モエギハコガメという亀がいます。
中国南部やベトナム、
ラオスなどの山の森に暮らしています。
小さな亀です。
甲羅は丸い。
足も短い。
動きも速くない。
いかにも、
「亀」
という見た目をしています。
だから最初は、ふつうの亀だなという
感じでした。
でも、
この亀には少し変わったところがあります。
登るんです。
岩場を登る。
斜面を登る。
木の根を乗り越える。
倒木を越える。
最初に知った時、
少し笑ってしまいました。
いや、亀やろ。
もっと平らな場所を歩く生き物じゃないのか。
でも、
モエギハコガメが暮らす森は、
厳しい環境なんですよ。
急な斜面がある。
岩場がある。
倒れた木がある。
厚い落ち葉が積もっている。
歩くだけでも大変です。
だから、登る。
好きだからではない。
生きるためです。
必要だからです。
研究では、
モエギハコガメの仲間が、
かなり急な面を登る能力を持つことも報告されています。
四本の足で踏ん張る。
鋭い爪でつかむ。
少しずつ進む。
決してスマートじゃない。
でも、確実に進む。
こういう泥臭い亀スキですね。
静かな人。
自信がなさそうな人。
人前が苦手な人。
失敗したことがある人。
すると、
勝手に可能性まで決めつけてしまう。
この人には無理そう。
向いてなさそう。
できなさそう。
でも、本当は分からない。
モエギハコガメだって、
見た目だけなら、
岩を登るようには見えません。
それでも登る。
必要になったら登る。
環境がそうさせた。
人間も同じなのかもしれません。
自分でも知らない力がある。
まだ使ったことのない能力がある。
まだ越えたことのない壁がある。
だから、
今できないことと、
一生できないことは違う。
最近、そんなことを思います。
人生には、急な坂があります。
思い通りにいかない時もある。
乗り越えなければいけない時もある。
その時、
最初から自信満々な人ばかりではありません。
不安なまま。
怖いまま。
手探りのまま。
それでも進む。
モエギハコガメも、たぶんそうです。
岩を見て、
「よし、登るぞ!」
なんて思っているわけじゃない。
ただ、その先へ行くために登る。
今日も山の森のどこかで、
落ち葉の上を歩き、
岩を越え、
また先へ進んでいる。
亀なのに、岩を登る。
そんな亀がいるんだから、
人間だって、
まだ自分の知らない場所まで進んでいけると思います。








