代表取締役の神田真邦氏に、今回のプロジェクトを現場で実装・推進する中央コンピューターサービス社の視点を交えながらその経緯と決め手を伺いました。

プロフィール

シーシーエス・プラス・ホールディングス株式会社 代表取締役社長 谷田 浩一(たにた・こういち)

高校卒業後、ファッション業界を志して専門学校へ進むも、”とんだウェア違い”でソフトウェアの世界へ足を踏み入れる。IT業界へは進まず、建設業界で20年にわたり現場経験とキャリアを積んだ後、中央コンピューターサービス株式会社に入社。 当初は「生涯一営業マン」を志していたが、卓越した現場感覚や推進力が評価され経営を担う立場に。現在は「いなか×TECH」を掲げ、デジタルによる地域活性化に奔走。自力の限界をいち早く見定め、外部パートナーとの共創による地方創生の新たなモデル構築に尽力している。

シーシーエス・プラス・ホールディングス株式会社 取締役 川端 康仁(かわばた・やすひと)

大学卒業後、就職活動面接時の”なぜ?”の最適解を見つけられず、フルコミッション型の営業に従事。その後縁があり中央コンピューターサービス株式会社へ入社し、本社がある中標津町へ移住する。 入社以来、地域の人たちが未来に希望を持てるビジネスモデルをつくり、地域に貢献することを仕事の真ん中に置いており、ふるさと納税事業や教育ICT支援事業など主要事業の立ち上げにかかわる。 どこまでいっても主戦場は“田舎地域”であり、その価値を最大化することが目的である。 今後は、主要顧客である地方自治体に加え、大手からスタートアップまで多様な企業との連携、東名阪エリアとの連携を進めていきたい。地域の経済の循環をいま以上に進め、地域を豊かにし、地域に人が増える活動へつなげていく——次世代のための経済循環を、事業として実装していきたい。

株式会社AreaJapan 代表取締役 神田 真邦(かんだ・まさくに)

明治大学卒業後、近畿日本ツーリスト(KNT)に入社。在職中は一貫して修学旅行担当セールスマンとして、日々、学校回りに終始。 家庭の事情でKNTを27歳の時に退職し、家業の有限会社神田工業所に入社。 その後、青年会議所活動にのめり込み、38歳の時に富山県議会議員選挙に出馬。 以後、3期12年、富山県議として活動。これから本領発揮となる4期めの選挙で、不徳の致すところから落選。その後、51歳で単身上京し、株式会社Area Japanを設立。 現在、ヘルスケアの促進に猪突猛進中。 高校・大学とレスリング部に所属し、国体に5度出場したが、男同士の組み合いに嫌気がさし、大学卒業と同時に現役を引退。現在、明大レスリング部OB会幹事長を務めている。

広告代理店からヘルステックスタートアップに転身

――まず、AreaJapanの創業経緯と事業内容を教えてください。

神田:もともとはサービスエリアを運営する企業の広告代理店として創業し、台湾のあるサービスエリアの運営を担う予定でした。ところが、コロナ禍で収入がほぼゼロになったんです。頭を抱えていたところ、技術者の知人に「IoT事業の立ち上げを手伝ってほしい」と相談され、事業を大きく転換しました。

まず着目したのは、保育園という子育ての現場です。温度・湿度センサーやうつぶせ寝センサー、加速度センサーで、子どもの寝姿勢や体温、呼吸を検知してデータ化。子どもの健康を守りつつ、保育士の業務負担を減らすベビーテックシステム「PREMO(プレーモ)」を開発しました。

その開発プロセスで、第二のヘルステック事業の着想も得ました。サービス検証の一環で子育て中の母親のストレス値を計測したところ、自分の状態が可視化されたことを喜ぶ一方で、「結局、自分が健康か知りたい」という声が多かったんです。ビジネスチャンスを感じ、学術連携のもとで完成させたのが、ウェアラブルデバイスを用いた健康管理システム「Sano」です。

――順調な事業運営のように見えますが、資金調達を検討した経緯を教えてください。

神田:「Sano」の拡販に向け、大幅な機能改善が必要になったからです。

ある企業で社員の健康管理に使ってもらう中で、情報を示すだけでは行動変容につながりにくいと気づきました。日本では国民皆保険の影響もあって「病気になったら病院に行けばいい」という意識が根強く、生活習慣を改善する動機づけが弱い。また、企業が社員の健康状態を把握する設計では、社員が抵抗を感じやすいこともわかりました。

