興味がない=やる気なし?
生きることにこだわりを。魚住惇です。
今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
あるIT企業に勤めている知人から、こんな相談を受けました。うちに採用された新入社員が、どうにも育たない。言われたことはちゃんとやる。研修も受けた。決してサボりはしない。しかし、一向に意欲というものが見えてこないんだ。こっちとしてはどんどんITの分野に興味を持って欲しいのだが、いまいち反応が薄い。この前なんて、ネットワークの入門書を目に付く場所に置いてみたが、それすら無視された。
そう語りながらね、憤ってたんですよ。「やる気が感じられない」だの「もっとリテラシーを高めてもらわんと」だのと僕に愚痴ってきます。しまいには「給料分働いてもらわないといかんから、この勉強不足を自覚してもらって、休日にだって勉強してもらわなきゃ」と言い出すのです。
ちょっと、あの、まってまって。まず落ち着いて。これはなんだかボタンの掛け違いが起こってしまっているなぁと魚住は悟りました。聞くところによると、その会社はこれまではそんな社員が入社したことが過去になく、一通り研修を終えたころには自分で興味のある分野などは自ら進んで調べたりして、サーバー構築をやってみたり、ネットワークを作ってみたりしていたらしいのです。
その知人が歴代新入社員さんたちにしてきた行動も聞いてみました。新人たちが新しいことに挑戦してトラブルが発生して、試行錯誤を繰り返して困っている。そんなちょうどよいタイミングを見計らって、解決に導くためのキーワードを伝える。そうすればその新人さんたちはそのキーワードを基に解決策を考え、無事困難を乗り越えてきたそうです。
えええ、えーっと?そんなソルジャーいるかいな?つまり、問題解決において経験を少し語るだけで、その新人さんたちは解決してこれたと。いやいやいやいやその新人、生きる力ありまくりでしょ。レアだよレア。
さて、魚住は普段から学校現場で、情報という科目に全く興味がない生徒たちを対象に授業を行って来ました。その中でも各クラスに1人でも興味を持ってくれたらいいなぁくらいの感覚です。むしろ、スマホの契約やパソコンの使い方で何か困ったことがあったら魚住を頼れば良いのかって思ってくれたらそれで御の字です。
そうはいっても、企業となれば苦手だからその仕事やれませんは通用しません。それどころかITエンジニアとして採用されたのなら、第一線で活躍する人材に育ってもらわないと企業にとっても損失です。それでいて今は人材も不足しています。得意だという人がその仕事に就いてくれるのはウェルカムだとして、それ以外の人にも関わってもらうことこそ、その企業の持続可能性を高める秘訣になりうると思うのです。
そんな教える側が陥ってしまう「興味を持たせよう」に潜む罠について、たとえ話交えて語ろうと思います。今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
アイドルに興味がないのに事務所に入社した新人くん
あるところに、アイドルの推し活に熱心な人がいました。その人は、特定のアイドルを推すことだけに留まらず、アイドルを推すという文化そのものも好きで、素晴らしいものだと思っています。メインで推しているアイドルの他にも、今またどこかで誕生しているアイドルの情報を収集することも日常です。
やがてアイドルの事務所で働くようになり、ついには独立して事務所を立ち上げて推したいアイドルをプロデュースしてしまいました。私が手がけたアイドルを一緒に応援してほしい。その事務所にはそんな期待に応えるような社員がどんどん入社してきてくれて、盛り上がりました。
しばらくの間は安泰でした。世の中はこんなにも推し活で回っている。最近は推し活という文化も認知されるようになってきた。世間はオタクを理解しつつあるし、許容される土壌も育ってきた。しかしどうしてか、ここ数年の間は入社を希望する人を見かけなくなりました。世間はうちのアイドルを求めているというのに、どうしてだろう。事務所の経営状態は悪くないが、メンバーが変わらないまま時間が過ぎていく毎日です。このまま新しい人が入ってこない状態が続くと、いつか一斉に定年を迎えてしまいうちのアイドルユニットそのものが消えてしまう。
そこでその事務所は、新しい試みを始めてみます。敢えてアイドルに全く興味がない人を社員として雇うことにしたのです。その新人くんは推し活という文化があることは知っているものの、そこまで何かに熱狂するという程でもありません。でも否定もしないので、今のこのアイドル文化を受け入れている世代です。
せっかく縁あって入社してきてくれたのだから、事務所としての最低限の仕事は覚えてもらわないといけません。その事務所には社長さんが自ら手がけた研修カリキュラムが用意されていて、推し活文化を支えていく人材育成に一役買っていました。当然新人くんにもそのカリキュラムを受けてもらって、一緒にアイドルを育てる側になってほしい。社長さんはそう思って、研修を受けてもらいました。
研修中の新人くんの成績はそこそこ。決して優秀とはまでは言えませんし、どちらかというと過去に入社した人たちよりも少し時間がかかるタイプです。それでも時間をかけて研修をなんとかやりきってくれました。
