しゃぶしゃぶにDiveする。
~しゃぶしゃぶの深遠なる世界~
しゃぶしゃぶ。
薄く切った肉を、熱い出汁にさっとくぐらせる。
色が変わったら引き上げる。
ポン酢やごまだれにつけて食べる。
いかにも昔からある和食のように見えます。
でも、現在のようなしゃぶしゃぶが広まったのは、戦後の日本だというのは知ってましたか?
背景には、中国北部の涮羊肉があります。
そこから日本では、羊肉ではなく牛肉料理として形を変えてきました。
さらに、「しゃぶしゃぶ」という名前がつき、料亭や専門店で広がっていきます。
今回は、しゃぶしゃぶを
歴史、牛肉料理としての変化、名前の由来、高級料理としての立ち位置、世界の類似料理
という流れで見ていきます。ではさっそく行ってみましょ~~!
~目次~
キーワード解説
しゃぶしゃぶはどこから来たのか
なぜ日本では牛肉料理になったのか
「しゃぶしゃぶ」という名前
高級料理だったしゃぶしゃぶ
世界の“しゃぶしゃぶ的料理”
[キーワード解説]
しゃぶしゃぶ
日本で発展した鍋料理。
薄切り肉や野菜を、熱湯や出汁にさっとくぐらせて火を通し、ポン酢やごまだれなどで食べます。
長く煮込むよりも、短時間で火を入れることに特徴があります。
涮羊肉(シュワンヤンロウ)
中国北部や内モンゴル周辺で食べられてきた鍋料理です。
薄切りの羊肉を、湯や薄味のスープにくぐらせ、ごまだれなどで食べます。
日本のしゃぶしゃぶに近い料理としてよく比較されます。
昆布出汁
昆布から取る出汁です。
しゃぶしゃぶでは、昆布出汁が基本になることがあります。
味を強くつけるためというより、肉や野菜を加熱する土台として使われます。
牛肉の水炊き
しゃぶしゃぶという名前が定着する前に使われていた表現の一つです。
牛肉を水炊きのように出汁や湯で加熱して食べる料理として見られていました。
すすぎ鍋
薄切り肉を鍋の中ですすぐようにして火を通す食べ方を表す言葉です。
「しゃぶしゃぶ」という名前が広まる前の料理の性格を考えるうえで分かりやすい表現です。
1. しゃぶしゃぶはどこから来たのか
しゃぶしゃぶの背景には、中国北部の涮羊肉があります。
涮羊肉(シュワンヤンロウ)は、主に中国北方、とくに北京周辺で発展した羊肉の鍋料理で
起源はとしては、元の時代、フビライ・ハンの軍中で、急いで羊肉を食べるために薄切り肉を湯にくぐらせたのが始まりという伝説があります。おもしろいですよね、こういうの。
実際には、中国北方の羊肉文化、寒い地域で温かい鍋を囲む食習慣、北京の外食文化が重なって、現在の形に整っていった料理と見るのが自然みたい。
特に北京では、羊肉を薄く切る技術、煙突型の銅鍋、芝麻醤のタレが結びつき、老北京を代表する鍋料理になりました。
料理としては、薄く切った羊肉を、沸いた湯や淡いスープにさっとくぐらせ、芝麻醤ベースの濃いタレにつけて食べる料理です。日本語でかなり近く言えば、羊肉のしゃぶしゃぶです。
この形式は、日本のしゃぶしゃぶとよく似ています。
ただし、日本のしゃぶしゃぶは、涮羊肉をそのまま移した料理ではなくて、
日本に入ったあと、肉、出汁、タレ、食べ方が変化しているんですね。
涮羊肉では羊肉が中心!
