野球場の外をぐるぐる回っていた話
AI時代の学び方
AIを使い始めて、できることがどんどん増えている気がしていました。
でも、ある日それが幻想だったと知りました。
Claudeという名前の由来
最初はChatGPTを使っていたのですが、幻覚(ハルシネーション)が多いので、Claudeに乗り換えました。
Claudeという名前は、言葉のつながりを統計学で理論化したClaude Shannonという人物に由来しているようです。現代のAIの原点とも言われる人で、変な名前だなと思っていたのが、少し見え方が変わりました。
使い始めると、確かに丁寧で、わかりやすい。説明が上手で、「なるほど」と思うことが続きました。
wranglerで詰まった
最近、あるシステムを作っていました。最初は自分のために、途中から人のために。
自分の環境だけで動かしているうちは問題なかったのですが、複数の人のアカウントを操作するようになったとき、急に壁にぶつかりました。
wranglerというコマンドラインツールがうまく動かない。
wranglerというのは、Cloudflareというサービスを操作するためのツールです。Cloudflareはもともとプロキシサービスの会社ですが、今はサーバーレスアプリの開発環境も提供している世界的な企業です。
ユーザーごとにログインが必要なのですが、ある会社のシステムを触ったあとに別の会社の作業をしようとすると、うまく切り替わらない。
Claudeに相談しました。
Claudeの説明は上手だった。それでもわからなかった
Claudeはこんなたとえ話で教えてくれました。
保存ログイン=財布に入れっぱなしの社員証
CLOUDFLARE_API_TOKEN=...=今日この1回だけ受付で渡される来客パス来客パスを持っている日は受付がそっちを見る。でも社員証は財布に入ったまま、何も変わっていない。明日また普通に来れば社員証で通る。——これが「切り替えていないのに接続先だけ変わる」の正体です。
さらにコマンドの読み方も丁寧に解説してくれました。
CLOUDFLARE_API_TOKEN=abc123 npx wrangler whoami
これは見た目は1行ですが、2つの部分でできています。
CLOUDFLARE_API_TOKEN=abc123← この実行だけに有効な、一時的な張り紙npx wrangler whoami← 実際に動かすコマンド張り紙は、コマンドが終われば消えます。財布の社員証には何も触れていない。
わかりやすい。たとえ話も構造の説明も、丁寧で的確です。
でも、私には届きませんでした。
壮大な勘違いをしていた
仕方なく、一緒に仕事をしている亀田さんに相談しました。私が密かに天才だと思っている人です。
「壮大な勘違いをしていますよね」
そう言われた瞬間、「確かに」と思いました。
でも正確には、勘違いですらなかったのかもしれません。
勘違いというのは、何かを別の何かと取り違えることです。でも私の場合、Cloudflareのユーザーアカウントとwranglerのログイン状態がどう関係しているのか、そもそもその概念が頭の中に存在していなかった。地図に載っていない場所を探していたようなものです。
コマンドが動く。動けば使えている。そう思っていました。でも実際には、仕組みを理解しないまま、言われた手順を順番に打ち込んでいただけでした。
亀田さんが全体の構造を図で示してくれて、初めて「ああ、そういうことか」になりました。
言葉は届いても、概念は届かない
ここで少し立ち止まって考えてみたことがあります。
Claudeの説明は上手だったのに、なぜわからなかったのか。
言語モデルは、言葉と言葉のつながりで意味を構成しています。非常に精巧で、文脈をよく読む。でも「1メートル」という言葉の中に、メジャーで測った感触や、腕を広げたときの感覚は入っていません。言葉の外にある体験とは、切り離されています。
人間の知識というのは、外の世界との接触で初めて形になるものだと思っています。触って、使って、失敗して、やっと「わかった」になる。
AIが提供してくれる「言葉のつながり」を受け取るには、その言葉が指している構造や仕組みを、自分の中にあらかじめ持っていないといけない。
社員証も来客パスも、その言葉が指している「Cloudflareの認証の仕組み」が頭の中に存在していなかったから、どれだけ上手な説明でも言葉が通り過ぎていくだけだった。
野球を一度も見たことがない人に、バッティングフォームをいくら解説しても、伝わらないのと同じかもしれません。
100倍使えるは、100倍受け取る体力が必要なのかもしれない
Claudeを使うようになって、できることの幅は確かに広がりました。
でもそれは、すでに持っている概念の範囲を広げてくれているのであって、概念のないところに橋を架けてくれるわけではない——そんな気がしています。
AIの出現で、知識を活用できる速度は一気に上がった。でも、その恩恵を受けるには、自分の中の「受け皿」を同じくらい大きくしていかないといけないのかもしれません。
亀田さんの一言で、野球場の中に入れた気がしました。
ナイターの照明がついていました。
でも、これが本当に「野球をわかった」なのかどうかは、まだよくわかっていません。



