ビデオゲームでも「においを活用した遊びが楽しめる時代」が近くにきている【CEDEC 2025】
「ラスアス」のクリッカーのにおいも再現されている
ゲーム開発者が集まるカンファレンス「CEDEC 2025」にて、においを手軽に制御する「Tensor Valveテクノロジー」に関する講演が実施された。
この講演では、ソニーのにおいを制御できる独自技術や、それを活用した装置に関する説明が行われた。ビデオゲームにおいても、この技術を活用した遊びが研究されている。
アロマディフューザーから医療機器へ、におい技術が発展

エンターテインメントにおいては映像や音に関するテクノロジーでユーザーに感動を提供しているが、におい、つまり嗅覚に関する装置は取り扱いが難しく、研究があまり進んでいない。
しかし嗅覚は、本能・感情・記憶にダイレクトに影響するため、新たな感動の可能性になりうる。ソニーがその可能性を追求した結果として、Tensor Valveテクノロジーにつながるわけだ。

においを制御する際に重要なのは、映像や音響と同じく「複数同時に制御できること」と「明確にオン/オフ」できること。制御に関しては、以前のプロダクトですでに成功している。

ソニーでは、2016年に「AROMASTIC」というパーソナルアロマディフューザーを発売していた(2022年にサポート終了)。これは香りを外でも楽しめるコンパクトな商品で、5種類の香料を封入、かつ香りの取り替えが可能となっている。

AROMASTIC開発の際には、においを制御するマルチアレイ機構を開発。30種類のにおいを電磁的に制御できるようになっており、複数の香りを届けることが可能で、ブレンドもできるようになっていた。

2019年にはVRゴーグルに組み込み、『テトリス・エフェクト』をプレイすると花の香りがするといった仕組みも完成していた。
なお、テトリミノを消す際に香りが出るのだが、1ライン消しと4ライン消しではにおいが異なるとのこと。体験したユーザーの95%が満足と回答しており、ビデオゲームの報酬としてのにおいは確かに可能性がありそうだ。

明確なオン/オフも重要だ。これに関しては、カートリッジの入口・出口の両方を密封するシーリング機構および開閉するためのアクチュエーターが用意されており、確実なオン/オフを実現。必要なときにだけにおいを届けることが可能になっているうえ、保存性も向上している。

この技術は、医療現場でも活用されている。認知症・パーキンソン病の判定において嗅覚測定が用いられているのだが、実はこの測定にはかなり手間がかかる。
というのも、測定に必要なにおいは40種類もあるうえに、におい漏れが発生してしまう可能性もあり、専用設備の準備なども必要だ。また、瓶を開け閉めするような動作も多い。それをTensor Valveテクノロジーで解決できるのではないか、というわけだ。

研究を進めた結果、リニアアクチュエータバルブアレイにより、さらなる密閉性、においの強度変化、多種多様の提示が可能になる。カートリッジがコンパクトなので多数配列が可能で、独立制御もできるとのこと。
こうして開発されたのが、におい提示装置「NOS-DX1000」である。タブレットで操作できるシステムも搭載されており、記録や閲覧、データの分析も容易になった。
NOS-DX1000は、医療機関のみならず食品・飲料業界でも使われるようになっていく。なお、香料のカートリッジはカスタマイズが可能で、特定の飲料そのもののにおいを封じ込めることも可能だ。
より汎用的で扱いやすい「においのスピーカー」が開発

においに関する研究を進め、次にたどり着いたのがより汎用的に使える「においのスピーカー」こと「Grid Scent(Grid Scent)」である。
手のひらサイズでありながらTensor Valveテクノロジーを搭載しており、かつにおいが漏れないうえに残らず、切り替えもできるといった代物だ。
Grid Scentには3つの特徴がある。まずはにおいの強さ・種類の自由度だ。

小型なので、においの強弱・ブレンドが可能となっている。たとえばヒノキやアスナロの香りを混ぜて自然の感じを出したり、花と草の香りをブレンドして野原のイメージを作り出せる。

サイズが小さいので設置の柔軟性もある。高さが調整できるのはもちろん、においの距離・範囲もファンで調整できる。また、時間差で異なる香りを提示したり、局所的なにおいの提示で香りのエリアを作り出すことも可能だ。

そして、ブラウザ、IoTデバイス、ゲームエンジンから操作できるのも特徴だ。スレッド通信で専用のハブを介して多数操作可能で、においを何秒出すか、ファンをどのくらい回すかなど調整できる。
ビデオゲーム、展示、体験施設で活躍するにおい技術

Grid Scentを活用した事例として「Immersive Door」が紹介された。
これは暗い空間にドアだけがあり、それを開けると動作に連動して映像・音楽・香りが演出されるというもの。草原やキャンディの雨が降る場所など、ドアを開け閉めするたびに違う場所へ行ったかのような感覚を味わえるという。
また、革新的なテクノロジー・製品を展示するカンファレンス「CES 2025」では、『The Last of Us』の体験にGrid Scentが採用されている。
床に設置されたGrid Scentから、キノコのほうしに似た嫌なにおい(作中に出てくるクリッカーという敵をイメージしたもの)が出てきたり、場面に合わせて焦げたにおいを出す仕組みになっていたという。
なお、この体験におけるにおいは最初こそ配慮された弱いものになっていたが、ゲームへの集中具合によっては気づきにくいケースもあったそうだ。さらに嗅覚には個人差があるので、どのくらい匂わすかの調整も重要なようである。
体験型展覧会「蜷川実花展」では、桃源郷を演出するためにGrid Scentが導入されている。花の間に設置され、それぞれで異なる香りが提示されていたという。
富山県のイオンモールでは、「におい展PLUS+」が実施されており、ここでもGrid Scentが活躍している(2025年8月26日まで開催予定)。
このイベントはにおいに関する体験を楽しめるイベントで、ウィスキーの香りを嗅ぎながら炭酸水を飲む「魔法の香りコップ」や、真実の口からなんらかのにおいが出る「においクイズ」、そして映像と香りをかけ合わせた没入体験も用意されている。
このように、ソニーのにおいを活用した技術は着々と広まっており、ビデオゲームでより活用できる日はそう遠くないのかもしれない。ただし、DualSense ワイヤレスコントローラーへの搭載はないと明言されていた。家庭用ゲーム機に乗るのはまだまだ時間がかかるかもしれないが、嗅覚を刺激する新しいおもしろさはすぐそばに来ているのだろう。