一方、日本のしゃぶしゃぶでは、牛肉が中心になりました。
また、中国北部の鍋料理としての涮羊肉に対して、日本では昆布出汁、ポン酢、ごまだれ、薬味などと結びついていきます。
戦後間もない時期、この料理は京都や大阪で試作されていきました。
1945年、北京の鍋料理が京都に伝えられ
その後、京都の料理人たちが、羊肉ではなく牛肉を使い、日本人向けの料理として整えられていった。
当初は「牛肉の水炊き」や「牛肉のすすぎ鍋」と呼ばれていたようです。
この段階では、まだ現在のような「しゃぶしゃぶ」という名前ではなく
料理の中身としては、薄切り牛肉を出汁や湯で短時間加熱する鍋料理でした。
その後、1952年に大阪の永楽町スエヒロで「しゃぶしゃぶ」という名前が採用されます。
ここで、料理の形と名前が結びつきました。
しゃぶしゃぶは、古くからそのまま存在した和食というより、戦後日本で形を整えられた比較的新しい鍋料理なんですね。
2. なぜ日本では牛肉料理になったのか
涮羊肉は、名前の通り羊肉を使う料理です。
それに対して、日本のしゃぶしゃぶは牛肉料理として広まりました。
この変化には、日本における牛肉の立ち位置が関係しているようで、
日本では、明治以降、牛鍋やすき焼きなどを通じて、牛肉がごちそうとして広がっていきました。
牛肉は、近代的な食材であり、外食で特別感を出しやすい食材でもありました。
戦後にしゃぶしゃぶが整えられていくときも、羊肉より牛肉の方が、日本の外食店で受け入れられやすかったんですね。
しゃぶしゃぶは、すき焼きとも違います。
すき焼きは、砂糖、醤油、みりんなどを使った割り下で牛肉を煮る料理。
味の中心は、甘辛い割り下にあります。
一方、しゃぶしゃぶは、出汁や湯で肉に火を通し、ポン酢やごまだれで食べますよね。
肉に濃い下味をつけません。
そのため、肉そのものの質が出やすい料理です。
薄切りの牛肉を短時間だけ加熱する。タレは使うが、肉の味や脂の口どけも残る。
この性格は、高級牛肉料理として成立しやすいものだったんですね。
また、牛肉を薄く切ることも重要で
厚い肉を焼くステーキとは違い、しゃぶしゃぶでは薄切り肉を使います。
薄く切ることで、短時間で火が入り、柔らかさを残しやすくなる。
この調理法は、脂のある牛肉と相性がよく、日本の牛肉料理として受け入れられやすかったというわけです。
しゃぶしゃぶは、もともと牛肉の高級料理として日本化された。
しかし、家庭料理として広がる中で、豚肉の安さ、扱いやすさ、野菜との相性によって、豚しゃぶの存在感も強くなっていったという背景があるようですね。
3. 「しゃぶしゃぶ」という名前
現在の「しゃぶしゃぶ」という名前は、1952年に大阪の永楽町スエヒロで採用されたとされています。
名前の由来としてよく知られているのは、店の従業員がおしぼりをたらいで洗う様子らしく、
水の中で布をすすぐ動きと、肉を鍋の中でくぐらせる動きが似ていた。
その音や動作から、「しゃぶしゃぶ」という名前が生まれたといわれています。
それ以前、この料理は「牛肉の水炊き」や「牛肉のすすぎ鍋」のように呼ばれていました。
どちらも料理の内容は伝わります。
ただ、「しゃぶしゃぶ」は肉を湯の中で動かす様子まで伝わる名前でした。
1955年には「しゃぶしゃぶ」が商標登録されています。
料理の中身だけでなく、名前によって食べ方まで伝わったことが、普及のうえで大きかったんじゃないでしょうか。
4. 高級料理だったしゃぶしゃぶ
現在のしゃぶしゃぶには、家庭料理や食べ放題チェーンの印象もあります。
しかし、広まり始めた時点では、高級な牛肉料理としての性格が強い料理でした。
まず関西で広がったあと、東京でもしゃぶしゃぶを扱う日本料理店が現れます。
赤坂で創業した「ざくろ」は、東京で初めてしゃぶしゃぶを紹介した日本料理店とされています。
また、昭和46年創業の「しゃぶせん」は、カウンター席のみ、全席ひとり鍋という形式を取っていたんですね。
鍋料理でありながら、一人ひとつの鍋で食べる形にしたことで、しゃぶしゃぶは会食だけでなく、都市型の専門店料理にもなっていった。
しゃぶしゃぶの立ち位置を広げた店の一つに、「木曽路」があります。
木曽路は1950年に名古屋で創業し、1966年に民芸風しゃぶしゃぶ「木曽路」を開業しました。
木曽路のような店では、しゃぶしゃぶは単なる鍋料理ではなく、会食、祝い事、法事などにも使える日本料理として扱われてきました。
ここでのしゃぶしゃぶは、肉を大量に食べる料理というより、牛肉を落ち着いた空間で食べるということに重きを置いているようです。
すき焼きと同じ牛肉料理でありながら、味の濃い割り下で煮るのではなく、短時間で火を入れ、タレで食べる。
この違いによって、しゃぶしゃぶは「上品な牛肉鍋」としての立ち位置を持ちました。
しゃぶしゃぶに似た料理は、世界にもあります。
調べてみたので、色々見ていきましょう~。
火鍋
火鍋は、主に中国の鍋料理全般を指す言葉ですが、
日本でよく言われる「火鍋」は、特に四川省・重慶周辺で発展した辛い鍋料理を指すことが多いようです。
料理としては、唐辛子、花椒、牛脂、香辛料を効かせた熱いスープで、肉、内臓、野菜、豆腐、きのこ、春雨などを煮て食べる料理で。
ただ辛いだけではなく、花椒のしびれ、唐辛子の辛さ、牛脂のコク、香辛料の香りが重なっていることが特徴!