そこで、メンタルヘルスの指標となる自律神経バランスや、睡眠時無呼吸症候群・熱中症の兆候など、“本人が知りたい情報”を検知し、閲覧者を選択・制限できるようシステムをアップデートすることにしたんです。その資金を確保するため、自治体等の補助事業と並行して、経営者仲間に紹介された「資金調達クラウド」を活用することにしました。

“田舎テック”で地域に伴走するITパートナー

――一方、シーシーエス・プラス・ホールディングスグループの中央コンピューターサービスは、公共性の高いITサービスを展開していますね。

谷田:おっしゃる通り、我々は長年、自治体向け総合行政システムを提供しています。

現在は、グループ経営の効率化と新規事業の加速を目的として、私が代表を務めるシーシーエス・プラス・ホールディングスが投資やグループ全体の戦略を司り、中央コンピューターサービスがその戦略を地域のお客様へお届けできるよう実装を進めるという体制を敷いています。

最大の特徴は“田舎テック”の追求です。中央コンピューターサービスは「地方と都市部の情報格差をなくしたい」との想いで1981年に北海道の中標津町で創業して以来、「お客様に頼られる地域のITパートナーを目指す」という理念のもと、地方自治体向けの基幹業務システムの開発・販売、地域デザインなど、地域に根ざしたさまざまなサービスを展開してまいりました。2022年にはグループ全体の指揮系統を行うシーシーエス・プラス・ホールディングスを設立してからは、「地域の人々を笑顔にする」という理念と「地域に伴走する」という使命を胸に、ホールディングス一丸となって成長を続けています。

中央コンピューターサービスの創業者が当時、「地域の子供たちの教育格差をなくしたい」という思いを強く抱えていたことは現在にも受け継がれており、文部科学省のGIGAスクール構想のもと、地域の学校へのIT導入を一気通貫で支援することにも注力しています。

川端:さらに、人づくりとまちづくりを共創する持続可能な取り組みとして、「ミチシロカ」という、新たな北海道発の教育×地域創生事業も立ち上げています。「道(未知)」を知り地域(ローカル)で「白」い未来を描くという想いを名前に込めました。
ミチシロカ詳細はこちら:https://michishiloca.jp/

――ITに限らず、様々な方法で地方活性化に取り組んでいらっしゃるのですね。

谷田:ただ、やりたいことが多い一方で、人材のリソースは限られているのが現状です。そこで、M&Aやスタートアップ出資も積極的に行ってきました。

「M&Aクラウド」はWeb検索で知ったんですが、案件を“売り込まれる”のが好きではない私にとって、興味のある企業を選んで自分からアプローチできるのが面白いなと思いました。「資金調達クラウド」も、エンジェル投資家ではなく事業会社が主体なのが珍しく、定期的に見るようにしていましたね。

大切なのは、キャピタルゲインよりも10年単位のパートナーシップ

――今回は、御社からAreaJapanにスカウトを送るところから交渉がスタートしました。

谷田:我々も以前から、医療過疎への課題意識を持っていたんです。道内の町や村では小さな医療機関が1件しかないこともザラで、大きな病気や怪我の場合は100km以上離れたところまで受診しに行かなければならないことさえある。これでは「地域の人々が笑顔になれない」と感じていました。

自治体のバックエンドシステムを手がけているおかげで、保健・医療の情報管理の仕組みは理解していましたが、地域の人々の健康につなげるには、結果をフィードバックして行動変容を促すフロントのシステムが欠かせません。当社でも挑戦したいと感じていた矢先、AreaJapanさんのサービスを知って興味がわきました。

――スカウトを受け、どのように感じましたか。

神田:嬉しかったですね。それまでにもメッセージのやり取りした企業はいくつかあったんですが、シーシーエス・プラス・ホールディングスグループにある中央コンピューターサービスさんは最も事業シナジーを感じました。特に魅力的だったのは、全国約100の自治体との取引実績です。「Sano」のような健康管理システムは自治体に刺さるはずだと思って提案しても、「先行事例はありますか」と言われて交渉が終わってしまうことがほとんどだったので、自治体の“かゆいところ”がわかっている同社と組めば、その壁を乗り越えられるのではと期待しました。

