愛着って理屈を超えるから困るよな
ANTENNA編集長・堤の先月(2024年3月)
「円安きっつー!」と、たった2週間のアメリカ滞在の間に何度口に出したことだろうか。一番最初に慄いたのはポートランドで「ラーメン+ライス=¥4,000」という精算をした時。そもそも、欧米は日本より物価が高い。なので、円安が与える影響はレートで見る数字以上のインパクトをもって我々に迫ってくる。
とはいえ、そんな不景気なことばかり言っていてもおもしろくはない。毎年恒例となっている3月の半ばのSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)への参加も数えてみれば8年目の6回目(パンデミックで二度飛んだ)。今年は、会社員を辞めてからの訪問ということもあり、誰に気兼ねをすることなく長めの滞在ができる。だから今まで、ろくに触れる時間を取れなかった「お祭り後の日常のオースティン」というものをもう少し知りたいと思っていたのである。
👉SXSWの話はまたANTENNAでアップするレポートを楽しみにしておいていただくとして
オースティンを初めて訪問したのは2017年のこと。その時は毎日開催されるイベントに圧倒されていたことや、土地勘がなかったこともあり、ただただわけもわからずあちこちを訪問して終わった。翌年以降は、お気に入りのベニューができたり、イベントの合間に過ごすのに適したカフェや、クラフトビールのタップルームの位置もわかってくる。年々ダウンタウンの開発がものすごい勢いで進むにせよ、何年も通えば贔屓にしている店の一つや、二つはできようというものだ。
そうした店ができるにつれ、お店で売られているマーチャンダイズ(以下、マーチ)などを購入するようになった。日本に帰国してからも、この話を何人かにしているのだが、高確率で「マーチャンダイズ?」と聞き返させれることから、あまり日本では馴染みのない言葉であることがわかる。一言で言えば「ショップや、お店のグッズ」であり、ロゴやキャラクターを擁するお店であればそれらをあしらったTシャツや、キャップなどが売られているのが通例である。そうしたものがない場合でも、大抵は地元のアーティストやスタッフの力を借りてなにかしらのマーチが売られている。
初めて買ったのは〈Easy Tiger〉というカフェのものだった(と思う)。ここは妙に締まりのない顔をしたトラの顔のロゴが非常にかわいい。加えて、コーヒーもモーニングもおいしく、ダウンタウンの中心地にあったこともあり、クローズしてしまうまでは足繁く通った。マーチャンダイズのラインナップも充実しており、Tシャツにはキッズ向けのオリジナルのものがあったし、タンブラーまでが一通り取り揃えられている。
ここで買ったTシャツが非常に着回しがしやすく、気に入ってしまったこともありオースティンに行く度にさまざまなマーチを買うようになった。その後買ったものは、毎年必ず足を運ぶベニュー(ライブハウス兼バー)である〈Hotel Vegas〉のTシャツや、パンデミック前後にイーストサイドにできた〈Zilker Brewing〉のキャップなどである。いずれも肩ひじの張らないデザインが気に入っていて、台湾への移住生活でTシャツの枚数が必要だったこともあり、その時にはたくさん買った。それらはいまでもヘビーユースをする一つとなっている。
👉そんなこんなで、日本でもマーチャンダイズ文化を促進させたいのです
実は、昨年までアメリカはオースティン以外の街を知らなかった。なぜなら、毎年のうようにSXSWに足を運んでいると、「航空券のコストや、その時間のかかり方」から3月以外にはアメリカ大陸へ行こうとは思わなくなるからだ(少なくとも自分は)。そのため、「マーチはアメリカのどの都市でも売られているもの」「当たり前の文化なのだろう」くらいに思っていたのだが、案外そうでもないことが他都市への訪問でここ最近わかった。
贔屓目に見ても、オースティンはマーチが多い。それはロサンゼルスのような大きな都市と比較してもそうだし、ポートランドのような小商いで名を馳せた都市と比較してもそうである。いずれの都市もマーチがないわけではないのである。しかし、オースティンでは〈Royal Blue〉などのグローサリーですらマーチが置いてあり、本当にどこに行っても見かけるのだ。
今回、改めてそんな文化をおもしろく思いSXSW後に数日マーチを探して回っていたのだが、ドーナツ屋はもちろんのこと、バーベキュー屋、園芸店、木工所に加え、公立の図書館までが自社オジリナルのマーチがある。聞くと、それらはいずれも地元のアーティストや、スタッフがデザインしているものがほとんどだという。これは、一つのローカリティの現われではないか。
どこのデザインも、必ずしも洗練されていてイケているかと言われるとその返答には詰まるところがある。しかし、マーチをスタッフが身につけて働いていることもしばしばで、どちらかと言えばその姿は「チームとしての一体感を得るユニフォーム」というよりも「通い慣れたお店への愛着」として自分の目には映る。
もちろん、オースティンのあるテキサス州全体がどちらかといえば地元への愛着が強い地域であるということは忘れてはならない(初年度に空港でテキサス州の形をしたジョッキを見つけた時は本当に笑った)。が、こうしたことが成立するのは、個人店や独立した商売が今も街なかで十分になされている証左なのではないかと感じる部分がある。こうした「マーチ文化」が豊かな都市が他にもあるのなら、ぜひその話を聞いてみたいところだ。









