大きいトラックボールが正義だと思っていました
生きることにこだわりを。魚住惇です。
今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
トラックボールとの出会いについて
大学時代にトラックボールと出会いました。かれこれ20年くらい経とうとしています。当時はKensingtonのExpertMouseが登場したばかりの頃で、スクロールリングがついたぞと話題でした。それからはずっとトラックボールばかり使う生活を送っています。まだトラックボールを使ったことがない方がいらっしゃいましたら、是非少しの時間でいいから使ってみて欲しい。ボールを転がすことでマウスポインタが動くという体験をしてみていただきたいと思います。
トラックボールの最大の利点は、本体そのものを動かす必要がないことです。マウスの場合はマウス本体を手で持って、それごと動かすことでマウスポインタが動きます。動かす範囲にはマウスパッドが必要で、マウスパッドの端まで到達したらまたマウスの場所を戻して、再度同じ方向に動かすことで広い範囲を操作します。
これが結構ストレスなんですよね。うまいこと操作していたのにマウスパッドの端まで来てしまって「ああ、これ以上行けない」という残念な感覚を味わうことになります。トラックボールにはそれがありません。無限にコロコロできます。ボールを転がすだけでポインタが動くので、筐体自体は動きません。つまりマウスパッドも不要なので省スペースなのです。
トラックボールにもいくつか種類があって、マウスの形をしていて親指が当たる部分にボールが埋まっているタイプもあれば、本体の真ん中にボールが鎮座していて人差し指や中指あたりで転がすタイプもあります。人によって操作しやすい指があるので、これも実際に使ってみていくことで好みが分かってきます。僕自身の感覚の話で言うと、今のところ大正解だと思っているのは大きなボールを人差し指や中指で転がすタイプのトラックボールです。初めて購入したのがこのタイプだというのもありますし、他のモデルを試していくうちに「やっぱりこれだな」という感情もまた次第に大きくなりました。
それから次に買ってみたのがAmazonのセールで安くなっていたLogicoolのM570という有名な親指トラックボールマウスです。マウスの形状をしていて、親指にあたる部分が34㎜のトラックボールが埋め込まれています。人差し指と中指で左クリックや右クリックを行うのは通常のマウスと変わらないので移行コストがかからず、これまでマウスを使っていた人にも使いやすい形です。ところが自分にとってはこれがあまり良い印象ではありませんでした。トラックボールの操作そのものにはすぐに慣れたんですが、マウスポインタを動かすときに常に親指を使っていると、親指の付け根あたりが結構しんどいなと思えてきました。
自分はM570をメインで使うと、親指を痛めてしまう。そう確信してからは、M570はサブ機や布教用として使うようになりました。ワイヤレスなので、普段あまり使わないパソコンでちょっと操作しようかなと思ったときに使ったり、自分以外の人にトラックボールを体験してもらうための貸し出し用として有効活用していました。この体験をきっかけにしてトラックボールを買ったという同僚の先生方が何人かいらっしゃるので、やっぱり布教用というのは大事だなと思います。
Keyballで自覚した25mm球への抵抗
