台北に集結した日本のAIスタートアップが多彩な可能性を提示 InnoVEX 2026レポート

2025年とは異なる層の厚さ

台北に集結した日本のAIスタートアップが多彩な可能性を提示 InnoVEX 2026レポート - COMPUTEX 2026
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InnoVEXは、COMPUTEXと同時期に開かれ、スタートアップと次世代テクノロジーにフォーカスする展示会だ。昨年10周年を迎えた本展は、今年も「アジアのイノベーションハブ」というポジションを継承し、2026年6月2日~5日まで、台北で開催。世界のテックスタートアップ、ベンチャーキャピタル、アクセラレーター、インキュベーターを一堂に集めた。展示領域はAIアプリケーション、ロボティクス、医療テクノロジー、次世代エンターテイメント、半導体応用、スマートモビリティ、先進通信などに及ぶ。

東京一極集中型から地域分散型へ、変化する日本の出展構成

日本の読者が特に注目すべきは、日本関連エリアの構成が今年明らかに変化したことだ。昨年は「日本パビリオン」という統合された単一の形だったが、今年は独立した複数のパビリオンにわかれ、それぞれを異なる地域支援組織が主導する形となった。「日本各地のイノベーション・エコシステム」がそれぞれの路線ごとに並ぶ構図である。

具体的には、J-NETがジャパンパビリオン全体のコンセプトを継承し、公益財団法人横浜企業経営支援財団(IDEC横浜)が横浜市の出展企業を独自に束ねる。沖縄は「OKINAWA STARTUP ECOSYSTEM CONSORTIUM」と「Okinawa JAPAN」の2軸に分かれ、これに加えてエバーリッジが主導するJapan Bizcrew Pavilion、そして各テーマエリアに分散して出展する日本企業もある。今回出展している日本企業からは、2つの特徴が読み取れる。

東京一極集中型から地域分散型へ。今回取材した企業は札幌、横浜、東京、豊田、沖縄に分布しており、日本の地方自治体や企業支援組織が国際舞台での存在感を高めつつあることを示している。

パビリオンも単一に統合された形から離れ、複数の独立組織が主導する方向へ。横浜はIDECが、沖縄は2つの独立したコンソーシアムがそれぞれチームを組み、独自に対外連携を模索している。

出展例は以下のとおり。

  • Media Magic(札幌・J-NET)
    AI人材育成エージェント「GOALSkill」。企業戦略を個別の研修プランへと変換
  • Lean Mobility(豊田・Japan Bizcrew Pavilion)
    日台共同出資で開発した都市型小型EV「Lean3」。2026年に日本・台湾で同時発売予定
  • コアーテック(横浜・IDEC横浜)
    電動多段伸縮ポール「ロボポール」。AGV(無人搬送車)に搭載して高所作業に対応
  • Medvigilance(横浜・IDEC横浜)
    3.5gのチタン合金製ヘルスモニタリングリング「Fy Ring」。バッテリー駆動14日間
  • TIMEWELL(東京・IDEC横浜)
    AI安全保障輸出管理エージェント「TRAFEED」。従来3時間かかった人の手によるスクリーニングを5秒に短縮
  • TopoLogic(東京・IC TAIWAN GRAND CHALLENGE Pavilion)
    トポロジカル物質を用いたメモリー技術「TL-RAM」、ミリ秒級熱流束センサ「TL-SENSING」
  • Strout(沖縄・OKINAWA STARTUP ECOSYSTEM CONSORTIUM)
    陸上養殖向けAI/IoTプラットフォーム「Sakana Edge」
  • コプロシステム(沖縄・Okinawa JAPAN)
    ワンストップ型イベント管理SaaS「Q-PASS」。累計1500件以上のイベントでの導入実績あり
  • vvland(沖縄・Okinawa JAPAN)
    AI音声チャット「ChatWave」とAI音楽プラットフォーム「Ai Music Portal」

地方自治体に支えられた成熟企業から、日台コラボレーションで生まれたハードウェアスタートアップまで――いずれも、グローバルな技術競争に向き合う日本の多軸的なアプローチを物語っている。以下、特に印象に残った4社を掘り下げて紹介する。

日台共同出資で生まれた都市マイクロモビリティ――Lean Mobility

Japan Bizcrew Pavilionに登場したLean Mobilityは、今回の日本出展企業の中で「国境を越えた共同事業」をもっとも象徴的に体現する存在だ。本社を愛知県豊田市に置く同社は、トヨタ自動車出身のエンジニアである谷中壯弘氏が創業。台湾の極智移動(Jizhi Mobility)と日台共同出資の事業体制を構築し、都市型小型EV「Lean3」を主力製品として展開する。

Lean Mobilityの「Lean3」。三輪設計で、占有面積は一般的な乗用車の約3分の1。2026年に日本と台湾で同時発売予定。
Lean Mobilityの「Lean3」。三輪設計で、占有面積は一般的な乗用車の約3分の1。2026年に日本と台湾で同時発売予定。