その事務所では最低限の研修を終えた後どうなるかというと、部署への適正が見極められてから配属が決まります。社長さんが自ら見極めて、どんな適性があるのかを判断します。ところが今回の新人くんは何の特性も見当たりません。どうしたものか。これまで入社してきてくれた人たちには何かしらの才能があり、その能力をわかりやすく発揮してくれた。だから配属先を決めるのも簡単だった。それなのに今度入った新人くんは突出した能力がまるでない。
このままではその新人くんのことがわからないままだ。そう考えた社長さんは新人くんを、自分とこのアイドルの夕方から開催されるライブにお客さんとして参加させました。当日楽しめるようにとペンライトの振り方を教えて、曲も売れているものを聞いてもらいました。
社長さんにとって想定外のことが起きました。新人くんは確かに教えた曲の通りにペンライトを振ってくれる。けれども自分みたいに盛り上がることもなければ、ライブイベントに興奮する様子が全くありません。アイドルの名前を叫ぶこともしないし、ファンサービスを受けても嬉しいそぶりも見せません。ただ会場にいて、言われた通りにペンライトを振っただけです。社長さんは悩みます。私が最高だと思えるアイドルを目の前にしても、夢中になってくれない。積極的な姿勢も見られない。ただ時間が過ぎていくだけで、全然前のめりになってくれない。しかも「このライブの参加は残業に入りますか?」と言ってくる。
更に悲しいことに、社長さんがアイドルの素晴らしさを熱弁しても全く響きません。新人自身もアイドルを推すことそのものは文化として理解できても、自分からアイドルを推そうとは思ってくれません。これではオタク同士のような会話は困難で、互いに共感することもできません。曲も覚えてくれないし、全然好きになってくれない。そんな社員をどうしたらいいんでしょうか。でも最低限の仕事はしてくれます。
北風と太陽
はい。例え話はこれで終わりです。いかがでしょうか。会話というか、お互いの考えが如何にかみ合っていないかがお分かりいただけたのではないでしょうか。
ここまで考え方が違うと、昔語りだって全く刺さりません。いくら「俺は若いころはこうやって技術を身に着けたんだ」と語ったところで、それは自走してスキルを磨くことができた人の話。まさに「俺がこのアイドルにハマったきっかけはな」と語っているのと同じ状態です。聞いている方はその話が自分の現状に対するアドバイスだとすら認識できない可能性だってあります。
新人くんだって困っているに違いありません。だってどれだけ努力しても勉強不足だと言われるわけですから。かといって、興味がないものを好きになれっていうのも無理な話です。
さてでは、魚住はどうしているのか。情報科の教員として、どんなスタンスで授業をしているのかというお話です。って言ってもすごく単純な話です。どうやったら興味が出てくれるのかな?なんて考えません。僕の話を聞いてくれて、面白いなと思ってくれたらその生徒は勝手に伸びるし、逆にそう思わないなら苦手意識ばかりが高まります。せめてやっているのは、専門分野を心から面白いと思いながら語っているだけです。
特に子どもは「あの遊具で遊びなさい!」なんて命令されたって動きません。誰かが楽しそうに遊んでいる様子を見て、自然と気になるものだと思います。これがまた難しくてね。戦略的にやろうとすればするほど、途端に嘘くさくなります。楽しそうに見せようというのではなく、本当に楽しむことがポイントです。
その次の段階では、「なぜこれをやるのか」を言語化して明確にしておくこと。興味があるないにかかわらず、構造の説明だったら理解できるんじゃないかと思うのです。アイドルに興味がなくても、「このタイミングでこの色のペンライトを振ると会場が盛り上がる。」という理屈などは肌感覚で分かるはず。
せっかく同じ場所でアイドルを推すための作業そのものはやってくれるわけなので、興味を少しでも持ってもらえるまで、その人の隣で全力で楽しむしかないと思っています。あとは楽しみ方を全部教えること。自分から興味を持って勝手に行動できる人に対しては、ヒントくらいでいいんですよ。逆に今回の新人くんのようなタイプだったら、全部を教えてあげる。あれも分かってくれんこれも興味を持ってくれんと嘆くよりも、どう作業をすれば良いのか、業務内容を細かく明文化してやる気に頼らせないこと。今後のことを考えたら、興味がない人でも回せるような運営体制が整うって、すごいことだと思いませんか?僕はそんな世界もまた、見てみたいと思うのです。
今の魚住が工業高校の授業でやっているのは、タイピングです。情報Ⅰを普通科でやっていた頃は、あまり時間が取れませんでした。大学受験も関係ない、手に職をつけるという方針なら、修行とも呼べる授業がやりやすいです。授業は授業なので、興味の有無に関係なく進められます。若いのが入社してきた。でもちょっと、能力的に不安があるぞ。だけどな、元気は良いしタイピングだけは速いんだわ。そう思ってもらえるような生徒が育ちますように。
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