そんな中、衝撃的な自作キーボードが登場しました。そう、Keyballです。左右分割型キーボードでありながら、右手側にはトラックボールがついています。つまりこのキーボードを使うようになったらキーボードからトラックボールに持ち替える必要がなくなるということです。なんと革命的なデバイスなんでしょう。左右分割キーボードを使っている方でよく見かける光景が、分割したキーボードの間にAppleのMagic TrackPadを置いて使うというスタイルでした。僕もMagic TrackPadは使っていますが、左手で、あくまでジェスチャー用です。マウスやトラックボールと比べると、トラックパッド(Windowsではタッチパッド)は操作性があまり良くありません。誤反応を防ぐために指がパッドに触れてからマウスポインタが反応して動くまでに遊びがあって、細かい操作に向いていません。
しかしこのKeyballは、僕にとって2つの問題を突きつけてきました。そのうちの1つが、前回書いたソフトウェアの問題です。でもこれについてはClaude Codeによってほぼほぼ解決できるようになりました。以前までは自分がこうしたいとプログラムの改善案を思い浮かんだとしても、C言語でコードを書くハードルが個人的に高かったので躊躇していました。今はもう、Claude Codeくんに全部投げます。ただしこれもこちらで勘所を言い当てたり、妥当な改善案を提示しないと正確にコードを修正してくれません。なかなか試されている気がしますが、これくらいの感覚の方がこちらも会話しやすいので助かっています。
あともう1つの問題はというと、トラックボールの大きさです。Keyballをそのまま使っていると、どうしてもトラックボールがタイピング中の手のひらに当たってしまい、マウスポインタが動いてしまいます。それを気をつけようとすると今度は入力中に余計なストレスがかかります。普段HHKBを使っているときには考えずに済んだボールへの配慮によって脳のリソースが占有されてしまうわけです。これはどうにかせねばと思っていました。
唯一の対策は、ボールの大きさを変更することです。Keyball付属のボールの大きさは34mm。これを一回り小さい25mmに変更することで、タイプ中にボールが手に当たる心配をせずに済むというアイデアです。しかし僕はこの考え方に抵抗があって。ボールの直径が大きい方がボールを何度も回転させずとも精度の高い操作ができるはずだという自分なりにたどり着いた答えがあったわけですよ。ボールを小さいものに交換するということは、その好みの方向とは逆のことを自ら進んでやってしまうことになります。
とはいえ、Keyballなどのトラックボール付き左右分割キーボードを使っているユーザーさんの声などをXで見ていると、ボールを小さいものに交換している人の多いこと多いこと。しかもキーのサイズを小さくした狭ピッチ仕様のキーボードまで売られているのを発見しました。みなさん、トラックボール付き分割キーボードをどうにかして持ち運んだり、全体を小さくすることで指を動かす範囲を狭くして効率を上げようと試行錯誤されておりました。
けれどもXをどれだけ見ても、ボールを小さくしたことで操作性が悪くなった的な投稿を見かけませんでした。みんな、操作性を犠牲にしてないの?大きいボールが正義なんじゃないの?でもなんか認めたくない。自分にとってこれが正解だと思っていたものを崩すのは嫌だ。それが否定されてしまったら、もう何が正解なのかわからなくなってしまう。
ここまで考えを巡らせていて気づきました。自分のこれまでの経験によって導いた正解とは違ったことを、多くの方が認めたり許容範囲内だと思っている。もしかして、自分だけがどうしても許せないと思っているだけで、他の人にとっては結構快適に使えているのではないか?もしそうなら、自分が変にこだわっていることが新たな機会損失になってしまっているのではないだろうか。今、ひょっとして自分は、これまでの経験から勝手に推測したものにこだわって、食わず嫌いをしている?