Lean3の設計思想の核は、都市通勤のために生まれた「必要十分主義」にある。車体寸法は全長2470mm x 全幅970mm x 全高1570mmと、占有面積は一般的な乗用車の約3分の1。三輪設計に加え、Lean Mobility独自の傾斜制御技術「Active Lean System」により、コーナリング時にはバイクのように自然に車体を傾けつつ、自動車としての安定性も両立する。エアコンを標準装備とした点も特筆すべきポイントで、同種の超小型EVが共通して抱える快適性の課題を解決している。価格は約169万8000円から。

Lean Mobilityの累計調達額は46億円に達し、日本国内の車両製造系スタートアップとしては最大規模である。生産は台湾の中華汽車工業に委託、販売とアフターサービスは日本のオートバックスセブンと提携する。つまりLean3は、「日本発の起業、日台共同出資、台湾製造、日台同時販売」という構造で届けられる製品だ。

企業戦略を個別研修プランへと翻訳するAIエージェント――Media Magic「GOALSkill」

札幌から出展し、J-NETエリアに展示するMedia Magicが今回持ち込んだのは、AI駆動の人材育成エージェント「GOALSkill」だ。同社は元々、公共交通システム開発(バスロケーション、デマンド交通など)を中核事業としており、その中で蓄積したAI実装の知見を、近年は企業の人材課題へと向けている。

Media MagicのGOALSkill。企業戦略を自動的に分解し、個人のスキルマップへと落とし込む。
Media MagicのGOALSkill。企業戦略を自動的に分解し、個人のスキルマップへと落とし込む。

GOALSkillの切り口は明快だ。多くの企業には明確な経営戦略があり、従業員育成の予算もあるが、この両者の間で「翻訳」が断絶しがちである――従業員は自社の戦略が具体的にどのスキルを必要としているのかを把握できず、上司もひとりひとりに最適な学習サイクルを設計しきれない。GOALSkillは、企業の目標から必要なスキルセットをAIが自動抽出し、それを各従業員の特性と成長度合いに対応させ、可視化された個別研修プランとして出力する。上司にとっては、これまで経験則で判断してきた「誰に何を学ばせるか」がデータに基づくものに変わる。従業員にとっては、自分のキャリアパスが会社の方向性とどうつながっているかを明確に見ることができる。

近年負担が増している業務を圧縮――TIMEWELL「TRAFEED」

IDEC横浜エリアに出展するTIMEWELLが見せたのは、また別の社会課題を感じさせる事例だ。2022年に東京で創業し、現在シリーズAステージにある同社のAIスタートアップは、AI安全保障輸出管理エージェント「TRAFEED」を主力としている。

TIMEWELLのTRAFEED展示。従来3時間を要したチェック業務を、わずか5秒に圧縮する。
TIMEWELLのTRAFEED展示。従来3時間を要したチェック業務を、わずか5秒に圧縮する。

「安全保障輸出管理」は、日本企業や研究機関において近年負担が増している業務のひとつだ。研究機関では共同研究先や研究者の確認、企業では取引先やサプライヤーのバックチェックが求められる。従来は公開情報や各種リストをもとに人手で調査・照合を行う必要があり、案件によっては1件あたり2〜3時間を要することもあった。

TRAFEEDは、ChatGPT、Claude、Geminiの3つの大規模言語モデルを同時に呼び出してクロス検証を行う。岡山大学との共同実証で検証した結果、AI判定精度は95%以上を達成しているといい、懸念度を5秒で可視化するという。出力されるレポートには直接的な根拠リンクと出典URLが添えられ、監査の追跡性も担保されている。技術面では岡山大学との産学連携で開発されており、TIMEWELLの主な取引先として、パナソニックグループや明治、東京都、神奈川県などが公式サイトに掲載されている。

展示会を管理する展示品――コプロシステム「Q-PASS」

最後に取り上げる展示には、ある種の「メタ」的なおもしろさがある――これは「展示会を管理する」ためのシステムで、それ自身が展示会に出展されているのだ。沖縄発のコプロシステムが持ち込んだQ-PASSは、展示会、セミナー、企業イベント、自治体イベント向けのワンストップ管理SaaSで、今回はOkinawa JAPANパビリオンを通じて出展している。

コプロシステムのQ-PASS。申込、QRコード入場、現場通知、出展者管理までをワンストップで扱える。
コプロシステムのQ-PASS。申込、QRコード入場、現場通知、出展者管理までをワンストップで扱える。

生成AIと行動データ分析が展示会の運営ロジックを急速に変えつつある今、Q-PASSは「イベント」をブラックボックスから「分析可能・最適化可能な場」へと変えていく。

昨年のInnoVEXジャパンパビリオンは、「課題先進国」が地域課題に向き合いながら解決モデルを模索する姿を見せていた。今年はさらに一歩進み――豊田から台湾量産へと到達したLean3、札幌から企業人材育成へと延びるGOALSkill、東京から安全保障輸出管理へと踏み込んだTRAFEED、そして沖縄から展示会エコシステムのインフラへと向かうQ-PASS――国内スタートアップがInnoVEXで同時並行的に展開して、昨年とは異なった層の厚さを見せていた。

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