現在の重慶火鍋の原型は、清代末期から民国期ごろ、長江沿いの重慶周辺で形になったとされます。
もともとは、港町や川沿いで働く船頭・労働者たちが、安く手に入る牛や豚の内臓、余り肉、野菜を、強い香辛料のスープで煮て食べたのが始まりとされます。
内臓や端肉は、クセや臭みが出やすい。そこで、唐辛子、花椒、にんにく、生姜、豆板醤、牛脂などを使うことで、臭みを抑え、香りと辛さで食欲を引き出した。さらに、鍋にすれば大人数で囲めて、少ない肉でも野菜や豆腐を足して腹を満たせる。そうやって多くの人に食され広まっていったんですね。
ムーガタ
ムーガタは、主にタイで発展した屋台・大衆外食の鍋焼き料理です。
タイ語では、
หมูกระทะ / ムーガタ
ムー=豚
ガタ=鍋、鉄板、フライパン
つまり直訳すると、豚の鉄板鍋です。
現在はタイ全土で食べられていますが、料理としてはタイの都市部・屋台・ビュッフェ文化の中で広まった大衆料理で、
特に1990年代ごろ、タイで食べ放題形式の外食が広がる中で人気になったとされています。
料理としては、中央が盛り上がった専用鍋で、上の鉄板部分で豚肉を焼き、周囲の溝にスープを張って野菜、春雨、豆腐、魚介などを煮る食べ物です。
生まれたきっかけとしては、韓国焼肉や中国・日本の鍋料理のような卓上調理文化を、タイ人の好みに合わせて大衆化したことが大きいと考えられます。起源については、モンゴル兵が兜で肉を焼いたという伝説もあったりなかったりだとか...
豚肉を焼くと脂が落ち、その脂とうま味が周囲のスープに流れる。そこで野菜や春雨を煮るので、鍋のスープもだんだんおいしくなる。さらに、タイらしい唐辛子、にんにく、ライム、ナンプラー、砂糖などを使ったタレで食べるため、脂っこさを酸味と辛味で切れる。
タイの大衆外食文化から生まれた、焼肉と鍋を同時に楽しむ、豚肉中心の卓上料理ってわけです!
フォンデュ・シノワーズ
フォンデュ・シノワーズは、主にスイスを中心としたヨーロッパ圏で食べられる、中国風の肉しゃぶフォンデュです。
フランス語で、
fondue chinoise
フォンデュ=溶けたもの、または卓上で具材を浸して食べる料理
シノワーズ=中国風
つまり意味としては、中国風フォンデュです。
薄切りの牛肉、豚肉、鶏肉、仔牛肉などを、卓上の鍋で温めたブイヨンやスープにくぐらせ、ソースにつけて食べる料理で、チーズフォンデュのようにチーズに浸すのではなく、熱いスープで肉を加熱するのが特徴です。
スイスでは家族や友人で囲むパーティー料理としても親しまれているようです。
ヨーロッパ側で、チーズだけでなく、油で肉を揚げるフォンデュ・ブルギニョン、チョコレートフォンデュ、などのフォンデュ文化が広がり、その流れで、スープで肉を加熱するフォンデュ・シノワーズが生まれたんですね。
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世界には、しゃぶしゃぶに近い発想の料理があります。
ただ、日本のしゃぶしゃぶは、涮羊肉の影響を受けながらも、牛肉、昆布出汁、ポン酢、ごまだれ、薬味と結びついて独自の形になりました。
同じ「熱い液体で食材を加熱する料理」でも、どの肉を使うか、スープを強くするか、タレで食べるかによって、料理の性格は大きく変わります。
もしかしら、これからもしゃぶしゃぶ的な料理が、生まれる可能性だってあるのかも...
それでは、今回はこれでおしまい!!!!
ではまた次の食研レポで~