――その後、1回目の面談はオンラインで実施されたそうですね。

谷田:私は50代半ばを過ぎてスタートアップを起業した神田さんのバイタリティに、ただただ感銘を受けていました(笑)。

川端:富山県の県議会議員も務めていらっしゃったということで、私も「面白い人だな」と感じましたね。
次の面談では、オフラインの“ノイズ”を重視して当社の東京営業所に来てもらいました。私にはオンラインで伝わらない雰囲気を直感的に感じ取れる“センサー”が備わっているんですが、神田さんには「いい人だぞ」と反応しましたね(笑)。

――では、すぐに出資を決断されたと。

川端:早い段階で「出資します」とお伝えしましたが、実際の成約までには時間をかけました。神田さんのご指摘通り、自分の健康状態に気づいても、そこから行動変容まで導く仕組みを設計しなければ意味がありません。その“ラストワンマイル”を深く検討した上で事業計画を組み立て、実行可能な具体策にまで落とし込んでから社内承認を得ようと思ったんです。

――協業に向けて、詳細な検討を重ねていたことがうかがえます。

川端:出資して「あとはよろしく」と任せっきりにするのは、我々のスタイルではありません。そもそも出資の一番の醍醐味は、シナジーをどう生み出していくかですし。ホールディングスとして描いた戦略を、中央コンピューターサービスが持つ全国の自治体ネットワークや運用ノウハウに乗せて、いかに現場へ落とし込むか。その共同作業こそが重要だと考えています。

谷田:「何年後に上場し、企業価値がどうなるか」と語る企業も多いですが、キャピタルゲインには正直興味がないんですよね。それよりも、10年単位で共に歩めるかがはるかに大切。社会課題の解決には、相当な時間がかかりますから。

――今回の交渉について、神田様はどう振り返りますか。

神田:「ありがたい」の一言です。かなり早い段階で方針を決定していただいたおかげで、出資を前提にルンルン気分で開発準備を進められました(笑)。

また、川端さんが柔軟な発想の持ち主で、「こういうこともできるのでは」と多角的に提案くださったのも心強かったです。全国各地で知り合った方を「シナジーがありそう」ということで紹介いただくこともあり、実際そうして知り合った理学療法士の方と、高齢者の行動変容を促すアプリケーション開発が進んでいます。

最近は複数の大企業が「Sano」に関心を示してくれるようになりましたが、それも川端さんにいろいろな知恵を共有してもらい、ソリューションを磨けたおかげだと思っています。

「地域ヘルスケアプラットフォーム構想」で地方に“健康”を実装

――成約を終えた今、次なる目標を教えてください。

川端:成約はあくまで通過点です。今後は、入念に練り上げてようやくたどり着いた「地域ヘルスケアプラットフォーム構想」という“妄想”を実装していきたいと思います。

谷田:我々は「地域デザインサービス」として、ヒト・モノ・カネを地域に集める事業を行っています。ただ地域の課題は、その3つの要素では整理しきれないほど複雑に広がっている。だからこそ事業の枠組みを超えて、地域における“健康”の全体像を形にしたいということです。

私もこのプラットフォーム構想を含め、地域への支援を拡大していきたいと考えています。自治体が関わる領域は参入障壁が高いですし、当社が注力する“田舎”だと競合はさらに少なくなります。そこで“民間企業による公共事業”を実現し、我々にしかできないマーケットを生み出していきたいですね。

神田:「Sano」の導入実績を増やし、日本の医療費の抑制につなげられればいいですね。そして事業が軌道に乗った暁には、南の島か北の大地に腰を落ち着けようかと(笑)。

川端:初回面談の時からおっしゃってましたよね(笑)。

谷田:北の大地が現実的ですよ。牛つきで良い土地をご紹介します(笑)。

――最後に、資金調達クラウドの感想を教えてください。

神田:サービス担当者がプラットフォームの活用方法を丁寧に教えてくれましたし、企業紹介ページを作る際も相談に乗ってくれたので、特に困ることはありませんでした。当初は藁をもすがる思いでしたが、結果的にすばらしいご縁をいただき、本当に助かりました。

谷田:やはり一方的に案件を売り込まれるのではなく、自分で選んで動けるのが一番のメリットです。今日初めてM&Aクラウドのオフィスを訪れましたが、装飾が必要最低限に抑えられていて、「それだけM&Aという事業に本気で向き合っているのだ」とますます好感度が上がりました。今後も積極的に利用していきたいと思います。

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