vol.035 体調リセットは帰国の儀式
越境未来ラボは、境界を越えて未来を観察するメールマガジンです。テクノロジーから文化まで、多様な視点を毎週金曜日にお届けします。
🌍 近況
🔭 越境ノート
📚 今週の一冊
✉️ Q&A
🌍 近況
世界各地を移動する中での出来事や気づきをお届けします。
今週も東京にいます。
数ヶ月ほど東南アジアに滞在していますと、どれだけ気をつけていても食生活が乱れてしまいます。タイではパッタイにカオマンガイ、インドネシアではナシゴレン。屋台で美味しいものが安く手に入る環境は最高なのですが、その代償はしっかりと体に刻まれています。ということで、東京に帰ってくるや否や、体調リセットの開始です。今回は特に腸内環境が荒れているようでして、お腹の調子と肌の調子がどうも良くありません。
そこで直近、手っ取り早く取り入れているのが、クロレラとごぼう茶です。
クロレラは淡水に生息する単細胞の緑藻類で、ビタミンやミネラル、アミノ酸を豊富に含むスーパーフードとして知られています。なかでも注目したいのがデトックス効果です。クロレラの細胞壁には重金属や有害物質を吸着する性質があり、腸管内で毒素を絡め取って便と一緒に排出してくれるといわれています。きっと、東南アジアでは水や食品、汚い空気を通じて知らず知らずのうちに体内に有害物質が入り込んでいるでしょうから、帰国後のリセットにはうってつけです。
一方のごぼう茶は、乳腺外科医でナグモクリニック総院長の南雲吉則医師が提唱したことで広く知られるようになったお茶でして、作り方はいたってシンプル。スーパーで買ってきたごぼうをピーラーで薄く削いだ後に天日干しし、フライパンで軽く煎るだけ。皮ごと使うのがポイントで、皮に含まれるポリフェノールやサポニンが脂肪やコレステロールの排出を助けてくれます。そして何より、ごぼうに豊富に含まれる水溶性食物繊維のイヌリンが善玉菌のエサとなり、腸内環境の改善に一役買ってくれるのです。
いわば、この二つは「水溶性」と「不溶性」のダブルアプローチになっています。ごぼう茶の水溶性食物繊維が便を柔らかくしながら善玉菌を育て、クロレラの不溶性成分が腸壁を刺激して蠕動運動を促す。加えて、クロレラが体内の有害物質を「捕まえる」役割を果たし、ごぼう茶の利尿作用や血行促進が「流し出す」役割を担う。つまり、捕まえて、流す。このデトックスの連携プレーが、溜め込まない体づくりを後押ししてくれるというわけです。
本来ならば、もっと精密にやるべきだとは思っています。近年は「精密栄養学」という考え方が日本でも注目されています。血液検査や腸内細菌の解析、遺伝子情報などを統合して、その人の体質やライフステージに合った栄養を個別に設計するというアプローチのことで、米国国立衛生研究所(NIH)も2020年にこれを10年間の戦略テーマに掲げています。こうして、世界的にみた時には、従来の「万人に同じ基準を当てはめる栄養学」から、一人ひとりに最適化された食へとパラダイムが移りつつあります。
理想を言えば、血液検査をして、専門家に栄養解析をしてもらい、自分の体に何が足りていて何が過剰なのかをデータで把握した上で戦略を立てるべきなのでしょう。しかし、何せこの夏も移動がいくつか控えているため、落ち着いて身体に向き合う余裕がありません。自炊環境が限られていると食事管理はなおさら難しい。まあ、しばらくしたら僕のこの生活も落ち着くでしょうから(いつになることやら!)、その時にはしっかりと腰を据えて取り組みたいと考えています。
この二つを取り入れてから1週間程度ですが、おかげさまで快便が続いています。東南アジアで乱れた体を、東京の地味なごぼうと緑の藻が静かに立て直してくれている。なんとも頼もしい話です。
🔭 越境ノート
面白いと思ったニュースや視点をお届けします。
日本で広がる「迷惑観光客」との闘い 富士吉田で住民が立ち上がる