なんかここまで考えたら、自分という人間がちっぽけな感じに見えてしまいました。なにを変にこだわっているんだろう。25mm球のトラックボールでそこまで不満なく使えているのなら、それを一度試してみたら良いじゃないか。合わないのならまた34mmに戻せば良い話だ。
そう思って、Amazonでペリックス社製の25mm球を購入してみました。トラックボールのケースそのものは3Dプリンターで印刷しました。もう3Dプリンターは本当にすごい。自作キーボード製作者の中には3Dデータを無料で配布してくれている人もいるので、ありがたく使わせてもらいました。ボールをそのままケースに入れるのではなくて、滑りを良くするための支持球というのが必要なんですが、これも以前Amazonで購入したものが余っていたので流用しました。
これがKeyball39のトラックボールを34mmから25mmに変更した姿です。結論から言いましょう。悪くありません。ボールが小さくなったことで親指を動かす範囲が狭くなりました。一度に移動できる量もそこまで変化した感じもありません。ボールの回転量が多い感覚はありますが、画面の端から端まで移動するのにそこまで困りませんでした。むしろキー入力していてボールが手のひらにあたることがなくなったので、これまで以上に誤爆が減りました。慣れてしまえば快適です。
インターフェースとの出会い
これまでなんて小さいことに固執していたんだろうと、猛省せざるを得ません。KensingtonのSlimBladeが快適だとはいえ、25mm球を甘く見ていました。とんだ失礼だ。25mmでもこんなにストレスなくPC操作が行えるなんてな。名古屋のキーボードイベントで25mm球も触らせてもらったものの、実際にPCに接続して操作したことはなかったんですよね。いくら球の滑りが良いからといって、インターフェースとして優れているかどうかは別問題です。やっぱこういうのって、実際に普段自分が使っている環境で試してみないとわからないこともあるんだなと思います。
だからこそHHKBのようにレンタルサービスを使って自宅で実際に試すことができるのが良いと思うんですけどね。自作キーボードの世界では購入して使い込んだものはどうしようもないので、個人売買かメルカリ行きというのが現実かもしれません。ああ、押し入れに眠っている、使わなくなった自作キーボードの数々は、これからどうしようかしら。でもこれもね、仕方ないんですよ。自分の中で「これは素晴らしいキーボードだ!」と思えるものに出会ってしまったら、僕は自宅用と職場用と両方を揃えますから。自宅で使っている環境と同じものが職場にないと仕事ができなくなります。モニターなどは本当に同じ型番のものを揃えるのが難しいので、せめて手に触れるものは同じものをと思っているのです。
キーボードやマウスは、もちろん学校でも支給されます。愛知県が教職員用に配備した端末はSurface Pro 10で、キーボードには当然タッチパッドもついているわけですが、それとは別に有線マウスやスタイラス互換ペンも付属品としてつけてくれました。これはこれで必要なことです。ただし、使いやすいと感じるマウスやキーボードは、それこそ人によって違います。渡されたもののみをそのまま使っていたら、それこそそのマウスが使いやすいものなのか、使いにくいものなのかさえ、判断できません。トラックボールを初めて使ってみたあの日、「同じパソコンのはずなのに、手に触れるものを替えただけで、まるで本体の性能が上がったかのように快適に使えるようになった」と感じたあの感覚を、知らないままただ渡されたものを使っている人の方が多数派だったりするんですよね。
結果的にお金はかかるかもしれません。あーだこーだと確実に沼りますから。でも、それでも、自分にとってどんなキーボードが合うんだろうか。どんなマウスが使いやすいんだろうか。インターフェースはコンピュータと人とをつないでくれる大切な装置です。自分の手に馴染むものと出会ったら、本当に世界が変わります。自分の視力に合った眼鏡を使い始めた感覚に近いものがあります。「これだ」と思えるものに出会うと、今までの自分がどれだけストレスを感じていたんだろうという発見と、使っているだけでどんどん幸福度が上がっていく感覚が、一気にやってきます。もうやめられません。
かといって、HHKBが不要になったのかと言われたらそれも違います。その日のコンディションによって最適なデバイスが変わりますし、自作PCのBIOSの設定をいじろうかなと思った際は間違いなくHHKBの出番です。要は目的に合ったものを使いましょうという話です。Keyballを最高だと言ったからといって、HHKBが最高ではなくなったというわけではありません。
自分がキーボードを使うとき、どこにどんなキーがあったら快適だろうか。キーボードにどんな機能があったらもっと快適に使えるだろうか。自作キーボードは作って楽しい、プログラムを書いて嬉しいデバイスです。何よりAIのおかげで、自分が欲しい挙動をしてくれるキーボードを作る効率が格段に上がりました。もう今は「こうやって操作したい」というアイデアがどんどん出てくるようになりました。この試行錯誤、たまらないです。
今回のnewsletterは以上となります。
「いいね」を押していただけるとうれしいです。内容に関するご意見ご感想がありましたら、「#こだわりらいふ」をつけたツイートや、Substack内のコメントまでお願いします。