富士山麓の富士吉田市では、SNS映えする桜と五重塔の景色が世界的に注目され、観光客が急増し、生活環境が悪化して問題になっています。 観光客による私有地への無断侵入やゴミ放置、交通の妨げなどが発生。住民の不満が高まっており、 市は桜祭りの中止やトイレ・駐車場の整備、市民パトロールなどの対策を進め、混雑する名所から他のエリアへ観光客を分散させようとしています。 住民の中には移住を考える人もいれば、マナーを丁寧に伝えて共存を目指す声もあるとのこと。スペインでは数年前にオーバーツーリズムに対してデモが起きていましたが、そう遠くないうちに、日本でも深刻な問題になってくるでしょう。円安がまた一段と進んでいますが、日本として観光の未来をどうするか、考える時に来ているように思います。
Grok Voiceで変わるコールセンターの未来
xAIが発表した「Grok Voice Think Fast 1.0」は、企業向けの本格的な音声AIエージェントとして設計されており、特にコールセンターやカスタマーサポートでの活用が想定されています。 Starlinkでは既に電話営業・サポートに導入されており、通話中に約20%の顧客がその場で契約に至り、問い合わせの約70%を自律的に解決しているとのこと。 音声認識・推論・応答を一体で処理することで待ち時間を減らし、複雑な質問や予約、トラブルシューティングなども自然な対話のまま処理できる点が特徴とされています。最近のイーロンマスクは一時期と比べると、世間を賑わす言動が減っているように思うのは僕だけでしょうか。その代わり、スペースXやxAI、テスラは相変わらず淡々とワクワクする未来を形作っていて、どうやらただの優秀な経営者に戻ったようですね。
Y Combinator「スタートアップへのリクエスト」2026年夏版を発表
アメリカのトップアクセラレーターであるY Combinatorが支援したいスタートアップのテーマを発表しました。その中には、AIを活用した農薬削減、AIネイティブなサービス企業、パーソナライズド医療、企業の知識を統合する「カンパニーブレイン」、ドローン群対策防衛、宇宙向け半導体、ハードウェアサプライチェーン高速化、AIエージェント向けソフトウェア、大企業向けソリューション、半導体サプライチェーン管理など15のテーマが含まれています。ここから見えてくるのは、AIブームの後は、AIを使って何をするか、つまり、「AIと物理世界の融合」ということです。いわゆるフィジカルAIに限らず、この分野が今後は注目を集めてくるんでしょうね。
📚 今週の一冊
いま読んでいる本、最近読んだ本から一冊を紹介します。
Food Fix Uncensored
本書は共著者に、NYタイムズベストセラー『Good Energy』の著者であり、トランプ政権で公衆衛生局長官に指名されたケイシー・ミーンズ医師も名を連ねており、タイトルの通り、アメリカの食品産業がいかに人々の健康を犠牲にして利益を追求しているかを、データと取材で暴いていく一冊です。
この本の主張は明快で、アメリカの慢性疾患の蔓延は偶然ではなく、設計されたものである、ということです。巨大食品企業(Big Food)、農業コングロマリット(Big Ag)、そして製薬業界(Big Pharma)の三つを著者は「Toxic Triad(有毒な三位一体)」と呼び、利益を最大化するためにいかに消費者の健康が構造的に犠牲にされているかという実態を描き出します。アメリカ人の93.2%が不健康であるというデータや、フードスタンプで購入される食品の最大品目が砂糖入り飲料であるという事実など、衝撃的な数字が次々と出てきます。
個人的に最も印象に残ったのは「回転ドア(revolving door)」の話です。アメリカでは民間企業と政府機関の間で人材が行き来する慣行があり、「回転ドア」と呼ばれています。これには民間の専門知識が政策立案に活かされるというメリットがある一方で、規制する側とされる側が実質的に同じ人間であるという深刻な利益相反を生みます。そしてこの構造が、食品業界においては特に致命的に機能しています。
例えば、アメリカ農務省(USDA)は食品産業の振興と国民の健康指針の策定という二つの役割を同時に担っており、その結果、果物や野菜にはほとんど補助金が出ないのに、ジャンクフードの原料となるトウモロコシや大豆には巨額の補助金が投じられるという矛盾が生まれている。
食の問題は健康の問題であり、政治の問題であり、そして経済の問題でもある。この構造を俯瞰的に理解するためはうってつけの一冊です。




